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「それで、爺さん。俺はこの後どうすりゃ良いんだ?」
「おお、荷造りは済んだようじゃな。それではこれからロンドンへ向かうとしよう。母君のことは心配せんでも良い。じきに聖マンゴの担当者が迎えにくるじゃろう。」
ホグワーツ入学を承諾したリアムは、荷物を纏めるために一度自宅へと戻っていた。といっても、服は2着しか持っておらず、貴重品と呼べるものもギターくらいしか無かったので、5分もかからず出発の準備は整った。
「本来ならば馴染みの者たちに別れを告げたい所じゃろうが、入学が迫っておるでな、すまぬのぅリアム。」
「構わねぇよ。工場労働者のガキが一人消えただけで大騒ぎするほど皆ヌルい人生送ってねぇさ。」
「そうとも限らんと思うがのぅ。儂なら君の歌がもう聞けないとなれば、大に惜しむことじゃろうて。」とダンブルドアが茶化すように言う。
実際リアムはマンチェスターの裏側ではそこそこの有名人だった。彼のライブにはそこそこの人が集まっており、彼は意外と面倒見がいいので、路地で生活している孤児からは兄貴分として慕われていた。
「確かに少し寂しいような気もするがな、仲間の一人がいきなりいなくなるなんてよくあることさ。仕事が見つかってマンチェスターから出たのか、酔っばらって交通事故で死んだのか、今となっちゃ区別はつかないけどな。」
「…ふむ、君がそれで良いなら儂は何も言うまい。さて、それでは早速ロンドンへ出立するとするかのぅ。リアム、儂の腕を取るとよい。あっという間にロンドンじゃ。」
リアムはダンブルドアがどんな方法で移動しようとしてるのか全くわからず、また出鱈目な魔法を急にぶっ放されても困るので、あらかじめ問いただすことにする。
「おい爺さん、あんたマンチェスターからロンドン200マイルもあるんだぜ?どうやって移動する気だ、魔法使いらしく箒にでも乗るってか?」
「確かに我々魔法使いは、箒に乗って移動することもあるが、それよりも早く確実な方法があるのじゃ。ほれほれ、もたもたしていると日が明けてしまうぞ。」
「マジか、箒乗んのかよ。」とボヤきながらリアムが恐る恐るダンブルドアの手を取る。すると一瞬、視界がボヤけ強烈な”勢い”を感じる。反射的に目を閉じ、そして開く。
「”漏れ鍋”、ロンドンから魔法界へ入る入り口の一つじゃ。」
目を開くとそこは、知らないどこかの都市の通りの一角、古風なパブの前だった。リアムが説明を求めようとすると、ダンブルドアはさっさとパブの中へ入っていってしまったので、慌てて追いかける。
「おや、ダンブルドア先生じゃありませんか。久方ぶりでございますなぁ。」
「おお、トム。顔を出さんかったのはすまなかった。この頃はすっかり胃腸が弱ってしまってのう。恐ろしい同僚に酒を制限されてしまっているのじゃ。」
ダンブルドアがカウンターで店主らしき男と談笑している間、リアムは広い店内をじっくりと眺めていた。
このパブ、入ってみると外観からは想像できないほど広々としている。
内装は薄暗く、店自体が相当年季が入っているのかどこかみすぼらしい印象を受けるが、巨大なダイニングのテーブルにはそこそこ客が入っており、繁盛しているようだ。
テーブルに座っている者たちは全員魔法使いなのだろうか。トンガリ帽子に黒のローブといういかにもな格好をしたものも多いが、チェックシャツとジーパンを着こなしている現代風ーー彼らからしたら”マグル”らしい格好をしている者も多い。
食事を楽しんでいるものや、新聞を読み漁っているもの、ボードゲームに興じるものなどがいるが、彼らの動作はリアムの常識とはかけ離れた、”不思議”な様相を呈していた。
コーヒーの器は自然と動くスプーンでかき混ぜられていて、新聞に載っているモデルの写真はこちらにウインクを飛ばしている。ボード上ではクイーンの駒がポーンの駒を盤外へ引きずり出したところだった。それどころか、ポーンを取られた側の駒たちがプレイヤー側に注文をつけている。
リアムは杖の一振りでギターが新品同様に直ったり、一瞬で400マイルを吹っ飛んだり、もう何が起こっても驚かない心構えだった。しかし実際に当たり前のように魔法を使って生活をしている様を見て、少しショックを受けてしまった。
まだこの異常を”正常”と認識できるには、時間がかかりそうだった。
「それで、ダンブルドア先生。こちらの少年が?」
「おおそうじゃ、紹介がまだだったの。リアム・クレイトン君じゃ。リアム、こちらはトム。この店の店主じゃ。」
「リアム君、私はトム。ホグワーツ在学中は君に漏れ鍋の一室を貸し出すことになっている。オーナーとして一つよろしく頼むよ。」
