私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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たとえばこんなスイカ割り

「それでは第一試合、開始!」

 

「青臨さん! スイカの場所を教えて下さい!」

 

 ぐるぐる回ってから、よろよろと砂浜を歩き出した葵がウレタン棒を持ちながら、大和に向かって指示を仰ぐ。

 

「それには及びません! はああ!」

 

「どわあっ⁉」

 

「だ、第一試合、上様・青臨ペア勝利!」

 

「上様、やりました!」

 

「えっ⁉ 私スイカ割っていませんけど⁉」

 

「相手の初撃を躱しつつ返す刀で相手のペアをまとめて戦闘不能に追い込みました!」

 

「スイカ割りとは思えない言葉の数々⁉」

 

 葵が目隠しを外すと倒れ込む相手ペア二人の姿が目に入った。

 

「ぐう……」

 

「な、なんと……」

 

「心配は要りません! 峰打ちです!」

 

「峰打ちの定義を聞きたいですよ……」

 

 葵は若干引き気味になりながらコートから出る。

 

「それでは第二試合……」

 

 第二試合は第一試合より長引いたが、小霧と景元ペアが制した。葵が声をかける。

 

「おめでとう! 二人とも! 良い試合だったよ」

 

「ありがとうございます」

 

 景元が礼を言う。

 

「あれ、もしかして二人とも経験者? このスイカ割り2on2の?」

 

「いえ、流石にこんなエキセントリックなスイカ割りは初めてですわ……」

 

「そうなんだ、それにしても良い連携だったね。それに……」

 

「それに?」

 

 小霧が葵に問う。

 

「なにかこう……凄い執念みたいなものを感じたよ」

 

「ふむ……なかなかの洞察力ですわね」

 

「なにがそこまで二人を突き動かすの?」

 

「名門に生まれた以上、例え座興でも恥ずかしい振る舞いは出来ないということですわ!」

 

「そ、そう、言うなればこれは矜持、プライドの問題なのです!」

 

「ほ~プライドね……」

 

 二人の力強い言葉に葵は感心する。そこに大会の実況アナウンスが響く。

 

「第二試合は高島津・大毛利ペアが勝利を勝ち取りました! これは試合前にこそこそとおっしゃっていた『豪華プレゼント』の内の一つ、『ペア宿泊券』をなんとしても獲得したいというお二人の強い意志の表れでしょうか!」

 

「「どわあっ⁉」」

 

 思わぬ所からの暴露に小霧と景元は慌てふためく。葵は二人に冷めた視線を送る。

 

「なんだ、思ったより不純な理由だった……」

 

 なにやら言い訳を並べる二人をよそに葵はその場を離れる。大会はその後も順調に進んでいき、葵たちも含めて、残り四組のペアとなる。

 

「ふむ……」

 

 金銀が将司を伴って、実況アナウンサーに話しかけにいく。

 

「む! なにやら尾成殿たちが実況の方と話しております! 気になりますな!」

 

「それも気になるけど、いつの間にか実況アナウンサーさんがいたのって話だけどね」

 

 尾成たちとの話を終えた実況アナウンサーが立ち上がって告げる。

 

「え~大会主催者でもある尾成様からのご提案を受け、次の試合は四組が一斉に参加する、いわゆるバトルロイヤル形式になります!」

 

「ええっ⁉」

 

「ほお……」

 

「うおおおっ!」

 

 突然の変更に驚く葵たちを尻目にギャラリーの興奮は最高潮に達する。

 

「いわば2on2ならぬ2on2on2on2! さあ、参加者の皆様、コートへどうぞ!」

 

「やるしかありますまい!」

 

「くっ、し、仕方ないわね!」

 

「まず北側からコートに入ったのは、上様・青臨ペア! 征夷大将軍と体育会会長のペアがここでも頂点を狙いに行く! 抽選の結果、目隠しをするのは青臨選手だ!」

 

「ええっ、大和さんが目隠し⁉ くっ……それだけでもかなりの戦力ダウンだわ……」

 

 葵が渋い表情を浮かべる。

 

「東側からコートに入るは、高島津・大毛利ペア! 2年と組のクラス長と書記のペアが、念願のペア宿泊券を遮二無二狙いに行く!」

 

「そういうことを大声で言わなくてよろしいですから!」

 

 小霧がアナウンスに対し不満を漏らす。

 

「目隠しをするのは大毛利選手だ!」

 

「ぼ、僕か……」

 

「南側からコートに入るのは、尾成・山王ペアだ! 頭脳的な戦いに注目が集まります! 目隠しをするのは山王選手!」

 

