シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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残光よ願わくば煌々と

「……よし」

 

目の前に立つ……より正確には()()()()()ヤシロバードに合図を送る。と言っても何かこれからタイミングを合わせないといけないとかそういうわけではなく、いうなればこれは()()()()に近い。

例えばクソゲーのノリで神ゲーを遊ぶと大抵大惨事になるように、或いはアンデッドのノリでトゥナイトを飲むと大抵大惨事になるように。それまでの間隔を一度打ち切って、大きく()()()()ることが重要になってくるわけだ。そして、今こそがそのタイミングである。

 

「準備はいいようだね……じゃあ、始めよう!」

 

ヤシロバードは落ち着いた、しかしその現実に存在する脳が持つ()()を隠し切れていない態度で、受け止めた俺の言葉にそう返した。

つい先ほどまで寝ずに全身刃野郎と戦っていたにもかかわらず、疲れというものを感じさせない動作だ。実際に付かれていないのかもしれないし、疲れ自体は存在しても、それをはるかに上回る()()に塗りつぶされているだけかもしれなかった。

 

「ああ―――行くぞ」

 

インベントリアを開く。情報として収納された無数の物質(アイテム)の海から、ある2つの()()()()()()を探り出す―――開いているものがちょっと違う以外はだいたい同じことをしているヤシロバードが、俺よりちょっと遅いくらいの速度でそれを完遂したのを見計らい―――俺は、勢いよくそれを―――

 

「―――霊角の残影検証会を、始めよう!」

 

青空に向け、突き出した。

 

 

霊角の残影は極めてレアなアクセサリだ、何せこのゲームに3本しか存在しない。

ジークブルムの角は、なんだかんだ言って最初から無かった1本を除けばヤシロバードがぶっ飛ばした1本と俺がへし折った2本の合わせて3本しか破壊されていない。いや、やっぱ()()()()()の仕様はどうにかした方がイイんじゃねーかな……とはいえ、実に全体の過半数を独占している俺に言う資格は無さそうだ。俺はこの仕様で寧ろ得をしているわけで、そこでうだうだ言っても少なくとも俺の利益にはならないだろう……さて発言の資格が無いのなら、いったい何の資格ならあるのか。それは、すなわち―――

 

検証、である。

 

 

「よしヤシロバード、お前から行け」

 

俺が促すと、ヤシロバードはチェストリアから1本の銃を取り出した。

 

「オーケイ……エントリーナンバー1はコレ、鳥さん(シリーズ)小型拳銃「ダストガン」!」

 

「相手を(ダスト)にするレベルで強力な銃?」

 

(ダスト)みたいな威力しか出ない銃」

 

「えぇ……」

 

俺は困惑した。

 

「いや便利なんだよ?確定でカスダメしか出ないから体力調整とか検証にはもってこいさ」

 

「……なるほど?」

 

まあ言いたいことは分かる。50ダメージと51ダメージの違いを見分けるのはなかなか困難だが、1ダメージと2ダメージなら一発で違いが分かる……そういうことだろう。よしいいだろう、俺はさっそく両手を広げ……おっと、要塞女王蜘蛛人形(フォルトレス・ガルガンチュラドール)は外しとかないとな。外したうえで両手を広げ、()として遺憾なき能力を発揮する。

 

「よっと」

 

ヤシロバードはゴマ粒みたいな弾を発射し、当然のように俺の心臓にクリーンヒットさせた。

 

「どう?」

 

「……95/100」

 

「1~2ダメージくらいを想定してたんだけど……?」

 

こちとらVIT1なもんで。

 

「……まあいいや、次は霊角を装備した状態でやってみよう」

 

「ああ……というかそもそも霊角の効果って銃にも適用されるわけ?」

 

「そりゃあそうさ」

 

「どういう理屈なんだソレ」

 

「確かに謎だね……こう、弾に込める魔力を増幅、的な……?」

 

「実弾銃はどうなるんだよ」

 

「気合かな……それじゃ行くよ」

 

「気合かぁ……」

 

ヤシロバードは光を放ち始めた己の頭頂部を眩しがりつつ、再び狙いを定め―――発射。完全視界が無けりゃとても目視できないような、そんなごくごく小さな弾丸に、ごくごく小さな()()()()()が纏われているのが分かって……着弾。

 

「何ダメージ?」

 

「えーっとさっきリジェネで100/100に戻ってたから……90/100、10ダメージだな」

 

「エグすぎない?」

 

ヤシロバードは露骨に驚愕した。

 

「エグすぎるな」

 

「………いや、エグすぎない?」

 

ヤシロバードは二度聞きした。

 

「二倍……二倍か…………」

 

「あ~~~なんだ、次行こうぜ次」

 

「……そう、だね」

 

動揺が露骨すぎるぞお前。

 

 

「さぁ気を取り直そうぜ……第2エントリーはコレだ、【金照】と【冥輝】!」

 

日光を照らし返す二振りの刃を、インベントリアから1()()()()取り出して両手に握る。

 

「あ、それオルケストラで―――」

 

その話はやめろ。

 

「あ、うん」

 

「さて気を取り直すぞ……こいつには()()()()がある、角が2本あれば当然両方強化されるが、もしその状態から()()()()()したらどうなるか……そいつを調べていこう」

 

「いいのかい?」

 

ん?

