シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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I can't stop spinning the wheel of chance

「謹賀新年・期間限定スクショおみくじ〜〜!」

 

 イエーイ。

 俺は大声で叫びつつ乱雑に拍手をした。

 

感動(イエーイ):」

 

 サイナもあまり表情を変えないまま等間隔に拍手をした。別にいいけど「感動」は流石に嘘じゃないか?

 

「いえー……ぃ?」

 

 ウィンプは困惑気味の表情で、少し首を傾げながら控えめに拍手をした。

 俺たち三人が生み出した、それぞれリズムや大きさがバラバラな拍手たちが、「蛇の林檎」新大陸支店の暖かい照明の中で広がっていく。

 

「…………」

 

 着せ替え隊員どもは拍手をしなかった。

 やめ時を失ったらしいウィンプの拍手だけが、沈黙の中で繰り返されていく。

 

「なんだよノリ悪いな」

 

 必要以上に不満そうな声色で彼らに告げる。性別反転聖杯による声質の変化は一般的なVRゲームにおけるボイチェンとは異なるもので……なんというか、音声じゃなくてあくまで()の変換って感じだ。男が怒ってる声を女が怒ってる声に変換するんじゃなく、男が「怒ろう」と考えていることを検知した上で女が怒ってる声を一から合成する。この性質を利用すれば、普通のボイチェンより幅広い感情表現が可能になる……!

 ……まあ、なくてもいい工夫なんだが。

 

「だってツチノコさんどう考えても俺らから金搾ろうとしてるじゃないスか」 着せ替え隊員Aが言った。

 

「おみくじっていうか要するにガチャでしょ? 資本主義の色が前面に出過ぎだって」 着せ替え隊員Bが言った。

 

「オークションはまだいいっスよ、払った金の分確実にスクショを手に入れられるんだから」 着せ替え隊員Cの言葉をDが引き継ぐ。「でもガチャって何も得られないこともあるっスよね」

 

 こいつら……。

 俺は脳内で爪を噛んだ。なんでだ? いつもオークションしてる時は熱狂的なレベルで(スクショ)に食いついてくるじゃねーか。確かにガチャが悪い文明だってのは全く否定しないし、俺自身今でも桃について考えると謎の頭痛に襲われて辛い。だが、こいつらの欲望はそれ以上に強いはずだ……!

 何が原因だ……? 視線を迸らせて店内を見渡す。隊員どもの妙に冷めた表情、「そろそろはくしゅは止めてもいいの?」みたいなことを目で問いかけてくるウィンプ、逆になんでまだ続けてんだよ、壁を這う赤と緑のリボン……。

 赤と緑……?

 クリスマスってことか?

 

「不思議スかツチノコさん」

 

 着せ替え隊員Bが俺の心を見透かしているかのように言った。なんだこいつ……? 俺の苛立ちと困惑が混ざり合った視線の中、彼は1枚の現像されたスクショを取り出した。彼とは少し距離があるが、俺は目がいいので内容も確認できる……どれどれ。

 

「っ!?」

 

 俺はスクショに何が写っているのかを確認し、絶句した。

 気づけば隊員AやC、というか室内にいる着せ替え隊員の全員が、同じスクショを掲げている。

 隊員Bが得意げに、やたらとムカつくポーズを取る。

 

「――サンタさんが、クリスマスプレゼントをくれたんですよ」

 

 隊員Eは言った。今まで一言も喋ってないのに?

 しかし……その内容は意味深だった。

 隊員Bが掲げたスクショに映っていたのは……ティーアス先生とウィンプとサイナが組み体操をしている光景。アクロバティックな画角で捉えられた、撮影者(おれ)の技巧が光る一枚だ。

 間違いない、これは数週間前のオークションで最高額がついたスクショだ。変態どものハートに覿面に突き刺さったようで、落札権を奪い合うための殴り合いの参加人数が多すぎてトーナメント制になったのもあの回だったはず。最終的に誰が落札したのかは覚えてない……っつーかそして誰もいなくなった状態で立ち消えになったんだっけ? いやでも俺は確かにこのスクショを誰かに売ったはずなんだよなあ。

