シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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Issue:クソ一次創作を書いていると1ヶ月が消滅します #128291233212[Bug]


通常小説
墓前


僕がシャングリラ・フロンティアへのログインをサボり出してから、数か月が経った。

別に何かの理由があって、あんなに熱中していたこのゲームを放り出したって訳じゃない―――ただ、ゲームにはいつか終(・)わ(・)り(・)が来る……それだけのことなんだ。サービス自体は運営が頑張れば理論上いくらでも続けられるかもしれないが、ユーザーにはいつか必ずプレイをやめる時が来るんだ。

 

それに関しては……神ゲーでも、クソゲーでも、変わらない。

 

といっても、僕が単に飽(・)き(・)からゲームを投げたわけじゃない……それは理由の一(・)端(・)でこそあれ、核(・)ではない。本(・)当(・)の(・)理(・)由(・)は別にあるのだ。時間だとか接続料だとか、色々理由はあるけれど……それらすらもやはり一(・)端(・)だ。

 

では、僕がシャングリラ・フロンティアを―――世間で神ゲーと絶賛される、このゲームを放置し始めた理由の核(・)は何か―――そう、オンラインゲームの本質はコミュニケーションツールだ、神ゲーでもクソゲーでもそれは変わらない、コミュニケーションが嫌ならオフゲをやってればいい……何が言いたいかって?

 

僕がシャンフロを投げた理由の核(・)は、仲(・)間(・)達(・)の(・)引(・)退(・)だ。

 

◆

 

『征服人形愛好会』。

 

僕がマスターを務めていたクランの名前だ。

『征服人形(コンキスタ・ドール)との契約の成立』という参加条件をクリアする程度にはや(・)れ(・)る(・)プレイヤーが集まっていた、まぁ上の下くらいのクランだった。メンバーのほぼ全員がオルケストラを自発していたし、クリアした奴だって何人かいた―――まぁそれはあくまでも「偽典」の話であって、「正典」については見(・)る(・)こ(・)と(・)す(・)ら(・)誰もできなかったけれど。

皆が皆、揃って征服人形に愛情を向けていた―――そんなクランだったのだ。愛情の表(・)現(・)については、メンバーによって違ったけれど、本質的なところでは、皆のそれは同一とすら言えた。

 

……しかし、それは過去の話だ。

 

 

一人のメンバーは、ある日突然姿を消した。SNSのアカウントも、同時に削除されていた。

 

一人のメンバーは、「ネフホロ2が発売されるからしばらくログインしない」と言い残し、そのまま帰ってこなかった。

 

一人のメンバーは、PKerに粘着されて、心を折って引退した。PKに対し報復しても、彼は帰ってこなかった。

 

 

ネットゲームからプレイヤーはどんどん消えていく。このクランの参加条件を考えれば―――新規プレイヤーがそれを補うことも、そうそうできることじゃない。一人、また一人とメンバーは減って行って―――最後にマスターである僕が消え、僕らのクランはその瞬間、ただのシステムログの藻屑と化した。

 

◆

 

さて、ゲームを突然辞(・)め(・)た(・)く(・)なることがあるならば、突然始(・)め(・)た(・)く(・)なることも当然ある―――今の僕の状態が、それだ。

要するに、すっかり鎮火していたはずの、僕のシャンフロへのモチベーションが……さっき突然沸き上がり、肉体をシャンフロに駆り立てている。抗う理由を持たない僕は、モチベーションの命ずるままに、使い古しのVRヘッドギアを被り―――再び、神ゲーへと舞い戻ることにしたのだ。

諸々のテストを終えたシステムが、フルダイブの感覚を僕に与え、数か月ぶりの理想郷(シャングリラ)へと誘う―――

 

目を開けば、天井があった。

 

◆

 

今、どこかの街中にいる。ど(・)こ(・)か(・)というのは、最後にログアウトした場所が思い出せないから、渋々不定称指示代名詞を使用しているのだ。数か月間ベッドで寝たきりだった人間が突然起き上がったことに対し、特にリアクションを示すこともせず、不気味かつ機械的に会計を済ませる宿屋の受付NPCから、逃げるように公道へ出てきた―――相変わらずの狂気じみたグラフィックで、活気のある街中が描かれている。そんな中僕は、さて何をしようかなときょろきょろと周囲を見回し、ひとまずステータスを確認しようと考えた。

 

◆

 

数か月のスパンがあってもUIの操作はそう簡単に忘れられないようで、ステータスに辿り着くのはすぐだった。展開されたウィンドウと、そこに乗せられた文字。それらをスクロールし、流し読み気味に処理していく。

装備されたアイテム一つ一つに、それを手に入れるまでの様々な冒険の記憶が紐づけられている―――案外、覚えているものだ。そうやって感傷に浸る僕の、忙しくウィンドウをスクロールする手が―――

 

―――ぴたりと、止まった。

 

何故止まったか?「アクセサリー」の欄に、今まですっかり存在を忘れていた……しかし思い出してみれば、非常に大切な存在だったそ(・)れ(・)が表示されていたからに他ならない。すなわち―――

 

―――格(・)納(・)鍵(・)イ(・)ン(・)ベ(・)ン(・)ト(・)リ(・)ア(・)、だ。

 

◆

 

