グッドナイトダービー   作:海月くらげ

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 2021/6/2 名前を訂正しました


第一話

「おはよう」

 そんな声で目を覚ました。ゆっくりと白く点滅する真っ暗な空間ばかりが広がる場所、僕はそこにいた。なんでこんなところにいるのか皆目見当がつかなかった僕は声のした方を見てみる。白い宗教服を着た長身の人物が立っているが、顔は光り輝いて見えない。その人物は男性か女性かわからない声で僕に語りかけてくる。

 

「君は死んだんだ」

 

 死んだと言われたがいまいちピンとこないし自分のことを名前すら思い出せない、こうして会話ができていることからどうやら自分自身に関する記憶を失っているようだ。

 

「まあそこはいいだろう、問題はなぜ君をここに呼んだかだ」

 

 正体不明の人物に警戒心を抱きながら頷く。呼んだということから私が死んだ原因にこの人物が絡んでいそうだ。

 

「君は人の素晴らしさについてどう思うかね?」

 

「素晴らしさ・・・?」

 

 予想外の質問にオウム返ししてしまう。

 

「そうだ。この前私と同じような存在が『人は素晴らしい』だとか言っていてね、私には理解できないものだった。なら理解できるようになればいいと思い至ったわけだ、そこでその『素晴らしさ』を見せてくれそうな人物を吟味し、殺して、魂だけをここへ呼んだわけだ」

 

 理解が追いつかない。

 

「まあ君が理解する必要はない」

 

「・・・僕にどうしろと?」

 

「私がそれを知るために最適な世界へと君を連れて行く、君はそこで頑張るだけでいい」

 

「・・・普通に人を見てるだけじゃダメなのか?」

 

「労力ばかりがかかる、非効率的ではないか」

 

「・・・そうですか」

 

 神様のような存在の知識欲を満たすために自分が殺されてしまったのかということに少なくないショックを受ける。

 

「ただ、こちらの都合ばかり押し付けては不公平だ。そこで君に少しばかり力を授けよう。こちらから提示したものから選んでもらうことになるが、ないよりはマシだ」

 

 そう言って謎の人物が指を鳴らすと、僕の周囲に光り輝く手のひら大のカードのようなものが数枚出現する。特に文字など書かれてないが、魂に直接刻み付けるように情報が入ってくるので、それぞれにどんな効果があるのかを理解することができた。その中でなぜか強く惹かれるカードが一枚あった。

 

「それは『加速』と呼ばれる業だ、君のいた世界ではとあるテレビゲームのアイテムとして存在していたものだよ」

 

 ずっと見つめていたら謎の人物が解説をしてくれていた。これに惹かれるということは魂に強く刻みつくほど強い感情があったのだろう、迷わずこれを選んだ。再び謎の人物が指を鳴らすと選んだカードが自分の中に入っていく、若干の恐怖心を覚えた。

 

「では、君を他の世界に送り込もう。大丈夫、少しの間眠ってもらうだけだ」

 

 その言葉とともに強烈な眠気が襲ってきた、抗いようのないそれになすすべなく意識がなくなっていく。完全に意識が無くなる直前に「おやすみ」という声が聞こえてきた気がした。

 

 ***

 

 この世界に来てから順調に成長したと思える。

 

 この世界にはウマ娘と呼ばれる存在がいて、現在の僕・・・いや私はウマ娘として生を受けた。中央トレセンに入学し、あの謎の人物から授けてもらった「加速」を使いこなすために体幹を重点的に鍛えた。一瞬姿が消えるほどの速度をウマ娘の体で出すためには強靭な体幹と踏み込みが必要だった、バランスを崩せばその速度は一気に私へと牙を剝くことになる。

 

 デビューしたての頃は体力が足りなく加速を使っても成績は振るわなかった、何より悔しかった。担当となってくれたトレーナーからは悔しいのはそれだけ本気で頑張ってたからだと何度も励ましてもらったのを鮮明に覚えている。

 

「各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました」

 

 勝てるようになってきてからはシンザンさんの活躍を見て目を惹かれた、それと同時に彼女を超えたいという感情が芽生えた。トレーナーと相談すると「お前さんならできるさ・・・」と言ってくれた。こんな小娘の無謀な夢をともに背負ってくれたことにひっそりと喜んだものだ。

 

「まず飛び出したのはムーングッドナイト!快調に飛ばしていきます!」

「ムーングッドナイトにとっては三冠がかかったレースですからね!気合も相当入っているでしょう!」

 

 だから。

 

「残り500メートル!ムーングッドナイトが・・・おっと様子がおかしい!ムーングッドナイト、ムーングッドナイトに故障発生です!」

 

 これは夢だ

 

 

 

 悪い夢だ

 

 

 

 

 




古い蹄鉄

使い古され擦り切れた蹄鉄

さほど貴重なものではないが持ち主にとっては特別な意味を持つ
涙と悔しさと、それ以上に喜びを
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