Fate/GRAND Zi-Order ーRemnant of Chronicleー 作:アナザーコゴエンベエ
ガンダムSEEDがまだ盛り上がってるので多分今は平成だと思うんですけど(名推理)
虱潰しに敵の拠点を城下街で探す最中、その事態は唐突に訪れた。
まるで過負荷で
オルガマリーは驚愕を一瞬で済ませ、すぐさまカルデアに通信を繋げる。
「ダ・ヴィンチ、状況は?」
『ちょっと待ってくれたまえ……土気城内部で異常な魔力の高まりがあるが、小太郎くん以外のサーヴァントの反応は無し。この状況ならアサシンの英霊剣豪がいる可能性はあるけどね。
城内にいる立香ちゃんたちとの通信は―――ちょっと無理そうだ』
「―――魔力の高まり……?」
仮に聖杯に準ずるものがあるとすれば、英霊剣豪の脱落で聖杯が満たされ、そうなる事もあるだろう。だがこうも唐突に、まるでいつでもエンジンをかけられたとでも言いたげに高まる魔力とは何が原因か。
ともかく出来れば即座に城に駆け付けたい状況、ではあるのだが……
「……わたしたちの場所から一番近いのは?」
『こちらで誘導する必要はないだろう、
瞬間、視線の先で空気が爆発するように荒れ狂った。大気を焼く雷光に次いで鼓膜を轟かす雷鳴。熱を持った風が肌を炙るように彼女たちの間を吹き抜けていく。
その感触を浴びて、オルガマリーのみならず彼女と共に居た宮本武蔵が息を呑む。
闊歩するは稲妻の化身。天空に在るべきモノが大地を征く、摂理に反した地上に渦巻く異常気象。既に抜き放たれた愛刀を稲光で輝かせ、その雷神鬼は血風を焦がしながら光来する。
「源氏棟梁、源頼光―――!」
武蔵の声に反応し、黒縄地獄が一介の剣士を一瞥する。それだけで奔る閃光の如き剣気を浴び、宮本武蔵は即座にその両手で剣を抜き放った。
「屠殺場には未完の刃がただ一振り。一息に手折った後は、一切鏖殺を果たすのみ―――です、か」
女の手元で翻る愛刀、併せて唸る稲光が大気を焦がす。宮本武蔵を前にして、源頼光の冷徹な視線には落胆にも似た感情が見える。その感情を向けられた剣士が瞋目し、刀を握る手に力をかけた。
「あの羽織りはどうしたのです? アレさえあれば、貴方はどの英霊剣豪にも負けないでしょうに」
「あんな邪道に頼った時点で私が
アレと斬り合い、やり返したかったのならお生憎様。そんな機会を貴方に与える事はないわ」
「…………」
小さく、源頼光の口許が嘲るように嗤う形を取る。
「別にそのような考えはありません。アレは我ら英霊とは違う形であれど死者の類。アレが扱うのは妖も魔も無き人の業にてその極地。英霊剣豪・黒縄地獄、源氏棟梁・源頼光、今の私がどちらであったとして、元より刃を向ける理由もなければ……一先ず、早々に生者である貴方の首を頂きましょう」
大地が砕ける。頼光の踏み込みか、あるいは稲妻の余波か。
雷を伴い襲来する頼光に対し、武蔵は村正より頂いた妖刀を以て応刀した。
稲妻を切り裂く鈍色の刃。二天一流が刃に纏わる膨大な電力を斬った先、姿を現すのは紛れもなく童子切。そのままお互いの刃が力任せに激突すれば、弾け飛ぶのは火花と紫電。その激突から鍔迫り合いへと雪崩込み、二人の剣士は顔を至近で突き合わせた。
直後、二人の顔色に明確な差が生まれる
「来たれぃ四天王!」
一対一ならいざ知らず、実質五対一となれば武蔵に勝ち目はない。まして頼光四天王―――牛頭天王の神使を何とか斬ったとしても、頼光自身に魔力があれば再度降臨させる事も難しくないだろう。
頼光の周囲に天から降り注ぐ四つの落雷。その内から顕れるそれぞれ違う武器を構えた源頼光の似姿。この相手とやり合うならば分かり切っていた展開ではあるが、だからと言って都合よく妙案が出てくるわけではない。とはいえ源頼光はこの街の隅で留めねば、瞬く間に街を焼き払う事だろう。
「ダ・ヴィンチ、動けるチームは!?」
『ひとつも無しだ。全員英霊剣豪との戦闘に入っている!』
そうだろうとも。分かり切っていた返答を受け、オルガマリーが舌打ちを噛み殺す。
(分身を無視して本体だけを斬る……! ええい、ままよ!)