 

「一応、それは君の隠し弾(シークレット)じゃないか?」

 

一瞬遅れて、ヤシロバードが()()のことを言っているのだと察する。

 

「いいんだよ、どうせこいつの出番は()()()()()()だろうからな」

 

「まあ、どうせ全世界に公開されて―――」

 

その話はやめろ。

 

「あ、うん」

 

「さーてクリティカルを出さないと合体できないから……」

 

お~~~い、ディプスロ~~~。

 

「はぁい」

 

どうしたんだいヤシロバード君、()()()にドン引きしてるの?

呼び声が反響を終える前に()()()()()()()()()()()()()ディープスローターの方へと向き直ると、俺はこっそり再習得しておいたクリティカル・レイズを起動する。

 

「えい」俺はディプスロを殴った。2倍。

 

「あひぇ」ディプスロは鳴き声を上げた。

 

「えい」俺はディプスロを殴った。4倍。

 

「あぁん」ディプスロは鳴き声を上げた。

 

「えい」俺はディプスロを殴った。8倍。

 

「あぁっ」ディプスロは鳴き声を上げた。俺はこのゲームに音量を下げるオプションが無い事に不満を覚え始めた。

 

「えい」俺はディプスロを殴った。16倍。

 

「うふぅん」ディプスロは鳴き声を上げた。俺は剣を捨てて鉄拳をお見舞いしたい気持ちに駆られたが抑えた。

 

「えい」俺はディプスロを殴った。32倍。

 

「あっ……ねぇサンラクくぅん」ディプスロは鳴き声を上げた後に言った。何?

 

「これぇ、なんだか時間停止モノの」「えい」「あぁんっ」俺はディプスロを殴った。64倍。

 

……次で最後かな。俺は確立低下の関係で念のために永劫の眼(クロノスタキサイア)運命の眼(フェータリザルト)を発動し、遅れ煌めく視界の中、1本の運命(ライン)が示すそこだけを狙って、煌めく【金照】を斬り込んだ。

 

128倍―――続けざまにもう一度、今度は素の倍率になったクリティカルを叩き込み―――

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

鳴き声を上げるディプスロを見て―――

 

「…………あっ」

 

そこで【金照】の()()()()()()()()()を思い出し―――

 

ズガガガガガ―――

 

()()()していくディプスロの肉体を、ただ、眺めた。

 

 

「おかえり~」

 

「ただいまぁ~」

 

ディプスロがテントの方角から帰ってきた。

 

「まあ何だ……これでもいる?」

 

俺はインベントリアからパッとアイテムを取り出すと差し出した。

 

「『成分結晶:ディープスローター』……?響きからしてえっちなアイテムだよねぇ!?」

 

一度脳みそだけになって洗浄された方がいいと思うよ。

そう、発動したのは【金照】の持つ対格上効果……()()()。正直存在を忘れかけてたし、そもそもディプスロが俺より格上とは思っていなかったが……そうか、よく考えてみると今の俺はレベル140、場合によってはこいつより低い可能性もあったのか。

端から見守っていたヤシロバードのジト目を無視し、俺は考察を繰り広げた。

 

「それで検証はどうなったのぉ?」

 

ディプスロが聞いてくる。

検証……検証な、結論から言うと霊角2本装備は未合体状態だと意味があるが合体状態だと1本と変わらないことが分かった。「じゃあ合体状態で1本で強化した後に合体解除したら1本分の強化が分裂してお得なんじゃね!?」とかもやったのだが、普通に片方しか強化されなくて終わりだった。世知辛いぜ……

 

「合体が終わっても快楽が続くとはいかなかったわけだねぇ」

 

成分結晶パンチ!俺は成分結晶パンチをお見舞いした。ディプスロは喘いだ。喘いでんじゃねーよ!

 

「……あーサンラク、他に検証することはあるかい?」

 

ヤシロバードが話題をリセットしようと試みる。

 

……んーそうだな、別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ)……いやアレは装備枠が変わるだけで装備その物の判定は変わらないし……勇輝の晶剣(グリッターグリット)もそうだし銃はヤシロバードの領分だし……んー。

あ、そうだ。

 

「よしディプスロ、お前が試せ」

 

「……へぇ?」

 

傾げられた首に、紅の髪が従った。

 

 

「こう……でいいのかなぁ?」

 

()()()()から光を漏らし、ディープスローターは聞いた。

 

「ああ、問題ない」

 

俺は返す。角のうち一本の()()()であるところのヤシロバードも頷き、この即席検証班の中で彼女は全ての同意を得た。

 

そう……ディープスローターには()()()()()()()()。厳密には三つ目の装備欄は両手枠らしいので、手の本数で考えると四つともいえる……とはいえ外見(ビジュアル)的には手は三本しか存在しないし、別に両手枠を片手枠二つとして扱えるわけでも無いので、結局のところ装備欄が三つあるという表現が一番正しいだろう。

 

せっかくなので渡した【蒼耀月】、ヤシロバードから渡された塵銃、そして自前らしい小杖……三つの装備品(イクイップメント)を三通りの効果(エフェクト)に輝かせ、ディープスローターは光の戦士みたいなナリになって―――

 

「えへへ……三か所を同時に」下ネタを言いかけたので、俺は成分結晶パンチをお見舞いした。

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