シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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誕生日が終わったとたんにアイデアが降ってくるのマジでやめてほしい


ドラゴンミッション:巨大隕鉄を迎撃せよ!

「ヤバいです」

 

【ライブラリ】天空観測部門に所属するそのプレイヤーは、煩雑を極めるシステムウィンドウ群を押し退け、顔を出した隙間からそう言った。

 

「どういう感じでヤバいんだ」

 

【ライブラリ】クランリーダーたるキョージュは、これまた煩雑を極めるシステムウィンドウ群を押し退け、顔を出した隙間からそう聞き返した。その声質は渋重であった。

 

「いいですか―――まず()()()()は通常よりもデカいです。〈落下(メテオフォール)〉イベントは今までにも何度か記録されていますが、はっきり言って観測史上最大です」

 

「うむ」

 

広がる青空は、何かの前触れのように深かった。

 

「そして―――落下予測地点はズバリ、ニーネスヒルの()()()()です」

 

「……不味いな」

 

「ええ……大質量の隕石が王都に直撃するわけですからね」

 

「避難勧告の必要があるかもしれないな」

 

吹き抜ける風は、何かの前触れのように疾かった。

 

「さらに」

 

「まだあるのか」

 

「ええ……さらにですね、この隕鉄は()()()()()()

 

「本当かね」

 

「はい。感電というのはより厳密にいえば()()()()なんですが―――天空にはレビンカムイという生物がいまして、そいつらはまあざっくりいうと雷雲を生成する能力を持っているんです。この雷雲はですね……まあなんというか、通り抜けた者の()()()()()()()()する能力を持っている」

 

「……つまり、()()()()()隕鉄が、王都に直撃する、と?」

 

黙り込む台地は―――

 

「そうなります」

 

―――何かの前触れのように、重かった。

 

 

人が減り始めていた。

 

先ほどニーネスヒル全体に発令された非公式な自主避難勧告は、人々の足をこの華々しい王都から遠ざけることに成功していた。数時間後に華々しい王都が惨々たる廃都となる可能性は、それらの理由付けとして十分すぎるものですらあったのだ。

一方、どんどんまばらになっていく人影たちの中で、確固として縫い付けられたようにそこに留まる者たちも存在する―――そう、【ライブラリ】の面々である。避難が行われる以上人的被害は抑えられるかもしれないが、隕石衝突による王都の消失は、同時に幾つかの文化(考察要素)の消失をも意味する。

彼らにとって、それはなるべく避けたい事象だったのだ。

 

「作戦が決まった、現状のリソースではこれがベストだ」

 

青空をプレイヤーが横切り、また別のプレイヤーに話しかける。

 

「わかった……ちょっと待て、現状のリソースっていうけどコレ……えぇ?」

 

話しかけられたプレイヤーは、手渡された報告書を一瞥して困惑した。

 

「……やっぱダメ?確かにちょっと強引な作戦であることは認めるけど」

 

「いや作戦自体はいいんだけどさぁ……()()()はどうするんだ。旧大陸の【ライブラリ】に飛行型戦術機をまともに操れる奴が何人いると思ってる」

 

飛行型戦術機の問題点は、そもそもの入手の困難さにある。ベヒーモスでは戦術機を購入こそできてもカスタマイズについては極めて幅狭いそれしかできず、かといってリヴァイアサンはニーネスヒルから離れすぎている。今からこの作戦に()()()()パイロットは、少なくとも【ライブラリ】において存在しなかった。

 

「……確かにそこについては考えてなかった。ど、どうする?」

 

「クラン内に適格者がいない以上、()から連れてくるしかないだろう―――どうする、誰か思いつかないか?」

 

「戦術機乗りといえばレッドワンが真っ先に出てくるが……」

 

「行方不明だからなぁ……多分ベヒーモス未攻略だし」

 

「だよなぁ……ツチノコさんなんか、ロボがなくても飛ぶくらいはできるんじゃないか?」

 

「行方不明よりなおタチが悪いタイプだろアレ、神出鬼没だよ神出鬼没」

 

「うーん……笑みリアさんは?確か大棟梁は重力魔法みたいなの使えたはずだろ」

 

「あの人は確かスカルアズチにまだいるだろ」

 

「そうか……」

 

沈黙。

空の深さはいつの間にか浅さに転じていて、徐々に肥大化し始めていた。時計の針は進み、あるいは時計の数字は点滅する。忙しげに進む様々な作業は、知らず知らずのうちに無意味という落とし穴に嵌り始めていた―――

 

「……そうだ」

 

