Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー   作:アナザーコゴエンベエ

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昭和99年おめでとうございます。
来年はいよいよ100年の大台ですね。
 


郷愁円舞曲(ワルツ)・織り成すクレーン2015

 

 

 

 通信を終えて椅子から立ち上がる。幾らか言葉を送ったものの、どれほど意味があるかは分かったものではない。彼女の心をどうにかできるのは、彼女自身だけなのだから。

 そうして少々の間ぼうと立ち尽くしていると、医務室のドアが解放された。首を傾げながら入ってくるのはこの部屋の真の主、カルデアの医療部門における最高責任者である人物であった。何かを考えている様子だった彼に対し、祈荒は彼の部下として挨拶をする。

 

「お疲れ様です、アーキマン室長」

「ああ、どうも……」

「何かお悩みの様子。どうかなさったのですか?」

 

 あからさまに悩みを抱えたその様子。

 問いかけてみれば、ロマニは酷く様々な感情を織り交ぜた表情を浮かべた。

 

「いえ、悩みと言えば悩みのような、そこまででもないような……別段今更になって、何か問題があるわけではないからわざわざ触れることじゃないけれど、もし所長にバレた場合また酷い査定をくらってボクの給与が危うい事になってしまいそうな……」

「まあ……」

 

 確か彼はシャルル・パトリキウスに行っていたのだったか。何の用事があったのかは知らないが、どうも解決には至らなかったらしい。口振りから察するに、本人的には気にしていないが誰かにバレた時に問題になる秘密。その問題に頭を悩ませている様子のロマニ自身には、特段陰りがあるわけではないので気に掛けるほどでもないだろう。

 

「BBに訊く……? いや、やぶ蛇だろうなぁ」

 

 ぶつぶつと何かを言いながら彼は部屋を検めて、ふと祈荒が通信を使っていた事に気付いた様子を見せた。通信、と言ってもこの部屋から出来るのはカルデア内のみのローカル通信。主に管制室や、各員の個室に対して利用する手段。当然の事ながら、医務室から直接レイシフト先に通信なんてできやしない。それはカルデアスのある管制室でのみ可能な行為だ。

 となれば、普通に考えればどこかの部屋への通信だったはずだが……どうにも今まさに名前を口にした人物、BBが小悪魔スマイルを浮かべている姿が脳裏に浮かび、消えていった。

 

「……ちなみにその通信、BBとの共謀で立香ちゃんに向けたものだったのかい?」

「ええ、はい。流石にすぐに分かってしまうものですね」

 

 管制室の通信網をハックして一部この部屋で使わせるインチキ。それが出来るのはBB含む一部のアルターエゴくらいなものだろう。そしてそうまでしてここで通信をしなければならない理由はただひとつ。藤丸立香という少女に対するカウンセリングだ。

 

「そうか、そうであるなら問題ないんだ。今後も必要なら使ってくれて構わないよ」

 

 そう言ったロマニの前で、祈荒は頬を手を当て微かに視線を彷徨わせる。そんな彼女を見て不思議そうにするロマニに対し、祈荒は数秒置いてからきっぱりと言い切った。

 

「―――いいえ、きっともうこのような席は必要ないでしょう。ただ最後……彼女が抱えたモノに区切りをつけるのに、きっと貴方の協力が不可欠になりますわ」

 

 思考が一体どういう道筋を辿ったのか、祈荒はほぼほぼ確信を得てそう口にする。当人から問題解決の兆しは感じられなかったというのに。

 立香の現状は今ロマニの知るところではないが、彼女のその物言いに何か感じ入るところがあったのだろうか。彼は僅かに眉を顰めると、その感傷に近い感覚が何であるのか確かめるように短い間を置いて、ゆっくりと苦笑した。

 

「―――確かに最後のそれは、ボクでしか代わりをこなせない役割かもだ」

 

 

 

 

 

 

