私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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101番目の女

「すみません、大したものが無くて……」

 

「ああ、奥さんお構いなく。突然お邪魔したものですから」

 

「先程主人から連絡が入りました。間もなく戻るとのことです」

 

「そうですか。いや、ご両親がお揃いの方が何かと話はしやすいものですからな」

 

 そう言って、尾高と名乗った男は葵の母の出したお茶に口をつけた。そんな様子を応接間のテーブルを挟んで、向かい側に座った葵が不機嫌そうに眺めている。

 

「何か私の顔に付いておりますか?」

 

「別に……」

 

 葵はそっぽを向いて、窓の方に目をやる。しばらくすると、慌ただしい音が玄関先から聞こえてきた。

 

「た、ただいま――!」

 

「あ、あなたお帰りなさい!」

 

「すみません! お待たせをしました!」

 

 息を切らしながら、葵の父が応接間に入ってきた。その呼吸が整うのと、葵の母が席に着くのを待ってから、尾高がゆっくりと話し始めた。

 

「改めまして……突然の訪問になって申し訳ありません」

 

 尾高が頭を下げた。葵の父が恐縮する。

 

「いえいえ! そ、それでご用件は……?」

 

「来るべき時が来た、そういうことでございます」

 

「そうですか……分かりました」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 葵が大声を出して会話を遮る。

 

「ちゃんと説明してよ! 訳が分かんないのよ!」

 

「貴女が次の征夷大将軍になられるのです」

 

「そうだ」

 

「そうよ」

 

「あ、そうなんだ~……ってならないわよ! だから説明不足なのよ!」

 

「葵さん、将軍というのはご存知ですか?」

 

「それくらいは分かるわよ」

 

「では、将軍が先日、譲位のご意志を表明されたことは?」

 

「ああ、ネット瓦版でそんな記事見たわね……」

 

「つまりそういうことです」

 

「全然つまってないでしょ! それでなんで女子高生の私が将軍になるのよ⁉」

 

「ふむ、それは私の口から申し上げるよりも……」

 

 尾高が葵の父に目配せする。父は無言で頷くと、葵の方に向き直った。

 

「葵、我が家は……この若下野家は将軍家の遠い親戚に当たるんだ」

 

「ええ⁉ そんなの初耳なんだけど⁉」

 

「初めて言ったからね」

 

「遠い親戚って……?」

 

「今の将軍様から見れば……将軍様の御母君の従妹のご主人のはとこに当たるのが父上……葵のお祖父さんだね」

 

「遠っ! ほぼほぼ他人でしょ、それ⁉」

 

「葵さんの継承順位は……百一番目になりますな」

 

 尾高が自身の手帳を確認しながら呟く。

 

「まさかの三桁台! 二桁ですらないの⁉」

 

「そうですな、残念ながら」

 

「な、なんで私なの? その百人は一体どうしたのよ⁉」

 

「それぞれ諸々の事情がありまして……まず単純に体調面の問題を抱えている方から『なんかイマイチ決定打に欠けるんだよね~』という評価を下された方など様々で……そこで葵さん、貴女が浮上してきたという訳です」

 

「いやいや納得出来ないわ! 大体その『欠けるんだよね~』って言っているのは誰よ⁉」

 

「お偉いさんですかねぇ?」

 

「こっちに聞かないでよ!」

 

「兎に角」

 

 尾高は右手を掲げ、興奮する葵を落ち着かせるようにゆっくりと話を再開した。

 

「誠に勝手ながら、この半年程、貴女の身辺調査をさせて頂きました。学業は優秀、薙刀の大会でも好成績を収めるなど、まさしく文武両道。友人も多く、素行面にも大きな問題無し。何より体調も良好……そしてその凛とした容姿も民草からの支持を受けるでしょう。まあそれはそこまで重要なことではありませんが」

 

「尾行していたのは何なのよ?」

 

「将軍ともなりますと、不逞の輩に襲われる危険性もありますからな、危機察知能力や精神力を試させて頂きました……以上、様々な観点から総合的に判断した結果、貴女様を我らが大江戸幕府第二十五代将軍として迎えさせて頂こうと……」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ、お父さんが継承すべきなんじゃないの?」


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