シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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ああ、見失った世界に祝福を

サイナが見当たらない。

 

「……いないな」

 

空間には雑貨たちが雑多に雑然と散らばっている。それは例えば明らかに呪われてる感じの藁人形であったり、明らかに呪われている感じの人形であったり、普通の手甲であったり、明らかに呪われている感じの本であったりする。少なくとも、手を伸ばす気にはなれない。

 

「お~~~い、サイナ~~~」

 

無限の空間(インベントリア)を放った声が突き進む。一部がロボなどの()に反響し、木霊として跳ね返ってくる。しかし肝心のターゲットは1インテリジェンスの鳴き声も発さずに雲隠れしてしまっていて、俺は途方に暮れた。

 

「……困ったなあ」

 

別に彼女の身が心配なわけではない。今までにもえーっと……中枢性筋弛緩薬(カリソプロドール)?いや事務所(ドールフロント)か。事務所(ドールフロント)の依頼を単独受注していなくなったことはあるし、今回も十中八九それだろう……だが問題はそこではない―――()()を果たせないことだ。

インベントリアを歩き回り、ついでに軽く整理整頓を行い、ちょっとしたものを自分のインベントリへと移し替える。そんなことをしているうちに待ち人が現れるのではないか、という何の根拠も持たない期待は当然のように跳ねのけられ、光効果(エフェクト)たちの鳴き声だけがただ空間を突き進む。

しばらく無言でよくわからないものの山に立ち向かった後、ふと俺は手を止めた。

 

「……これは」

 

そう―――それは()()()()()。走るどういう機能を果たしているのかはわからないがとりあえずSFっぽくはあるラインが示す通り、他ならぬ神代の被造物だ。

機能としては確か単純な頭装備としてのものに加え、モニタリング、各種センサ、それから……

 

「……視覚データの、閲覧」

 

俺が最初に刃翼(トマホーク)を見た時も、確かこいつを被っていたはずだ。

もっと言えば、その横では……そう、サイナが、観測データをストックしていて―――

 

「……【転送:現実空間(イグジットトラベル)】」

 

気付いた時には、口にしていた。

 

 

○第一の断片

 

()()()()()()()

 

背景には見覚えがあるというか、この映像そのものが前に見たものと完全に同一だ―――トマホーク戦直前、敵情偵察を行うべくサイナに中継してもらった、あの映像。

こうして改めて見てみれば、最初の形態の時点でこの(トマホーク)はたくさんの()()()を抱え込んでいたのだろう―――各種部位は露骨に()()()()()()っぽい、要するにあの翼ミサイルの伏線として機能しているし、こう体の構造を見てみれば露骨なまでに()()()()()器官が存在する―――あのバカみたいな振動を生み出している、恐らく()みたいなものがそこにはあるんだ。

……とすると、あの想い託す半身(トマホーク)って名前も外見から類推できる要素で成り立っていたりするのだろうか?いや無理だな、正直ヒント以前の問題としてポエミーすぎて俺も真意を汲み取り切れていない部分がある。

時折視界が揺れるのは、恐らくサイナ本人の頭と連動しているためだ。とは言え大したことではない、あの60フレームで全部違う角度向いてるロボを常時操作するクソゲーほどではないし、60フレームで全部違う角度向いてるロボを常時操作するクソゲーをクリアしたから三半規管は鍛えられている。

そろそろ次に行こう、ここから得られる情報はこれ以上無さそうだ。

 

 

○第二の断片

 

ベヒーモスだ。俺は直観的に理解した。

 

リヴァイアサンとベヒーモスは超SF船(バハムート)という点で共通しているが、よく見ると内装の方向性が若干違う。なんというか、ベヒーモスはどちらかと言うと()()なのだ。リヴァイアサンで体を動かさずに暇つぶしをするならカードゲームだが、ベヒーモスで同じ条件で暇つぶしをするなら読書……そう考えるとわかりやすいだろう。

辺りを見回そうとし、よく考えてみると()()()()()ことに気付いて首を戻す。冷静に考えてVRの中でVRやってるんだよな今の状況……いや量子波とかは介さないただのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)タイプではあるけど。

それで……サイナは、これは何をしているんだ?()()()()()エッ?え、征服人形って購入とかできるの?何?何の通貨を使ってるの?少なくとも俺のインベントリから勝手に持ち出した、ってわけじゃなさそうだが……そもそも何を買ってるのかがよくわからん、こう……意図的に()()()()()()()()()()?いやでも通貨あるんだ、配給切符的なアレなのかな……ウーム。

まあいい、何を買ってるのかがわからない以上、これ以上情報は得られなさそうだ。次に行こう。

 

 

○第三の断片

 

空中のようだ。

 

シャンフロの空にはめっちゃヤバいモンスターがいる、みたいな設定は覚えてるが、アレは確か随分高い場所の話だったはずだ……サイナに渡してあるブースターを最大まで強化(アップグレード)しておいた甲斐もあってか、かなりの高速でカメラが移動している。

そしてこの目下に広がる空間は……神話の大森林か?俺がいるのがサードレマの蛇の林檎本店だから……んー、まあ大陸を隔ててるよりはマシか。紐づけられてる日付データもつい最近の物のようだし、これで位置の推定は完了したといって良いだろう。

それにしても、見たところサイナは殆ど全速力で移動している……どこに向かっているんだ?今チラッと横切った建物から類推して……んー、()()()()()()()()()?……こっちに、来てるのか?

まあ向こうから来てくれるってならそれはそれで良い、ヘッドギアを引っ張り出した意味がなくなってしまうが……ゲームをやってればそんな日もあるだろう。おとなしくこいつを取って……

あれ?

何だ、録画がもう一件あるじゃないか。一応再生してみよう。

 

 

○第四の断片

 

()()()()()()()

 

映像の中の俺は辺りを見回したかと思うと、謎の魔法陣を浮かべてスッと消えた……インベントリアエスケープだ。しばらくして出てきた俺はゴツいヘッドギアを被っていて、何やら映像を鑑賞しているようで、そして、俺自身がその映像に映っているという事は、つまるところ―――

 

顔が、近くにあった。

 

起床(おはようございます):契約者(マスター)

 

外されたヘッドギアが露わにしたゲーム内素顔に、目の前の人形―――エルマ=317は、たくさんの感情と一緒に笑いかけた。

 

「よう……サイナ」

 

顔を炎上(装備チェンジ)させつつ受け答える。こっそり開いたインベントリの中身を感触で確認し、()()に必要なものがちゃんとそこにあることを確認する。

 

「……えーっと」

 

どう切り出すか若干迷う。サイナは笑みをそのままに……いや、何かを()()()()()()()()?俺は何かを察し、同時に何も察さないままに、切り出す言葉を決定した。

 

「……よし、せーので行こう」

 

「了解:せーの」

 

「せーの―――」

 

たった今実体化(アクティベート)させたアイテムを、突き出す。

 

たった今実体化(アクティベート)させたであろうアイテムが、突き出される。

 

「「おめでとう」」

 

突き出された機械色の指輪を受け取り、突き出した皇金色の指輪を受け取られる。すべてが円満に完了したという事実が、サイナのその表情から存分に見て取れた。

 

契約からちょうど半年目のその日は、極めて順調に過ぎていったのだ。

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