グッドナイトダービー   作:海月くらげ

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 大変お待たせしました

 レースの描写難しすぎて難産でした。どうしても文章の量が少なくなる…
 多分変なとこあるので、なんかあったら優しく教えてください

 後書きのブラボのアイテムテキスト風シリーズいらない気がして来たけどあと二話くらいの予定なのでせっかくなので続けます。

2021/6/30 誤字を修正しました


第六話

 落葉が寂しさと美しさを見せる10月秋。

 京都競バ場は曇り空であるが大きな盛り上がりを見せていた。興奮を抑えられぬ者、静かに座しながら始まりの瞬間を待ちわびる者、多くの人が集まっているこの会場に私はいる。あの日ルドルフと交わした約束のために私はここにいる。

 

 無敗のクラシック三冠

 

 私のかつての夢であったもの。それに今日、シンボリルドルフが挑戦する。

 

 正直にいうならば私は来たくはなかった。誰だってそうだろう、諦めてしまった、諦めざるを得なかった夢を他人が叶えている様を見るのは複雑な気持ちになるだろう。私はまだあのターフを走りたかった、夢を見ていたかった、だから来たくなどなかった。

 

 何度も言った、もう夢など見れないと、私の体はもう走ることなど叶わないと。走りたいという理想と、走れない現実に挟まれてきたと何度も自分に言い聞かせてきた。

 

 だから、なぜ私がここにいるか自分でも分からなかった。約束したからなどではない、体のことを理由にすれば内心はともかくあの生徒会長は納得してくれるだろう。そもそもがわざわざ競バ場に行かなくともラジオなりテレビ中継なりで見れば良かったのだ。

 

 だけれども私はここにいる。

 

「珍しいですね、貴女がレース場に来るのは」

 

 後ろを向けば緑色の服に黄色いネクタイのシルエットがすぐそばにあった。

 

「ああ、たづなさんか」

 

「もう、気軽にたづなと呼んでくださいと言ってるじゃないですか」

 

 どうやら彼女も来ていたらしい。しかし仕事等は大丈夫なのだろうか、私は申請しておいたからいいが…いや、よしておこう。とんでもないスピードで為すべきことを片付けてから来ているに違いない、これは偏見かもしれないがきっとそうだ。

 

「それで、どうしてここに?グッドナイトさん」

 

「……それを理解するために来たんですよ」

 

『クラシックロードの終着点、菊花賞を制し最強の称号を手にするのは誰だ!』

 

 こちらには呼び捨てするように言っておきながら自分はさん付けする彼女に返答し、向きを戻す。ルドルフの方を見ればすでにゲートに入るところだった、観客たちも静まり返り今か今かと待っている。推しウマの輝きをも逃さんとするそれは随分と懐かしいものだった。

 

 

 ***

 

『さあスタートです………ゲートが開いた』

 

『早くも2番が先頭に立ちました、そのすぐ後ろを6番。4番、10番、18番、さらに外から15番、大きく離れてシンボリルドルフ』

 

 ガタン!とゲートが開き、ウマ娘が飛び出していく。皆がいい仕上がりだ。レースは久しく見ていなく、出走している選手の名前や得意な作戦などルドルフ以外知らないがそれでもわかる、実に、実に優秀なウマ娘たちだ、皆が輝きを放っている。

 

『1周目のホームストレッチに入ってまいりました!』

 

『シンボリルドルフはちょうど中団から後ろといったところであります!』

 

 誰が勝ってもおかしくない、そう思った。先にも言ったように皆が優秀なウマ娘だ、ルドルフも自分の夢を、誰かの夢を背負って走っているのだろうがそれは他のウマ娘も同じこと、ルドルフにも負けない輝きを皆が放っている。レースに絶対はなく、誰もが可能性を持っている、私が一番知っていることだ。

 

 ふと肩に手が置かれる。たづなさんの方に顔だけ向けるとニコニコとしたいつもの顔が見えた、少し力を抜けと言外に言っているのだろうか。確かに目つきも少しばかり険しくなっている。私が今なすべきことはルドルフのレースを見ることだ、深呼吸をして力を抜く。

 

『さあ第4コーナをカーブする!シンボリルドルフは果たして伸びて来るのか!変わらず6番先頭だ!』

 

 少し目を離している間にレースも最終局面に差し掛かっていた。

 

 とっくに自分でも気づいている、さっきほぐしたばかりの目が険しくなっている、いつの間にか手も固く握り締めている。痛みさえなかったらきっと立っていただろう。

 

 私は今このレースに魅せられている

 

「…ルドルフ」

 

 思わずぽつりと呟いてしまった。熱狂する観客たちの声援でいとも簡単にかき消されてしまうくらいの小さな声。

 

 その一瞬、ルドルフと目があったような気がした。決して聞こえていないはずの声に反応したようにこちらを見た後、彼女は笑った。獰猛に、獲物を駆り立てる狩人のように。

 

 

 シンボリルドルフが加速した。

 

 

 そして、静謐な光差す玉座の間とそこを堂々と歩くルドルフの姿を幻視した。

 

 ゾーンと呼ばれる深く集中することにより感覚が研ぎ澄まされ没頭する特異な意識の状態。中でも類い稀な強者のそれは周囲にイメージとして幻視させるほどのものである。そのイメージも個人によりバラバラで、ルドルフのものは勝利を積み重ね、自身の走りで規範となり、すべてのウマ娘を幸福にするという夢そのものなのだろう。

 

 『内からシンボリルドルフが来ました!ものすごい脚だ!来たぞ来たぞ来たぞ!シンボリルドルフ先頭に立った!止まらない!誰もシンボリルドルフを止められない!』

 

『シンボリルドルフ今1着でゴールイン!大輪の花が薄曇りの京都レース場に大きく咲いた!』

 

 輝きを見た。

 

 暗い夜を照らす、月の光のような輝きを。

 

 ***

 

 しばらくその場から動けないでいた。

 

 いや、動きたくなかった。

 

 並み居る強者たちを打ち倒し1位を掴み取るその姿。

 

「どうでした?ルドルフさんは」

 

「…さあ。ただ、もう一度、見たいとは思った、他の娘たちのレースも…」

 

「ということは、きっと貴女の雨は晴れたんですね。グッドナイトさん」

 

 あの乾いた血のような黒い嫉妬心は完全には消えていない。だが、それを凌駕する大きな感情が私の中をうごめいている。もう朧げな思い出の中で、私がかつて持っていたもの。

 

「ああ、たづなさん…私はまた、夢を見れたんだな…」

 

 

 きっと、今の私は

 

 笑っている

 

 

 

 




夢の煌めき

虹色に輝く蹄鉄の意匠が施された触媒
これを使うことでウマ娘はさらなる力を得る

多くの人の夢を乗せて走るウマ娘は、また夢により力を得る
多くのファンにより生じると言われるが、果たしてそれだけ
で生まれるのだろうか
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