Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
温泉で色々とすったもんだした後のこと。騒がしさはそのままに夕餉を済ませ、明日のために早々に睡眠を取る事になった。もっとも小太郎や胤舜辺りは寝入る格好をしながら、いつ月が変調を起こしてもいいように備えているのだろうけれど。
何となく寝られずに起き上がり、忍び足で庵の外を目指す。それこそ小太郎たちにはバレているだろうけれど、止められないという事は少しくらいは大丈夫という事だろう。音を立てないように戸を引いて、彼女はひっそりと屋外へと踏み出した。
庵の外にはまず、これでもかと割られた薪が積み上がっている。今日の使用量を見るに生活に要する量としては、一週間分くらいはあるのではないだろうか。まあ鍛冶に使う分もあるならば、あっという間に無くなってしまうのかもしれないが。
樽の中に無造作に突っ込まれた剥き身の剣などを見つつ、そのまま歩みを進める。
ぼうっとしたまま歩いて、辿り着くのは温泉の前。もう湯気が上がるほどの温度でもなく、流石にぬるま湯になっているようだった。別に二度湯するつもりで来たわけではないので問題があるわけではないが。
軽く辺りを見回して、腰掛けるのによさそうな高さと平たさがある岩を見つける。それに歩み寄って、一息ついてからぺたんと尻を岩へと落とす。
「―――――」
皆と合流できた。後はきっと今まで通りに突き進むだけだろう。
今まで通りに戦って、時間に生まれた異常を正すだけ。
しかしはて、そんな状況で自分は一体何に迷っているのだろうか。
静かな水面を眺めながら自問する。
どれほどの間、波紋すら立たない水面を眺めていたのか。まあせいぜい10分かそこらだろうと思う。そんな状態だった彼女の耳に、わざとらしく地面を削る足音が聞こえてきた。
ふと反応してみれば、そこにいたのは宮本武蔵。彼女は寝間着ではなく、ソウゴに洗濯させた自分の着物で散歩するようにその場に立っていた。
「武蔵? どうかしたの?」
「それ、私からあなたに言うべき言葉じゃない? わざわざこんな時間に外に出て、一体どうしたの立香? ってね」
からからと笑って、武蔵は立香の隣にひょいと座ってしまう。彼女が使っていた岩の腰掛けは、二人並んだ程度で身を縮めなければいけないほどに狭いわけではないが、隣に座られると距離が近いと感じるくらいの広さしかない。立香はつい何でわざわざ同じ場所に? という視線を武蔵に向けた。
「何か悩んでるの?」
「ん……」
そんな視線は何のその、と傍若無人な立ち居振る舞いこそ天元の華。
問われ、数秒黙る。武蔵は急かすような事はなかった。
ふと思い立ち、彼女に訊き返す事にした。
「もしさ、雲に覆われて頂上がどこにあるか分からない山が目の前にあったとしたら、武蔵はどんな事を考える?」
「ん? うーん、何を考えるか……そうねぇ……」
彼女が手を顎に添え、頭を悩ませたのは数秒。
「まあ登るでしょうね。野性の獣や木の実みたいな食料があるかもだし、水場があればなお良し。それに何より―――」
「何より?」
聞き返した立香に対し、武蔵はにこりと微笑みそれこそ笑い話のように言い切った。
「雲で天辺が見えない山、って事はその山を登り切ったら雲の上に出るかもでしょ? それが一体どれほどの高さにあるものか、私としてはそこに興味を惹かれるわ」
「……そういうもの?」
「少なくとも私はそう!」
武蔵からの返答を聞いて、その意味を嚥下するのに数秒要する。そうしてから立香は空を見上げ、僅かに目を細めた。立香の悩みと擦り合わせるには、宮本武蔵という剣客は危険を当たり前のものとしすぎていた。この苦悩は立香が英雄でもなんでもないからこそだ。カルナが己では不適任であると断じたように、英雄である彼女に聞いても噛み合わないのは当然の事なのだろう。
そこでふと、彼からのアドバイスを思い出す。
(
医者でありカウンセラー。カルナが適任であると太鼓判を押したのだから、きっと間違いないのだろう。過日、泡になって消えた戦いの記録を気にせずにいられるならば。まあ、個人的にその部分に思う所はそれほどない。
