アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第21話(1) 対令正高校戦前半戦~序盤~

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『○年度 第XX回 宮城県夏季親善大会第3戦 対令正高校』 日付:7月○日(日) 天候:晴れ 記録:小嶋美花

 

 

 

基本フォーメーション

 

令正高校

 

__________________________

 

|       三角   |  姫藤    池田 |

 

|   長沢    武蔵野|     石野 |

 

|      合田     | 武      谷尾 |

 

|紀伊浜 羽黒   椎名  |          永江|

 

|     米原     | 龍波    神不知火 |

 

|    寒竹     渚 |     丸井     |

 

|       大和 |  菊沢   緑川  |

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー                    

 

                      仙台和泉

 

                    

 

令正高校(以下令正)は予想通り3-5-2。仙台和泉(以下和泉)はオーソドックスなお椀型に並べたいつもの4-4-2。

 

 

 

<和泉> 

 

 試合開始前、令正の先発メンバーを見て、マネージャーの小嶋は驚きを隠さなかった。

 

「大野田さんでも百地さんでもなく三角さんが先発ですね……」

 

「……まさか先発とはな、格下相手に期待の一年に自信を付けさせるって魂胆か」

 

「どうしますか?」

 

「いずれにせよ、左、こちらの右サイドから崩してくるというのに変わりはないだろう。ダーイケなら対応出来るはずだ」

 

 小嶋の問いに春名寺はピッチを見つめながら落ち着いて答える。一方、ピッチ内ではメンバーが円陣を組んでいた。キャプテンマークを巻く緑川が呟く。

 

「前回の対戦時とこちらは同じメンバー。向こうは先発を三人替えてきましたか。誰が来ても厳しい相手であるということには変わりはありませんが……」

 

「桃ちゃん、三角さんへの有効な対策は?」

 

 姫藤が丸井に尋ねる。

 

「え? そうだね……基本ドリブラーだから、うかつに飛び込むのは危険かもしれない。距離を取って対応した方が良いかも」

 

「肝に銘じておくー」

 

 丸井の言葉を受け、池田が飄々と答える。

 

「かといって、スペースを与え過ぎるのも考えものです。向こうの左サイドにボールが渡らないように気をつけないといけませんね」

 

「そこまで試合をコントロール出来れば良いけど……」

 

 緑川の発言に菊沢が軽く頭を抑えながら呟く。

 

「大野田さんが出ない、三角さんはドリブル主体のプレースタイルということは椎名さんから繰り出されるパスを最優先して警戒した方が良いということですね……」

 

 神不知火が淡々と語る。武が緑川に促す。

 

「もう始まるな、キャプテン、景気づけに頼むで」

 

 緑川が掛け声の前に一つ咳払いをする。

 

「あくまでも練習試合ですが、ここまで二戦して一敗一分け、最後は勝って終わりたいところです。しかも、先日苦杯を舐めた相手、秋で戦うという可能性を踏まえても、ここで苦手意識を払拭しておきたいところです……仙台和泉、絶対勝ちましょう!」

 

「「「オオオッ‼」」」

 

 和泉のメンバーが試合開始前に気合いを入れる。

 

 

 

<令正>

 

 和泉の掛け声を聞いて米原が笑みを浮かべる。

 

「あちらさん、気合い十分みたいですね」

 

「へっ、それくらいでないと面白くねえよ」

 

 寒竹が顎をさすりながら呟く。

 

「キャテイ、先発は初めてやんな? あんま緊張すんなよ?」

 

「純心ちゃん、ご心配なく。カタリナ、プレッシャーは楽しむタイプだから」

 

「さよか、それは頼もしいこっちゃで」

 

 三角の答えに米原は満足そうに頷く。寒竹が椎名に声をかける。

 

「妙、杏がベンチスタートだからお前のパスが警戒されるはずだぜ……妙?」

 

「……ん? ああ、すまん、心が鳴子に飛んでいた」

 

「はあ? 鳴子?」

 

「この合宿後に一日オフがあるだろう? 温泉にでも行こうかなと思ってな」

 

「いや、集中しろよ!」

 

「ルーティンだ、大目に見ろ……今朝思い付いたが」

 

「一回、ルーティンの意味調べてこい!」

 

 寒竹が大声を上げるのを余所に、渚が羽黒に向かって冷静に呟く。

 

「主将、そろそろ……」

 

「は、はい……一度勝っている相手ですが、ここ二試合のパフォーマンスを見ても決して油断の出来ないチームです。秋以降に弾みをつける為にも、各自の良いプレーを期待します……令正高校、絶対勝ちましょう!」

 

「オオオッ‼」

 

 令正のメンバーも気合いを入れる。渚が淡々と呟く。

 

「声、少し裏返っていましたね……」

 

「ま、まだこういうのに慣れていませんから、大目に見て下さい」

 