 昨夜は異常な月はついぞ姿を見せぬままに夜が明けた。それはこの事態において、果たしてどんな意味を持つのであろうか。相手がこちらを襲うことも、町人を襲うこともなく終えた夜。カルデア側にとっては来たばかりであるが、まるで相手が最後の準備に入ったようだと考えるのは少々穿ちすぎか。

 

 村正の用意してくれた朝餉を皆で済ませてから、彼らは本日の予定を打ち合わせる―――というほどの時間もかからず、やはり結果は街の散策と相成った。下総国が英霊剣豪を用いた儀式の中心である事に疑いは無し、黒幕の正体や居場所はやはりこの土地の何処かと考えるのが自明なのだから。

 

 そうして予定を立てた後、出立までの間に村正の姿を探す。前夜にふと頭をよぎった思いつきを実行するためだ。一軒の周囲、けして広いとは言えない範囲の捜索などあっという間に完了する。どうやら彼の姿は庵の横でごまんと積まれた薪の裏手にあった。彼と一緒に武蔵もいるようだ。

 

「―――村正殿、少しよろしいでしょうか?」

「あン?」

 

 小太郎が声をかけると、返ってくる村正の声。その間に武蔵が何かを懐に入れたように見えたが、それが何かまでは見取れなかった。それを気にかけようとする自分に対し内心首を横に振り、意識をここに来た本題へと引き戻す。

 

「もしよろしければ短刀を一振り、譲って頂けないでしょうか」

「ンなもん欲しけりゃいくらでも持って行きゃいい。ひとやまいくらの手慰みがお前さんの手に馴染むとは思えねェがな」

 

 村正の視線が小太郎を上から下まで暗器を含め、矯めつ眇めつ眺めてみせる。その視線、ただの一見でもって各所に隠した装備のほぼ全てを正確に値踏みされたと思われる。隠し方の問題ではなく、武器がそこにある以上反応できるという事だろうか。暗器の一切が通らない、まるで忍びの天敵である。

 

「ありがとうございます。では一振りだけ」

「刃を見繕ったらまたここまで持ってこい、すぐに拵えてやるよ」

 

 ここで鍛った村正の作品は大抵の刃が打ちっ放しで樽に放り込まれている。その中から選んで持って来れば、装具も拵えてくれるという。その程度であれば小太郎の方で済ませようと思っていたが、そう言ってくれるのであれば本職に任せるのが筋だろう。

 

「かたじけない……ところで武蔵殿は何を?」

「ん? んー、そのまま押し付けておさらばする気だった預け物があったのだけれど、どうにも気が変わったので返して貰いました、みたいな?」

「なるほど?」

 

 武蔵の言葉はどうにも曖昧で、この御仁らしからぬ浮いた返答であった。そして村正は興味もないのか、小太郎の要望を叶えるための準備に入っている様子。

 頼んだ側として彼を待たせるわけにもいかないないだろう。小太郎はそこで会話を打ち切って良さげな刃を見繕いに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 口火を切ったのは、溜め息混じりのオルガマリーの声だった。

 

「さて、どうしたものかしらね」

「時間はかかるけど地道に色んな場所を調べてみるしかない。街中はそれでいいとして、ただそうなると……」

 

 城下町。天下の往来の端で、ツクヨミが空を見上げるように顔を上げた。そこにあるのは土気の城、この地を治める最大の要地である。自然、黒幕たちにとって一番押さえる価値のある場所になると言えるだろう。となると、こちらもそこも調べたいわけだが―――

 

「……難しいですね」

 

 もしその捜索、隠密行動を実行するならば陣頭指揮を執る事になる小太郎が、髪に隠れた眉を難しそうに顰めた。

 

「この世界のあの城の内部に何が控えているか、その点について情報がまったく無いのはこの際どうでもいいと言っていいでしょう。その程度は些末事に思えるほどの大問題として、昨日入城した柳生但馬守という最高位の警備が配置されてしまった事が上げられます」

 