まるで彼女の考えを汲み取ったかのように、ぬるま湯の中からぽちょんと出てくるタカウォッチロイド。彼が飛び立つと同時、コダマスイカがそのボディに掴まって一緒に岩場まで飛んできた。その登場に思わず武蔵もきょとんとした顔。
タカウォッチから離れ、着地したコダマが立香を見上げる。必要とあらば通信を繋ぐ、という意思表示なのだろうか。一人で抱えていてもしょうがない、というのは分かっている。ならばそうするべきなのだろうか。コダマの頭部に指を添え、撫でるように動かす。
そうしている内に、武蔵が何かに気付いたようで視線をこちらから逸らした。
「あら、珍しい。お爺ちゃん、こんな時間にどうしたの? 夜食するなら付き合うけど」
「夜食なんざわざわざするかよ。そもそもこの体じゃ腹は空かねえ。ただ何も食わねえのは味気がないし、それじゃあ生活に彩りも何もねェ。サーヴァントだろうが人のカタチで人の営みに混じる以上、必要はなくとも食事は摂るのが道理だと
呆れた声でそう言いながら、こちらに歩いてくる村正。
彼は大きく溜め息を吐くとギロリと武蔵をねめつけた。
「色気づいてんだかまだのぼせてんだか知りたくもねェが、ガキどもがこっちを探ってくる気配が我慢ならねェくらいにきつい。テメェのせいだぞ、このド阿呆が」
「あらまぁ……よっ、この色男!」
「はっ倒すぞテメェ」
どうやらイリヤたちから向けられる意識に我慢ならず、逃げだしてきたようだ。確かに武蔵(とクロエ)の発破で一線越えてしまった感はあるから、まあだいぶ武蔵のせいだと言えるだろう。流石に一晩置けばある程度落ち着くだろうが。
村正は疲れの浮かぶ顔のまま岩場に立つと、軽く水場を見回すような様子を見せ始める。
どうしたのか、という声をかける前にコダマスイカがピクリと動く。その頭部から放たれる光は、通信先の3D映像を映し出した。映った場所は背景からして医務室だろう。普段はDr.ロマンの城である一室だが、いまこの時間はそうではないらしい。
その場にいるのはただひとり、殺生院
祈荒は立香の傍に武蔵と村正がいるのを見て少し驚いた様子を見せるも、すぐに柔和な笑みを浮かべて立香に語り掛けてくる。
『お疲れ様です、立香さん。皆様方で何か楽しいお話をされていたのですか?』
「えっと、どうだろ。そういうわけでもないような」
何も考えずに繋いでもらってしまったが、相談事ならば一人でいる時間にやるべきだったか。どうにも気が抜けているのはやはり間違いなく、出来るだけ早く修正をかけるべき事だろう。もういっそ武蔵と村正の同席はいいとして、だがしかし一体何から相談すればいいのやらという気分でもある。
藤丸立香の精神状態は良くない。良くないと自覚しているが、原因を把握しているわけではない。どう問題を提起すればいいのかが、自分自身よく分かっていないのだ。だから先程は武蔵に対する言葉に迷い、お侍さんから問われた質問をそのまま投げるような事もしている。
そうして戸惑っていると村正がひゅう、と軽く口笛を吹いた。何事かと確かめてみれば、村正は目を見開きながら祈荒を見て、佳いものを見たとばかりに楽しげに頬を緩めていた。
武蔵は両の目を眇め、そんな爺さんに向けてひんやりとした声を出す。
「いくら美人さんが出てきたからって、そういう態度はどうかと思うわよお爺ちゃん」
「馬鹿言え、こんな色気の塊みたいな別嬪さんと顔を合わせたんだぞ? 真っ当な男だったらそりゃ頬は緩むのが道理。もしここが色街だったなら、財布の口まで纏めて緩めるのが男の
あと何よりお前さんだけには言われる筋合いがねェよこの大馬鹿野郎が」
「はー、そんな事言っておいて私相手にはこの態度。女として抗議よ、抗議」
「何が女だ、図々しい。お前は食い気と剣気しかねェ色気知らずの破落戸だろうが。こっちからすりゃ破格の待遇でもてなしてやってるってなもんだぜ」
顔を突き合わせて睨み合う両名。美女に反応する村正と、美少年美少女に反応する武蔵。まあ、村正の方がよほど一般的だろう。何より村正はあからさまに機嫌を良くしただけで、別に異性の入ってる温泉に乱入したわけではない。彼女に毒されて(クロエは微妙かもしれない)暴走したイリヤたちから逃げてきた村正からすれば、どの口が言うんだとなるのもむべなるかな。
『ええと、今のそちらの状況はある程度聞かされております。そちらの方々は宮本武蔵さんと、千子村正さん……でよろしいでしょうか?
