「NOW LOADING……」
サイナがローディングに入った。
征服人形はある程度―――そう、普通のNPCに頼んでもとても承諾はしてくれないような―――複雑な演算を可能とする。もちろんP≠NPを証明しろとか言えば流石に突っぱねられるが、とはいえ思考体系のちょっとした違いもあって、多少の演算時間がかかるアクションもお手の物だ。
恐らく、P≠NPほどではないにしろ高度な純粋計算問題―――例えば物理シミュレーションとか―――には、軍用レベルのAIの演算能力を利用しようとしている、という事でロックがかかると見ているが……今回俺がサイナに頼んだのはゲーム内の事象に関するものだ。現実に持ち出すことができるわけもない。
「…………」
微妙な"間"が空間を流れていく。俺は暇だったので、フリーズバグでも食らったかのように硬直するサイナの姿を観察することにした。
とりあえず、その見開かれた両眼を見てみる……極めて繊細に作られた、オーバーなテクノロジーが惜しみなく使用されているという設定であることが伺える両眼だ。実際、オーバーなテクノロジーを惜しみなく使用して実装したのだろう。
一見すれば、ただ開かれているようにも見えるが……
「……点滅してる?」
俺は気づいた。渡り鳥は眼に関するスキルを強化する以外に、説明文には書いていないが若干の視力補正機能を有している……その効果だろう。
開かれた両眼は、受ける陽光を眼光に変えつつも、それとは別に……内部的なところで、ほのかな光を帯びてていることが見て取れる。更に言えばそのほのかな光は変動制で、絶えず強くなったり弱くなったりを繰り返している。
典型的な「アンドロイドが演算してます」描写だが……アンドリュー君的にこれはどういう意図で策定した仕様なんだろうか?彼はアイドルの再現を征服人形開発にあたっての目的にしていたはずだが、普通アイドルは考え事をしている最中に両目を数十FPSで点滅させたりしない……いやでも、完全に史実に忠実に仕様ってわけでも無いのかな?実際征服人形って球体関節らしいし……うーむ、まさかサイナのローディングをきっかけに考察が始まるとはな。
「…………」
光に演出され星のように輝く二つの青色を見つめながら、俺は考え事を継続する。そもそも……今のサイナに意識、というか入出力能力はあるのだろうか?つまり、視界に映り込む俺を認識したり、或いは急な攻撃に対処したり……そういうことができるのだろうか?
単純に考えて、ローディングってのは全力をもって行われることな気がするが……いやしかし、ローディング中にミニゲームが遊べるゲームなんてごまんとある。ローディング中に遊べるミニゲームを作り込みすぎて更にローディングが発生するようになったせいでローディング中に遊べるミニゲームのローディング中に遊べるミニゲームのローディング中に遊べるミニゲームのローディング中に遊べるミニゲームのローディング中に遊べるミニゲームのローディング中に遊べるミニゲーム、まで派生してクラッシュしたゲーム、あったなあ……俺はセーブデータの死と隣り合わせの恐怖をふと思い出した。いや、それにしても……
「演算完了:」
そこで、2つの青色は咲くがごとく動いた。
「…………契約者、なぜそんなに近くに?」
一拍置いて、今度はジト目に変形した瞳が、声と共に俺を見る。
「まあ、ちょっとな……それで、演算の答えは?」
「了解:真なる竜種第X個体における、魔導推進征海船への技術的転用可能性は―――」
再び形状を変える瞳に、俺は観察を終了した。