分身が動き出す。刀剣、戦斧、長巻、弓矢、四天王の宝具の威力が発揮される。
それぞれ頼光本人の一撃に勝るとも劣らぬ魔性滅殺の一撃。それを同時に、どころかどれか一つでも直撃しようものならば、武蔵の体など容易く消し飛ぶだろう。だがその事実を踏まえても、そちらに気をやる余裕はない。分身に対応するという事は、本体への対応を疎かにせざるを得ないという事だ。そんな余裕を見せれば、正しく雷光の如き一閃が彼女を一刀の許に両断するであろう。
武蔵の眼が先を視る。どうあれ道を切り拓かねば死ぬだけだ。
ならば悩み頭を抱えるだけ時間の無駄というもの。
源氏進軍、何するものぞ。宮本武蔵、渾身の一刀によって斬り抜ける―――!
〈セイバイ忍法!〉
と、歯を食い縛っていた武蔵の耳に届く声。やけに弾んだイキの良い、しかし人ならざるモノの発する音。初めて聞く声であったがその特徴故、それが何者が発したものかを武蔵は過たず理解した。
「ハァ―――ッ!」
空中を舞うは紫の影が四つ。
ひとつ目の影が炎に燃える刀剣を持つ頼光の前に着地し、腰から忍者刀シノビブレードを抜き放つ。本来の獲物である武蔵への道を阻む存在。その相手に対し遠慮呵責なく燃える剣閃が奔る。迫る兇器は鬼火に覆われた大業物。
正しく鬼のような一振りを前に、影は右の手で握ったブレードの峰に左の手甲を添え―――その白刃を迫る炎の中へと突き込んだ。陽炎に秘された鬼切安綱の切っ先の確かな位置をしかと見据え、太刀筋を逸らすべく閃くシノビブレードの銀色の刃。膨大な火花を散らしながら擦過する互いの剣。
その末、影の狙いは過たず鬼切の剣閃を僅かにズラし、一閃の威力を背後に見事に受け流した。
ふたつ目の影は空中にあるままに黄金の戦斧を持つ頼光に右腕を伸ばす。途端、彼の前腕に巻き付いていた布が解け、ロープを投げたかのように伸びていく。
戦斧を握った腕へと巻付き拘束するのは、超伸縮繊維によって編まれたウデスリンガー。スリンガーを巻付けられた頼光の分身は一瞬動きを止めるも、むしろ利用してみせようとその場に踏み止まり、影を引き寄せんと拘束された腕を強く引っ張り返した―――が。その瞬間に影はスリンガーを更に伸ばして頼光の力を透かすと同時、左腕のウデスリンガーも伸ばし近場にあった樹木に巻き付けていた。
その状態で両腕のスリンガーを一気に縮めれば、バランスを崩した分身は強く抗えぬまま影と共に樹木の元にまで強引に引き寄せられていった。
みっつ目の影は胸に、太腿に、両の手を翳して武器を実体化させる。胸からはスティッキーシュリケン、太腿からはスティッキークナイ。それぞれを大量に手にした彼は、一気呵成に長槍を持つ頼光へと投げ放った。
シュリケンとクナイが雨あられと降り注ぐ。その弾幕を前に分身は仕方なしに足を止めると、長巻を掴み直して一回し。直接弾いた分のみならず、噴き出した冷気で迫りくる刃まで氷結させて地に落とした。そのままの勢いで影をも凍らせんと振るわれる長巻―――だが刃が振るわれる直前、影は膝のプロテクターを突き出し、そこから大量のスモークを噴出させた。
