ダンまち外伝~悪徳の迷宮都市ロアナプラ 作:37級建築士
世界は気まぐれで、起こる事象は常に想像の外に片足を置いている。同じような日々でも、見渡せば何かは違うし、どこにも平凡な退屈なんてのはない。
街を行く人も、見たことない誰か、もしくは忘れたあの人かその人か、既知も未知も絶えず織り交ざって今日は繰り返す。人々は、こどもたちも大いに笑って過ごしている。それこそが平穏な昼の世界だ。誰も退屈しない、それ故に平穏な日々だ。
だけど、それではダメなのだ。そんな世界では満たされない。私自身も、何より、こどもたちも。だがそう憂いてどうなるか、世界が理由で満たされないならどうしようもない。だから、考え方を変えてみた。
……あぁ、別の世界を見ればいい。
時空という仕切りは決して堅牢とは限らない。ある時は別の世界を渡り歩く旅人が、またある時は自由のために心臓を捧げた兵士が、そしてまたある時には異界の理を操る異形の主が
だけど、そのどれもが正常な因子で、絡み合っても世界は正常だ。そうではない、この退屈な世界を覆す、そんな革命的な化学反応を、わたしは願う。
混沌を望んで秩序を殺すのではない、世界の為に求められた悪になるのも違う、きっと私の望みは、誰にも共感されない、怨嗟向けられし純粋な悪疫、それこそが大望だ。
悪意こそが私の希望、誰にも望まれない光なき夜の眺望、それこそを望もう。だからこそ故に
これは、救済の物語になるのだから。
〇
「おいおい、ここはどこだ」
「えっと、オラリオですけど。本当に知らないんですか?」
ダンジョン前の広場、噴水がトレードマークのそこに二人
一人は白髪赤目の少年、そしてその隣に立つは西部劇のレディガンマン、ではなくとある国からの来訪者。
パスポートもチケットも無し、ポケットには幾枚のドル札と溶けて固まったリコリス飴。
あとはベルトに収めたカトラスが二丁、残念なことに腹の中身は半分も足りない。ドンパチの補給は自分ではなくあいつの役目だと、内心でこの場にいないホワイトシャツに愚痴を漏らす。
「えっと、じゃあ僕はこれで」
「……ヘイ、バニーボーイ」
「あの、まだ何か」
半ば強引に振り向かされるベルは、改めて彼女の尊顔を見る。
日の光で照らされる健康的な小麦色で、露出の多めなファッションはアマゾネスを思わせる。しかし、決定的に違うのは、その切れ味というか、そんな腑抜けた願望を少しでも漏らしてしまえば、容赦なくその牙で噛み砕かれる。
肉食の獣、文字通り捕食される。そんな危険性の手前にたたずむ彼女は
「あ、ベルくんおかえり。今日は早い……」
「……」
エイナ・チュール、担当アドバイザーの彼女が来てくれたが、今は正直望ましくない。何故なら、今僕には厄介な問題が現在進行形で続いている。
「なんだベル、お前の保護者か?」
「ほ、保護者、まあ間違ってもないかな……えっと、もしかして知り合いの冒険者ですか。わたし、エイナと「そっか、あんたがギルドの職員って奴か」……え、ちょ……なにを」
話を聞かず、レヴィはエイナに詰め寄る。はたから見ればチンピラに絡まれる光景、思わず止めに入ろうとする。
「なあ、ここにさ……あたしと似たアジア系の、ホワイトカラーの」
「エイナさんさようなら! 僕立ち急いでいますので!」
「な、おい!」
「……?」
レヴィの手を引き、ベルは走る。大通りからすぐ横の小道に、とにかく人気のない場所を目指して走り続ける。
「……よし、ここなら……痛ッ」
「おい、一体何のつもりだ?」
怒りの形相、額に触れる金属の筒は異様なまでに恐怖を感じさせる。
彼女が持つ物、それはこの世界にはまだ存在しない異界の武器、けどその効果は十分にベルは痛感している。ダンジョンで、その筒から吹く火が何体ものモンスターを葬ってきたのを、十分に観察してきたのだ。
「だ、だって……」
「あぁ?」
「れ、レヴィさんは、身元不明で……ギルドの人に知られたら、間違いなく逮捕ですからダンジョンは冒険者以外進入禁止って言いましたよねッ……だからその銃をしまってください!」
両手を万歳して殺意から逃れる。ハンズアップの意味は万国共通で、ようやくレベッカさんは矛を収めてくれた。
「……クソ、なら仕方ねえな」
「ほっ」
「けどな、あたしの人探しの邪魔したんだ……なら」
「!……は、はい、もちろんお手伝い」
「ついでに住む場所」
「な、何とかします!」
「よーし、いい子だベル。いい子にはこのレヴィお姉さんからリコリス飴をあげてやる。ほら、口開けな」
「……ッ」
開けたわけではない。怯え故に半開きになっていた口に溶けて固まったせいか、歪な飴玉が舌に乗せられた。
「……これ、飴ですか?」
「ゴムチューブよりはマシだろ、ちなみにあたしだったらもう吐き捨ててるけどな」
勢い良く吐き捨てた。それでもまだ口の中に変な薬みたいな味が残っている。唾液が若干黒ずんでいると病気になった気分だ。
「うぅ、ひどい」
「じゃ、口直しに一杯やるか? もういい具合に夜だ。イエローフラッグはねえし、ここは現地民に頼るっきゃねえな。おい、ガイドを頼む、払いはあたし持ちだ」
「……お金、あるんですか?」
「これのことか?」
そう言い、取り出したのはバリス金貨が詰まった革袋。ざっと重さだけで五万ぐらいはありそうだ。
「ハリー・フーディニーが魔法の壺を振れば、あっという間にな」
「?」
「さ、行くぞ。あっちから良い酒の匂いがする、程よい血と喧嘩のスパイスもだ。おら、いくぞ」
「へ、あの勝手に、でもそっちは豊穣の……なら、いっか」
暴れ馬のごとく御しきれないレヴィの行動。ベルはただ諦めるようにその影を追うことにした。
次回に続く
……おい、俺の金が!ない、どこにもない!
……何やってんのよベート、どっかで落としたんじゃないの?
……ねえ、さっき通り過ぎたのってアルゴノゥト君だよね。隣にいた女、見たことない人だけど誰だったんだろう?
今回はここまで。次回はまた近いうちに