 何故か「それ! わかるわー!」とでも言いたげな表情を浮かべる宮本武蔵。剣術家として柳生但馬守に思う所でもあるのだろうか。まあ、あの剣聖を知っていて何も思わない剣士もいないだろうか。

 

 土気城本来の戦力を外から見た分には、シノビがいなければ怪物に対応し切れない程度、と考えることができる。隠し玉が無いとは限らないが、風魔小太郎が欺けないほどのモノが出てくるとは考え難い。だがその城にあの但馬守が詰めているとなれば、話が変わってくる。

 

「恐らく霊体化しても気取ってこよう。まともな方法では侵入できまいな」

 

 軽い口調で胤舜もさっさと同意してみせる。名のある武人がこうも口を揃えるのだ、事実としてそうなるという事だろう。ならばどうするか、という話に行く前にソウゴが首を傾げた。

 

「でもそれなら逆にその柳生って人が入って何も反応が無い城は、英霊剣豪とは関係ないって事にならない?」

 

 道理だ。柳生但馬守はただの剣士、魔術の素養も何もない。だが彼ほどの武人となれば、そのような邪法が城内で執り行われていれば、邪気に反応して斬り捨てている。仮に英霊剣豪を殺し切れずとも、間違いなく牙を剥いた筈だ。

 そして柳生宗矩と言えば最強の剣士であると共に稀代の兵法家。仮に自身が剣で負けるような事があろうとも、江戸に仇なす怪人たちを野放しにせぬように()()()()()、秘められた悪行がまろびだすように立ち回るであろう。

 一晩経って城に何の反応も無いとなると、やはりあの城には何も無いという事になる。

 

 そう、普通ならばそれで納得できるのだが。

 ―――どうにも、小太郎はそれを素直に飲み込めない。

 

「どちらにせよ全部調べるならどうでもいい話だ。奴はこの怪異の解決のためにわざわざ江戸から来たんだろう? それならば閉じこもったままという事もないだろう。その柳生という侍がいる時に調べられないなら、そいつが城を出た時に忍び込めばいい。それだけだ」

 

 小太郎の感覚を否定する事なく、ゲイツはその件に関する話をまとめに入った。但馬守がいつ出陣するか等の問題はまだある。だが結局調べるのだから、外から城を見ただけで現状を推察する意味は薄い。問うべきはどのように忍び込むか、その一点である。

 

「まぁ歩いて広範囲を調べるとなれば、この人数で纏まって動き回るのは些か無駄が多い。幾つかに人員を分けて回るのがいいと思うが」

「柳生のお爺ちゃんがいつ腰を上げるかも分からない以上、小太郎くんは城の見張り番かしらね」

「……そうね」

 

 カルデアから映し出される下総のマップ。細めた目でそれをじいと見つめながら、オルガマリーは悩むように唇に指を添える。

 そんな彼女の横につき、頭を垂れてみせる小太郎。彼はこそりと口を利き、マスターであるオルガマリーへと要望を伝える。

 

「……申し訳ありません、主殿。城の見張りについてですが、人員を僕に選ばせて頂けないでしょうか」

「何か必要な事? 分配に目安に出来るものも無し、別にいいけれど」

 

 いつ何が起きるか分からない。どこに何があるか分からない。これじゃあ配置を考慮する甲斐もないというものだ。誰がどう割り振ったとしても、最低限均衡の取れた分配にさえなっているのなら、文句をつける謂れもないだろう。なのでオルガマリーは素直に小太郎からの進言を聞き入れる度量を見せ、その奇妙な采配にきょとんとした顔で首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、わざわざ時間かけさせて」

「いえ、こちらこそ手間を取らせてすみません。ですが、流石に……」

 

 立香と並んで歩く小太郎が言葉を濁す。彼らの役目は城の監視、なのだが立香の着物が余りにも悪目立ちしすぎる。この格好のままで張り込みは流石に人目につきすぎるのだ。

 そう判断した小太郎は、他の落ち着いた着物をおつるに用立てて貰う、という行動に思い至った。今はその道中、おつるの所へと向かう最中という事だ。

 

