シャングリラまで約五分(短編集)   作:Z-LAEGA

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貫通

◆第一の返答

キョージュへ、火急の用とのことですので手短にお伝えします。はっきり言って、シャンフロwikiの『征服人形の眼球における3次元構造及びナノマシン・ネットワークビューワ』を軽量化するのは非常に難しいです。あれはモデル的にはテクスチャを限界まで圧縮したうえでなるべく軽量な流体演算が可能になるようカスタムした奴を使っていますし、ナノマシン・ネットワークのシミュレーションにしても最適化に最適化を重ねたものです。確かにそれでも重くはありますが、デフォルトでは非表示になっていますし、「見たい人だけが見る」方式と考えれば運用上の問題はそこまででもないのではないかと思います。より詳しい説明がしたいところですが、現在新大陸のジェルトンジン凍解台地で111(アイズ)と調査活動中のためしばらくは難しいです。

 

◆第二の返答

大赤翅の調査があるので手短に。

『征服人形の体内循環におけるマナ粒子の法則干渉シミュレータ』はもうこれ以上軽くできません。無理です。アレ、マナ粒子のシミュレーションをVRブラウザでできるようにしただけでもかなり無茶なことしてるんですよ。征服人形の体内、っていう制限があったからどうにかなりましたけど、あんなのそれこそユートピア社みたいにビルサイズのサーバーがなきゃ成り立たない。デフォルトオフで許してください。

 

◆第三の返答

了解。

 

===

 

◆判決

さあキョージュさんよ、約束の時間だ……答えを聞こうじゃねえか。シャンフロwikiの特殊モジュールどもに軽量版を実装するのか、しないのか。断っとくが、俺たちは別にあんたがどっちを答えたっていいんだぜ?全く構いやしない。首を振る方向の違いでしかないんだよ。

縦に振ったなら?あんたは無傷のままここを抜け出せる。もちろん実際に軽量版が実装されるまで監視は付くが……なぁに、ただ約束を守ればいいってだけの話さ。あのwiki、自腹で運用してるんだっけ?財布は結構痛むだろうけど、まあwiki運営なんだ、それくらいやって当然だよな。

それじゃあ、横に振ったなら?

……いいか、俺たちは嫌がらせについてならなんだって知ってる。あんたらがこのゲームの世界観についてなんだって知ってるのと同じ話さ。例えばあんた、不思議に思わないか?俺たちがやってるのは恐喝だ、それもただの恐喝じゃない……現実の行動を指図する恐喝。あんたらのことだから、あのクソ長い利用規約だって3周は読んだんじゃないか?……なあ、知ってるんだぜ。あんたがクラメンに連絡したいってウィンドウを開いたとき、ついでに運営への通報もしてたって。可愛い顔して随分なポーカーフェイスじゃないか?いや、むしろ随分なポーカーフェイスだから可愛い顔なのかも知れねえな。なあ!

ふざけてんじゃねえぞ!

おい。

……何だあんた、その眼はなんだ?随分輝いてるように見えるぜ……まるで嫌がらせの方法について、知的な好奇心を抱いてるみたいじゃないか。ああやめろやめろ……そのツラ、本当に虫唾が走る。あんたらがそんな風に眼を輝かせて、目の前にあるものをとにかく考えて考えて考えまくって、そのくせ後先は考えずにwikiに追記して追記して追記しまくって……その結果がどうだ?俺は今朝、自分のヘッドセットで……安物の奴で、全部の特殊モジュールを表示するよう設定したうえで、あのバカみたいにゴテゴテした、『征服人形』のページを開いたんだよ。どれくらいかかったか聞きたいか?読み込みが終わるまでに15分、思考入力でスクロールを命じて、実際にスクロールするまで30秒。

バカにしてんのか?