「おう、そんで何の用だい別嬪さん。そいつに内密の話があるってなら大人しく引っ込むが」
そう言いながら立香の方へと顔を向ける村正。
祈荒は僅かに考え込むような表情を見せてから、立香に対して問いかけた。
『立香さんは皆様とどのような話を?』
「えっと……」
立香の見せた小さな逡巡。
彼女の様子を見た武蔵が、数秒悩んでから口を挟む。
「山登りの話だったかしら。目の前に危なそうな山があったらどうするか、って」
「―――山登り、ねェ……?」
男は片目を瞑り、小さく溜め息をひとつ。何かに心当たりがあるように、村正は武蔵の発言に対してどうにも思わせぶりな態度を見せた。彼は背後に視線を向け、庵を見る。
「それこそ
言って、村正が祈荒の方へと向き直る。視線を向けられた彼女は、しっとりと微笑んで首肯した。専門家がいるならばそれで構うまい、と手頃な岩場を見繕って乱雑に腰掛ける村正。
「ちなみに武蔵、お前はどうするって?」
「もちろん登るって答えたけれど。だって気になるでしょう、頂上」
「だろうよ。で、立香の方は―――いや、そもそも何でそんな問いかけを出した。誰の影響だ?」
お前の裡から出てくる問いではあるまい、と呆れながら村正はそう問いかけてきた。確かにそうだし、隠す事でもないので正直に白状する。
「街で働いてる時に会ったお侍様から、かな。今までずっと山に籠ってて、最近下りてきたらしいけど」
だから彼は山を例えに使ったのだろう、と。そういう予想をしていると告げるように情報を補足する。だがそれを聞いた村正は溜め息を吐きつつ腕を組み、むっつりと黙り込んだ。何故そのような反応なのだろうかと首を傾げていると、次は祈荒が声をかけてきた。
『その問いかけをわざわざ使うという事は、立香さんはその問答が自分の中の悩みを解決する切っ掛けとなるものだ、という理解をしているのでしょうか? あるいは自身の悩みを正確に言葉に変えられないが故に、ただ直近で聞いたその方の言葉を拝借しているだけ?』
「ん……どう、かな。訊かれた時、たぶん的外れな疑問じゃない、とは思ったかも」
『そうですか……』
実際どうなのだろう。自分は何に思い悩んでいるのだろう。
あの問いを切っ掛けにして、何か答えを出すことが出来るのだろうか。
立香の曖昧な様子を見ながら、祈荒は頬に手を当て目を細めた。
「山籠もりの侍ときたか。まァ、説教で山を引き合いに出すからには斬りたがりの与太侍じゃなく、修験者かあるいは天狗の成り損ない辺り……とにかく山の中に何ぞを見出だした求道者の類だろうが、それはどうでもいいとしてだ。
重要なのはそいつが山に準えた設問を答える事に対して、お前さんが何を恐れたかだろうよ」
「何を恐れたか?」
目を眇めて月を見上げ、そう語りかけてくる村正の言葉にオウム返しする。
彼はそのまま続けようとして、しかし。
『村正さん』
申し訳なさそうな祈荒の声を聞くと、そこで口を動かすのを止める。そして祈荒が村正に小さく頭を下げると彼は面倒そうな顔で顔を逸らした。やはりこういった話は坊主の仕事だろう、と改めて感じたとでも言いたげな表情。
『立香さん。貴方の思考の中でその山に、
―――山を登る事を危険な行為と意識し、貴方が経た戦いの旅に照らし合わせ、自身の現状と重ねた上で……その山に踏み込んだ先に追いつくべき誰かがいる、という前提を無意識に作りませんでしたか?』
問われ、言葉を詰まらせる。カルナに言われた通り
藤丸立香はあの日、この旅の始まりの日に炎の中で選択した。では、この質問に対して彼女が出すべきだった答えは何なのか。今更の話だろう。あの日から彼女が選ぶべき道は、危険と共にしかあり得ないものになっていた、なんて事は。
―――決まりきった答えがある問いに、ならば自分は何を期待していたのだろう。
数秒、全員が沈黙する事で場が静寂に包まれた。