 隊員どもの話を総合するに……この組み体操スクショを落札した()()、あるいはその誰かから買い取るかなんかしてスクショを手に入れた誰かが、神代技術と変態(ディプスロ)助力(サポート)を組み合わせて設定してあるはずの強固なコピーガードを突破し……大量複製して隊員どもに配った。そういうことらしい。そして隊員どもはクリスマスプレゼントが嬉しすぎてある程度欲望を満たされてしまい、誘惑(おみくじ)を前にしても「お腹いっぱいなんだよね」で片付けられる余裕を手にした、と……。

 なるほどね。

 

「俺たちはもう……満たされてるんです。過去の涙を思い返すことはありますが、この先泣くことはない。どれだけ良いスクショを提示されようが、そこに欲望を抱かなければ……!」

 

 着せ替え隊員Fがわかったようなことを言った。

 どうする……犯人探しは後にしたほうがいい。とりあえずこいつらを引き止める言葉を考えないと。何だ? 何と言えばいい? 出てこない。脳内を思考がぐるぐる回っている。落ち着けチャートを読み直せ、いやチャートなんてない。落ち着いてない。

 ひとまず――、

 

「サンラクくぅんはこう言いたいんだよねぇ?」

 

 あ?

 俺の思考を遮った声の方向に目を振れば、そこにはディープスローターが立っている。紅の髪を静かに揺らして――言った。俺の声を真似して。

 

「でもこのおみくじ再録ありだぞ」

 

「「「「「「参加します」」」」」」

 

 隊員たちは過去の涙を思い出していた。

 一気に活気づいた蛇の林檎の店内を、変態どもの歓声と、ウィンプのまばらな拍手が埋め尽くしていった。だから何でまだ続けてんだよ。

 

 

「ルールはこうだ」

 

 俺はディプスロの頭を撫でながら言った。なんか違和感があった気もするが助け舟を出された身、この程度の要求なら従わないとな……いやでも掌から気持ち悪いくねくねとした動きが伝わってきて嫌だな。やめるか。やめよう。

 

「所詮一夜だけのおん」「【廻渦白波(うねりしらなみ)】!」

 

 俺はマイナー武器に活躍の機会を与えた。

 大袈裟に吹っ飛んでいったディプスロに目もやらず、言う。

 

「改めて――ルールはこうだ。お前らは然るべき金額を払うことでおみくじを一回引く権利を得る。おみくじには大吉・中吉・小吉・吉・凶・大凶の六種類の運勢が設定されている」

 

「運勢にはどんな意味があるんですか〜?」 誰かが手を挙げて言った。

 

「ああ――大吉には女キャラ2人以上が写ったスクショが1枚同梱だ……! 過去のオークションで出品したものの再録もある」

 

 というかそっちの方が多いんだけどな、という言葉は飲み込む。一斉に広がっていく興奮の乗ったざわめきを前に、さらに魅力的な言葉を重ねていく……!

 

「中吉は女キャラ1人(ソロ)のスクショが1枚!」

 

 変態どもがさらに興奮する。

 

「吉は女キャラではないもののスクショが2枚!」

 

 変態どもが首を傾げる。

 

「凶は1枚、大凶は何ももらえない」

 

「女キャラではないものって例えば何スか?」 また誰かが手を挙げ言う。

 

「男キャラとかモンスターとかだな」

 

「いらねえ……」「大吉・中吉・それ以外でよくね?」「むしろ大凶の方がゴミが増えない分いいだろ」トーンダウンした声が広がっていく。やっぱお前らもそう思う? 正直俺も三段階でいいかとは思ったんだけど……「おみくじで三段階しかないのってどうなんだ?」って気持ちがあったんだよな。だからゴミを混ぜて運勢を水増ししたんだが、これはしくじったかもしれないな。

 ……まあ、まあ。

 

「他に質問はあるか?」

 

「排出率は〜?」 誰かが手を挙げ言う。

 

「非公表」

 

