真・恋姫†無双 トキノオリ   作:もんどり

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 すんなりと宿泊許可をもらえたのは幸運だったと思う。司馬さんに連れられて建物の中へと入ると、こじんまりとした部屋へ案内された。どうやらこの部屋で寝泊まりしていいらしい。食事について聞かれ、まだ食べていないと正直に話すと、ご馳走してくださるとのことだった。やばい、めっちゃ良い人。慌ててお手伝いさせてくださいと言ったが、お客様なのでという言葉に負けておとなしく部屋で待つことになった。

 

「司馬さん、良い人そうでよかった」

「……うん、もっと、ちゃんとご挨拶……したかった、な」

「ま、終わったことはしょうがないさ。ご飯の時に改めてちゃんとお礼しよう。な?」

「あわわ……、そうだね。もっと、頑張る」

 

 荷物という荷はないけれど、担いできたものなどを一旦床へとおろしてから手ぬぐいと竹筒を取り出した。水で手ぬぐいを湿らせ、手や顔、足などを拭いていく。雛里もオレと同じように手足や顔を拭いていき、人様のお家にお邪魔しても問題ないぐらいには身だしなみを整えた。これで少しはマシだろう。

 

 とりあえず勿体ぶってしまった第一関門の司馬さん家にお泊りは見事クリアできたわけだけど、これからがなぁ……。司馬さんと雛里でたぶん話とかあるだろ? それから、ありがとうございましたって言って、母さんが居るだろう魚梁洲のところに向かって。まあ、詳しい場所がわからないから聞き込みと探索をしなきゃなんないだろうし、3、4日ぐらい見とけばいいのかな。

 

 真名は決められなかったけど、雛里は一緒に旅に出てくれるっていうし、母さんに会うまでに決めておかないと旅に出させてくれないとか言われそうだ。……いや、今のオレだったらもしかしたら真名を決めなくても背を押して送り出してくれるかもしれないか。あの頃より成長したよな、オレ。うんうん、大丈夫大丈夫。

 

 胡坐を組んでた足を投げ出し、半ば転がるように後ろに手をつく。あー……いいや、転がってしまえ。重力に負けるかのように、床についていた手の平を肘へと変更し、そのままころんと寝転がって頭の下に両腕を追いやり枕にした。

 

「りっ李姓さんっ! あわ……あわわ」

「雛里も転がってみたら? すげー楽……」

 

 慌てふためく雛里を共犯にするため、という気持ちは少しはあるが、きちんと座って足を崩さない雛里にもう少しだらけても良くない? というアピールをする。まあ、そういうのできないタイプだって知ってるけど。あわてふためく姿からあとでメっって怒られるまでがご褒美です。

 

 しかし、すごく眠いなぁ。考えなきゃならないことは山のようにあるのに、ものすごく眠い。雛里をもう少し見ていたいけど、少しだけ瞼を閉じてもいいかな。いいよな。雛里の声は可愛らしくて、玉を転がすような……耳に心地の良い声だ。……うん、ごめん。……もう少しだけ。

 

 

***

 

 

 ふと気が付いたら森の中だった。木々は緑のほかにも黄色や赤色が混じっており、落ち葉すらも華やかな色どりだと感じた。オレは剣を右手に握りしめ立っていて、視線の先に先ほど見た水鏡女学院の門が見える。一歩、また一歩と足が勝手に進み、視線は固定されていた。

 視界はくっきりと見えているが、感覚や気分はあやふやで、どこか膜を張ったような……そう、テレビで物語を見ているようなそんな感覚だった。

 

 陽の光によりはっきりと見える門を潜り抜け、庭先に植わった桑の木々を横切って、建物の中に土足で足を踏み入れる。オレに気付いた子供がこちらへと駆け込んでくるのを、剣を掴んだ右手が無造作に振るわれ、視界と部屋を赤く染めた。

 刹那、甲高い声が屋敷を駆け抜けた。声に吸い寄せられたのか、わらわらと集まってくる幼子たちに何度も何度も剣が振るわれ、赤く、赤く染めていく。逃げなさい、という凛とした声や、助けてと叫ぶ声が入り混じり、屋敷は混乱に支配されていた。