トムはくるみ顔に人懐っこい笑顔を浮かべた初老の男性で、茶に少し白が混じった巻毛と古風なバーテンの制服がとてもマッチしている。外の世界で出会ったとしても、ただの感じの良いバーテンとしか思わないだろうな、とリアムは思った。
「…どうも。とゆうか、何も聞いてなかったんだが、俺は休みの間この宿で寝泊まりするってことでいいか?」
「すまん、すまん。ホグワーツ在学中は漏れ鍋の一室は君のために確保されることになる。家賃は奨学金から引き落とされるから、心配ご無用じゃ。」
トムはカウンター席の後ろから古びた鍵を取り出してリアムに見せる。
「部屋は2階の12号室、日当たりは少し悪いが、なかなかリラックスできる部屋だ。食事は3食無料で、小銭が欲しければホールで働くのもアリ。なかなか好条件だろう?」
「そうゆうことじゃ、リアム。在学中はトムが君の書類上の保護者となるので、くれぐれも失礼の無いようにの。」
トムから012と刻まれた年季の入った鍵を受け取って、軽く握手を交わす。リアムは長年の経験から、初対面でも人の内面を見通す力が養われていたが、この人懐こいバーテンからはダンブルドアのような得体の知れない感じは無く、裏表も無さそうなので上手くやれそうだった。
「それはわかったんだが、この学用品リスト?のに書いてある摩訶不思議な物達はどこで手に入るんだよ?」
ホグワーツからの入学案内書には、「大鍋」やら「ドラゴン革の手袋」などの訳の分からない物や、魔法の教本、魔法の杖など、いくら大都会ロンドンといえども、絶対に揃わなそうな物がよりどりみどりだった。
「『魔法史』に、『魔法論』。『幻の動物とその生息地』だって!?こんなん大英図書館に行っても手にはいらねぇぜ。」
「手に入る場所を知っておれば簡単なことじゃ。今日はもう遅いから、明日以降になるじゃろうが、ホグワーツの教員が派遣される予定じゃ。その者が君の学用品を揃える手伝いをしてくれるじゃろう。」
リアムは納得すると、もう一度リストに目を落とす。『基本呪文集』や、『闇の力ー護身術入門』など少し気になる題名の本があり、元々学校という場所が嫌いなだけで勉強はそこまで嫌いでもなかったので、買い物が待ち遠しく感じた。
「それでは、儂はそろそろ失礼するとしようかの。トム、リアムをよろしく頼む。ホグワーツで会うのを楽しみにしておるぞ、リアム。」
「…俺はべつに楽しみじゃねえけどな。」
「ほほ、手厳しいのぅ。では、さらばじゃ。」
パチンと音がすると、ダンブルドアはかき消えた。恐らくマンチェスターからの移動に使った魔法と同じものだろう。
「さあ、子供はもう寝る時間だ、リアム君。ベッドメイクは済ませておいたから、早速部屋へ上がると良い。明日からは忙しいなるだろうからね。」
「ああ、おやすみ、トム。」
リアムはギターを抱えて階段ギシギシ言わせながら登ると、薄暗い廊下のなかで、「012」号室を探す。角から二番目に012号室を見つけると、鍵を開けて中に入る。するとそこは、そこそこの広さの一室で、かなり大きめのベッドに箪笥やクローゼットなど、生活に必要な家具は揃っているようだった。
(昨日まではトレーラーハウスで生活してたってのに、一室を丸ごと借りれるなんて、明日朝起きたら夢でした!ってオチでも驚ろかねぇな。)
リアムはデカいベッドにギターを立てかけると、ベッドに飛び込み、部屋の天井を眺めながら今日の出来事を振り返っていた。
ほんの数時間前までは薄汚い路地で生活していた自分が、急に魔法使いだと告げられ、無償で就学し、宿までついてくる好条件で生活することになるなんて、まったく想像出来ない事態だ。
マンチェスターに未練はない。良い生活の為、母の為、正しい判断をしたと確信している。だが、生活環境がこうも急に変わると、ホームシックに似た感情を持ってしまうのは、10代の少年にしては当然であった。
それとは別に、これからの魔法使いとしての人生へのワクワク感もある。工場労働者として酒と音楽に溺れる日々を過ごすことになる筈の自分が、人生をやり直す機会を得たのだ。まさに千載一遇、天から降って湧いたようなことだ。
だが元の暮らし、マンチェスターの仲間が恋しいような気もする。とても複雑な気分だった。
結局リアムは深夜までなかなか寝付けず、翌朝10時にトムに起こされるまで爆睡することになった。
リアム・クレイトン
親父と同じ名前が嫌でクレイトンという名字が大嫌い。人間観察の能力が必要に迫られた結果芽生えている。ホームシックと新しい生活への期待で板挟み状態。大人びているとはいえ、魔法への興味は尽きない。
ダンブルドア
漏れ鍋には昔から通っており、店主のトムとは友人関係。信用できる人物にリアムを預けたかったため、漏れ鍋をチョイス。
トム
原作では猫背の不気味な男だったが、本作では映画版賢者の石に出てくる人当たりの良いバーテンをモデルとした。凄く良い人。