狙うべき敵を見失い眉を顰め、しかし止まる事はせず刃を振り抜く頼光。スモークを散らして、大気を凍らせ霜を降らせるその一閃。だが真に凍らせてみせんとした者は、その場に既にいなかった。
フルスイングの隙を縫い、音も無く長巻持ちの眼前に着地する紫の影が再び胸に、太腿に手を翳し、無数の刃をその手の中に現した。
よっつ目の影が見据えた対象との距離は彼方。既に豪風渦巻く矢を弓に番え、攻撃の体勢に入っている分身の姿だった。シュリケン、クナイ、投げたところで纏めて撃ち抜かれる事は想像に難くない。距離を詰め切る前に撃たれる事もまた同じく。
ならばと影は着地したその場で足を止め、肩口にかかったマフラーを掴んだ。どのような意味か計りかねる行動に対し、分身の頼光が訝しむように目を細める。だがそんな思考など無かったかのように、次の瞬間には迷いのひとつもなく、手元から戦車砲かと思われるほどの轟音を発していた。
強弓から豪風の矢を相手の心臓目掛けて放つ一射、瑕疵の無い完璧な射撃―――刹那の間を置き、着弾する矢。だがそれは彼女が狙い澄ました影に直撃する事なく、彼の胴を掠める程度の距離を過り、そのまま地面に突き立ち暴風を解き放つという結果に終わっていた。
会心の一射が外れた事に頼光が目を見開く。その失着を招いた理由こそ、影が矢の放たれる寸前に掴んだマフラー、認識阻害装置エリマキジャマー。
彼はそれを胸の前に引き出して、心臓ただ一点を睨む頼光の視界から胸部アーマーを隠した。その影響を受けた状態で射線を確定させたが故に、頼光が完璧と睨んだ照準が誤ったのだ。
そうして力を籠めた一射の外させた直後という隙を衝き、影は分身に向けて全力で疾駆を開始した。
四人の頼光の前に立ちはだかる四つの影、仮面ライダーシノビ。彼に分身を抑えられた本体の頼光は僅かに顔を顰め、武蔵は逆に笑みを強くしながら剣にかける力を強めた。
「ありがたや、四天王はどうやらシノビの相手で手一杯。貴方の望み通りに早々に私を折って街を地獄に、なんて予定は叶わぬようね!」
「戯言を。四天王の力など無くとも、今の貴方程度を斬り捨てる事に支障ありません」
刃が軋る。弾け合う互いの剣。衝撃で両者の間に雷の残滓が散る。
煌々と輝く血戦場、宮本武蔵と源頼光は再び切り結んだ。
▲
燃え滾る灼熱の業火、ヒトのカタチをした鬼火。彼女の正気はとうの昔に灰燼、狂気と宿業にて歪んだ精神だけを残した骸が、けして消える事無き憎悪を
街の一角に前触れなく、火柱と共にアーチャー・インフェルノ―――巴御前が出没した。
「“一切鏖殺”の儀なれば、誰一人とて……このような世を生きるモノどもをのさばらせる事能わず。燃えろ、燃えろ、燃えてしまえ。今の世全てを焼却する事叶うならば迷いなし。この巴、悪鬼羅刹に堕ちる事さえ厭うものか」
