輝槍伝説。
この惑星にかつて在った伝説の一つにして、今や口伝によるそれと成り果てた一つ。その本質は指向性マナ粒子が思考を導く上で垣間見える、幻想に基づいたそれに過ぎない―――そして、その肝心のブリューナク粒子は……最早、双つの大陸のどこに有るかすら分からない物になってしまった。仮に粒子が存在する場所を発見できても、それとは別に粒子との適合も要される―――第六の槍への道は、固く閉ざされたものだった。
しかし、何事にも例外はある。
◆
新大陸東方、ペンヘドラント大樹海―――その一角。
数百年―――ひょっとしたら数千年振りにその重い扉は押し開けられ、祠に影を伴って日光が差し込み、積み上がった埃がきらりと光る……他でもない、一人の一号人類の男によって。体力的に見て彼は瀕死状態であり、回復薬も尽きている―――護衛を依頼した開拓者達の全員が、恐竜たちのひとくちおやつとして消費されてしまったからに他ならない―――内訳としては、ドラクルス・ディノパキケフル1:ドラクルス・ディノサーベラス1:"死闘の傷"3:"緋色の傷"6、と言ったところだ。
男はよろめきつつ、倒れるように祠へと入り込む―――そこは、工房だった。正確には輝槍仮説第三:活殺を手掛けた無名の森人族が、古代使用していた工房。しかし、男にそんなことを知る術もない。その工房には立て札も無ければ文書も無く、ただ机と椅子、そしてその上に散乱した器具や素材しか無かったのだから。
男は、散らばった素材を興味深げに見分し始める。かつての所有者の種族上、有機的なそれが大半を占めている―――特に、木材が。もっとも木材と一口に言っても種類は多岐に渡り、素材特性はそれぞれである。硬い木材、柔軟な木材、吸水性の高い木材―――
そんな中、男はある一点に目を留めた―――何故か?その一点に置かれた素材が、一つだけ明らかに有機的なそれではなかった―――もっと言えば、ガラスだったからに他ならない。男は恐る恐るそこに手を伸ばし、それを握り締める。
それ―――正式名称、ガラステラ砂晶体。新大陸南部はいまだ開拓中であるが故、このありふれたガラスですら男には見慣れない物だった。しかしその『見慣れない』というのは、手を伸ばしたことについて二次的な理由に過ぎず……結局のところ男がこれを手に取ったのは、『有機物の山になぜか無機物があった』―――その事実に基づいた行動である。
さて、ガラステラ砂晶体には……マナの貯蓄という特性がある。その上限は、似たカテゴリに存在するラピステラ星晶体などとは到底比べ物にならないほど低いが―――しかし、例えば因子を貯蓄するには……十分すぎる量、とすら言える。
男は砂晶体を掴んだとき、まさしく天啓を得た。自分は選ばれたのだ……そう思った。実際の所、かつて第三の槍を作らせたブリューナク粒子が、潜んでいた砂晶体から出てきた―――よりこの世界の法則に沿って言えば、『特定のステータスを満たしたうえでブリューナク粒子に曝された』に過ぎない。しかし事実として彼は選ばれていたし、アイデアだって、既に脳裏に閃いていた。長らく閉ざされていた第六の槍への道が……遂に、拓かれたのである。
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しかし、彼は油断していた。
自分が辿り着いたという認識に舞い上がり、先程までの自分の危機的状況が、すっかり頭から吹き飛んでいた。
だから、帰路を戻るにあたっても十分な警戒を怠っていたし―――警戒を怠っていたから、背後から迫る触手にも気付けなかった。
男は転倒した。触手に引き摺られることで降り注ぐ木漏れ日の角度が微妙に変化し、星空のごとく光っているように見えた―――そんなことを考える程度には、打つ手がない状況だったとも言えた。男に先程までの楽観的な姿勢は一片たりとして残っておらず、ただ絶望だけが心を包んでいた―――そして、触手が引き摺りを止め……地面に脚を据えた本体であるパラサイトテンタクルが視界に入った時、その絶望は一層強いものとなった。七本の触手が、男に迫る―――
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そのパラサイトテンタクルは、それまでに味わったことすらない不可思議な気分に侵されていた。
この惑星において、通常植物は天然の回路じみた単純な行動パターンを持つが―――パラサイトテンタクルは単なる植物ではない。そもそもが他の生物の脳を弄って思考剥奪を行う種族であるから、当然のことながら神経細胞だって大量に保持している……だから、植物が不可思議な気分を覚えるという、明らかに異常な概念が成立しうるのだ。
パラサイトテンタクルは、先程寄生した人間の肉体を持ち上げ、考えた―――
槍が作りたい。
植物が槍を作りたいと考えるという異常な概念も、やはりこの惑星では成立しうる―――脳に潜んだブリューナク粒子が、直接的な接続を試みたパラサイトテンタクルの神経系にも潜り込んでくるのは―――極めて正常な事象でしか無い。だからパラサイトテンタクルに天啓が与えられたことも不思議ではないし、槍の制作に向けて彼が動き出すのも―――全く持って、不思議ではなかった。
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『モンスター不世出の発見!』
『討伐対象:パラサイトテンタクル"槍造欲求"』
『エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます』
「へ?」
開拓者の男は呟いたが、それが既に遅かった。彼の足首は既に濡れた触手に絡め取られ、輸送される状態にあった―――咄嗟に手元の剣で抵抗を試みるが、無駄である。パラサイトテンタクル"槍造欲求"の触手性能は、通常種とはとても比べ物にならない―――近縁種・パラサイトバンブーにすら、硬さで匹敵しうるそれなのだから。
やはり通常種よりも高速に行われる輸送の末、男は一瞬の内に人型に束ねられた触手の前に投げ捨てられた。必死でインベントリを操作して、武器を取り出すが……敢え無く男は握り潰され、深紅のエフェクトと共に死亡。後には、男が装備していた剣だけが残された。
◆
彼は今までの収穫を確認し出した―――剣、杖、盾、槍、剣、剣、刀……足りない。こんなもので、輝槍を作れるわけがない―――もっと素材が必要だ。触手をのたうち、湿気た樹海の中考える。いつか必ず完成できる、輝く槍への夢を思って。
第六の槍への道は、長い。