これから行われる事とは正反対に、太陽はどこまでも輝いていた。
しかし、ディープスローターはその輝きに曝されていなかった。彼女の全身を包む魔導服は、降り注ぐ日光を遮断し、或いは降り注ぐ日光の吸収効率を上げ……なんにせよ、彼女を影で包んでいた。
とはいえ、彼女は先ほどから他ならぬ晴天を見上げているわけで……直接太陽と触れ合わない限り絶対に影響されることはない、なんて断定も、それはそれで間違っているという事ができた。
◇
「頼みごとがあるんだよね、ディープスローターレジスタンスリーダー君」
「へぇ……聞こうじゃないかアーサー・ペンシルゴン相談役氏ぃ……」
◇
周囲に人影は無い。この戦争イベントにおいて、プレイヤーの集まる場所と集まらない場所は余りに明確に区別される―――即ち、リスポーン地点に近いか遠いか。法則変化に怯えたプレイヤーたちは装備品質を落とし、結果としてこのイベントは全体的な戦いが即時に終了する傾向を持つようになった。それはつまり、いない所には本当にいないという事で―――
◇
「……まあ、ちょっとした裏工作ってやつだよ」
「ふぅん……私にしか頼めないウラの工作、ねぇ……」
◇
ディープスローターは太陽を見た。法律という枷により、出力が若干抑えられている太陽だ。放たれる光はあらゆる物体の足元に影を伸ばし、シェーダーがその質感を決定づけて描画する。
ディープスローターは太陽を見ている。太陽を見ながら待ち構える。それが訪れ、そして過ぎ去ろうとする様を。両手に握った難解な形状の杖と、第二の両手に握った巨大な漆黒の槍が、本体とは別に影を作る。
ディープスローターは太陽を―――
◇
「簡単に言うとね……情報操作さ」
「へぇ……どなたを調教して差し上げればよろしくて?」
◇
―――遮られた。
ほとんど同時に発動した思考加速スキルが、世界を遅延させて伝えてくる。太陽を横切るのは―――
◇
「伝書鳥」
◇
翼の隙間から漏れ出す日光が、放射状の輪として視界に残る。そのハヤブサは太陽を背負っているようにも見え、或いは太陽がハヤブサを背負っているようにも見えた。
思考入力で杖を起動、入力する倍率は60倍、高速詠唱スキルが減速した世界を強引に打ち破り、創り出す魔法の名を述べる―――
「―――【闇孤律隔法】」
◇
「止めるのは無理じゃなぁい?」
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鳥が、落ちた。
落ちる鳥から落とされる影を突き刺す巨大槍は、耐久値減少のエフェクトに包まれている―――【闇孤律隔法】、【黒楔の槍】のコストを、対象面積を……そして制限時間を60倍にした拡大魔法である。
◇
「大丈夫さ……遅らせるだけでいい」
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伝書鳥……それも、ハヤブサ型のものを完全に停止させることは極めて難しい。ハヤブサ型は確実な手段だからこそ高級なのであって、その確実性が断たれては伝書鳥の価値が大きく下落してしまうからだ。しかしそれはそれとして一時停止なら普通に可能である。
過去にも【黒楔の槍】を利用し、ハヤブサ型における制限時間である1分間分配達を遅延させる悪戯が流行ったが……ディープスローターがする悪戯は、時に悪へと変化する。「戯」という概念ほど、彼女にとって曖昧なものもそう無い。
◇
「どれくらぁい?」
「1時間くらいかな」
◇
ディープスローターは、ふと太陽を見た。
全身を包む魔導服に遮断されてなお、視界に入ることをやめない輝きは……つい先ほどより、増しているようにすら思えた。
「…………はぁ」
ディープスローターは溜息を吐いた。
自分の行動が、何の意味も持っていないような気がしたからだ。