彼女がそこに存在する、ただそれだけで周囲が炎上する。熱を放つまでもなく気温が瞬く間に上がっていく。炎を撒かれるまでもなく、周囲の家は自然に発火を始めていく。
町人たちもすぐに異常に気付いたのだろう。それも怪異の仕業、と理解するだけ異常に慣れていた彼らは、すぐさま貴重品と家人を伴って脱出を始めていた。
「うぉ、熱ぃ……ッ!?」
だがそれでも彼らの認識は甘かった。今までこの土地で確認された化け物など、英霊剣豪に比べれば木端も木端。仮に町人が怪異と出会っても運が良ければ何とか逃げ果せるだろう。だが英霊剣豪を相手にするならば、ただの人間は行動を選ぶ余地すら与えられない。
“一切焼却”―――アーチャー・インフェルノが人の集落に出没したならば、ただそれだけでそこのある物、そこに住む者、全てが一切合切灰となる。
もし只人が彼女の行動範囲に僅かでも踏み込めば、熱した空気に目と肺を焼かれて呼吸すらままならず、何の理解出来ないまま数秒の後には焼死体になっているだろう。彼女が此処に現れたその瞬間、周辺一帯の生物は焼死が決定づけられていたのだ。
「“
―――その灼熱ごと吹き飛ばす風が、この地獄を切り裂いていなければ。
轟音を上げて迫りくる風の塊に対し、白髪鬼は不動を選んだ。確かにそれは周囲の空気を引き裂き、熱を分散させるような一撃ではあった。だがそれ故に威力を出すには密度が足りない。戦闘用に使用するならばもっと風を圧縮させた筈だ。だというのにそれは周囲の空気を巻き込む程度にしか圧力がかかっていない。いや、効果範囲を広げ周囲の熱を撹拌するため、意図的に圧力を緩めたのだろう。
こんな微風では鉄槌などと呼べはしない。そしてそんな攻撃が直撃したところで、巴御前は不死身である事を加味せずとも切り傷にさえならないと判断した。
無論、ただ待ち受けるという訳ではない。巴御前は腰の矢筒から矢を一本抜き出すと、左手に弓を現してすぐさま番えてみせた。弓の弦が、矢の鏃が、矢羽根が、構えた途端に激しく炎上する。最早彼女自身にも止められぬ嚇怒の鬼火。止め処ない怒りによって燃焼している矢は、放てば風の
仮に敵が何とか生き残ったとしても、余波だけで周辺の家屋も逃げようとしている人間どもも、纏めて蒸発させる。つまり今ここにいる人間たちに、生き残る術はない。
―――それもこれも自業自得。
「この炎、この呪い、この悪鬼を野放しにしたのは―――!」
人を殺し、燃やし、踏み躙る悪意の権化。人界に許されぬ鬼種の魔。そのような悪鬼を斬り、正義を掲げる勇士は確かに人の世にいた筈だ。そのような者がまだこの世にいたならば、彼ら人間はきっとその正義に救われただろう。だが人間たちにその救いはやってこない。何故って、そうした存在を排斥して消してしまったのが人間という種だからだ。
そうでなければ、そうなっていなければ、人間が人間同士でそんな争いをしていなければ、こんな悪い鬼、疾うに正義の刃で首を落とされていただろうに―――!
