シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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モブ視点

最近読んでるんスよね……貯めてたギスオンを


サイガ-0を殺そう

サイガ-0を殺そう。

 

一目見た時から決めていた。ファステイアで新規プレイヤーどもを観察しながらほっつき歩いていたら現れた、あの忌々しい(ヴォルフ)のエンブレムと、それを背中にたなびかせる白鎧。そういうものが一度目に入った時点で、俺はサイガ-0を殺すことを決意した。

 

……。

 

消音魔法のエフェクトを隠蔽魔法で隠しながら、ゴテゴテした鎧を遮蔽物ごしに睨みつける。

なんで巨大クランのホルダー持ちのトッププレイヤー様がこんな何もない街を歩いているのかは知らないが、とにかく何かの用事があるのだろう事はわかる。そして、用事があるのに動かないのは……きっと、何かを待っているんだろう。

 

「あーあ、またヴォーパルバニーにやられたよ」

 

「殆ど出てこないレアエネミーだからな、運が悪かったと思うしかないよ」

 

際限のない喧騒の中で放たれた、そんな言葉がふと耳につく。

低レベルな初心者の会話という他に無い。

ヴォーパルバニーなんて対策さえ練ればレベル1でも倒せるのに、さも諦めることが"正解"である、とでも言いたげに、こいつらはすぐに身を引いて見せる。

この街はみんなそうなんだ。なんにも……まるで()()()()()()みたいになんにもないから、上級者が来る理由はそうそうない。何とはなしに吹く風すらも、出ていくことを促してくる。そんな街だ。唯一の例外は「着せ替え隊」の奴らだが……あいつらとは相容れない。何が『ティーアスたん』だよ何が。

 

……。

 

雑音の中に沈黙が流れる、そんな矛盾したことが起こる。サイガ-0は動かない。どれだけ周囲の初心者どもから視線を集めようと気にも留めず、ディティールに満ちて、かっこよくて、とても強そうな……ずいぶん特異(ユニーク)な鎧姿を、傾きかけた太陽で照らしている。

そういうところがムカつくんだ。

俺は憎悪を燃やした。サイガ-0への憎悪ではない、サイガ-0が含まれるより大きな……『トッププレイヤー』という集合に対する憎悪を、だ。

そう、あいつらはいつもそうなんだ。周囲のプレイヤーをプレイヤーと思ってない、NPC……それどころか、ひょっとしたらちょっと人間の形をしているだけのそよ風とか、それくらいに考えている節がある。俺たちが必死にレベル上げをしてる横で、意味不明な方法で一抜けして、わけのわからない装備を生み出して、聞いたこともないようなクエストに挑戦して……あいつらはそうやって、俺たちを見下しも……それどころか、()()ことすらもしないんだ。

気に入らない。

 

「あの、」

 

サイガ-0が何やら発言した。どうも通りすがりの初心者三人に質問をしているらしい。初心者たちは飛び上がるものの、どうやら答えらしきものを出そうとしているらしい。……殺るなら今だ、俺は反射的にそう思った。

俺はインベントリを操作する。サイガ-0そのものに恨みはないから、特にメタ武器なんかは用意していないし、あのデカい鎧がどういう属性に弱いのかも知らない。

だが、なんとなく予想は付く。

黒狼はリュカオーン討伐を目的とするクランだ。内部情報は知らないが、【最大火力(アタックホルダー)】なんて称号を持ってるサイガ-0が加入して随分経つのに、未だにその最大な火力をリュカオーンに試していないとは考えにくい。しかし、実際のところ討伐は完了していない。……つまり、サイガ-0がそこにいてなお、あいつらはリュカオーンに()()()ってことだ。

なぜ負けた?

リュカオーンの牙は破壊属性を持っている。

つまり、そういうことだ。

思考と共に人差し指を加速させ、インベントリから破壊属性付きのハンドアックスを取り出す。

よし、最初に狙うべきは……脚だろう。基本的にこのゲームの上位層はAGIを鍛えている。鎧の重さをAGIで打ち消せる世界だから、見た目を見て「うん、重装備だから遅そうだな」なんて想像をするのは厳禁だ。まず脚を狙う、話はそれからだ。

 

「……情報をありがとう。お礼と言ってはアレだけど、受け取って」

 

独特なテンポの低い声が鎧の中でくぐもるのが聞こえる。そして次の瞬間には、サイガ-0は視線を手元に落としている―――今だ。他プレイヤーのウィンドウは不可視だからわかりにくいが、今あいつはインベントリを開いている。つまり……突然の奇襲に対し無防備だ、ということになる。

俺は姿勢を低くして、斧を振りかぶり走り出す。辺りのプレイヤーが数人、驚くようにこちらを見るが、ほとんどはサイガ-0の威圧感に釘づけだ……好都合。

そう近くない距離をAGIで塗りつぶす、間合いに入る!インベントリは操作中!とっさの反撃はできない!今だ……!

オラァッ!

