「……よし」
目の前に立つ……より正確には
例えばクソゲーのノリで神ゲーを遊ぶと大抵大惨事になるように、或いはアンデッドのノリでトゥナイトを飲むと大抵大惨事になるように。それまでの間隔を一度打ち切って、大きく
「準備はいいようだね……じゃあ、始めよう!」
ヤシロバードは落ち着いた、しかしその現実に存在する脳が持つ
つい先ほどまで寝ずに全身刃野郎と戦っていたにもかかわらず、疲れというものを感じさせない動作だ。実際に付かれていないのかもしれないし、疲れ自体は存在しても、それをはるかに上回る
「ああ―――行くぞ」
インベントリアを開く。情報として収納された無数の
「―――霊角の残影検証会を、始めよう!」
青空に向け、突き出した。
◆
霊角の残影は極めてレアなアクセサリだ、何せこのゲームに3本しか存在しない。
ジークブルムの角は、なんだかんだ言って最初から無かった1本を除けばヤシロバードがぶっ飛ばした1本と俺がへし折った2本の合わせて3本しか破壊されていない。いや、やっぱ
検証、である。
◆
「よしヤシロバード、お前から行け」
俺が促すと、ヤシロバードはチェストリアから1本の銃を取り出した。
「オーケイ……エントリーナンバー1はコレ、鳥さん
「相手を
「
「えぇ……」
俺は困惑した。
「いや便利なんだよ?確定でカスダメしか出ないから体力調整とか検証にはもってこいさ」
「……なるほど?」
まあ言いたいことは分かる。50ダメージと51ダメージの違いを見分けるのはなかなか困難だが、1ダメージと2ダメージなら一発で違いが分かる……そういうことだろう。よしいいだろう、俺はさっそく両手を広げ……おっと、
「よっと」
ヤシロバードはゴマ粒みたいな弾を発射し、当然のように俺の心臓にクリーンヒットさせた。
「どう?」
「……95/100」
「1~2ダメージくらいを想定してたんだけど……?」
こちとらVIT1なもんで。
「……まあいいや、次は霊角を装備した状態でやってみよう」
「ああ……というかそもそも霊角の効果って銃にも適用されるわけ?」
「そりゃあそうさ」
「どういう理屈なんだソレ」
「確かに謎だね……こう、弾に込める魔力を増幅、的な……?」
「実弾銃はどうなるんだよ」
「気合かな……それじゃ行くよ」
「気合かぁ……」
ヤシロバードは光を放ち始めた己の頭頂部を眩しがりつつ、再び狙いを定め―――発射。完全視界が無けりゃとても目視できないような、そんなごくごく小さな弾丸に、ごくごく小さな
「何ダメージ?」
「えーっとさっきリジェネで100/100に戻ってたから……90/100、10ダメージだな」
「エグすぎない?」
ヤシロバードは露骨に驚愕した。
「エグすぎるな」
「………いや、エグすぎない?」
ヤシロバードは二度聞きした。
「二倍……二倍か…………」
「あ~~~なんだ、次行こうぜ次」
「……そう、だね」
動揺が露骨すぎるぞお前。
◆
「さぁ気を取り直そうぜ……第2エントリーはコレだ、【金照】と【冥輝】!」
日光を照らし返す二振りの刃を、インベントリアから
「あ、それオルケストラで―――」
その話はやめろ。
「あ、うん」
「さて気を取り直すぞ……こいつには
「いいのかい?」
ん?
「一応、それは君の
一瞬遅れて、ヤシロバードが
「いいんだよ、どうせこいつの出番は
「まあ、どうせ全世界に公開されて―――」
その話はやめろ。
「あ、うん」
「さーてクリティカルを出さないと合体できないから……」
お~~~い、ディプスロ~~~。
「はぁい」
どうしたんだいヤシロバード君、
呼び声が反響を終える前に
「えい」俺はディプスロを殴った。2倍。
「あひぇ」ディプスロは鳴き声を上げた。
「えい」俺はディプスロを殴った。4倍。
「あぁん」ディプスロは鳴き声を上げた。
「えい」俺はディプスロを殴った。8倍。
「あぁっ」ディプスロは鳴き声を上げた。俺はこのゲームに音量を下げるオプションが無い事に不満を覚え始めた。
「えい」俺はディプスロを殴った。16倍。
「うふぅん」ディプスロは鳴き声を上げた。俺は剣を捨てて鉄拳をお見舞いしたい気持ちに駆られたが抑えた。
「えい」俺はディプスロを殴った。32倍。
「あっ……ねぇサンラクくぅん」ディプスロは鳴き声を上げた後に言った。何?
「これぇ、なんだか時間停止モノの」「えい」「あぁんっ」俺はディプスロを殴った。64倍。
……次で最後かな。俺は確立低下の関係で念のために
128倍―――続けざまにもう一度、今度は素の倍率になったクリティカルを叩き込み―――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
鳴き声を上げるディプスロを見て―――
「…………あっ」
そこで【金照】の
ズガガガガガ―――
◆
「おかえり~」
「ただいまぁ~」
ディプスロがテントの方角から帰ってきた。
「まあ何だ……これでもいる?」
俺はインベントリアからパッとアイテムを取り出すと差し出した。
「『成分結晶:ディープスローター』……?響きからしてえっちなアイテムだよねぇ!?」
一度脳みそだけになって洗浄された方がいいと思うよ。
そう、発動したのは【金照】の持つ対格上効果……
端から見守っていたヤシロバードのジト目を無視し、俺は考察を繰り広げた。
「それで検証はどうなったのぉ?」
ディプスロが聞いてくる。
検証……検証な、結論から言うと霊角2本装備は未合体状態だと意味があるが合体状態だと1本と変わらないことが分かった。「じゃあ合体状態で1本で強化した後に合体解除したら1本分の強化が分裂してお得なんじゃね!?」とかもやったのだが、普通に片方しか強化されなくて終わりだった。世知辛いぜ……
「合体が終わっても快楽が続くとはいかなかったわけだねぇ」
成分結晶パンチ!俺は成分結晶パンチをお見舞いした。ディプスロは喘いだ。喘いでんじゃねーよ!
「……あーサンラク、他に検証することはあるかい?」
ヤシロバードが話題をリセットしようと試みる。
……んーそうだな、
あ、そうだ。
「よしディプスロ、お前が試せ」
「……へぇ?」
傾げられた首に、紅の髪が従った。
◆
「こう……でいいのかなぁ?」
「ああ、問題ない」
俺は返す。角のうち一本の
そう……ディープスローターには
せっかくなので渡した【蒼耀月】、ヤシロバードから渡された塵銃、そして自前らしい小杖……三つの
「えへへ……三か所を同時に」下ネタを言いかけたので、俺は成分結晶パンチをお見舞いした。