 

 オレは……いや、この身体はその中をかき分けるように、むせ返る血の匂いとともに足を進めていく。剣からはとめどもなく血が垂れ落ち、切り捨てた幼子は弾むように床を転がった。

 

 一方的な虐殺。屋敷の人間をすべて殺しつくすかのような、見た者をすべて切り殺すその行いに、この人物は何を考えているのだろうか。奥へ奥へと進んでいく身体に、殺しても殺しても止まらないこの身体に、オレは恐怖を感じる。悪い夢だと思いたい。この先に居るのは、誰なのだろうか。オレは、誰が居るのか、知っているのではないか。

 

 また一人幼子が切られ床に転がった。奇麗に首をはね切れずに幼子はまだ生きていた。幼子の口から先生逃げてという叫び声があがった。この身体はためらいもなく幼子の心臓を突き、幼子が叫んだ方向へと足早に駆けていく。ああ、やはり。やはり、狙いは――司馬さんなのか。

 

 どくどくと鳴り響く心臓の音が、だんだんと大きくなっていく。部屋を抜け、廊下を走り、奥の扉を開いた先に毅然と立つ女性を見て、心音が痛いほど耳を打った。

 

「……お久しぶりですね」

「……そうですね、本当に……お久しぶりです。水鏡先生」

 

 まっすぐにこちらを見る瞳には何の色も写されてはおらず、それこそがこの出来事への感情だとわかる。背にかばった幼子を守るかのように一歩前へと進み歩く彼女に、この身体は薄く笑って剣を構えた。

 

「たぶん、ここを逃しても問題なかったと思うんです。正直なところ、貴女に会うことは殆どなかった」

「……何を言ってるのかしら」

「あはは、確かに今の言葉は解らないかもしれませんね。……でも、俺の経験では貴女に会ったのは五回ぐらいしかなかった。あの、腐るほどの時間の中で」

「……貴方と会ったのは一回だけだと思うのだけれど。朱里や雛里と一緒に挨拶にきた時の」

「そうですね。そう、今回はその時だけしか会ってません。――でも、これをスルーしてすべて水の泡になったら、大変じゃないですか? オレはもう一度コレを繰り返すなんて、出来はしない。……だから、すいません。どうか、死んでください。オレは愛紗や鈴々みたいに剣の才能はないので、動かれると一発で殺せないから。苦しめたいわけじゃないんです。だから動かないでくださいね」

 

 言い終えたと同時に構えた剣を振りかぶる。芸妓のように華やかに結い上げた茶色の長い髪に刺さる簪が壁へと吹き飛び、辺りを血に染め、そしてどさりという音が二つ鳴り、幼子が泣きわめく声が室内へ響いた。

 幼子にもすぐ剣が振るわれるとオレは思ったのだが、逡巡するかのように腕が迷い、舌打ちを一つ鳴らして幼子に剣が振るわれる。短い悲鳴をどこか遠くに聞きながら、この夢のような状況について考える。これは一体、何を意味しているのだろうかと。

 

 あの時のような危機的状況ではない。なのに、こんな悪夢ともいえる夢を見るのか。いや、本当に夢なのだろうか。どこかリアルで、でも身近には感じられない、そんな感覚がぐちゃぐちゃと織り交ざって……この感覚は、最近体験した気がする。

 

 ――そう、松明を付けたあの時だ。あの時のオレは何を思った? 不便だと、……この時代は、そう、とても不便だと思ったんだ。まるで他の時代を知っているかのようなそんな感想を思い浮かべて、オレの中で疑惑を生んで、そして……。

 

「……もう少しだ」

 

 考えを遮るかのように聞こえた音に、泥を掻き混ぜるかのような思考の沼から浮かび上がる。この身体が言葉をしゃべったのだ。

 いつのまにか屋敷から出ており、拓けた場所に出ていた。少し先に崖が見え、その下に街が見える。振り返る身体と共に視界が流れ、先ほどまで居たと思われる水鏡女学院の建物を捕らえた。再び崖へと視線が戻り、街をゆっくりと眺めてから空へと移動する。先ほど見えた街は襄陽だろうか。空は遠く、青い空に白い雲がたなびいていた。

