私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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丘の上での誤解

 昼休みの僅かな時間、大和は葵をある場所へと呼び出した。

 

「絵師殿から聞いた穴場スポットの一つ……学校行事の昼休みというのが今一つ雰囲気が出ないが、二人きりに慣れる機会はそれほどない……ここで決める!」

 

 大和は葵を待っている間に丘に登る。相模湾を一望することが出来るこの丘は『恋人の丘』と呼ばれていて、その上には『龍恋の鐘』と呼ばれる鐘がある。鐘の近くの金網には沢山の南京錠が付けられている。それぞれの錠には二人の名前が書いてある。この錠を付けてから鐘を鳴らすと縁結びに大きな効果があるという。

 

「い、今更そんなことを言われても……」

 

「だから、申し訳ないとは思っていますわ」

 

「ん? あれは……」

 

 話し声がしたので、大和はその方向を覗いてみる。そこには景元と小霧の二人がいた。

 

「ここに南京錠をつけるっていう約束だったじゃないか」

 

「しかし、つけることによって『永遠の愛が叶う』ということなのですよね? ちょっと……それは考え直して欲しいのです」

 

「考え直して欲しいって……だからそんなことを言われても……」

 

「勝手を言っているのは承知しています。ただ、『永遠』となると尻込みしてしまって……」

 

「こう言ってはなんだけど、おまじないの一種だよ、そんなに真剣に捉えなくても……」

 

「貴方はそうでも、わたくしは真剣に捉えてしまうのです! ……ごめんなさい、大声を出してしまって……外してもらえませんか?」

 

「……その心変わりの理由を聞かせてくれないか?」

 

「ごめんなさい……それもちょっと……」

 

 小霧が目を伏せる。景元はため息をついて、ポケットを探る。

 

「仕方がないな……ん? あれ? うん? おかしいな……」

 

「どうしたのですか?」

 

「い、いや、この南京錠の鍵をどこかに落としてしまったみたいで……」

 

「ええっ⁉ それじゃあ、外せないじゃありませんか!」

 

「ま、まあまあ、繰り返しになるけど、単なるおまじないだから……」

 

「だからわたくしにとっては持つ意味が違うのです! 今はとてもではありませんが永遠を誓う気分になれないというのに……! なんとか外せませんか?」

 

「そう言われても……ふん! やっぱり無理だ……」

 

「そんな……」

 

「失礼!」

 

 二人の背後から大和が声をかける。小霧が驚く。

 

「せ、青臨さん⁉」

 

「失礼ながらお話が耳に入ってしまいました! その南京錠を外したいのですな!」

 

「え、ええ……」

 

「お二人ともちょっと離れていただきたい! ……はあっ!」

 

「「⁉」」

 

 二人は驚愕する。大和が手を振り下ろすと、南京錠が割れたからである。

 

「な……手刀で南京錠を破壊した?」

 

「正確に申せば、手刀から生じる風圧ですな!」

 

 小霧が大和に駆け寄る。

 

「凄いです青臨さん! 先程のスイカ割りも、目隠しをされた状態でも全員を吹き飛ばしてみせたあの活躍! ただ闇雲に棒を振り回すどこかのだれかとは大違い! ……あっ」

 

 小霧は『しまった』という顔で振り返ると、景元が体をぷるぷると震わせている。

 

「なるほど、僕の体たらくが君を失望させたというわけか……」

 

「し、失望というのは少し大げさで……」

 

「くっ!」

 

 景元がその場から走り去る。

 

「あっ! ……わたくしはなんということを……」

 

「お気になさるな……」

 

 大和が落ち込む小霧の肩にそっと手を乗せる。

 

「青臨さん……」

 

「『女心と秋の空』とはよく言ったものです! 多少の心の揺らぎは致し方ないものです!」

 

「今は夏ですけど」

 

「……兎に角それがしにも間接的に責任があります! 大毛利殿を呼び戻して参ります!」

 

「ああ、なんて頼りになる……それでこそ殿方というもの……!」

 

 小霧は目をきらきらと輝かせながら、自らの胸の前で大和の両手を強く握りしめる。

 

「し、失礼!」

 

 大和は優しく手を振りほどき、景元を追う。勢いよく走って行ったわりには、丘を少し下ったところで息切れしたのか、肩で息をして立ち尽くしている。

 

「はあ……はあ…」

 

「大毛利殿!」

 

「せ、青臨殿……」

 

「高島津殿の発言は誠のものではない! あまり気になさらぬ方が良い!」

 

「それは分かっているつもりですが……青臨殿と比べると、自分が情けなくなって……」

 

 景元が俯いて肩を落とす。大和がその両肩をがっしりと掴む。

 

「御身を必要以上に卑下することはありません!」

 

「!」

 

「皆それぞれ、人と違って当然! それでこの世の中は成り立っているのです! 大毛利殿には大毛利殿にしかない良いところがあるのです! それを誇った方が健康的です!」

 

「! せ、青臨殿!」

 

 景元が大和の胸に飛び込み、肩を震わせて泣く。

 

「男子といえども、辛い時はあるもの! 某の胸で良ければ、いくらでもお泣き下さい!」

 

 しばらくして落ち着いた景元は大和に頭を下げる。

 

「す、すみません……お見苦しいところを……」

 

「なんのなんの! それでは高島津殿のところへ戻りましょうか!」

 

「はい!」

 

 大和は景元を連れて、小霧のところへ戻る。二人はまだ若干の距離があるものの、とりあえずは仲直りしたようで、揃って丘を下る。大和は満足そうに頷く。

 

「うむ! 一時はどうなることかと思ったが、全て丸く収まったな!」

 

「……全て丸め込んだ?」

 

 鐘の近くから葵が怪訝そうに大和に声をかける。大和が驚く。

 

「うおっ⁉ 上様! い、いつの間にそこに?」

 

「さぎりんと両手を組んで意味深に見つめ合っているときから」

 

「い、いや、あれは別に見つめ合っていたわけでは……」

 

「しかも、返す刀でかげもっちゃんも口説き落とすとは……」

 

「か、返す刀って! 別に口説いていたわけでは……」

 

「手当たり次第だね。そういう人だとは思わなかったよ!」

 

「お、お待ち下さい! ⁉ 足がもつれて……奥義を放った反動がこんな時に……!」

 

「災難でしたね……」

 

「だ、伊達仁殿!」

 

「葵様の誤解は出来る限り解いておきます」

 

「た、助かります」

 

「ですがそれはそれ。青臨大和さん、これはややマイナスポイントですね……」

 

「し、審判はするのですか⁉」

 

「厳正かつ公平な審判をお願いされておりますので……失礼致します」

 

「ぐっ……」

 

 爽もその場を去り、大和は力なく膝をつく。物陰で見ていた金銀は笑みを浮かべる。

 

「ふっ、青色も塗りつぶすことが出来ました……想定通りです」

 

「本当に想定されているのですか……?」

 

 金銀の側で将司が首を傾げる。


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