シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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心を無念で埋め尽くし

1.跳梁跋扈の森

 

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 掘り返された土が効果音を上げる。

 それは叩きつけるような雨の音と合わさって、叫声(きょうおん)のような跫音(きょうおん)のような、どこか荒んだ印象を与える音響(おんきょう)を生み出していく。上空を覆う葉々の隙間から雨粒が零れ落ち、シャベルの先端をまたしても濡らす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 男は沈黙を保ったまま、黙々と両腕を動かして、その高めに設定してある筋力(STR)でもって、森の中に一つの穴を生み出していく。

 大きな穴だ。

 深い穴でもある。

 深夜という時間帯、そして月光を遮る樹冠の群れも相まって、穴の底はほとんど真っ暗(#000000)に近い。それでも男は、まだまだ掘る。なお掘る。もっと掘る。その胸に秘めた欲望をそのまま穴として出力しているかのように、絶えずシャベルを動かしていく。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 まだ動かす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 まだ動かす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 まだ動かす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 ぴたり、と。

 ある視点から見れば永劫ともいえるような作業時間の先で、男はついに手を止める。

 ゲームエンジンの誇る異常なリアリティが、その額にじわりと汗を滲ませる。男はそれを右手の甲で拭って、一方の左手では、人差し指でコンソールを操作し、残りの四指で握っていたシャベルを、(みどり)色のエフェクトと共にインベントリに収納する。

 男の胸にあるものは、一つ。

 達成感だ。

 二号人類(プレイヤー)共通の暗視能力によって、彼は自分が成し遂げた()()―――眼前の深穴を正確に認識した。深さ、直径、その他諸々。全てが彼の()()に適している。彼が無言のままに浮かべた凶悪な笑顔を、闇のカーテンがぼうっと隠す。

 彼はインベントリから袋を取り出す。ずっしりと重い、大きな麻袋だ。その中には―――簡単な言葉で表現するなら、()()()()()()()が詰め込まれている。

 

「……チョロいモンだぜ」

 

 男は初めて呟いた(男は最後に呟いた)

 「は?」という言葉すら残せないまま、彼の喉笛は鋭いナイフによって貫かれた。あまり振っていなかった防御力(VIT)は生命を繋ぎとめるにはあまりに不足していて、暗闇に飛び散った紅のエフェクトに抱きしめられながら、男はゆっくりとデスポーンした。プレイヤーにしか見えない、つまりは誰にも見られないダイアログが、システムの上でだけ展開する。

 

処罰完了(ペナルティ・キル)!】

 

「……任務(にんむ)完了(かんりょう)

 

 わずかな月光が金髪の上を這い、動体残像(モーションブラー)の狭間に一滴の光輝を落とす。

 短髪をふわりと揺らしながら、業務を完了した幼女(ティーアス)は、鋭い視線を空に向けた。

 

 

 

2.とある酒場

 

賞金狩人(バウンティハンター)の執行対象が変わっただぁ!?」

 

「それ確かな情報なのかよ!?」

 

「ああ。……友達に"(カスガイ)"の構成員がいるんだが、この間跳梁跋扈の森に汚いカネを埋めに行ったら……()られた、らしい」

 

「マジかよそれ!」

 

「賞金狩人って街の外じゃ活動できないんじゃなかったか!?」

 

「いや、活動自体はできる。……()()()()()ヤツはフィールドでも狙われるって話だぜ」

 

「問題はそこじゃねえよ、()()()()()()()()で殺されたってコトだ」

 

「……!そうか、今までの賞金狩人は殺した奴しか殺さなかった!」

 

「その制限が外れるってなると……ヤバいぞ」

 

「勢力図が一変するぜ!?」

 

「何より……!」

 

「ああ!」

 

()()()()が……」

 

 

 

3.跳梁跋扈の森

 

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 掘り返された土が効果音を上げる。

 それは乾いた空気中で跫音(きょうおん)のような跫音(きょうおん)のような、どこか荒んだ印象を与える音響(おんきょう)を生み出していく。上空を覆う葉々の微妙な揺めきが、シャベルに流動的な影落とす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 男は沈黙を保ったまま、黙々と両腕を動かして、その高めに設定してある筋力(STR)でもって、森の中に一つの穴を生み出していく。

 大きな穴だ。

 深い穴でもある。

 深夜という時間帯、そして月光を遮る樹冠の群れも相まって、穴の底はほとんど真っ暗(#000000)に近い。それでも男は、まだまだ掘る。なお掘る。もっと掘る。その宿した欲望をそのまま穴として出力しているかのように、絶えずシャベルを動かしていく。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 まだ動かす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 まだ動かす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 まだ動かす。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

 ぴたり、と。

 ある視点から見れば永劫ともいえるような作業時間の先で、男はついに手を止める。

 ゲームエンジンの誇る異常なリアリティが、その額にじわりと汗を滲ませる。男はそれを手の甲で拭って、一方の手では、人差し指でコンソールを操作し、残りの四指で握っていたシャベルを、(みどり)色のエフェクトと共にインベントリに収納する。

 男の胸にあるものは、一つ。

 達成感だ。

 二号人類(プレイヤー)共通の暗視能力によって、彼は自分が成し遂げた()()―――眼前の深穴を正確に認識した。深さ、直径、その他諸々。全てが彼の()()に適している。彼が無言のままに浮かべた凶悪な笑顔を、闇のカーテンがぼうっと隠す。

 彼はインベントリから袋を取り出す。ずっしりと重い、大きな麻袋だ。その中には―――簡単な言葉で表現するなら、()()()()()()()が詰め込まれている。

 

「……チョロいモンだぜ」

 

 男は初めて呟いた(男は最後に呟いた)

 「よっしゃあ!」という言葉すら残せないまま、彼の喉笛は鋭いナイフによって切り裂かれた。あまり振っていなかった防御力(VIT)は生命を繋ぎとめるにはあまりに不足していて、暗闇に飛び散った紅のエフェクトに抱きしめられながら、男はゆっくりとデスポーンした。プレイヤーにしか見えない、つまりは草葉の陰に潜んでいる()()を除けば誰にも見られないダイアログが、姿を潜めて展開する。

 

処罰完了(ペナルティ・キル)!】

 

「……任務(にんむ)完了(かんりょう)

 

 わずかな月光が金髪の上を這い、動体残像(モーションブラー)の狭間に一滴の光輝を落とす。

 短髪をふわりと揺らしながら、業務を完了した幼女(ティーアス)は、鋭い視線を空に向ける―――前に、目の前の地面を一瞥した。

 そこには当然のように、猫耳のついた一着のフードが転がっているわけだ。

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