シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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真と偽が両方そなわり最強に見える

第四回偽エクスカリバー限定競売会(オークション)は、いつものように企画倒れへの道を歩みつつあった。

実際、参加者たちも気づいていなかったわけではないのだ。過去の経験―――ネタイベントとして開催したら思ったより人がたくさん来たけどそれはそれとして()()のせいで潰れた第一回、「今度こそ」という心理からさらに人が増えたが普通にダメだった第二回、唐突に乱入してきた恐竜に踏みつぶされた第三回の経験―――から、彼らも何となく「これは企画倒れになるんじゃないかな」と思ってはいたのだ。

しかし実際のところ、今回の参加者数は第三回で()()()()減少したものを勘定に入れても過去最高であり……フィフティシアの巨大な港に設置された小さな会場は、

 

「エクスカリバーとしては100点だが、偽エクスカリバーとしては……フン。ダメだな、0点だよ」「審査に落選した偽エクスカリバー売ってま~す!オススメはこの『ゴブリンの斧カリバー』!見た目も性能も名前もゴブリンの斧と全く変わらないけど、俺は偽エクスカリバーだと思うよ~!」「すまん、お前で試し斬りしていい?」

 

……といった混沌的騒めきと、その所有者たる雑踏によって埋め尽くされていて……平均して毎分3.6人が死亡するという、かなりの盛況を見せている。

こうなればもはや、例えイベントその物が企画倒れになっても、続行するほかに選択肢は無い……何せ、参加者たちの大部分は当然のように右手に鍍金(プラット)の剣を携えているし、たまにその剣を鮮血(ブラッド)に染めてさえいるのだから。

そんなわけで、雲一つ無い青空の下、黄金にまみれた会場で……灰色の拡声器(メガホン)を介して、その言葉は告げられたのだ。

 

「―――これより、第四回偽エクスカリバー限定競売会(オークション)を、開始します―――」

 

シャングリラ・フロンティアには音速の概念がある。

そのため、一斉に沸き立った観衆が上げる歓声より、一斉に掲げられた直剣が反射する陽光の方が、より速く会場を埋め尽くした。

 

 

「エントリーナンバァァァァ……ワンッ!『(エックス)カリバー』ッッッ!!」

 

司会の男はそう叫ぶと、一振りの()()を取り出した。

エントリーナンバー1、『(エックス)カリバー』―――文字コードの問題で「ⓧ」を銘打ってこそいるが、その真なる名前は『(交番)カリバー』である!その『×』はエックスではなく、○に囲まれるべくして囲まれた地図記号の痕跡―――すなわち、交差した警棒だ!システムAIをギリギリまで欺き、強引に「片手剣」判定を維持しているその黒曜は―――時に、返り血によって赤く染まる!

どんどん上昇していく観客のボルテージを乗りこなすように、司会の男は続ける。

 

「さあ―――白羽を立てたのはクアッドビートル!丹念に蜜をやり、外敵との闘争から逃がし、時に己すら生贄とし……そうして最終的に完成した上位個体(レアモンスター)を、あらかじめ用意しておいた毒で素材にダメージを与えないままに処理ッ!硬黒輝(かがやき)に包まれたその角をふんだんに利用した警棒だ、殴られて生きて済むはずも無いぜッ!」

 

(ねつ)が、(ねつ)が、あるいは(ねつ)が―――この肌寒い季節にまるで無視を決め込み、会場全体を席巻する!練り上げられた熱気が青空に消えていくのを感じながら―――司会はついに、その言葉を言い放つ……!

 

「さあ―――1万マーニから!」

 

競りが、始まる―――!