 

 

***

 

 

 目を開けたら、知らない天井が見えた。身体全体の上に少しの重さを感じ、ベッドの上に寝ていることに気付く。首を横に傾けると、雛里がすやすやと眠っているのを見つけ、ようやく夢から覚めたことに思い至った。

 

 ベッドから両手を取り出して、じっくりと観察をする。手の平はカサカサとしていて、左手の中指の付け根のところにあるマメがだいぶ固くなっていた。でも、赤くは染まっていない。

 身体を起こして部屋を静かに見渡してみる。質素ながらも丁寧に使われているのか、備え付けられている棚も机もとても奇麗だ。どこも、赤くない。

 

 寝ている雛里の傍に行きしゃがみこんで顔を覗き見る。大きな瞳は閉じており、あどけない顔をしてこんこんと眠っていた。まつ毛が長いな、という感想が無意識にぽつりと零れ落ちる。慌てて雛里の様子を伺ったが、起きる様子はなくほっと息をついた。

 立ち上がり廊下へと続く扉へと近づく。耳を澄ましてみるも家の外から鳥の鳴く音ぐらいしか聞こえない。扉を静かに開けると薄暗い廊下の先に、やわらかく白っぽい光が差し込んでいた。

 光に吸い寄せられるかのように、音をたてないように扉を閉じて光の元へと向かう。この奥は離れになっているのか、短い渡り廊下があった。右手には庭が整えられており、ため池がキラキラと柔らかく輝いている。

 左手には背の高い桑の木がいくつも植わっていた。ふらふらと、桑の木の方へと足を進めていくと、崖が見えてくる。それでもなおゆっくりと近づいていくと、柔らかな陽の下に街が見えた。ああ、襄陽の街だ。

 

「おはようございます、李姓さん」

 

 聞こえてきた声に肩が大きく跳ねて、慌てて声がした方を振り向くと、比較的低めの桑の木の下に人影が居ることに気付く。緩慢な動きでこちらへと近づいてくる様子を息をひそめて待っていると、次第に姿がはっきりと見えるようになった。茶色の髪を品よく結い上げ、髪に刺した簪がしゃなりしゃなりと涼やかに音を奏でる。手に抱えた笊には赤黒い木の実が数多く摘み取られていた。

 

「――司馬、徳操……さん」

 

 水鏡先生、と呼びかけた言葉を飲み込んでどうにか名前を呼ぶ。オレの傍まで来て歩みを止めた彼女は、優しく労わるような眼差しでオレを見た。

 

「はい。よければ水鏡とお呼びくださいね」

「あ、はい! すいません! えっと、水鏡……さん、おはようございます。昨日はすいませんでした!」

 

 水鏡と呼んでほしい、そう言ってくれたのはありがたいことだが、頭を下げて謝ることでもやっとする気持ちをどうにか心の隅へと追いやる。

 

「いえいえ、お疲れだったみたいですね。配慮が足りず申し訳ございませんでした」

「えっ!? いや! オレの方がすいませんでした! その、色々と。……本当にすいません」

 

 申し訳なさそうな声音で謝る司馬さんに、オレも慌ててもう一度頭を下げなおす。本当に色々とすいません! 司馬さんは悪くないのにな。声を出しているうちに、身体の中の重い何かが霧散していく気がする。夢だ、夢。切り替えよう。司馬さんにとって、今のオレは突然押しかけておきながら、ご飯が出されるのも待てずに眠り込んだ人間だ……って、酷いな!? 本当にすいませんでしたっ! って気持ちをものすごく込めて頭を下げると、頭上からくすくすという笑い声が聞こえてきた。

 

「ふふっ、ごめんなさい。大丈夫、気にしなくて良いですよ。でも士元さんも心配してましたから、自分を大事にしてくださいね」

 

 頭を上げると司馬さんが目を細め肩を小さく揺らして笑っており、急に恥ずかしくなってもごもごと返事をして頭を掻く。母さんとは全く違う、大人の女性だ。まったく! 違う!!