掛け声は余計だったかな、と思いつつ、完璧な角度で鎧の付け根を狙い、それに気づいたプレイヤーたちの驚嘆も厭わず、斧を(STR)一杯に叩き込み―――

()()()()()

 

は?

 

「……じゃあ、急ぐので」

 

初心者どももサイガ-0も、そして辺りのプレイヤーたちも、何事もなかったかのように活動を続ける。サイガ-0は初心者の一人にギフトを渡すと、がちゃがちゃと鎧を鳴らしながら反転する。

 

待てよ。

 

斧を叩きこもうとする。やはり不発、辺りの人間も、最初に驚嘆していた奴ら以外は反応しない。

 

おい。おい。

 

斧を捨てて素手で殴りつけるが、やはり当たらない。まるで実際は鎧騎士なんかそこにはいなくて、ただ俺が……別の位相(チャンネル)にあるものを、幻覚として見ているみたいに。

ふざけんな……ふざけんなよ!おい!

 

サイガ-0が何やら屈みこむ。何を……まさか()()()()つもりか?やめろ。やめろよ。ただ背後から襲い掛かる程度じゃ駄目ってのか?俺は……その程度なら、まわりにいる無数の群衆(モブ)どもが余りにも多すぎて、塗りつぶされる程度しかないって。そう言いたいのかよ。

おい。

 

サイガ-0が踵を浮かせる。前を見据える―――ずいぶんと真摯に、まるでその先に太陽があるとでも言うかのように。

何を見ているのかはわからないが、きっとこの辺鄙なファステイアの街並みなんかじゃない。もっと……ずっとユニークな、ただ斧で殴ってきただけの知らないモブなんて無視できるくらいの何か、どこか、それとも()()が―――

 

旋風が吹いた。

鎧騎士にそぐわない速足で、ファステイアの風を纏いながら、サイガ-0は駆け出した。レベル的には大差ないはずなのに、その後ろ姿は随分小さく見えたし、なお小さくなり続ける。

はためくマントとエンブレムを見つめながら膝をつく。すぐに、それすらも見えなくなる。

 

「なあ、あのプレイヤー……」

 

際限のない喧騒の中で放たれた、そんな言葉がふと耳につく。

いくら俺がモブとは言え、同じモブには見える奴もいるだろう。きっとあれは、俺がさっきサイガ-0に襲い掛かって、それで返り討ちどころか触れることさえできなかったことを噂する声だ。路上の雑踏の大部分は、サイガ-0の走り去った先を何ともなく見つめている。忌々しいことに、俺も同じだ。

 

……。

 

石畳の上に転がった斧をじっと見る。刃が光を反射して、暗くなり始めた青空を見上げている。

プレイヤーたちは俺を無視して、というか実際()ること()しに、薄影と共に流れていく。俺がいなくても成立する雑談、俺がいなくても成立する言い争い、俺がいなくても成立する議論……そういうものを纏いながら、進んで進んで進んで―――

 

な。

 

突然、側頭部がダメージを訴えてくる。

辺りのプレイヤーが騒ぎ出す。今度はサイガ-0じゃない、そして俺を中心に円を描くように離れていくから、俺が関係ないというわけでもないだろう。

どうする?とりあえず斧を拾おう。俺は振り向きながら手を伸ばして、そしてその手が切り刻まれたのを理解する。紅のポリゴンが散る。体中がいつの間にか攻撃されていて、HPバーが急速に減っていく。必死でどうにか眼で追えば、そこには―――

そうか。

視界が与えた映像のどこかに高速で動き回る()()が見えて、俺は死んだ。

 

 

付近で行われたPKの()()()でPK未遂も処理しに来たのかな?

いや、そんなことはどうでもいい。

ファステイアの街中にリスポーンした俺は、あの運動エネルギーを受けて少し浮いた金髪について考える。

あの時、彼女は……ティーアスは、確実に周囲の興味を引きに引いていた。ちょうどあの時のサイガ-0のように、だ。

でも、ティーアス……()()()()()()()は、確かに俺を認識した。俺を()()()()()()()()んだ。

俺は考え始める。サイガ-0を殺すなんてのはどうでもいい。それよりティーアスたんを着せ替えたいと、どういうわけだかそう思った。殺してくれたのは嬉しいけど、ただ殺されるためだけに呼ぶのは良くないだろう。だったら目標があったほうが良いとか、たぶんそういう理由なんだろう。

眼前に広がる、夕陽に照らされた街を見る。そこにはどこかの位相(チャンネル)のプレイヤーが、たぶんいてもいなくても変わらないような奴らが、てんでばらばらに歩き回っている。俺もそうだ。いてもいなくても変わらない、認識における最底辺。俺が彼らと違うのは、その最底辺に対し、もっともっと上のほうから……()()()()()()()存在がいると知っている、それくらいだろう。

右足を出し、第一歩を踏みしめる。

ファステイアはなんにも無い街だが、きっと服屋くらいはあるはずだ。




ルサンチマン・モブ二次を二連続で出してしまった件については反省しています
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