数か月前の時点で、既に存在していた2艘のバハムート……特にリヴァイアサンには、要(・)素(・)が大量に存在すると言われていた……例えば膨大な種類のラ(・)イ(・)セ(・)ン(・)ス(・)、例えば高い設計自由度を誇る工(・)廠(・)、例えば「課金させてくれ」と呻く中毒者を大量生産したフ(・)ィ(・)ロ(・)ジ(・)ェ(・)ネ(・)テ(・)ッ(・)ク(・)・(・)ジ(・)オ(・)グ(・)リ(・)フ(・)。そのうち一つ―――具体的に何だったかは覚えていないが、とにかく一つをたまたま引き当て、その結果僕はインベントリアを手にした。

インベントリアは非常にレアなアイテムだ、これを持っているプレイヤーは3桁もいないだろう―――少なくとも、数か月前はそうだった。だからインベントリアは、僕の数少ない、プ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)と(・)し(・)て(・)自(・)慢(・)で(・)き(・)る(・)要(・)素(・)の一つでもあったのである。

 

……まぁ、今の今まで忘れていたのだが。

 

◆

 

懐かしい。

 

僕の感じる感情はそれだった。随分久し振りにコレ(インベントリア)を見た―――そして懐かしさを感じると同時に、過去の記憶を掘り返す……確か、コレには格納空間に転移する機能があったはずだ。久し振りにやってみよう、新たな発見があるかもしれない。僕は決め、右手に装着した腕輪を特に意味も無く持ち上げると、転移のための呪文を唱える。

 

そう、確か―――

 

「―――【転送:格納空間(エンタートラベル)】」

 

◆

 

墓(・)地(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

インベントリアの中に墓地がある訳は無いのだが、事実としてあ(・)っ(・)た(・)。

 

もうちょっと詳細を描写するならば―――そう、征(・)服(・)人(・)形(・)の(・)墓(・)地(・)、だ。

 

無機物的な格納空間に浮かぶ石草金属武器等の諸々が混沌を生成する中、その墓(・)地(・)のある空間だけが、ある種の秩(・)序(・)を持っていた。整然と、等間隔に並べられた、幾体もの征服人形……しかもいずれも無表情。この絵面の異常性を先に考えるべきなのに、秩(・)序(・)に対する感心が先に来る程度には、綺麗な並びをしていたのだ。

 

 

……さて、この墓地の正体は一体何なのか?

 

まず征服人形のタイプを見てみよう―――エルマ、シンシオ、レヴナ、ミオン、リリエル、ミオン、エルマ……この並びに特に規則性らしきものは感じられない―――だが規則性とは別に、僕は彼女たちに見(・)覚(・)え(・)があった。

いずれも、ク(・)ラ(・)ン(・)メ(・)ン(・)バ(・)ー(・)た(・)ち(・)と(・)契(・)約(・)し(・)て(・)い(・)た(・)人形なのだ……それも型(タイプ)の話ではなく、個体(キャラクター)の話で。

タイプが同じなら外見も当然同じになるはずなのに、僕は何故か彼女たちを見分けることができた。なぜかは分からない、プログラムがそうしているのか、超感覚に目覚めたのか、それともただの気のせいか―――しかし、それは今は重要ではない。問題は、な(・)ぜ(・)クランメンバー達と契約していた人形が、僕のインベントリアにいるのか―――である。

 

僕は考えた。そして……思い出した。クランには上の下程度の連中が集まっていたけれど――いや、むしろだ(・)か(・)ら(・)と言うべきか――インベントリアを持っているのは僕一人だった。下位互換品のチェストリアはバハムートで購入できるが、インベントリアはそうはいかない―――協議の結果、インベントリアはクランの共(・)用(・)倉(・)庫(・)として使用されることになったのである。

「鍵」シリーズにはリンク機能があるから、メンバーのチェストリアと僕のインベントリアを繋げることができた。もはやリンクした鍵(・)に意味などないが―――しかし、この事象を解き明かすための鍵(・)になりうる。

 

つまるところ、こうだ。

おそらく契約者が引退かなんかしたときに、征服人形がその契約者のチェストリアに入り込む的なイベントが起こる。

そして、軒並み引退したクランメンバーたちのチェストリアは、僕のインベントリアにリンクしているから……彼らが契約していた人形たちは、僕のインベントリアへ転送される……つまるところ、一人引退するごとに、僕のインベントリアには機能停止した征服人形が一人増える。

その結果としてできたのが……この、妙に秩序じみた墓地、というわけだ。

 

……僕は結論を出した後、もう一度征服人形たちへ目を向けた。

さっきまで無表情に見えていたそれらが、どこか違うニュアンスを含んでいるようにも感じ取れる―――どんなニュアンスかは僕にもよくわからないが―――敢えて表現するならば、「期(・)待(・)」……だろうか?僕はそっと目を背け……そして、考えた。

 

 

……この仮説が合っているとして、一つ辻褄が合わないことがある―――肝心の僕(・)の(・)人(・)形(・)はどこか、という点だ―――僕の契約していた、儚げで、そして優しい笑顔を持つイヴ-107(イレナ)は一体どこへ行ったのか、という―――

 

 

 

「―――おかえりなさい、契約者(マスター)」

 

 

 

声が、聞こえた。

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