しかし。

妙案というのは、時に思いつくものである―――何かしらの事象が存在したとして、それが不可能か可能かは誰にもわからない。不可能は可能に時に覆され、その逆もまた存在しうる。そしてその()()の根幹を担うものこそが、すなわち妙案なのである。

 

「どうした」

 

「適役がいるじゃないか……ベヒーモス攻略済み、ロボがなくても飛ぶくらいはできる、スカルアズチ……簡単な話だ」

 

「まさか……お前」

 

「そうだよ―――()()()()()()だ」

 

太陽が、沈むなり浮くなりして動き始めていた。

 

「彼女こそが……この作戦に、最も的確な人物のはずだ」

 

 

4つの銃口が空を見上げている。

 

「こちらオブザーバー1、観測座標値0.3」

 

「こちらオブザーバー2、観測座標値0.2」

 

「こちらオブザーバー3、観測座標値-0.1」

 

「こちらオブザーバー4、観測座標値0」

 

B2:市民用補助機装(シビリアン・サブデバイス)「プエーロ」。基本的に使い物にならないその狙撃銃は、しかして()()()の代わりとして使う分には極めて適切であった。細かいガイドを添えて網膜に投影される観測情報は、現在進行形で行われる想定落下地点の測定に多大な貢献を与えている。

 

「了解、想定落下地点を(0.13,-0.09)修正!」

 

「了解!」

 

その光景を目前に、"ドラ姫ちゃん"―――あるいは秋津茜は、思わず銃口たちと同じようにして空を見上げてしまっていた。大穴のような巨大な隕鉄が、光学処理の結果として彼女の虹彩に映し出される。彼女の足元に座り込む黒竜ノワルリンドも、おおむね同じようなことをしていた。

大穴はどんどん広がり、空の深さをどんどん狭める。それは作戦開始時刻が近いことの表れであって、実際のところそれは残り3分を切っていた。そういった物事を認識したうえで、脳裏にて事前に受けた()()をリフレインさせ、右脚に装着した()()を確認する―――彼女の準備は、すでに万全といってよかった。

 

そして穴がさらに広がったころ、彼女は空を走り出す。

 

 

―――今回の作戦は単純なものだ、隕鉄を押して()()()……それだけのね―――

 

いまだ続くリフレインを意識に留め、黒翼の羽ばたきでもって空を食い破りながら、秋津茜あるいはノワルリンドあるいは秋津茜とノワルリンドは空を駆ける。【ライブラリ】のプレイヤーに渡された神代製らしきアクセサリが網膜に投影するビーコンへと、一直線にただ進む。

 

―――そうだね、確かに並大抵の装備では、押す押される以前の問題として一瞬で耐久値を削られてしまうだろう。だが―――

 

全体を黒に包んだ肉体のうち唯一の例外、すなわち脚甲が持つ()()()―――輝きを放つそれを振りかざし、迫りくる衝突の時へとただ備える。

 

「……ノワルリンドさん、来ます!」

 

「わかっておるわ!」

 

二つの黒と一つの金が、相互接触を目前とする。

 

―――大丈夫さ。耐久値を削られると壊れるというのは、逆に言えば耐久値を()()()()()()()()()()()ということに他ならない。たとえどんなに大きな衝撃が加えられたとしても、システム的な数値(パラメータ)としての耐久値がなくならない限り、アイテムは絶対に壊れない……その点でいえば、破壊不能オブジェクトとさえ言えるだろう―――

 

そして、

 

「てやあああああああああああっ!!!」

 

激突。

 

隕鉄の持つ莫大な運動エネルギーが、眼前の障害物を撤去せんと襲い掛かる―――しかし脚甲は一向に破壊されず、じっと耐えて右足に残る。高度が徐々に下がっていくように、与えられる運動エネルギーも徐々に下がっていく。

脚甲を注視してみれば、そこに定期的な発光(エフェクト)が加えられているのがわかる―――それはすなわち幸運(クリティカル)の光。単純な威力増加の光であって、同時に脚甲を()()する根幹とすらいえる光。

 

―――カテゴリ名は「()()()()」って言うんだ。簡単に言うとクリティカルが発生時に耐久値が減らなくなる、っていう効果を持っている。こいつを使えば……隕鉄だって、止められる―――

 

世界が上昇し、己が下降する。秋津茜の視界は単純解釈するならそういった状況に置かれていた。最大効率で羽ばたく翼が衝撃を吸収し、状況の進行は比較的遅めだ―――()()()。彼と彼女は、そう確信した。

 

それは黄金の憧れで、同時に黄金への憧れだった。

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