「“
矢羽根から指が離れるその直前、巴御前の目の前に転移で現れる赤い衣の少女。彼女は片腕を突き出しながら、自身の知る最硬の盾の名を呼ぶ。投影され、真名を解放され、咲き誇るのは四つの花弁。本来は一枚で城壁に匹敵する防衛力を持つ七つの花弁が展開されるべきものであるが、彼女の熟練度では四枚までしか顕れない。だがそれでも、ただの一矢を防ぐには十分だった。
放った直後に受け止められ、その熱量を一切後ろに通さない城壁。正面からしかと矢を受け止めた花弁の一枚に罅が入る。この防御力ならば宝具であれば打ち破れたであろうが、鬼火と共に放っただけの矢では城壁一枚さえも抜けないようだ。なればと巴御前の指が矢筒から複数の矢を抜き取る。
この程度ならば宝具ならずとも連射するだけで十分に蹂躙できる、という判断。
オリジナルの盾の持ち主ならば言わずもがな、クロエが力としているアーチャーのサーヴァントであっても、もっと堅牢な盾を張れただろう。展開されているのは飛び道具に対する最硬の護り。如何に鬼火の矢であっても容易に全て防ぎ切った筈だ。そうなればインフェルノもまた矢ではない、別の手段を取らざるを得なかっただろう。
だが少女の展開する盾はそこまで堅牢ではなく、射撃でも少し手間をかければ撃ち抜ける程度の隙があった。だからこそ悪鬼はそのまま矢を放つ事を選び―――
「ぶっ飛ばしなさい、イリヤ!!」
罅割れた盾を投影破棄し、クロエが転移を行う。目の前から花弁の盾が消え、その後ろに控えていた少女の姿が目に映る。左目を覆う眼帯、胸と腰だけを覆う黒いワンピース、そんな装束で銀色の長髪を靡かせる少女の前に展開されているのは、血色の光で描かれた魔法陣。高まる魔力に宝具の解放を予見するが―――関係無い。
彼女の射撃は街中に一矢でも着弾すれば地獄を生む。先手を取られ彼女自身が消し飛ばされようが、不死身の彼女はすぐに再生する。今回の射撃を防がれ、逆に吹き飛ばされたとして、再度矢を撃ち込むだけで一切鏖殺の儀は進行するのだ。
弓ひとつに多数番えた矢が一斉に炎上する。その鬼火の火力が最高潮に達した瞬間、インフェルノの指が矢を放した。翔ける矢の群れ、地獄を招く一斉射。
迫る鬼炎の塊を前にして、イリヤスフィールは手にしたマジカルルビーを大きく振るう。ステッキが瞬く間に光の帯へと姿を変えると同時、彼女が前にした魔法陣がその役目を果たし一頭の獣を呼び込んだ。少女を騎乗させた状態で姿を現した純白の体躯と翼は正しく
イリヤが手にした光の帯をペガサスが食む。手綱と化した帯と天馬。そのふたつの存在が噛み合った瞬間、幻獣は高らかな嘶きと共に膨大な魔力をその身に纏った。
「“
魔力を溢れさせたまま地上スレスレを飛翔し、突進を敢行するペガサス。放たれた鬼の矢、その先にいる射手を目掛けた小細工無し、一直線に突き進む
弓を操っていたインフェルノの腕が止まる。矢は効かぬ、このまま撃ち続けた所で無意味だ。対抗すべく宝具として矢を解放するには時間が足りない。ならばあの天馬の突撃に砕かれて、蘇生の後に改めて宝具にて撃墜を狙った方が良いだろう。
迫りくるペガサスに無防備を晒すインフェルノ。
回避も防御も無しに、次に訪れる攻撃の機会だけを見据えた備え。
『イリヤさん!』
「ブ、レーキ……ッ!」
手綱からの声を受け取り、少女は必死になって天馬の勢いを抑え込む。加速を殺せば必然、突進にて相手を粉砕するこの宝具の威力も落ちる。宝具でありながら宝具の一撃と呼べないまでに威力を落とし、狙う目的はただひとつ。