 

「5000万!」

 

サイガ-100が現れて言った。

競りが終わった。

 

 

「あちゃ~」「来ちゃったか~」「そりゃ来るよな、来ない理由がないわ」

 

先ほどの熱気はどこへやら、観衆たちは青空にも関わらずこれでもかと襲い来る寒風に身震いしながらざわめいた。

つい先刻までのざわめきとそのざわめきは、かなり深い所で異なっている―――プレイヤーでも、NPCでも、開発者でも……誰の耳をもってしても、そう感じることは間違いなかった。

 

「マジであれズルすぎでしょ、いくらネタイベントで参加者が金持ってないからって、新大陸のハイパーインフレ状態を旧大陸勢のオークションに持ち込むとかさあ……」

 

「鍛冶屋からしたらむしろ必要以上に金貰えてうれしいって言うのが面倒だよな」

 

「というか第一回より羽振り良くなってね?どうせ新大陸バブルなんて一時的なものだろとか斜に構えてたよなお前」

 

「チェストリアがズル過ぎる……」

 

そう、サイガ-100―――()()聖剣エクスカリバーを所有するその勇者は、この偽エクスカリバー限定競売会(オークション)()()である。

偽エクスカリバーという文化には、単純なネタとは別に「例え特別(ユニーク)な武器でなくても、丹念に作った剣なら聖剣を超えることだってできるはずだ」という、鍛冶師のプライドのようなものを象徴する一つの想いが存在する。聖剣エクスカリバーはその取得に鍛冶作業を一切必要としない武器だ。その程度の武器を()()()()とするのは、事実上生産職としての敗北宣言に他ならない―――だからこそ彼らは日々、偽エクスカリバーを作って()()の座を奪い取ろうとしている。

しかし、使う側からしてみればどちらが最強かは関係ない……単に()()()()使えばいいだけの話だからだ。だからサイガ-100はこのイベントに毎回出没し、資金力に物を言わせてオークションというシステム自体を破壊していくのだ。

 

「……フム、打撃属性を備えた直剣か―――悪くない。四面三角の錘(クアッド・デルタ)と併用すれば……()()()()なんてのも可能じゃないだろうか?」

 

手元の黒い塊を見つめながら呟くサイガ-100を、ほとんどの観衆は畏怖の表情で見つめる……しかし一方で、畏怖とは別の色のついた視線も、全体のうち少しばかりは存在する。それは、「サイガ-100は初手でいくら払うかトトカルチョ」の参加者たちの物とは別に……どこか光を帯びたような、畏怖というよりも―――

 

()()に近いニュアンスを、帯びていたのである。

 

 

「エントリーナンバァァァ……ツゥゥ!!」

 

一貫して晴れ渡り続けている青空に指を突き上げると、司会者は場を仕切りなおした。

人混みの間に戻り始めた先ほどと同じようなどよめきを浴びつつ、第2の片手剣の名前が読み上げられる―――

 

「『エクスエクスエクスエクスエクスカリバー』ッッッ!」

 

エクスエクスエクスエクスエクスカリバー(全長6メートル)が袖から台車に載って運ばれてきた。

 

「ほう……考えたな」

 

観衆の一人が呟き、

 

「知っているのか、知らない人!?」

 

また別の観衆に聞き返される。

 

「いいか……サイガ-100が持っているチェストリアは、確かに普通の武器をしまう分にはうってつけのアイテムだ……だが!チェストリアには5メートルを超えるのアイテムは収納できないというルールがある……!」

 

「な、なるほど……!全長6メートルの片手剣を作れば、サイガ-100は購入しても運びようがないってことか!」

 

「ああ……そういうことになるな。さて、我らが()()はどう出るかな……?」

 

特に本筋とは関係ない二人を含め、場にいるプレイヤーが残らず注視する壇上で……少しばかりの()()のようなものを載せた司会の声が、響き渡る。

 

「さあ―――1万マーニから!」

 

競りが、始まる―――!

 

「5000万!」

 

サイガ-100が手を挙げて言った。

競りが終わった。

 

4割ほどの唖然とする人々、そして6割ほどの「知ってた」とでも言わんばかりに溜息を吐く人々の間を通り抜け、サイガ-100は壇上に上がる……そして、己の3倍以上の身長を持つ、その特大(カテゴリ上は片手)剣を……

 

「っと……何だ、けっこう軽いじゃないか」

 

普通に()()()()()()に仕舞った。

度量を増す袋(インベントリ・エクステンダー)……インベントリを拡張する、旧大陸時代のサイガ-100がよく利用していたそのアイテム。チェストリアの解放によりそれを常用することを辞めこそすれ、しかしチェストリアが解放されたからこそ、どんな場所でも使()()()()()()()のは一瞬だ。

