蛇の林檎に入ったらチンピラに声を掛けられた。
「うっすツチノコさん!早速で悪いんスけど、ツチノコさんが保護してるNPCにフィロジオのデッキ渡していいスか!?」
「やだ」
よくわからんがあの沼ゲーを渡すと碌なことにならなさそうだと拒否したところ、店の奥からこの世の物とは思えないような形相のチンピラBが出て来た。
「え゛……今、なん、て……?」
ヤバい。俺は確信した。不眠状態だ。シャンフロには不眠という状態異常はないので、このプレイヤーは
「なん、て、言いましたツチノコさん……やだ、って?」
距離を詰めて来る、怖い。明らかにチンピラ、明らかにチンピラだ。
レッドネームという選択肢を視野に入れ始める俺に、チンピラAが補足説明を入れる。
「あーコイツ、NPCに渡す用のデッキ作ってくれって言ったらめちゃくちゃ張り切っちゃって、三日三晩デッキ作りだけに注力して過ごしたらしいんスよね……ウィンプちゃんとサイナちゃんで2人ですから、実際は六日六晩?」
俺は狼狽えた。軽く発した「やだ」という言葉によって、目の前に悲しみと業の
「あ、あ、あ」
「……アァ~~~ッッ分かったよ!別に爆薬が塗ってあるわけでも無いんだったら、フィロジオデッキの一つや二つ渡していい!これで良いんだろ!?」
「ッシャァ~~~~ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
先ほどまでの不眠オーラを完膚なきまでに本当に一つ残らず一切合切消失させると、チンピラBは飛び跳ね、そのまま倒れ、頭上にドクロマークを浮かべて動かなくなった。
「心筋梗塞ッスね」
そう。
◆
チンピラAを押しのけ、チンピラBだったものを跨いで店内に踏み入ると、ちょうどウィンプにカードが渡されるところだった。いや情報の伝達が早すぎない……?とりあえずサイナをインベントリアから出して事情を説明しインテリジェンス・サムズアップを受け取ると、店内を見渡す。
中央のテーブルに座るウィンプと、彼女にうやうやしくカードを差し出す怪しげな服装のプレイヤー、そしてそれを取り囲んで観察する
地獄か?
「ふふ……ウィンプちゃんをイメージして蛇系のモンスターで揃えつつ、《
死に戻りしてきたらしいチンピラBが始めた解説を流し聞きしつつ、店内のプレイヤーたちは基本的に、箱から取り出したカードを扇開きにして「えっと、これなんてよむのかしら……おそれ、さかな、……おおきい、へび?」などとやっているウィンプを固唾を飲んで見守っている。俺もなんか流れ的に固唾を飲む。誰かが飛ばしているらしき隕鉄鏡だけが、ただ室内をぐるぐると廻る。
「……え、えぇと……」
ウィンプは呟くと、カードを2枚手元に残して机に置いた。どうなる!?店内の注目が、テーブル上の一点に集まる!
「……えい」
ウィンプは、2枚のカードを向かい合わせて立てた。
「……っと」
そして先ほど机に置いた山札からさらに2枚取り出し、立てたカードの隣にさらに立てた。
これは……。
俺たちは見守る。見守ることしかできない。
「……こ、こうして……」
ウィンプはさらに、2組のカードの間に橋を渡すようにして、もう1枚のカードを置いた。
「……こ、こうよ!」
そして、そのカードの上にさらに1セット分カードを立てる!
2段トランプタワー……いや、フィロジオタワーの完成だ!!
「や、やったわ!」
思わずガッツポーズをするウィンプに、店内中から拍手とシャッター音が嵐のように襲来する。ウィンプ、お前はやったんだ、やり遂げたんだ……!思わず俺まで感動してしまう。隅っこの方の奴らに至っては、なんか酒とか飲み始めた。
「え、えっと……ありがとう、ございました!」
ウィンプが流れ的にお辞儀をすると机を立ち、2、3台の
◆
まあそれはそれとして、2番手はサイナである。
「
観衆の期待も高まっている。ウィンプはそもそもカードの内容が読めないのでタワーという物理的なアプローチに走ったが、サイナは普段からインテリジェンスインテリジェンス言ってるだけあって、カードの内容は分かるしフィロジオのマニュアルもダウンロード済みだろうし、何なら俺よりあの沼カードゲームができる可能性すらある。そんなサイナが一体このカードでどのような行動を見せるかは、誰しもが―――ひょっとしたら、先ほどから踊るような挙動を見せている隕鉄鏡すら―――気になっている事だった。
「ふふ…‥サイナちゃんのデッキはゴーレム系を主軸にしつつ、スペル・フェノメノンについては
チンピラBの語りの中、怪しげな服装のプレイヤーが、先ほどとは違う色のケースをサイナに手渡す。サイナは極めて効率的にカードを取り出すと、まるで1枚1枚スキャンするかのように(実際、スキャンしているのだが)それらをめくっていく。デッキ内の全カードに目を通すと、3秒ほど静止し……そして、こう呟く。
「発動:プロトコル開始」
何だァ!?
仮想の耳が受け取った情報を脳が噛み砕くころには、すでにサイナは次のステップに進んでいた。
卓上に置かれたカードが、目まぐるしい速度で処理されていく。恐るべき手さばきで片っ端からカードを動かすサイナの横顔は笑っている……最近、
瞬きする暇もない時間は高速で過ぎ、僅か十数秒の先、卓上に存在したのは―――
「
……
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
店内を襲う歓声の中、サイナはまた別の表情をする。これは……
……やっぱり誰かには、俺にそっくりだと言われたわけなのだが。
◆
てっきりお開きになるかと思ったのだが、どうやら続きがあるらしい。
「ティ、
「
かしこまりましたぁ!俺は聖杯をサッと使った。
怪しげなプレイヤーに「流石にティーアスたんは荷が重いわ……まさか来るとは」とか言ってバトンを渡された俺は、高くなった声の調子を確かめるべく少し咳をすると、改めて言う。
「
「……ん」
どよめきが起こる。聞き取れないが、チンピラBも何か解説をしているようだ。と言うか何でティーアス先生が来るのは想定してなかったはずなのにデッキは用意してあるんだ?俺は恐怖を覚えた。
いつの間にかケースから取り出されていたカードを確認すると、ティーアス先生は深呼吸をし、
「……
そう呟き、カウンターからマスターが頷きを返したのを確認し―――
「
そこからはもう、ご想像の通りである。