両チームの選手それぞれが各自のポジションにつき、いよいよ試合開始となった。

 

 

 

【前半】

 

0分…令正のキックオフでスタート。DFラインまでボールを下げて、長沢が前方の武蔵野に向かってロングパス。谷尾が武蔵野との競り合いを制してクリア。

 

1分…和泉、中盤でこぼれ球を拾った石野が斜め前方の菊沢にパス。菊沢は間髪入れず、前線に鋭いボールを送る。龍波を狙ったボールだったが、これは寒竹が跳ね返す。

 

2分…和泉、左サイドでボールをキープした菊沢が後ろから、自分を追い抜いた緑川にスルーパスを出す。緑川、マイナス方向に低めのクロスを送る。走り込んだ石野がシュートを放つが当たり損ね、ボールはゴールから大きく外れる。

 

3分…和泉、ゴールキックを谷尾が跳ね返し、こぼれたボールを丸井がすぐさま縦に送る。前線から少しポジションを下げた武がボールをキープ。近くの姫藤に出すと見せかけ、反対の菊沢に送る。走り込んだ菊沢、ダイレクトでシュートする。アウトサイドに回転をかけたシュートは紀伊浜が手を懸命に伸ばして触る。軌道が変化したボールはゴールポストを叩いて跳ね返り、羽黒がすぐさまサイドラインに蹴り出す。

 

 

 

 試合の最序盤、思わぬ攻勢を受ける形となった令正。主将の羽黒が味方に声を掛ける。

 

「落ち着いて行きましょう! まずキープして!」

 

「良い感じですね、監督!」

 

 和泉側でのピッチサイドで小嶋がうんうんと頷きながら春名寺に声をかける。

 

「入りは悪くねえな……強豪相手にも臆せず臨めているな」

 

春名寺が腕を組みながら呟く。

 

「10番ちゃんより、まずはアイツやな……」

 

 米原が小声で呟く。

 

 

 

5分…和泉、こぼれ球をキープしようとした椎名から石野がボールをカットし、丸井へパス。丸井、緑川にボールを下げる。緑川、斜め前方へロングパスを蹴ると見せて、縦パスを菊沢へ。ボールを受けた菊沢、すぐに前を向くが、そこに米原が素早く体を寄せて、ボールをカット。ボールはサイドラインを割る。

 

6分…和泉、菊沢がスローインを緑川へ。緑川、すぐにボールを菊沢に返す。菊沢、自分に寄ってきた武にパスを送り、内に走り込む。武、ダイレクトで菊沢にボールを送る。菊沢と武のワンツーパスが通ったかと思ったが、米原がタックルを仕掛け、菊沢が倒れる。こぼれたボールを丸井がサイドラインに蹴り出す。

 

 

 

「くっ……」

 

「少し勢い余ったわ、堪忍な」

 

 倒れ込んだ菊沢に対し、米原が手を差し伸べる。

 

「……」

 

 菊沢は無言でその手を取り、起き上がり、その場から走り去る。

 

「調子づかせると厄介そうやからな……」

 

 米原が菊沢の背中を見て呟く。ピッチサイドで戦況を見つめていた春名寺は声を上げる。

 

「丸井!」

 

 春名寺が簡単に指差しサインを送り、それを確認した丸井は無言で頷く。

 

(米原さんが輝ちゃんによってサイドに釣り出されている。丸井さんへのマークがやや緩くなったと同時に、中央のスペースが少し空いている……そこを使えという指示。丸井さんも流石にそのあたりは即座に理解している……!)

 

 春名寺の隣に立っている小嶋はそのやりとりの意図を察する。

 

 

 

8分…令正、右サイドからのロングボール。武蔵野が谷尾に競り勝ち、ボールをキープし、渚にパスを送るが、ややパスが雑となり、神不知火が足を伸ばしてカット。こぼれ球に走り込んだ大和がシュートを狙うが、当たり損ねとなり、低い弾道となったシュートはキーパー永江の正面を突く。

 

9分…和泉、前線へロングパスを送るが、寒竹が跳ね返す。中盤で拾った石野がサイドから中に入り込んできた姫藤に預ける。姫藤は逆サイドの菊沢にパスを送ろうとするが、丸井が走り込み、パスを要求する。姫藤は即座にロングパスからショートパスに切り替え、丸井に繋ぐ。中央の空いたスペースでボールを受けた丸井が前を向いた瞬間、合田の激しいタックルが丸井を襲う。丸井は倒れ込む。

 

 

 

 「ファウル!」

 

姫藤が審判にアピールするが、審判は首を振る。正当なチャージの判定だ。合田がすぐさま米原にボールを預け、米原は間髪入れず、鋭いサイドチェンジを三角に送る。この試合で初めてまともに三角にボールが渡った。

 

「さあ、そろそろ反撃開始と行こうや」

 

 米原が笑みを浮かべて呟く。


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