1.跳梁跋扈の森
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
掘り返された土が効果音を上げる。
それは叩きつけるような雨の音と合わさって、叫声のような跫音のような、どこか荒んだ印象を与える音響を生み出していく。上空を覆う葉々の隙間から雨粒が零れ落ち、シャベルの先端をまたしても濡らす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
男は沈黙を保ったまま、黙々と両腕を動かして、その高めに設定してある筋力でもって、森の中に一つの穴を生み出していく。
大きな穴だ。
深い穴でもある。
深夜という時間帯、そして月光を遮る樹冠の群れも相まって、穴の底はほとんど真っ暗に近い。それでも男は、まだまだ掘る。なお掘る。もっと掘る。その胸に秘めた欲望をそのまま穴として出力しているかのように、絶えずシャベルを動かしていく。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
まだ動かす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
まだ動かす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
まだ動かす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
ぴたり、と。
ある視点から見れば永劫ともいえるような作業時間の先で、男はついに手を止める。
ゲームエンジンの誇る異常なリアリティが、その額にじわりと汗を滲ませる。男はそれを右手の甲で拭って、一方の左手では、人差し指でコンソールを操作し、残りの四指で握っていたシャベルを、碧色のエフェクトと共にインベントリに収納する。
男の胸にあるものは、一つ。
達成感だ。
二号人類共通の暗視能力によって、彼は自分が成し遂げたそれ―――眼前の深穴を正確に認識した。深さ、直径、その他諸々。全てが彼の目標に適している。彼が無言のままに浮かべた凶悪な笑顔を、闇のカーテンがぼうっと隠す。
彼はインベントリから袋を取り出す。ずっしりと重い、大きな麻袋だ。その中には―――簡単な言葉で表現するなら、ないはずの金銭が詰め込まれている。
「……チョロいモンだぜ」
男は初めて呟いた。
「は?」という言葉すら残せないまま、彼の喉笛は鋭いナイフによって貫かれた。あまり振っていなかった防御力は生命を繋ぎとめるにはあまりに不足していて、暗闇に飛び散った紅のエフェクトに抱きしめられながら、男はゆっくりとデスポーンした。プレイヤーにしか見えない、つまりは誰にも見られないダイアログが、システムの上でだけ展開する。
【処罰完了!】
「……任務完了」
わずかな月光が金髪の上を這い、動体残像の狭間に一滴の光輝を落とす。
短髪をふわりと揺らしながら、業務を完了した幼女は、鋭い視線を空に向けた。
2.とある酒場
「賞金狩人の執行対象が変わっただぁ!?」
「それ確かな情報なのかよ!?」
「ああ。……友達に"鎹"の構成員がいるんだが、この間跳梁跋扈の森に汚いカネを埋めに行ったら……殺られた、らしい」
「マジかよそれ!」
「賞金狩人って街の外じゃ活動できないんじゃなかったか!?」
「いや、活動自体はできる。……殺しすぎたヤツはフィールドでも狙われるって話だぜ」
「問題はそこじゃねえよ、カネを埋めただけで殺されたってコトだ」
「……!そうか、今までの賞金狩人は殺した奴しか殺さなかった!」
「その制限が外れるってなると……ヤバいぞ」
「勢力図が一変するぜ!?」
「何より……!」
「ああ!」
「あいつらが……」
3.跳梁跋扈の森
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
掘り返された土が効果音を上げる。
それは乾いた空気の中で、跫音のような跫音のような、どこか荒んだ印象を与える音響を生み出していく。上空を覆う葉々の微妙な揺らめきが、シャベルに流動的な影を落とす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
男は沈黙を保ったまま、黙々と両腕を動かして、その高めに設定してある筋力でもって、森の中に一つの穴を生み出していく。
大きな穴だ。
深い穴でもある。
深夜という時間帯、そして月光を遮る樹冠の群れも相まって、穴の底はほとんど真っ暗に近い。それでも男は、まだまだ掘る。なお掘る。もっと掘る。その身に宿した欲望をそのまま穴として出力しているかのように、絶えずシャベルを動かしていく。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
まだ動かす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
まだ動かす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
まだ動かす。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……
ぴたり、と。
ある視点から見れば永劫ともいえるような作業時間の先で、男はついに手を止める。
ゲームエンジンの誇る異常なリアリティが、その額にじわりと汗を滲ませる。男はそれを左手の甲で拭って、一方の右手では、人差し指でコンソールを操作し、残りの四指で握っていたシャベルを、碧色のエフェクトと共にインベントリに収納する。
男の胸にあるものは、一つ。
達成感だ。
二号人類共通の暗視能力によって、彼は自分が成し遂げたそれ―――眼前の深穴を正確に認識した。深さ、直径、その他諸々。全てが彼の目標に適している。彼が無言のままに浮かべた凶悪な笑顔を、闇のカーテンがぼうっと隠す。
彼はインベントリから袋を取り出す。ずっしりと重い、大きな麻袋だ。その中には―――簡単な言葉で表現するなら、ないはずの金銭が詰め込まれている。
「……チョロいモンだぜ」
男は初めて呟いた。
「よっしゃあ!」という言葉すら残せないまま、彼の喉笛は鋭いナイフによって切り裂かれた。あまり振っていなかった防御力は生命を繋ぎとめるにはあまりに不足していて、暗闇に飛び散った紅のエフェクトに抱きしめられながら、男はゆっくりとデスポーンした。プレイヤーにしか見えない、つまりは草葉の陰に潜んでいる彼らを除けば誰にも見られないダイアログが、姿を潜めて展開する。
【処罰完了!】
「……任務完了」
わずかな月光が金髪の上を這い、動体残像の狭間に一滴の光輝を落とす。
短髪をふわりと揺らしながら、業務を完了した幼女は、鋭い視線を空に向ける―――前に、目の前の地面を一瞥した。
そこには当然のように、猫耳のついた一着のフードが転がっているわけだ。