「私も忍者みたいに上手く隠れられればいいんだけどね」

「ではこの件が解決次第、カルデアで暇がある時に風魔の技を学んでみますか? 姿を完全に隠したりは出来ずとも、気配の消し方くらいであれば十分に体得出来ると思いますよ」

 

 気配を消す。実際重要なスキルなのであろうが、内容としては地味なものだ。けれど彼女には必要な事かもしれない。炎を出したり水を出したり、派手な忍法はやっぱり自分無理なのかな、とちょっぴりショックを受けつつも立香は笑った。

 

「忍者修行かぁ、ちょっと楽しそう」

「……ええ、まあ、もちろん。楽しくやれる範囲で修行の内容を組み立てますとも」

 

 何かが引っかかったかのように言葉を一瞬詰まらせる小太郎。だがそのほんの小さな引っかかりが生んだ隙間は、次の瞬間には何も無かったように消え去っていた。少し気になりはしたが言及はせず、立香は小太郎と共におつるの住処を目指す。

 あんまりのんびりしていて、その間に但馬守に城を出陣されてしまったら意味がない。故に早歩きでの道行きになるが、そこで改めて着物ではまともに走れないなぁという実感を味わう。清姫は裾を乱す事もなく結構素早い蛇のような移動力を持っているが、慣れれば自分でもあれができたりするのだろうか、なんてとりとめなく考え事をしながらの移動の末、彼女たちは目的地に辿り着いた。

 

 戸の前に立ち、軽く叩いて中に呼びかける。

 

「ごめんください。おつるさん、いますか?」

「はいはい、どうぞお入りくださいな」

 

 返答があったので戸を開け、家の中に入る。居間にいるおつるは何でもない日常的な様子で、朝食を済ませた後のお茶を味わっていた。彼女は二人を迎えるに辺りすぐ立ち上がると、流れるような所作で客人の分のお茶の準備に入っていた。そうした作業をこなしつつ、おつるは不思議そうに問いかけてくる。

 

「どうされました? わざわざ私の所に訪問頂いたという事は、何か服に関する事でしょうか」

「えっと……その、うん、はい……あっ、すぐ戻らなきゃいけないからお茶は遠慮したいんだけど」

 

 おや、と残念そうにもてなしの準備の手を止めるおつる。

 

 そんな彼女に対し、今の着物が豪華すぎるからもっと地味なのと取り替えてくれませんか、と言い放つのは中々に酷い願いだと思い言葉に詰まる。が、言い淀んでいても話が先に進まない。

 決死の覚悟染みて気合を入れ直し、立香はおつるにその言葉を言おうとし―――

 

「ちょうど私からも用事があったのですが、時間が無いのであればそれを先に果たしてしまってもよろしいでしょうか? もちろんその後、立香さんのご用件も伺いますので」

「用事? おつるさんが私に?」

「はい……いえ、私はただの橋渡しでしかないかもしれませんが。どうぞこちらに」

 

 軽く微笑んで、おつるは家の奥へとさっさと行ってしまう。謎の展開にきょとんとしていると、小太郎に背中を軽く叩かれ正気を取り戻す。慌てておつるの後を追ってみれば、彼女は自身の仕事場―――機織り機のある部屋の戸を大開きにして、そこで待っていた。

 おつるの仕事場、サーヴァント的に時代背景を気にした言葉選びをしなくていい状況において、彼女はその場所をアトリエと呼ぶ。そのパーソナルスペースに関してだけは基本的に閉鎖的であるおつるが、珍しい事にそこを開けっぱなしにしている。

 

「引かれた設計図からすれば消化不良、目的不全の末期。けれど成し遂げた事は確かに価値ある事で、あるいはその最初の仕事だけで、生み出された使命は果たしたと言えるのかもしれません」

 

 滔々と語るおつるの元へ歩みながら、開け放たれた戸の中を覗く。

 