『―――残念ながらその山は、貴方様だけの前にある苦悩です。登ろうとも下ろうとも、他の誰かに追いつく事もなければ並ぶ事もありません。今の悩みを解決するためにその問いかけに答えを求めても、けして解決には至らないでしょう』
「そ、っか」
続く祈荒の言葉に小さく吐息を漏らす。
何やら重い息を隣に感じ、武蔵が軽く明るい口調で声を上げた。
「ま、山がいけないというならば、違う考え方をすればいいんじゃないかしら? 平野とか、いっそ海で考えてみるとか、どう?」
「…………」
武蔵をちらりと見て、村正が溜め息をひとつ。しかし彼はそれ以上の反応を見せる事なく、沈黙を貫いた。対し、そんな対応を返された武蔵が彼に絡んでいく。
「何よ、お爺ちゃんには妙案があるわけ?」
「――――ハァ」
更に大きく溜め息追加。武蔵のムッとした表情をものともしない。
村正は言った。藤丸立香という人間は、この問いかけに答える事に対し何かを恐れている、と。確かにそうかもしれない。周りに置いていかれたくないというのは、ごく自然な恐怖の感情に思えた。
―――でも、本当にそれだけだろうか。カルナも、祈荒も、村正も口を濁す。武蔵さえも茶化して有耶無耶にしようとしていると感じるのは、ただの被害妄想なのだろうか。
彼ら、彼女らは望まれていないのに明け透けに言及するような事をしない、そういう良識があると言ってしまえばそれだけかもしれないけれど。
『……貴方には、貴方自身が既に恐怖として認識している
貴方には選んだ道の恐れという壁を乗り越えた先、その先にある新たな壁が観えてしまっている。そして問題を越えた先にある問題がより大きいと知るが故に、何かを選ぶより
女が口にしたのは、カルデア内においても追求しなかった事。
言葉を詰まらせたまま、立香が停止する。祈荒はそこで一息吐くと口を閉じ、時間を置くようにゆっくりと目を閉じた。そこから流れる時間は、立香自身に自覚を促すために設けられたもの。立香が立ち入る意志を見せなければ、誰もそこから先に踏み込む事はない。その先に至る必要性はどこにもないのだ、ただ生きるためにあらゆる心残りを消化しなくてはいけないなんて事はないのだから。
(ま、それはそれで只人の道としては最も間違っていない選択なのでしょうけど)
そう考えつつ祈荒に視線を向ける武蔵。殺生院祈荒は選択を強要しない。彼女の言葉は立香の心を暴き立てるも導きを示すのみで、救いを望まれなければ援けになろうとしない。救いを望むか望まぬか、それを選ぶのは立香自身でなければならない。
武蔵の視線が村正を向く。宮本武蔵という人間は、この手の助言に向いたモノじゃないという自覚がある。だから黙り込んでいないで何か言え、という目で難しい顔をしたお爺ちゃんを見つめるのだ。
自身満々の顔で語るコトかよ、という視線でのみで返される呆れの意識。それから数秒ほどの時間を挟み、村正が軽く溜め息を吐いた。
「……
村正が重たげに口を開く。彼の目は武蔵を向き―――否、彼女が腰に佩いた己の鍛えた剣を向いていた。彼が目指したのは物質界に存在するものに留まらず、運命・因果・宿業、あらゆる全てを斬り捨てる神魔の刃。少なくともその一端に指がかかっているのが、今武蔵が腰に提げている剣に他ならない。担い手を選ぶ聞かん坊、鞘に納めても暴れる問題作ではあるが。
村正が目を細め、睨むように立香を見た。
「
「うん……無い、よね」
問われた内容の答えなど考えるまでもない。刀匠、千子村正の生涯の望みだ。鉄を
そう考えて口にした否定の言葉に、さっさと軽口が返ってくる。
「あるぞ」
「あるの?」
「そりゃあるだろ」
当たり前だとばかりに言ってのける村正。果たして今のはこちらがそんな怪訝とした顔を向けられるような問いだったろうか。解せない。
不満げな立香の顔など何のその、村正は言葉を続ける。
「
「―――へえ、お爺ちゃん。その機会があったら神様の流派に乗り換えるの?」