「わ、我々が提案しておいてなんですが、この未知数のバトルロイヤル……大丈夫でしょうか? 金銀お嬢様……?」

 

「心配ご無用! 勝算は我にありです!」

 

 将司の不安を金銀は一蹴する。

 

「最後に西側からコートに入るのは、佐々江・安住ペアだ!」

 

「……?」

 

「やはり本名は知名度が低い! 二年い組の名物コンビ、介さん・覚さんだ!」

 

「! わあああっ!」

 

「おい、ギャラリー、なんだその反応の差は⁉ 誰も俺たちの本名知らなかったのか⁉」

 

「落ち着け、介……俺が目隠しをつけるのか……さて、どうする?」

 

「ふむ……この顔ぶれならば、取る手は一つだ」

 

 覚之丞の問いに介次郎が答える。各ペアの目隠し担当がその場でぐるぐると回る。

 

「……それでは試合開始!」

 

「コートのほぼ中央にスイカが置かれている! 大和さん! そのまま真っ直ぐです! ……って大和さん、どうしたんですか⁉」

 

 指示を飛ばした葵が驚く。大和が膝をついていたからである。

 

「気合いを入れて回り過ぎたせいで、思いの外目が回ってしまった!」

 

「なっ……大体で良いんですよ⁉ むっ⁉」

 

「上様、お覚悟!」

 

 介さん・覚さんが葵たちに迫る。葵が戸惑う。

 

「こ、こちらに向かってきた⁉」

 

「まずは戦力が一番のペアを潰す! 覚! そのまま真っ直ぐ進めば青臨だ! 奴は目が回ったのか、間抜けにも膝を突いている!」

 

「いつぞやの借りを返す絶好機だな!」

 

「くっ、このままじゃ……えい!」

 

 葵が足元の地面を思いっきり払う。それにより砂煙が舞う。

 

「ぬっ⁉ 視界が阻まれた……うおっ⁉」

 

「脛! もう一つ脛!」

 

 葵は薙刀の要領で介次郎と覚之丞の脛を打つ。思わぬ所に予期せぬ攻撃を喰らった二人は力なくその場に崩れ落ちる。

 

「あーっと! 介さん・覚さん、これは戦闘不能だ! 上様の見事なウレタン棒さばき!」

 

「あまり褒められても嬉しくない! 他のペアは⁉」

 

 葵が視線を向けると、ちょうど小霧と金銀が接敵するところであった。

 

「ウレタン棒といえど、文化系の方は危ないですわよ!」

 

「脳筋の方でも心配することは出来るのですね!」

 

「む! 先輩といえども許せぬ暴言! チェストー! ⁉」

 

 小霧は驚く。渾身の一振りが躱されたからである。金銀が笑う。

 

「そちらの流派の有効な攻略法はとにかく初太刀を外すこと! それにより勝利の確率は……格段に上がる!」

 

「がはっ⁉」

 

 金銀の意外にも鋭い一撃を喰らい、小霧は膝をつく。

 

「高島津さんは仕留めたわ! 将司! スイカは左斜め前まっすぐよ!」

 

「了解!」

 

 目隠しをした将司は金銀の指示に従い、スイカに向かって走り出す。景元が戸惑う。

 

「た、高島津! やられたのか⁉」

 

「た、大毛利くん! わたくしのことはよろしいから早くスイカを! そこから右斜め前にまっすぐですわ!」

 

「わ、分かった!」

 

「そうはさせないわ!」

 

 小霧の指示を受けた景元の前に金銀が立ちはだかる。

 

「くっ……うおおおっ!」

 

「なっ⁉」

 

 金銀が驚く。景元がウレタン棒をめちゃくちゃに振り回したからである。

 

「ど、どこでもいいから当たれ!」

 

「やけのやんぱち⁉ 定石外れ過ぎる! 迂闊に近づけませんわ!」

 

「今の内に!」

 

「しまった! まだ動けたの⁉」

 

 体勢を立て直した小霧が走り出し、将司の背後に迫る。

 

「! 後ろに殺気⁉」

 

「山王さん、お覚悟!」

 

「将司、とにかく初太刀を外しなさい! そしてスイカを割りなさい!」

 

「青臨流秘奥義……『青龍』!」

 

「⁉」

 

「……ああっと⁉ ここにきて青臨選手の強烈な一振り! コート内の皆が吹き飛ばされ、スイカも割れました! よって勝者は上様・青臨ペア!」

 

「出来れば使いたくはなかったが、出遅れてしまった故、やむを得まい!」

 

「お願いだから普通にスイカ割りさせてよ……」

 

 大和の強烈な攻撃の巻き添えを喰らって吹き飛んだ葵が呆れ気味に呟く。


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