 

「朝ごはんは食べれそうですか?」

「食べれます!」

 

 反射的に敬礼のポーズをしてそう返す。鈴を転がすような笑い声が司馬さんから漏れ、オレは心の中で大きくやっちまった! と叫んだ。ああああああ。顔が熱い。

 

「昨日の残り物で申し訳ないのですけど。ふふっ、こちらへどうぞ」

「食べれるだけで嬉しいです! ありがとうございます!」

 

 やけくそ交じりにそう言って、くすくす笑って先導する司馬さんの後を追った。雛里のことを聞かれまだ寝ていることを伝えると、よければもう少し寝かせてあげてくださいとお願いされる。勿論ですとも!

 

「そういえば、昨日士元さんとお話したのですが、この後は母君の元に一度顔を出した後、旅に出られるとか」

「えっ、あ、そうです」

 

 どこかぼんやりと司馬さんの後について歩いていたせいか、気の抜けたような声が出た。慌てて肯定しながら、旅に出る理由を聞かれたらどうしようかと悩む。記憶を探しに旅に出るとかカッコイイ感じに言ったとして、初対面に近い人間には重すぎないか、とか。雛里は小さいし、連れて行くのは無謀だと怒られたらどうしよう、とか。ぐるぐると考えがまとまらずにどうしようかと狼狽えていると、司馬さんが一つの扉をくぐって立ち止まりこちらへと向いた。

 

「そちらの机でお待ちくださいな。今、ご用意しますね」

「はいっ! ありがとうございます」

 

 ビシッと気を付けの体勢をとると、深く頭を下げる。司馬さんのくすくすと笑う声と共に、どういたしましてという言葉をもらい頭を上げた。とりあえず、聞かれた場合の雰囲気でちゃんと話すか考えよう。オレは示された机に備え付けられた椅子に腰かけると、司馬さんの背中へと視線を向けた。

 こうやって、誰かが厨房で動いているのを座ってみるのはいつぶりなのだろうか。司馬さんは持っていた笊を調理台の上へと置いて、袖をゆるりと逆の手で押さえながら、棚の上の物を取ろうとしている。その何気ない姿がとても色っぽく、品があって美しかった。

 

大人の女性(母さんとは大違い)だ」

「? 何か言いましたか?」

「いえ! 何も言ってません!!」

 

 うっかりと漏らした言葉が届いたのか、司馬さんが不思議そうな顔でこちらを見ているが、慌てて否定する。思ってても口にしちゃイケナイ言葉だった。あぶないあぶない。

 しばらく台所でテキパキと動く司馬さんの様子を伺う。人にご飯をつくってもらえるのはとってもありがたく、嬉しいことなんだなと痛感する。雛里も手伝ってくれてはいたが、オレがご飯をつくるのが当たり前になっていたこともあり、一人で作ったことは数える程度ぐらいしかない。オレはまったりとくつろぎながら、ご飯が出てくるのを待った。

 

「先ほどの話の続きですけど、旅の予定は決まっているのですか?」

 

 そういいながらお盆の上に温かな湯気があがる器をいくつも乗せ、こちらへと向かってくる司馬さんをぽかんと見つめる。

 

「予定ですか?」

「ええ。もし急ぎの予定が無いのであれば、少しの間この女学院でお勉強しませんか」

 

 音をたてないように、目の前へと並べられていくご飯を視界に入れながらも、司馬さんから目を離すことが出来ない。

 

「おやおや、驚かせてしまったかしら。断ってくださっても構いませんよ。旅に出て新しきことを知る……それもまた善きかな、ですから」

「水鏡さん」

「ふふっ、とりあえずご飯が覚めてしまう前に食べてしまうのが先でしょうか。どうぞ、召し上がってくださいませ」

「ありがとうございます。……いただきます」

 

 うっそりと笑う司馬さんに、どうにかこうにかお礼をいって箸を手に取った。美味しそうな、香ばしい匂いが漂っている。主菜は炙魚。筋目が入り味がよく染み込んでいそうな、程よい色味の付いた白身魚が皿に盛りつけられていた。箸で魚の身を突くと、抵抗もなくほろりと身がほぐれる。これ以上崩さないように気を付けながら口の中へと放り込むと、すぐに橘皮の風味を感じ上品な深い味わいが口腔へと広がった。しっかりと下味をつけているのだろう、ただ魚を焼いただけでは表現できない味が、じんわりと脳へと伝わってくる。大蒜の味もまた美味しい。