「それでも私にはまだまだ自分は輝きを灯せる、と叫んでいるような気がしました。もっともそれは私が勝手に得た霊感。解れてしまった部分は余りに多く、修繕するためには新たな生地を増やさざるを得ず、機能を再構築するための造形は、まるで別物になったかのように原型からかけ離れてしまった」

 

 そこには立香が初めて見る、一着の白いドレスが掛けられていた。そう、初めて見るはずのドレスだ。だと言うのに、立香の中にそれを知っているという感覚が浮かぶ。

 であるならば、その正体はきっとひとつしかない。この地に来た時、あの場所で死に瀕した時、藤丸立香という人間の命を最大限まで守り通してくれた魔術礼装(セーラーふく)

 

 ……何を言えばいいのか分からない。喜べばいいのか、礼を言えばいいのか。確かにあの服は彼女の命を救った救世主だ。そこに疑いはない。セーラー服で修繕されてきたなら、もう少し落ち着いた反応が出来たかもしれない。でもいきなりドレスに生まれ変わられて、それを感慨深げに語るおつるを前に、自分は一体何を言えばいいのだろうか。

 

「……セーラー服が、ドレスに?」

「ええ、はい、まあ……急なデザイン変更については立香さんに着せる事を考えた時、私の霊感にビビッと走った感覚をカタチにしたわけですが」

 

 何とか絞り出した声に、いたずらっぽいおつるの声。つまりドレス化についてはおつるの趣味である、と。なおさらどう反応すればいいのか分からない。

 困惑している立香の前、おつるは微笑みながらそのドレスを取り上げ彼女に渡してきた。

 

「えっ? でもこれ」

「はい、立香さんへ着物を譲る対価として私が受け取り、それを手直しした結果織り上がった貴方のための一着です。そしてこの一着への代価は要りません―――いいえ、正確にはもう私は受け取っているのです」

 

 一瞬だけ遠い目を見せるおつる。その顔を見て、彼女は立香ではなく他の誰かから受けた恩を、立香を通してその()()に返そうとしている事を理解した。

 

「受けた恩に報いるのがこの鶴の生き方。マスターもいない()()()となって、いつ消えるも分からぬこの身。そんな鶴が抱いた心残りこそ、かつて受けた恩を返す事なく消えて忘れ去ってしまう事。

 もし貴方がこの鶴の我儘を聞いてくれるのであれば、もし貴方が勝手に他人への恩返しの受取人にされる事を納得してくれるのであれば……どうかこの一着、受け取っては頂けないでしょうか?」

「…………」

 

 鶴の視線は真剣そのものだった。彼女は恩人への礼を関係の無い他人に返し、納得するような人柄ではない。であるならば、これは立香と関係の深い誰かへの恩返しだ。いや、きっとそれ以上に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という考えの許に行動しているのだろう。

 これはただの恩返し、真意は義理を最大限にして返すという彼女の好意でしかない。その理由を問い詰めようとするのはきっと野暮な話だ。

 

「……私がそれを受け取る事で、おつるさんが納得できるの?」

「ええ、もちろん。そうしてかじりついてでも現世(うつつよ)に残らねばならなかった理由を果たせれば、残った時間は純度100%趣味に没頭できるというものです」

「今までは趣味に没頭してなかったの?」

 

 微笑むおつるからドレスに視線を移す。ドレスである。しかもかなり背中とか開いてる趣味全開のデザインに見える。

 

「今は50%といったところです。ふふ、私の本気の推し活はちょっと凄いですよ。ブレーキが無くなった今なら私、心臓が破裂するまで声援を上げ続ける覚悟があります」

「それは応援される側にだいぶ迷惑では……?」

「ご安心を。もちろんアイドルの晴れ舞台を汚すことなどありえません。その場合私は気付かれないように昇天し、空の果てから継続ライブビューイングです」

 

