シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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開戦

異様な空気が立ち込めていた。

 

「…………」

 

プレイヤーがいる。二人だ。そしてその周囲を取り囲む幾十のカメラは、二人の姿が()()され、ここ……リヴァイアサン第三殻層全域に設置されたモニターのうち、実に2割に映り込んでいることを示している。

この空間を説明するのに、大した言葉は必要ない。無機質な部屋、中央に陣取る戦卓(バトルテーブル)……そして、その上に置かれた二組の()()()

部屋の外……フィロジェネテック・ジオグリフ第一回公式大会二回戦Cブロックの観客席を埋め尽くす騒音も、静寂包むこのプレイルームに入り込むことはできない。トトカルチョを呼びかける声も、デッキを取り出しつつ行われる喧嘩も、そして応援の追い風も……何もかもが遮断され、ただ沈黙という支配者だけが、(うごめ)(とどろ)き秩序を保つ。

 

「……………………」

 

二人は睨み合うことをしない。両者が両者に睨み合ってもなお足りないほどの闘志を抱いてなお、ただ机の上のカードを意味もなく取っては、戯れにシャッフルなどして弄んでいる。特に意味はない。フィロジオでは、ゲーム開始時にシステムによるオートシャッフルが掛かるからだ。

しかしそれでも、彼らはカードを弄ぶことを辞めない。シャッフルし、扇に開き、フレーバーテキストを読む。これでもかと言うほどに読む。シャカパチはしない。彼らはフィロジオプレイヤーであると同時に紳士でもある。

そして、静寂が破られる。

 

ANNOUNCE

 

対戦開始まで残り1分です

準備をしてください

 

それは、局所的に見れば、ただ瞬間的に展開したふたつのウィンドウに伴った、一秒にも満たないような効果音に過ぎなかった。

しかし、同時に……その直後に現れ始めた()()()()の引き金としては、あまりに長く、大きかった。

 

『魔力媒介音響兵砲〈セイレーン〉へようこそ。出力レベルはどうなさいますか?』

 

片方のプレイヤーが、4メートル96センチに及ぶ巨大機械を実体化させ……そしてそれが9メートル92センチに()()する傍らで、取り出したメガホンを片手に……

 

「最大だ」

 

言う。

 

「コマンド……【高機声(カリオペイア)】」

 

もう片方のプレイヤーが、メガホンとは反対側の手に()()()()、有機的形状の球体に向け……

 

「……【好起心(カリオシティ)】、ゴー」

 

言う。

巨大な機械が、よくわからないアンテナが、マイクが、スピーカーが、禍々しいオーラを放つ苗木らしきものが、二つ目のメガホンが……仮想の仮想の格納空間(インベントリ)から、仮想の現実(ゲーム)に取り出される。

開かれたウィンドウが、カウントダウンを始める。

 

3

 

片方のプレイヤーの傍らの怪しげな装置が、紫の光と共に、上部に設置されたリンクを回転させ始める。

 

2

 

もう片方のプレイヤーの左手のマイクが、5段階ほどの変形を経て何やら怪しげな角を生やす。

 

1

 

両方のプレイヤーが息を吸い込むのは、まさしく同時で。

 

0

 

「「ジェネレーションッッッ!!!」」

 

部屋全体が震える。数個のカメラが衝撃に耐えられずポリゴンと散る。二人の鼓膜が破れるが、両方ともそれを想定しリジェネアクセサリーを装備しているため、また治る。そして、また破れる。

ふたりは5秒間叫んだところで急に黙る。有志検証班の「勇魚」からの好感度の急激な低下と引き換えに、この判定に使われるのは最初の5秒間の平均音量だということが判明しているからだ。

 

ANNOUNCE

 

先攻/後攻が決定しました

あなたは先攻です

バトルをスタートしてください

 

そんなウィンドウの出現に伴う効果音が、またしてもつかの間の静寂を打ち破って。

 

「よっしゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

先ほどの物とは比べるにも満たないような、小さな小さな大歓声が、それに続いて上げられる。

 

「よし、じゃあ俺先攻ですね!えーっとそうだな……Stに《ユザーパードラゴン》、Oに《アーマード・ラーヴァ》、でスペル・フェノメノン《呪縛魔力(ロック=マナ)》を回復付き発動~、ユザパでコントロールしてデメリット不発化~、ラーヴァのスペル発動時効果で任意のカードに1000ダメなのでこれをユザパに突っ込んで~、ユザパは破壊時に山札に戻りますから~、ここで呪縛魔力で回復した5の魔力を使ってそのまま《突発進化(エレクトリック・シフト)》でオリジンに2体出せますから《ウォロック・アラーネア》1枚《クアッドビートル》1枚~、でクアビの味方破壊能力でアラーネアを壊して~、あ、手札に戻ります。で味方破壊の影響でエリア踏み倒し入るからこれで《規定条件領域(レゾンテートル):紅炎(プロミネンス)》して発動時効果でオリジン一体踏み倒しの《ダイナボア》でラーヴァとボアを破壊して《爆裂進出(ダイナマイト・プログレス)》で《フォルトレス・ガルガンチュラ》をEvに出してそのまま召喚時効果で《アーミレット・ガルガンチュラ》を3体Oに……っと。さて、何かありますか?」

 

「《過密崩壊(オーバークラウド)》でOのAとSt両方に適合モンスターを2体破壊、あとラーヴァがスペルに反応するんで攻撃対象無しからの自爆で破壊ですね」

 

「サレンダーで」

 

こうして、フィロジェネテック・ジオグリフ第一回公式大会二回戦Cブロックは終わった。

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