天馬の蹄が地面を削る。全力で大減速しながらの体当たりは、しかしそのままインフェルノへと直撃した。粉砕するにはまるで足りない、しかし押し込むだけであれば十分な、そんな曖昧な威力の加減。
だからこそその勢いを以て、ペガサスの突進はインフェルノを城下の外へと押し出していく。意図を理解した鬼が自身を押し込む白馬に掴みかかろうとする。が、溢れる魔力に阻まれて腕も鬼火も届かない。突進力をあえて削ったところで、天馬の持つ神獣クラスの防御力に陰りは無い。
「―――――!!」
インフェルノが弓を手放し薙刀を手に顕し、その刃を地面に突き立てる。押し込む勢いは止まらない、しかし減速は起きる。わざわざ威力を自分から半減させたペガサスの眼前、インフェルノの全身から立ち昇る鬼火。天馬には効果がなくともその火力は大気を焼く。未だ街から引き離せたと言い切れないこの距離では、立ち並ぶ家屋を全焼させるのに十分な呪力が漲っている。
「一気に吹き飛ばして―――!」
叫びながら手綱を引くイリヤ。砕くのではなく、吹き飛ばす。その指令を正しく受け取ったペガサスは僅かに引き、前脚を地面に降ろして体を反転。後ろ脚による蹴撃を目的とし、全身を大きくスイングさせた。
だがその予備動作はインフェルノを前にし余りにも大きな隙。彼女はすぐさま薙刀を地面から抜くと、ペガサスの背に騎乗した少女の首を見据え、刃を振るうための姿勢を整えた。無駄の無い、一振りで命を刈り取る必殺の構え。前兆と呼べるだけの間隙も無く、無感動に振り抜かれる鬼の刃。
―――その前に。最小の動作を正面から潰しにくる、蒼銀の流星が駆け抜けた。
「イリヤは、やらせない―――!」
全力の魔力放出、用途は全て突進のための推力。天馬の横をすり抜けて、騎士王を纏った美遊が正しく全速力の突撃を敢行する。馬上のイリヤに向け振るわれる薙刀に、下から斬り上げるように聖剣の刃が叩きつけられた。力任せに上に逸らされる刃、体を縮こまらせ頭を下げながら、イリヤはその瞬間に叫んだ。
「いっけぇえええ――――!!」
応えるようにペガサスが後ろ脚を蹴り抜いた。インフェルノの胴体へと突き刺さる天馬の蹄。彼女の体を上下に真っ二つにするだけの威力を出せるだろうそれはしかし、インフェルノを大きく吹き飛ばす一撃に留まった。
城下への入口から街道へと強引に押し出されるインフェルノ。彼女は薙刀を地面に突き立て留まろうとするも、盛大に吹き飛ばされた体は簡単には止まらなかった。
ようやっと止まり大きく距離を取らされた上で正面を見れば、街の入口に陣取る戦闘態勢のサーヴァントが三人。と、マスターだろう女がひとり。
手の中から薙刀を消し、再び弓を現しながら矢筒に手をかける。
すぐさま同じく弓を構えるクロエ。
少女は後ろにいるツクヨミをチラリと見て、問いかけた。
「……ちなみにアレ、持ってないの」
「ごめんなさい、シノビに渡したまま」
一定の有効打が期待できたファイズフォンXは、シノビの許にあるという。つまりツクヨミに攻撃手段は無いという事だ。接近して気を逸らそうにも、インフェルノを中心とした温度上昇が発生している以上、カルデア礼装の守りがあるとはいえ、ツクヨミは近づくだけで命の危機だ。
つまりアレの相手は魔法少女三人で努めなくてはならない。
轟、と。そんな短い会話を終えた瞬間、灼熱の矢が放たれること数本。クロエが行う照準はその速射に追いつかない。彼女が射で迎撃しようとしたところで間に合わない、という厳然たる事実に歯噛みする。
だが蒼銀の光は殺到する炎の矢を見逃さない。一太刀にて一矢を斬り落とし、瞬く間に剣閃を放つ事六度。繰り返して奔らせた切っ先は、放たれた矢を間違いなく迎撃。砕けて飛散する矢の残骸は、燃え尽きて灰と消えていく。