馬鹿な事を聞く、と武蔵を鼻で笑う村正。
「そりゃ鍛冶の神様の腕前が見れる機会があるってンなら全財産はたいてでも拝むだろうさ、刀打ちなら誰だってそうだろうよ。だがな、自分が今さら鉄以外で刀
笑いながらそう言い切って、その後に彼は神妙な表情を浮かべた。
彼の顔は真っ直ぐ立香に向けられている。
「その例えはこういう話だ。噂の山侍もそこの武蔵も、周りを顧みず自分の山を登る事に疑いも持たねェ人でなしだから迷わねえ。もちろん
それで―――仮に登るとして、だ。
「―――――」
「もう、立香は登るなんて言ってないでしょ?」
人でなしと呼ばれた女剣士が呆れた風な声を上げる。彼女にとって取り立てて否定する事でもなければ、むしろ声高に肯定してもいいような事実である。
そう、宮本武蔵はそういう女だ。けれど藤丸立香は違うだろうと。
―――ソウゴも、あるいは村正自身はまともに顔を合わせていないマシュさえも。
「それは……」
『それもまた、ひとつの道』
鬱屈しそうになる心に先回りするような、凛とした女の声。
『自覚の末に選ぶのであれば、それはどうあれ貴方の道。登るも登らぬも、向き合うも背くも、けして他の誰かに責められる謂れはありません。村正様の言う通り、それはただただ選んだ
だからこそ今の貴方はまるで、凍える風を凌ぐために傷つくと分かっていて針の筵にくるまる童女のよう。見る者が見れば、その姿はあまりにも痛々しい』
そんな声をかけてくるのは殺生院祈荒その人以外にいない。彼女の声にはただ現世に生きるという不条理に振り回される少女への憐れみだけがあった。
「―――――」
『人として弱みに崩れる事はけして悪とは言えません。そして……己が最も正しいと、選ぶべきだと思った選択肢を己が弱さを理由に選べない事も、過ちではありません。迷いの全てに決着をつけられないままの歩みであっても、けして価値が失われる事はない。
貴方には。いいえ、貴方に限らずあらゆる人間には、自身が進むべきだと考えた道を歩む事で負う瑕をできるだけ少なく、最小限に。あるいは全く傷つきたくないと願う権利がある。その権利は理想の道とは噛み合わずとも、確かに選択肢として常にそこにあるものです』
祈荒の視線。
彼女の琥珀色の目が、まるで蜜を煮詰めるよう色を深めていく。そこに心を溶かすような甘さはない。彼女はただ、立香の弱さに言及しているだけだ。
自分でも分からない場所まで見透かされている感覚。いや、本当に自分は自分の事を分かっていないのだろうか? ただ察する事から逃げているだけなのではないか?
自分でも分からない、と口にするのは簡単だ。けれどその後に、察した事を言葉にして教えてくれ、と続けられないのであれば、結局逃げている事に変わりはない。自分は言葉としてそれを明確にされる事から逃げている。そして、それを汲んで皆が明言する事を避けてくれている。
少なくとも、この尼僧はそう言っているのだ。そして、そのように無視してもいいし、何だったら逃げたっていい。
けれど―――
誤魔化さない事を、逃げない事を選んだ以上、必然選択肢は最後のひとつに絞られる。後は藤丸立香の心がそれを明確にして、選び取るだけだ。
だからこそ彼女は諭すように、最後に告げるべき言葉を静かに語った。
『―――3つ、貴方の心に岐路があります。貴方が真に望むはただひとつの道。それを諦め
そのような祈荒の言葉を聞いている立香の横で、武蔵が瞑目して小さく体を揺らす。そこでかつり、と。剣の鞘が岩肌に掠ったようで小さな音を立てる。
彼女はその音に意識を向けて、ふと何かを思いついたように剣の柄尻へと手を添えた。
戦闘中におにぎり食うのはまあいいとして投げ技の掴み食らって投げられる寸前って段階でもおにぎり食えるのは二天一流の奥義か何か?
投げモーション中にもおにぎり食えるの気付くまで逸れのバーサーカーの投げ一回十割で死にまくったゾ