はあ?特殊モジュールをオフにすれば低スペでも動く?ふざけんなよ。なんでサイトを見に行ってやってる俺が、そんな面倒なことをいちいちやらなきゃならないんだ?あんたらは自分の好奇心の命じるがままにwikiを拡張したくせに……意味不明な量の意味不明なモジュールを増産したくせに、俺の知識欲は満たさないってのか?いい加減にしろよ。いい加減にしろ。無償で提供してるからなんだ、シャンフロwikiはお前らのものだけじゃないからなんだ。とっととあのバカみたいなモジュールどもを最適化しろよ……じゃなきゃもう消せよ。お前らが独占する知識なんて全部消えちまえばいい。俺からしたら見えないって意味では変わらないんだ、むしろお前らの隠し事がなくなって清々するね。

さあ決めろ、大人しく俺たちの言うことに従うか……それともこのゲームに二度とログインできなくなって、さらに周囲のプレイヤーにまで迷惑をかけるか。何やらそわそわしてるようだが……あんたが通報したのが運営だけじゃないってこと、俺たちはとっくに知ってるんだぜ。でもな、あのハヤブサどもがどれだけ速く手紙を届けようが、あんたはこの場所がどこかわからない。……おい、いい加減にしろ、もうそんな眼をするな。光学操作魔法かって?言うわけないだろ。救難信号が出せない理由?それも言わない。あんた、自分が人質だって自覚が足りてないんじゃないか?

おい……やめろ。やめろやめろやめろ!もううんざりだ!あんたのその眼はうんざりなんだ、やめろ!何かへの期待をめいっぱい込めるんじゃない!子供みたいに思いを馳せるんじゃない!貫き通して見透かすような、そんな視線を向けるんじゃない!あんたらの()()はうんざりなんだ!とっとと首を振れ!縦でもいい、横でもいい!俺にそれ以上その顔を見せるな……

 

え?

 

===

 

「やあ……早かったね」

 

キョージュは振り返る。桃色の髪をたなびかせ、先ほどまでの好奇心を纏ったものとはまた別の―――言うなれば、()()に裏打ちされた笑顔を浮かべる。

 

「なッ……!」

 

つい先ほどまでの恐喝者は暴れ回ろうとする。なぜ暴れ回ろうとしているのに暴れ回れないのかといえば、それは彼が()()()によって拘束されているからに他ならない。

焦燥と、恐怖と……そして何より驚愕に染まった瞳を、彼は一点に向け……そこで見たものを、一切誇張せず呟いた。

 

()()()()()()()()()()……!」

 

「……ふふ、こんに―――」

 

「……くッ!【座標移動(テレポート)】ッ!」

 

紫の光が恐喝者を包み込む。消失した当たり判定は、マッシブダイナマイトのSTRすらすり抜けて……そのまま眩いエフェクトと共に、彼をどこかのリスポーン地点に飛ばしていく。

 

「……あら」

 

後に残るは、マッシブダイナマイトとキョージュと……そして木漏れ日を差し込ませる、穴の開いた()()()()()

 

「……あー、何だね。ありがとう」

 

その言葉には様々な意味が込められていた。一応危機に瀕していたキョージュを助けに来てくれたことへの感謝。新大陸北東(ジェルトンジン凍解台地)旧大陸東方(栄古斉衰の死火口湖)というかけ離れた座標にいるあの二人に、伝書鳥(メールバード)を……"向き"を持った。飛来するハヤブサたちを送った、その意味を察してくれたことへの感謝。そして……たくさんの考察材料を提供してくれたことへの、感謝。

 

「どういたしまして」

 

そして、様々な意味たちは……きっと、完璧に伝わったはずなのだ。

 

「さて……どうにも位置が推測しにくいとは思っていたが、この様子だと……海上に浮かべた開放型戦術機に、空間描画アイテムを使って()()()をした感じかな?」

 

キョージュは考察を開始する。その幼さを刻み込まれた瞳に、好奇の輝きを充填して。マッシブダイナマイトはそれを見ながら、やはりあのキャラメイクはかなりうまくできたなと考える。

穴の開いた戦術機の壁から、際限なく広がる青空が覗く。防音シールドか何かでかき消されていた波音たちが、持ち主不在となった鉄壁を貫通する。世界そのものたる考察材料たちが、胸を躍らせるキョージュを囲むのだ。

無駄な情報など一つもないと、念を押しでもするかのように。

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