 にっこりと笑顔を浮かべるおつる。冗談だろうか? 流石に冗談だろう。冗談であって欲しい。冗談じゃないかもしれない、この顔は。突っ込むのはやめて本題に戻ろう。

 

「おつるさんがそれでいいなら、私は喜んで受け取りたい」

「はい言質頂きマシター! では着付けに入りましょう、さあ! さあ!」

 

 もの凄い勢いで引き込まれる立香。スパーン、と派手に閉じる襖。そして締め出される小太郎。護衛とはいえ当然着替えを覗くような事はしないので、言葉を挟む余地もない。襖越しに聞こえてくる声から顔を逸らし、彼はとりあえず一端その場を離れることにした。

 

 問題は目立つ衣装を変えに来たら、その100倍目立つ衣装にお色直しされてしまった事だが。それは後でドレスを隠すように羽織れるものを用意してもらうしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

「どう? 目立たないかな」

 

 そう言って立香は羽織った着物の裾を摘み、軽く腕を持ち上げた。一見するだけならば彼女は今、さほど目立たない派手すぎず地味すぎないごく普通の着物姿だった。

 

「ギリギリな気がしますね……」

 

 だが揃えて着る事で礼装が完全に機能するようになる都合上、パーツの一部である手袋とブーツは隠しようもなくそのままだ。着物は落ち着いたが手元足元は逆に目立つようになってしまった。まあ、遠目には目立たないだろうから良しとするしかないだろう。それに多少の違和感を生む程度で立香の安全度が高まるなら、むしろ望むところである。

 

 そうして一応準備が整った以上、彼らの役目は城が見える位置での待機だ。いつ柳生但馬守が出立してもいいように此処で見張り、彼が城を空けた直後を狙って侵入する。

 

(問題はあの御仁がいつ出るか。民に安心感を与えるならば日中に姿を見せるものだが、此処の民の安心は仮面ライダーシノビの存在が守っている。それでも得体の知れないシノビではなく、幕臣が民の安寧を守っているという姿勢を見せようとする筈だとは思いますが……街が安定している今ならば、それは実際に但馬守が怪物を斬った実績と共に喧伝するという形でもいい。そうであるならば今日は、怪物が姿を見せるだろう夜まで出てこないという可能性も高いか……)

 

 自分だけならば三日三晩カカシに徹するのもわけないが、立香がいる以上そうもいかない。怪しまれない程度に動きつつ、定期的に彼女を茶屋かどこかで休ませる算段はつけておかなくては―――

 そうして考え事をしていると、小太郎の肩が立香の指先にちょんちょんとつつかれた。

 

「……ねえ、何か騒がしくなってきたよ?」

 

 確かに唐突に城の前がやけに騒がしくなってきた。騒ぎの質はどうにも城の者さえ制御できない何かが起きた、という風に見える。城主でさえ命令できないと言えば但馬守だろうが、彼の出立というわけではないだろう。侍衆の出陣であればもっと静かに、厳かに行われるはずだ。城の者たちが止める理由もない。

 

「姫、お待ちください姫!」

「姫が御乱心だ、城下に行こうとされている! すぐに護衛を!」

 

 距離はあるが耳を澄ませばそんな言葉が聞こえてくる。姫君が唐突に城から街に下りようとしだした、という話だ。それはまあ確かに城の者からすれば寝耳に水、どれだけ慌てふためいても足りない状況か。

 ただそれは土気の城の問題であって但馬守とは関係ない話。こちらには関係ないだろう。

 

「どうやら土気の姫君が城を出ようとしているようですが……」

「お姫様が?」

 

 巻き込まれても良くない、落ち着くまでは少し離れているべきか。

 そう考えて行先を決めようとしていた、その瞬間。

 

 聞こえてくるのは高らかに響く馬の嘶き、続いて大地を蹴る力強い足音。そして「姫ー! お待ちくだされ、姫ー!」と叫ぶ多くの人間の声。ただそれだけなら姫が逃げたのだな、で終わりの話であるが。

 その幾多の音が全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()となれば話が変わる。

 