7割まで増加した唖然を潜り抜け、サイガ-100は元の立ち位置へと戻って行った。

 

 

もはや、雲と言う概念が本当にこの世界に存在するのかすら疑わしい。

 

「エントリーナンバァァァ……スリィィィ!!」

 

言葉通り2本を曲げて3本を立てた指を、神代の円錐(拡声器)を携えるのとは逆の手で突き上げると、司会者は強引にボルテージを上げようと試みた。

結果の良し悪しはともかく、観客の視線がそこに集中されたのは、ほとんど事実と言って差し支えないだろう。

 

「『エ(クスィ)カリバー』ッッ!」

 

それは一見して、平均的な偽エクスカリバー……つまり、過剰気味な黄金装飾を施された、一振りの片手剣でしかなかった。

しかし……勿論、そんなはずはない。鍛冶師たちが丹精を込めて作った偽エクスカリバーが、そのような破棄を持たぬ存在であるはずが無い。そう考えた一部の観衆たちは、鑑定系統のスキルを使用して……

 

「いいか諸君、この剣の効果は単純明快だ―――」

 

彼らが()()()()に気付くのと、司会の口から()()()()()が行われるのは、まさしく同時であった。

 

「―――()()V()I()T()が500以上でなければ、装備できない!!」

 

喧騒が走り出す!

 

「そ、そうか……」「サイガ-100は食いしばりの権化、ステータス的なVITは低めなはず……!」「なるほど、これなら個人を狙い撃ちにできるな……」「すまんこれ俺が買っちゃっていいスか?」

 

静止されず増大を続けるそれらに、運営側は何ら手を打つことは無い……必要性が無い、とも言えた。それどころか、このやかましさこそが競売会(オークション)なのだ、とすら彼らは考えていた。だからこそ司会者は、拡声器に感情と情報を乗せて、喧騒すら捻じ伏せる勢いで放つ―――

 

「さあ―――1万マーニから!」

 

競りが、始まる―――!

 

「5000万!」

 

サイガ-100が手を挙げて言った。

競りが終わった。

当然のように()()()()()を取り出した彼女は、歩きながらそれを使用し、何やらステータスを(観衆たちの間に走った幾つかの呟きが正しいとすれば、それは魔力(MP)耐久(VIT)だった)弄くると……軽々と持ち上げた剣を、そのままチェストリアに仕舞いこんだ。

一瞬だけ掲げられた剣の反射する太陽は、どこか神々しさを伴ってすらいた。

 

 

「エントリーナンバァァァァ……フォー!『物体Xカリバー』!触った人間は死ぬ!」

 

「5000万!」

 

 

「エントリーナンバァァ……ファイブ!『へクスカリバー』!6本に分裂する!」

 

「5000万!」

 

 

「エントリーナンバァ……シックス……!『パクスカリバー』!カルマ値一定以下じゃないと使えない!」

 

「5000万!」

 

 

 

 

 

「エ、エントリーナンバー……トゥエンティスリー……『サックスカリバー』……!説明は、割愛……!」

 

息も絶え絶えの司会者が、二号人類特有の暗視能力によってどうにか会場を見渡しつつ、増幅された声で告げる。掲げられた()()()()()()()()()()()に、疲れの色を帯び始めた群衆のどよめきも、また歓声に似たニュアンスを帯び始める。

夜は青空を奪っていく。

()()なら、昼夜を問わず空を見上げれば常にそこにいるものだ―――だが、青空は違う。どんなに雲が無かろうと、太陽が隠れれば青は黒へと変化するからだ。だからこそ、青空の消失は、あんなにもギラギラと偽エクスカリバーたちを照らしていた太陽の消失をも意味し……間接的に、今日という日そのものを総括してすらいた。

 

「さあ―――1万マーニから!」

 

だからこそ、司会者が必死に声を張って絞り出したその最後の一言に対して……()()()()()()()の偽エクスカリバー4本に身を包んだサイガ-100が言い放った言葉もまた、その"総括"の一部を担っていたのだ。

 

「5000万!」

 

こうして、第四回偽エクスカリバー限定競売会(オークション)は、いつものように企画倒れを終えたのだった。

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