私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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二人の黄

 数日後……八重洲にある北町奉行所内に設けられた特設会場に葵たちが到着した。

 

「ふむ……なかなか立派なつくりですわね」

 

 小霧が会場を見渡して、満足そうに頷く。

 

「この会場作りの指図は伊達仁さんが?」

 

「大まかには。実際にはまた黒駆君が一夜でやってくれました」

 

 爽に促され、秀吾郎が恥ずかしそうに一礼する。

 

「あいつ……もはや忍びの役目からかけ離れていないか?」

 

 景元の呟きには葵も同意だった。

 

「しかし……吃驚しました。」

 

 葵たちの後をついてきていた南武が驚きの声を上げた。

 

「内寄合の場を聴衆入りの公開ディベートに変えてしまうとは……しかも公事所(くじしょ)……いつも我々奉行が訴訟を取り扱うこの場をディスカッションのスペースにしてしまうという……さらに最も驚くべきことが、聴衆の皆さんの座席です!」

 

 そう言って南武は公事所の南側を指し示す。

 

「お白洲ですよ! 取り調べの際に容疑者を座らせる場所ですよ! 善良な一般市民はまず座りません! ここに皆を座らせるというのは流石に如何なものでしょうか?」

 

「それなりの人数を収容するにはこの部屋がベストだと判断致しました」

 

 爽の堂々とした答えに、南武は気圧された。秀吾郎が畳み掛ける。

 

「お白洲ですが、公募したところ、数多の傍聴希望が殺到しました。恐れながら、開かれた奉行所をアピール出来るよい機会ではないでしょうか?」

 

「毎年六月頃に奉行所は公開しています。奉行所の職員の家族などに限った形ではありますが……よってこれ以上のアピールの必要性はないと思うのですが……」

 

「まあ固いこと言うなって、南武。面白そうでいいじゃんか」

 

「え⁉」

 

 南武に声を掛けた男の顔を見て、葵は驚いた。

 

「そっくり……!」

 

「はははっ、そりゃ双子だからね」

 

「双子?」

 

「そう、俺は黄葉原北斗(きばはらほくと)。北町奉行をやっているよ、上様とはお初だね~♪」

 

「兄上……! 何という口の利き方を!」

 

「だから南武は頭固いんだって、一般生徒と同様に接して欲しいって話なんでしょ」

 

「そうは言っても……!」

 

「私、双子って実際見るのは初めてかも……そっか、髪型がちょっと違うのか」

 

 葵は言い争う黄葉原兄弟の顔をマジマジと見比べる。二人とも髪の色は黄色だが、弟の南武がきっちりと整った髪型なのに対し、兄の北斗はやや無造作なヘアースタイルである。

 

「兄弟で町奉行なんて凄いね、二人とも」

 

「まあね、俺ら、優秀だから」

 

「兄上……こういった場合、少しは謙遜なさるとか……!」

 

「ええ~? だって事実じゃん」

 

 自分より小柄な少年たちがやいのやいの言い合う光景を葵は微笑ましく見つめる。

 

「仲が良いんだね、意外だな」

 

「意外? 何で?」

 

「いや、黄葉原君……南武君から色々と意見がぶつかり合っているって聞いていたから」

 

「ああ~俺、仕事と私生活はしっかりと分けるタイプだから」

 

「そ、そうなんだ」

 

「だから、今日の公開ディベートも手加減無しの本気でいくよ。……あ、部下が呼んでいるわ。じゃあ、また後でね~」

 

 そう言って北斗は会場を一旦後にした。南武が葵に頭を下げる。

 

「も、申し訳ありません。兄がとんだ御無礼を……!」

 

「いや、それは別に良いんだけどさ、随分と性格が違うんだね」

 

「兄は昔からあの調子です。この度、町奉行という大変重大なお役目を頂いたことで、多少なりとも自覚が芽生えるかと思ったのですが……」

 

「まあ自分らしさを貫くのも大事だと思うよ」

 

「貴女はもう少し自覚を持った方が良いかと思いますわ」

 

 葵の後ろから声がした。葵が振り返ると、そこには五橋八千代がいた。

 

「あ、五橋さん、体の方はもう大丈夫なの?」

 

「お陰様で……いつまでも休んではいられませんもの」

 

「今日はまさか来てくれるとは思わなかったよ」

 

「貴女方主催というのがいささか気に入りませんが……衆人が目にする公開の場で行政について話し合うというのは有意義だと思ったからです」

 

「そうなんだ」

 

「……では準備があるので、これで」

 

 踵を返して用意された控室に向かおうとする八千代。その後についていた有備憂が葵に小声でこう告げる。

 

「先日は本当にありがとうございました……お嬢様はああいう御気性なので、素直にお礼を、という訳には参りませんが……本日の公開ディベートは将愉会の皆さんと同じ陣営で参加させてもらうということで御礼に代えさせて頂ければと……」

 

「は、はあ……それはわざわざお気遣い恐縮です」

 

「憂! 何をしているの! 早くなさい!」

 

「は、はい、只今! 失礼します」

 

 憂は葵に一礼し、慌てて八千代の後を追いかけた。

 

「同じ陣営か……」

 

「ああは言っているが、真の狙いは余を論戦で打ち負かすことであろう」

 

「あ……」

 

 今度は氷戸光ノ丸が葵に声を掛けてきた。

 

「氷戸さん、本日は御参加下さりありがとうございます」

 

「ふむ、余としても、そなた達主催というのはやや気に食わんが、今回の議題が議題だ。立場上参加せざるを得まい」

 

「……」

 

「繰り返しになるが、今日は余と五橋殿との議論が主となるであろう。そなたたちは精々邪魔をせぬことだ」

 

「……」

 

「なんだ、何を黙っている?」

 

「もしかして今の話を立ち聞きしていたんですか? 女の話に聞き耳をたてるなんてあまり良い趣味していませんね」

 

「~~! 失礼する!」

 

 やや憤慨した様子で光ノ丸がその場を立ち去っていく。

 

「私も準備を……って、有備さんかな? 良い香水使っていたな。今度教えて貰おう」


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