私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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モデルになってくれ

 そして次の日早速、『天才浮世絵師、橙谷弾七活動再開!』というニュースが巷を駆け巡った。無論、弾七が在籍する大江戸城学園もその例外ではなかった。昼休みにクラスメイトたちがその話題で盛り上がっている様子ベランダから見ていた葵は満足そうに頷いた。

 

「うんうん、皆盛り上がっているね、私たちの活動、いい感じかもね?」

 

「概ね当初の方針通りに会の活動は出来ていると思います」

 

 眼鏡を直しながら爽が答える。

 

「僕は方針通りに褌一丁にさせられたのか……」

 

 そう言って景元がうなだれる。進之助が笑う。

 

「いやあ、しょうゆ会の初仕事、なかなか面白かったぜ、まさか相撲を取ることになるとは思っていなかったけどな、なあ、秀司郎?」

 

「秀吾郎だ……というかお前のクラスは別だろう。何故ここにいる?」

 

「昼休みだから別に良いだろ。そういう細かいことを気にするから、昨日オイラに負け越すんだぜ」

 

「……聞き捨てならんな。昨日の通算成績は自分の勝ち越しだった。記憶力だけでなく、計算も怪しいようだな、本当に高校生か?」

 

「お、なんだ、取り直しといくか?」

 

「返り討ちにしてやる……」

 

「止めなさい! ベランダで何を始める気なのよ、貴方たち!」

 

 葵が二人を注意する。小霧が話題を変える。

 

「しかし若下野さんが、橙谷さんの提案を受けたときはかなり焦りましたわ。大毛利くんたちが向かってきているのを知っていらしたんですの?」

 

「いや、私も知らなかったよ。でもサワっちを見たら、端末を片手に頷いていたから、ああ、何か策があるのかなって思って」

 

「……美術部の部長さんがわたくしたち女子だけで向かうことを不安がっていらっしゃっていましたからね。もしやと思い、一応男子メンバーにも召集をかけておきました。ご覧になったように女性関係は相当奔放そうな方でしたからね」

 

「奔放というか、随分な変態さんでしたわね」

 

「うん、変態だった。写真を見る限りは単なる派手なチャラ男かなって思ったんだけど、あれは……まさに変態だった、相撲のときなんか特に」

 

「相撲はアンタもノリノリだったろうが……」

 

 気が付くと、葵たちの後ろに弾七が立っていた。全身着流しという、制服という概念をほとんど捨て去った服装をしている。

 

「うわ、ビックリした! 弾七さん、学園にいらしていたんですね」

 

「まあ、久々にな、アンタの顔も見たかったしな」

 

「え、まさか怒っていらっしゃいます? ご、御免なさい、変態は言い過ぎました。今後は派手なチャラ男さんとして認識させてもらいます」

 

「大して格上げされていないからな、それ……まあいいや、今日は本当にちょっとしたことを二つほど、挨拶に来たんだよ。まず一つは……アンタらその……しょうゆ会。その会の宣伝イラスト、俺様が描いてやっても良いぜってことだ」

 

「ええ⁉ それは願っても無いことですわね!」

 

「ふむ、これ以上ない宣伝になりますね……ただ……」

 

「ただ……?」

 

 爽が眼鏡を抑えながら尋ねる。

 

「お高いのでしょう?」

 

「ふっ、別にノーギャラで構わねえよ。プロとしてはどうかと思うが、アンタらには色々と世話になったしな」

 

「それはそれは破格の条件ですね、天才浮世絵師に御力添え頂くのは心強いです」

 

「大天才、な」

 

「それでもう一つは何?」

 

「え?」

 

「いや、さっき二つほど挨拶にきたって言ったから」

 

「そ、それはだな……」

 

「何々?」

 

 何やら言いよどんでいる弾七に詰め寄る葵。

 

「……将軍さんよ、アンタにはまたモデルをやって欲しいんだ」

 

「えっ⁉ まだヌードモデルをやれって言うの⁉」

 

 葵の驚いた声に、教室からベランダに向けて視線が注がれる。爽と小霧は冷めた視線を弾七に送る。

 

「懲りない人ですわね……」

 

「執念深い方ですね……」

 

「ち、違う! そうじゃねえよ!」

 

 弾七は慌てて否定する。

 

「何が違うのか。答えによっては……」

 

「待て、黒髪の兄ちゃん! 落ち着け! その背中のものに手をかけるのをやめろ!」

 

 常人でも分かるような殺気を放ち、背中に背負った忍者刀に手を伸ばす秀吾郎を弾七は必死に宥め、落ち着かせる。

 

「アイツ忍者だったのか。何だか妙ちきりんなもの背負ってやがるとは思ったけどよ」

 

「制服の上に半纏姿のお前も十分妙だがな……」

 

 呑気な声を上げる進之助に景元は呆れる。

 

「秀吾郎、止めなさい」

 

「……御意」

 

「弾七さん、続きをどうぞ」

 

「お、おう」

 

 葵の一声によって、秀吾郎は殺気を抑え込んだ。弾七は戸惑いながらも話を続ける。

 

「何も今すぐにって訳じゃねえし、一糸まとわぬ姿を見たいとか言う訳じゃねぇ……俺様が俺様自身の納得のいく絵を描けるようになったその時に、アンタにまた美人画のモデルになって欲しいんだ」

 

「納得のいく? 今現在じゃ駄目なの?」

 

「駄目だな、今はまだ自信がねえ……」

 

「自信が無い?」

 

 弾七はそう言って目を伏せたが、すぐにまた葵をじっと見つめてこう言った。

 

「アンタの持つ真っ直ぐさ! 凛々しさ! そして……美しさ! アンタの魅力を最大限に描き切るには、俺様もまだまだ力不足だ。だから、その実力が俺様に備わった時は、モデルになってくれないか?」

 

「うん、良いよ」

 

「そ、そうか!」

 

「でも私ってそんなに描きにくい顔しているかな?」、

 

「え?」

 

「どう思う、さぎりん、サワっち?」

 

「い、いやそこでわたくしに振られましても……」

 

「ノーコメントとさせて頂きます……」

 

「どういう受け取り方をすればそうなるんだよ……」

 

 力が抜けた状態の弾七の肩に、秀吾郎が無言で手を置いた。

 

「火消しとして消火の必要性を感じたか?」

 

 景元の問いに、進之助が肩をすぼめて答える。

 

「いや……燃え盛る前に自然に消えたって感じだな。オイラの出る幕じゃねえや」

 

 そんな周囲の様子には気付かず、葵はベランダから空を仰いで、声を上げた。

 

「将愉会、順調、順調! 本日も晴天なり!」

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