剣を払い熱を散らし、聖剣を正眼に構え直した美遊は深く吐息を落とした。
「……例え不死身であろうと、手が無いわけじゃない」
言いながら少女の視線はイリヤスフィールの元へ。
不死身を破るための技巧は、そこにある。
▲
何ともまあ、と。街の端に陣取りながら、女怪はつまらなさげに酒を一献傾けた。牛女は派手に神鳴り、巴御前は最早現世に焦げ付いた呪詛と化した。
“一切鏖殺”、何ともつまらない事だ。鬼からしたら人を全部殺すなど、何の利点も無いどころか害ですらある。鬼の悪戯は人ありき、全滅などしてもらっては困るのだ。
まあ人であろうとして抑えきれずに鬼になったような半端モノは違うのだろうが。彼女たちは自分たちが居られなかった世界を憎悪なり何なり、そのような感情のままに壊す。
人の振りをした鬼の破滅、見ててそれなりに痛快ではあるのだが―――
「……巴御前は楽しまんとただ燃やすだけ。牛女は裏を出さんとお行儀よく虐殺ごっこ、と。ほんにおかしな話やわ。人の振りした鬼よりも、鬼になるまで突き詰めた人間の方が、よっぽど自由に人殺ししとるんやから」
再び盃を傾ける鬼の横を泡を食った人間たちが駆けていく。一切鏖殺こそ英霊剣豪の仕儀であるが、気分が乗らなくて見過ごす事にする。運が途轍もなく良ければ逃げ果せるだろうが、そうでもなければ逃げたところで魔獣や怪異に喰われて死ぬだろう。
彼女からすれば森に逃げるより、街の中心に集まって恐怖に震えていた方がまだ生存の芽がありそうと感じるところだが―――それを教えてやる義理もない。自分からわざわざ死に目を目指して走る人間の背を眺め、小さく唇を歪めるだけ。
「面白い話もあるもんやね。うちらの時代は鬼は鬼、人間がひいこら言いながら必死に殺すべきものやったのに、時代から鬼が消えてみれば、ただの人間がただの鉄の棒振り回して辿り着くのが剣鬼やなんて」
だが実際にエンピレオはそういう生き物だ。人の積み重ねた業を斬る事こそを全てとし、その行為に至上の快楽を見出す剣狂い。
鬼は人そのものに執着する。彼らの文明、文化、営み。
全てを愛しながら殺し、毀し、拐かす、飢えた生き物。
剣鬼は人の業、積み重ねた経験、磨き上げた技量こそに執着する。
それを自分で斬る事で確かめねば、けして満足できない渇いた生き物。
―――なるほど、アレらが鬼と呼ばれるのは道理だろう。
「愉快愉快。結局人は鬼を鏖殺しても、自分の中に鬼飼うてなきゃ収まらんのやね。そう考えると鬼の血ぃが流れてる程度で、人と鬼の境がどうとか振り回されとる連中が滑稽やわぁ」
ころころと笑って女が跳ねる。彼女は近くの家屋の屋根に危うげなく乗ると、腰に提げていた瓢箪を掴み取り、口を真っ逆さまに傾けた。瓢箪から水が零れるように、刀身が彼女の身長ほどもある大剣が
向かいの家の屋根がかん、と音を立てた。その軽やかな着地の音の後、そこにいたのは十字槍を手にしたひとりの坊主。本来であれば英霊剣豪の同僚だった男、ランサー・宝蔵院胤舜。
「あんたはんもエンピレオみたく心に鬼、飼ってはるん? 気になるわぁ」
「さて……拙僧、まがりなりにも坊主でな。胸には鬼でなく仏心を宿すべきだろうなぁ」
軽く一言交わした直後、胤舜が屋根に足を擦る。
「英霊剣豪、衆合地獄―――大江山が首魁、酒呑童子。相手にとって不足なし! 宝蔵院流槍術、いざ参る!」
「そういう面倒事はぜぇんぶ茨木に任せとったさかい、そこ物差しにされたらアカンなぁ。まあ、不足かどうかは殺し合いながら決めはったらよろしおす」