「―――御免!」

 

 小太郎が即座に判断を下す。目立つ目立たないなど最早些事、すぐさま立香を確保しこの場から撤退するべきだ。だからこそ彼は立香を抱えようと腕を伸ばし―――

 

 その腕を、他の誰かの腕に掴まれた。

 

「―――――!?」

 

 思考が落ちる。本来ならば振り払う、斬り払う、あるいは別の解決手段をすぐに行っただろう。だがその腕を見た瞬間に、風魔小太郎はほんの僅か完全に思考停止した。

 

 見覚えのある腕。その腕は前腕のみしか無く、二の腕より先がそこに存在しなかった。だが前腕しか無い代わりに、そこから伸びているのは鋼線(ワイヤー)。切り離した腕と本体を繋ぐ強靭な紐だ。そちらに目をやれば、鋼線を巻き取る事で切り離した腕に向かって突撃してくる腕の持ち主の姿が見えた。

 

 空中でもう片方の腕を構える女の姿。刃物を取り出す気配も無ければ、仕込み絡繰を起動する気配もない。それが分からないほど小太郎の眼は鈍っていない。あれはただ、小太郎を取り押さえるための動きだ。

 あの女が繰り出すのが完全な敵対の動きであれば、小太郎も即座に割り切れたかもしれない。だが今回の彼女の動きが相手では、逡巡の方が勝ってしまった。

 

「申し訳ございません。貴殿を名のある忍と見て先に抑えさせて頂きまする。貴殿の主に危害を加える事が目的ではありませぬので、どうかご安心を」

「段蔵、殿……!」

 

 つい口から零れる相手の名前。小太郎からその名を告げられ、黒髪のくのいちは少し驚いたような表情を見せた。その段に至り、小太郎は彼女に対する逡巡などを投げ捨てた。名を知られているという事実から生まれた隙を利用し、両腕を抑えられている状況を技巧を尽くして振り解く。元より風魔の技におけるあらゆる技量は彼女より小太郎の方が上だ。故にこそ彼が()()()()()なのだから。

 拘束を抜けられた事以上に、相手の忍が修めている体術を見てくのいちが目を見開く。

 

「風魔の技……!?」

「―――主殿!」

 

 彼はオルガマリーに従うサーヴァントであり、それは彼女に対する呼び名ではある。だが立香の名を隠すため、あえて相手の勘違いを利用しそのまま主殿と呼んでみせる。

 

 此処迄は段蔵が手綱を握っていたのだろう、減速しつつも立香に向かっていく馬。その馬に腰掛けた美しい着物に身を包んだ長髪の少女、恐らく土気の姫君か。その少女は目を爛々と輝かせながら、馬の腹をける勢いで思い切り―――跳んだ。

 

「愛、して、まーす!」

 

 空中で暴れる淡緑の長髪。見覚えのある色の突撃を前にして、逆に反応に迷った結果として動きを止める立香。目の前に迫る少女の姿は、正しく藤丸立香の既知の存在のものであった。

 

「―――え? 清姫?」

 

 激突。頭から突っ込んできた少女を受け止め、背中から倒れる。礼装に衣装替えしてなかったらだいぶキツかっただろう。そんな立香の考えをよそに、彼女に縋りついて頬ずりする清姫っぽい姫君。

 

「姫ー! 姫ー!」

「ご乱心じゃー! ご乱心じゃー!」

 

 ぞろぞろ集まってくる城の者たち。隠密とは何だったのか。

 驚愕から立ち直ったくのいちは既に、小太郎たちを逃がさぬとばかりにこちらの所作を注視する構え。この状況から立香を奪い返し、彼女から逃げ果せるのは流石に難しいだろう。

 

 激流のように押し寄せた状況の変化を前に、小太郎は唖然としながら動きを止めるしかなかった。

 

 

 




 
新礼装の外見はFGOワルツのあれ
あれなんて名前の礼装なんでしょうね
 
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