 俺は冷徹に答えた。

 「非公表」一言で終わらせてしまうと、着せ替え隊員どもにしてみれば消費者庁実装はよ以外言うことがなくなる。だから彼らがどよめき出した直後に注を入れる。

 

「――だが安心しろ、10連おみくじなら初回に限り中吉以上確定だ」

 

 失望のどよめきになるはずだったものが、希望を司るそれに変わっていくのがわかる。

 よし……もう一押しいけるな。

 

「さらに……! 10連おみくじを回すごとに付与されるスタンプを20個集めれば、大吉カード一つと交換できる!」

 

「付記: 当機にお申し付けいただければ資金(マーニ)の低金利貸し出しも可能です」

 

 台本通り、サイナが隣で謎のメガネを装着しつつ言う。なんのメガネかはわからないが、これでデスクワークモード突入ということらしい。その表情はドヤ顔と慈愛を混ぜたような絶妙な笑顔で、変態どもなら金を借りたくなること間違いなしだろう。

 

「さあもう質問はないな!? おみくじは1回たったの200万マーニだッ! 祈れ、変態ども!」

 

 店を歓声が埋め尽くし、あらかじめ手前側のテーブルに並べておいたいくつかのおみくじ箱へと視線が殺到する。さあ大儲けだ……!

 

「ツチノコさん、最後に一つだけいいスか」 誰手挙言。なんだよもう。

 

「もう素直にガチャって言った方が良くないスか?」

 

 うるせえ!

 

 

「毎度ありぃ……」

 

 ディープスローターは暗がりの中でつぶやいた。

 「蛇の林檎」新大陸支店――の、裏口を出た先にある夜。四つ窓から洩れ出てくる落ち着いた橙の光と、それと乖離した混沌を演じる、壁越しに聞こえる大騒ぎの声。それらから一歩離れた場所に、ディープスローターは立っていた。彼女と相対するのは、着せ替え隊員のうち一人――言わば隊員Gである。

 微かな照光の残滓を半身に浮かべながら、隊員Gは「マジかぁ!」とか言う。その歓声はある程度大きなものだが、「蛇の林檎」の店内には届かない。海中の魚に水を掛け足しても、それ以上濡れはしないのと同じだ。

 

「あざすディプスロさん、また行ってくるっス!」

 

 元気よく言って、彼はくるりと反転したのち、裏口の方へ駆け出した。自分のインベントリに輝く……対価(数十万マーニ)に胸を躍らせて。

 

「行ってらっしゃぁい」

 

 躍り出る隊員Gの輪郭を模った仄影が、ディープスローターの身姿を刹那に横切る。彼女は露出させた右手を開いて、彼の後ろ姿に振っている。左手はと言うと――ローブの裾の影に隠して、握りしめるのに使っている。

 対価(サンラクの写真)を。

 

「……ふふふ」

 

 いつも次スレを立ててる人。大陸間転送サービス運営者。頼れる先輩。有能な後輩。サンタクロース。あるいは――ガチャのハズレの交換所。

 彼女の持つ顔は数えきれなくて、顔たちの全ては、ほとんどの関係者たちから強い信頼を受けている。()()はスクショをくれるサンタクロースの正体をバラさないし、()()は吉や凶をある程度の再挑戦権(マーニ)にしてくれる彼女を陥れようなんて思いもしない。

 

「ああ……サンラクくん」

 

 それだけの踏み台を用意しても、やはり届かない星がある。

 ディープスローターは誰の目にも描画されない(うつらない)静かな紅潮を方に浮かべて、暗闇の中で四肢を泳がせた。あるいは単に、彼女は踊っていた。パートナーのいないダンスを、ささやかに舞っていた。

 そんな中、裏口の扉が開く。次の交換希望者……隊員Hだ。応対を行うべく、ディープスローターは一旦静止する。

 

「すみませんディプスロさんついに中吉が来たと思ったらサバさんのソロショットだったんスけど」

 

「サンラクくぅんのスクショしか交換できないよぉ」

 

「いやでも確かにサバさんって男キャラではないっスけどこれは……!」

 

「ダメだねぇ」

 

 ダメだった。




グラサマは、辛いゲームだ、
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