衆合地獄は僅かばかり口端を上げ、一息に水平方向へと跳躍した。足場として踏み切られ、その反動に潰れて弾ける家屋。大剣は少女の見た目から繰り出されるとは思えぬ速度を以て、構えられた槍に向け突き出された。
瞬きほどの猶予もなく激突する互いの武装。膂力は遥かに鬼が勝る。だがその優位を超えて絶対の壁として横たわる力量差を、胤舜の槍は技巧を以て覆した。胤舜が足場にしている家屋が揺れる、が崩れない。それこそ正面から受け止めた爆発的な威力の一切を徹す事なく受け流している、という証左だろう。
衆合地獄が空中で体を捻る。強引に大剣を振り抜く姿勢。対して胤舜は互いの刃を噛ませたまま、指を槍の腹で小刻みに滑らせ、力の掛かり具合に対する調整を図っていく。
空中の鬼。屋根上の仏僧。数秒に渡る鍔迫り合いを経て衆合地獄が、押し返されるでもなく、弾き返されるでもなく、ただ力を失ったように
その中り方に不満げな様子を隠そうともせず、鬼が地上へと足を着く―――寸前。
〈ゲイツ! ギワギワシュート!〉
胤舜が足場にしている家の地上階。その内側から壁ごと撃ち抜く赤い矢が、着地寸前の衆合地獄の腹へと突き立った。その一矢は遺憾なく威力を発揮し、鬼の腹部を弾けさせる。
舞い散る血と肉は魔力に還り、己の残骸が金色の粒子となって降り注ぐのを見て目を細める衆合地獄。彼女は砕かれた腹へと乱雑に手を当てると、傷に頓着する様子も無く姿を現した赤い鎧に微笑みかけた。
「つまらん矢やわぁ。効かんと分かってるのに仕方なく放っとるって気ぃ、隠そうともしてへんのやもの。前に
衆合地獄が肉が削げ落ち血を流す己の腹を弄んでいれば、いつの間にかさっぱり元通り。そして血も肉も魔力に還るとなれば、最早痕跡さえ残さずその異常は無かった事になる。
「……ふん、貴様が必死になるほどの相手じゃないだけだ」
ジカンザックスを弓から斧へと切り替えて、舌打ち混じりにゲイツはそう言い返した。不死身の相手を殺す方法は心得ていないが、元凶の儀式を抑えられれば相手は消滅するだろう。もっと言うならば倒すよりは時間稼ぎに徹し、儀式の方を引っ繰り返した方が安全だ。
英霊剣豪を打倒すれば恐らくこの儀式を成り立たせている聖杯に回収され、聖杯の完成に貢献してしまう可能性が高い。つまり倒したくはないのだ。
はっきり言ってその辺りの対策は、“元凶を特定し潰すのが最善”以外なあなあになったままこの状況が始まってしまったので、正直に言えばこれからの行動は迷いばかりになる。
後の戦場は街のどこからでも見える雷光、業火。時間稼ぎなどと言って手を抜ける相手ではないと見える。ならばどうにもやる気が無い、この衆合地獄・酒呑童子こそ倒さず押し留めておくに相応しい。彼女の存在そのものがその気になれば一帯を溶かす毒酒であるが―――
〈ファイズ!〉
ホルダーからウォッチを外し、起動する。そのままドライバーへと装填、ロックを解除して片手でドライバーを回転させた。
〈アーマータイム!〉
空中に追加アーマーとして形成されていくレジェンドの力。それがゲイツの鎧を上から包み、新たな姿へと変身させる。顔面から一度飛び立つ“らいだー”の文字、インジケーションバタフライ。
特に目立つ変化こそ携帯電話型の肩部装甲フォンギアショルダーと、“ふぁいず”の文字に変化して舞い戻るアルティメットファインダーインジケーションバタフライ。それらを装着した姿こそ仮面ライダーゲイツ・ファイズアーマー。
〈コンプリート! ファイズ!〉
ファイズアーマーが持つ相手の動きを封じる事に優れた装備。それらを駆使して、衆合地獄を制圧する。それこそがゲイツが想定した、この決戦で最も有力だと思われる手段だった。