どうしてもやりたかったんだ
許してくれ、許してくれ
Old Girlは外伝的な扱いにするので書きたくなったら書きます
2021/10/30 誤字の訂正
HUNTED GHOST
気がつくと夜の海にいた。
ただひたすら深海のように真っ暗な水平線が続く海辺の砂浜に、ただ一人でポツンと立っていた。明かりらしい明かりもなく、ただ雲に隠れた月の光のみが僅かばかりに辺りを照らしていた。
ふと前を見れば海の上に、非常に見えにくいが人影が見えた。
こんな夜になぜ海の中にいるのか
なぜ一人なのか
もしかしたら人生を諦めようとしているのではないか
色々思い浮かぶが、周囲に他に人もいなく、夜な上に電灯のようなものも無く、さらにこの天気のせいで非常に視界が悪く危ないので呼びかけようとした。
しかし声は出なかった。
自分の声が出なくなったわけではない
その人影が海面を滑るように…
ゆっくり
ゆっくりと
こちらに近づいてきたからだ
波も一切ない凪いだ海面を音もなくゆっくり近づいてくる謎の人影は、ただそれだけで自分に恐怖を与えた。
いつのまにか自分の膝まで海水が満ちてた。
この場から逃げ出そうと思ってもなぜか体は動いてくれない。
あれを見てはいけないと直感が警告し、せめて顔を逸らそうとするが首を動かすこともできず、目を閉じることもできず、だんだん近づいてくる謎の人影を見つめることしかできない。
何者かに足を掴まれ、ゆっくりと海の中に引きずり込まれていく。その間も人影から目を離すこともできない。
パニックで過呼吸になりながらとうとう顔まで海の中に引きずり込まれて…
目が覚めた。
時計を見れば朝の5時を指し示していた。
最近、ずっとこの夢を見る。
最初こそ夜の浜辺で海に浮かぶ人影を見るだけだった。次第に人影はだんだんと近づいてきてそのぶん内容も過激になり、今日はそのおぼろげな人影をはっきり認識しそうになった。明日にはきっとその正体をはっきり認識してしまう…あの朧げな影でさえあそこまで怖かったのだ、もし認識してしまったら一体どうなるのか…
いや、きっと考え過ぎだろうと自分に言い聞かせる。最近は何かと忙しかったのできっとそのせいだろう。
●●●
「今日のトレーナーさんはなぜか…”よくないもの”を惹きつけているようです」
トレーナー室にやってきたマンハッタンカフェは自分を5秒ほど見つめた後に告げたその言葉に自分は内心ドキリとしていた。そのよくないものの心当たりがあるからだ…偶然かもしれない、いい歳した大人が怖い夢にビビっているのは情けないかもしれないが、どんな人物でも同じ状況になればきっと関連性を見出してしまうだろう。
「なので、この後はトレーナー室に…明朝まで、籠っていてはもらえませんか…。私も一緒にいるので、安心してください…」
トレーナーさんを守りますと続いたその言葉に情けなくも安心感を覚え、彼女の言うことを聞くことにした。
●●●
念のためにマンハッタンカフェに夢のことを話してみることにした。気のせいかもしれないと前置きをした上で、ここ数日の夢の内容をできるだけ詳細に伝えていく。彼女が出した結論は、断定はできないがおそらくは関係しているとのこと。解決したわけではないが、話すことで幾分か心が軽くなったような気がした。
そんなこんなで夜を迎え、マンハッタンカフェがいる中、仕事をしていると…
『トレーナーさん!ここにいらしたんですね!私です!たづなです!』
扉の外からたづなさんの声が聞こえた。随分と急いでいるように見える。
『トレーニングコースについて、緊急でお話ししたいことがあります!ドアを開けていただけますか?』
普段お世話になってる人物の声に、何かあったのかなあなんて若干呑気に返事をしようとすると、マンハッタンカフェに止められる。
「返事をしてはダメです」
「…まさか…」
「はい、来ました…トレーナーさんが応えれば応えるほど…あの子は境界を…超えやすくなります…。このまま、静かに…」
まるでネットで見かける怪異のようだなんて思っていると
『トレーナーさん?どうして開けてくれないんですか?聞こえているんでしょう?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?
トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?トレーナーさん?』
自分を呼びながらドンドンとドアを叩く音が鳴り響く。何度も何度も、荒々しく。
それでもカフェの言いつけ通り沈黙を守っていると…
ブンっという音とともにトレーナー室の電気が消え、さらにトレーナー室のあちこちから異様な音が聞こえ始めた。まるで外から大きな力で揺らされているように。
さすがにマズいと思うような状況だった。これに朝まで耐えるのかと若干絶望していた自分にカフェは優しく語りかけてきた。
「…トレーナーさん、選んでください。朝までこのまま耐えるか…それとも―」
何か、奇妙な音が聞こえた。部屋を揺らすような異音に混じって古い車輪か何か、例えるなら車椅子のような何かがゆっくり動くような…ひどく小さい音のはずなのに、しかし確かにその奇妙な音は聞こえた。
その音はいつの間にか人が歩く音になり、コツコツという音を立てながらやってくる。そして…
『人様に迷惑をかけるとは、感心しないな…』
聞いたことのない女性の声が聞こえた。
キィーンという鉄を打ち付けたような独特の音が鳴り
何かをぶちまけるような音と、叫ぶような断末魔が響き渡り―
いつのまにか周囲は静寂を取り戻し、部屋には明かりが戻っていた。
念のためにカフェが外に出て確認してくれたが
「もう大丈夫です。あの子は、どこかに行ってしまいました…。おそらく…二度と現れないと思います…」
ひとまず、安心した。
カフェに守ってくれたことの感謝を告げ、寮に戻るために二人で外にでる。穏やかとまではいかないがこれで悪夢を見なくてもいいという少しばかりの安心感を覚えた。そういえばもう一人にもお礼を言うのを忘れていた。
「『お友だち』にもありがとうって伝えてもらえる?」
「…それは、どうしてですか…?」
「”あの子”を追い払ってくれたのって『お友だち』じゃないの?」
「いえ…私も『お友だち』も…何もしていないです…」
あの時聞こえた女性の声は一体誰のものだったのだろうか…。
ふと空を見上げてみると、心なしかいつもより大きな満月が輝いていた。
カフェトレ:ホラー耐性は高いが、アプリ版ほど高くない。この時は連日の悪夢でメンタルを削られてたので尚更。
マンハッタンカフェ:たまに大樹のウロのところに小さな、吊り下げの青白いガス灯のようなものを見つけるようになる。
よくないもの:カフェトレに寄って来て、悪夢を見せていた。手を出す前までカフェに気づかれないくらい賢い。
見られないとは分からないこと。見られないことで力を保つそれは、夢の中に楔をうち、保険とした。
だが、夢から断つなら彼女の出番だ。
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