シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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サイナァ~~ッ


観測

月光が大地を突き刺す。

ふと、軽いなと思う。魔力補給用に展開中の煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)のことだ。初めて装備したときはずいぶんゴツくて重い武器だなと思ったものだが、今はそれがかなり軽く感じる。考えてみれば、今の俺の筋力(STR)は既に煌蠍の籠手が要求する2倍を超えているわけだから、当然のことだろう。

黒曜の装甲は依然として、内部の命晶核に降り注ぐ輝きを閉じ込め続けている。先端に備わった煌弩晶針も、一貫して受け取った耀光を光耀へと換え続けている。ただそれらが生み出す重みだけが、俺にとって明らかに変化しているのだ。キャラクターを育てるというのはこういうことなんだろうな、と改めて思う。

そしてふと月を見上げれば、いつか(リュカオーン)の背に見たそれと比べれば、随分くっきりしているように思える。これもまた、キャラクターを育てたがゆえなのだろう。装備、パッシブスキル、肉体補正……俺がこの世界(ゲーム)で積み上げた様々な要素たちによって、この鮮明な満月は作られているのだ。

 

『連絡:……契約者(マスター)、ベヒーモスでのミッションが完了しました』

 

声が響く。どこに響いたかはわからないがどこかしらに響く。ちょっとした活動(独占的カード販売)により有り余ったスコアでもって片っ端から適用したインベントリアのアップデート……そのうち一つ、『征服人形との通話』による効果だ。

 

「お、終わったか……じゃあ俺がそっちまで迎えに行くからちょっと待ってろ」

 

言いながら、手早くインベントリアを操作してベヒーモス用のBW-ビーコンを取り出す。本来なら船で7日間かかる大陸間移動も、このアイテムがあれば5秒で済む、おかしいだろ……俺は思ったが、よくよく考えてみるとおかしいのは船を使っても大陸間移動に7日間かかることな気がしてきた。ま、まあ技術開発が進めば……する必要のない言い訳をしつつ、ビーコンのトリガーに指を掛ける。

 

『要請:少々お待ちください』

 

しかし、そこでまた声が響く。

 

「どうした?」

 

契約者(マスター)……あなたは現在、月面を観測していると推測します』

 

俺は驚いた。サイナの推測が当たっていたからではない……サイナが、この推測を()()ことについてだ。

 

「……なんで?」

 

聞いてから、ちょっと不明瞭な質問だったな、と思う。

 

『応答:『推測が当たっている理由』と『推測をした理由』の2パターンに解釈できる問ですが、契約者は後者を意図している可能性が高いでしょう。パターン1:『推測が当たっている理由』……契約者(マスター)は2日前に煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)超過機構(イクシードチャージ)を使用したばかりであり、魔力補給の必要があり、更に今夜は満月であるため補給効率が高く、また当機の作業終了に対する待機という都合上戦闘を行うわけにも行かないことを考えると、『月を見上げる』という行動をとりやすいと判断できるから。パターン2:『推測をした理由』……インテリジェンス・シークレットです』

 

俺はフラグ管理とかチャート管理とかメモリレジスタ管理とかについていろいろと考えたが、結局

 

「……つまりなんだ、お前も月を見てるの?」

 

とだけ返した。

 

『肯定:現在、当機は精査(スキャン)モードにて頭上の月面を観測中です』

 

「感想は?」

 

『非常に鮮やかで、綺麗で……インテリジェンスです』

 

「それは何より」

 

俺にはわからなかった。サイナが月を見ている理由もわからなかったし、サイナが俺を呼び止めた理由もわからなかった。でも、それでいいんだろうと思った。

 

『質問:契約者(マスター)、あなたの月は綺麗ですか?』

 

そう聞いてきた理由についても、同じことが言えた。

再び空を見上げつつ答える。

 

「……綺麗だと思うけど?」

 

『しかし視力的に考えると、当機の月の方がもっと綺麗です』

 

俺はイラッとした。頭装備を規格外特殊強化装甲【艷羽】に切り替え、更に運命の眼(フェータリザルト)を発動して副次効果で視力を強化!先ほどと比べてさらにクリアになった視界の中で言う。

 

「ハァ~~~?いくら征服人形だからって調子に乗るなよ!お前のアイセンサー程度軽く上回ってやるよ、かかってこいやッ!」

 

『望むところですにゃん』

 

「あっお前ネコミミユニット付けたな!?システム的な暗視能力はズルだろ!」

 

『そういう契約者も頭部装備を変更しましたね?声がくぐもっていますよ』

 

「くっ……!いやそれを差し引いても俺の月の方が綺麗だね!」

 

『ご不満でしたら……当機の月、実際にご覧になりますか?』

 

「いいだろうよォッ!」

 

俺はインベントリアにBW-ビーコンを速攻でしまうと、代わりに視覚共有ユニットを速攻で取り出した。【艷羽】のスイッチをオフにしてこっちをオン!速やかに被りサイナの視界に接続し、そして―――!

 

勧告(いかがでしょう?):敗北をお認めになった方がよろしいかと』

 

煽り口調で聞くサイナに、

 

「いや認めない、お前の月の綺麗さはせいぜい俺と同格程度だ!」

 

俺は断固として答えて、

 

『そうですか……ふふ』

 

サイナが笑った理由が俺にはわからなくて、でも、それでいいんだと思った。

本当に綺麗な、満月の夜のことだった。

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