 

「美味しいです、ホント。人にご飯を作ってもらえるのは、嬉しいですね」

「お口に合ったようでうれしいわ。鱠も少しお時間をもらえればお出しできるけど、いかが?」

「いえ、大丈夫です! 美味しいからいくらでも入りそうだけど、流石にこれ以上食べるのは量的に難しいです」

 

 羹へと手を伸ばして鼻を近づけ匂いを嗅いだ。鶏出汁だろうか、食欲をそそる良いにおいがする。具はたくさん入っていて、鶏肉のほかにも数々の野菜が水面から顔を出している。箸を匙へと持ち替え、具を押すようにスープだけをすくえば、澄んだスープの水面に浮かぶ油がきらりと光った。「おいしそう」そう、思わず呟きが漏れる。自分の声に我に返り視線を司馬さんへと向けると、司馬さんは少し照れた様子でくすくすと笑みを浮かべ、こちらを見ていた。オレは一つ咳ばらいをし、内心に浮かんだ恥ずかしさをごまかしながら匙を口へと近づけ、ふーっと息を吹きかけて冷ました後、ごくりとスープを飲み込んだ。

 

「うまい」

「それはそれは、安心しました」

 

 にこりと笑う司馬さんにつられるように笑ってから食事を再開する。お世辞なく美味しい。はっきりとした塩の味といい、惜しげもなく調味料が使われている。炙魚はそれなりに大きなもので、二匹並べて盛り付けられているところから、初対面に近いというのにすごくもてなされているのを感じた。

 

「本当にありがとうございます、水鏡さん」

「どういたしまして。喜んでいただけているようで、(わたくし)も嬉しく思います」

「その、えっと」

「大丈夫ですよ。まだ朝が訪れたばかりですから。急ぎの用事が無いのであればゆっくりおくつろぎくださいな」

 

 優しい声音が耳を打つ。ありがとうございますと礼を言ってご飯を思う存分味わった。ちょくちょく味付けや調理方法、素材の入手方法などの話をしながら箸を進めていると、気が付いたらすべてを平らげていた。お腹はいっぱいだが、もっと食べたいなと思わせる食事で、本当に美味しかった。司馬さんがお茶を淹れてくれ、じんわりと熱くなった湯のみを両手で抱えて一口飲んだ。身体に染み込むような暖かい感覚にほっと息を吐きだす。

 

「ご馳走様でした」

「はい、お粗末様です」

 

 緩やかな時間が流れているかのような、そんな雰囲気を感じながら、食事前に司馬さんから言われた女学院で勉強しないかというお誘いについて考える。勉強することには異存はない。予定といえるのも母さんに挨拶をするぐらいしかないのだし、知識の無いままで流浪するのは危ないというのもわかっている。オレだけならまだ良いが、雛里もいるのだ。

 そういえば、雛里はどうするのだろうか。彼女も誘われているのか? まあ、オレに話が出るということは、話が出ているのだろう。ふむ、と頭を悩ませていると、司馬さんがこちらをぽわっとした表情をして見ていた。これ、どこかで見たことある表情だぞ。

 

「……えっと?」

「あっ、あら、ごめんなさい。お茶のおかわりはいかが?」

「ありがとうございます、大丈夫です。えっと、ご飯前に言ってたここで勉強するって話について、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「雛里は……士元は何て言ってました?」

「ふふっ、李姓さんの考えも聞いてみたいと言っていたわ」

「そっか……、うん。えっと、オレも雛里の考え聞いてみたいので、相談してから決めても大丈夫ですか?」

「勿論、問題ないわ。ゆっくりと決めて頂戴」

 

 はい、と相槌を打ってからお茶を啜る。雛里はいつ頃起きてくるだろうか。お茶を飲みながら司馬さんと世間話をしつつ、雛里が起きてくるのを待った。




<修正>
2018/05/19 サブタイトル修正
2018/05/20 前書き修正
2018/06/03 前書き削除 本文修正

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