私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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俳句バトルロイヤル~中の句~

「ここは?」

 

 着いた先には大きな広場があった。葵の問いに爽が答える。

 

「こちらは吹上馬場です。主に馬術の訓練や競馬などが行われています。今もちょうどレース中ですね」

 

 見ると、数頭の馬がゴール板に向かって、激しい競り合いを見せていた。設けられたスタンドの席から観客の声援が飛ぶ。

 

「行けー! 3番! 差せ!」

 

「あ、あれは弾七さん⁉」

 

 葵が観客席で鬼のような形相で叫ぶ弾七を発見して驚く。その手には馬券のようなものを固く握りしめている。

 

「随分と必死だな、絵師さん……」

 

飛虎が呆れ気味に呟く。光ノ丸が顎に手をやりながら、爽に向かって訝し気に尋ねる。

 

「あの者は……二留しているとはいえ、確か未成年ではなかったか?」

 

「……では、こちらが第二の俳句ポイントになります」

 

「いや、無視をするな」

 

「こちらの馬場の様子をご覧になって、先程と同様に思い浮かんだ句をそれぞれ一句ずつご披露頂きます。では、どうぞ、思い付いた方から挙手をお願い致します」

 

「……」

 

 しばしの沈黙が訪れる。すると、スタンドの方から悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

「あ~!」

 

 見てみると、レースの決着がついたようであり、スタンドの観客がそれぞれ千差万別の反応を見せている。弾七はまるでこの世の終わりのようにうなだれていた。

 

「外したんだ、弾七さん……」

 

 葵は小声で呟いた。光ノ丸が静かに手を挙げる。

 

「氷戸さま、お願いします」

 

「人生の 悲喜こもごもを 馬に乗せ」

 

「……判定と講評を」

 

 一超が『4点』の札を上げる。

 

「賭け事の 意味を世間に 問うたもの」

 

「ふっ、これで合計7点か、悪くない」

 

「ちぃ……はい!」

 

「日比野さま」

 

「馬速し 世の流れにも よく似たり」

 

「判定は?」

 

 一超は『4点』の札を上げる。

 

「やや稚拙 なれど先より 悪くなし」

 

「よし!」

 

「……少々判定が甘くないか?」

 

 ガッツポーズを取る飛虎の横で、光ノ丸が不満そうな声を上げる。

 

「う~む……」

 

「お嬢様、あれをご覧下さい!」

 

「何ですの、憂? あ、あれは⁉」

 

 憂が指し示した方には、レースを終えて引き上げる馬たちの姿があった。馬たちに跨る騎手の一人が被っていたヘルメットと着けていたグラスをややずらした。その顔を見て、八千代と葵がほぼ同時に驚いた。

 

「赤毛の君⁉」

 

「し、進之助⁉ なにやってんの、アイツ⁉」

 

「……人並外れた運動能力の高さを買われて、騎手のアルバイトを時たまやっているようですね」

 

 葵の疑問に爽が答える。

 

「い、色々やってんのね……」

 

「はい‼」

 

 八千代が勢いよく手を挙げた。爽は八千代を指名した。

 

「……五橋さま、どうぞ」

 

「颯爽と 馬駆る姿 愛おしき」

 

「判定をお願いします」

 

 一超は『4点』の札を上げて、講評を口にした。

 

「素直さが 心に響く 良き句かな」

 

「やりましたね、お嬢様!」

 

 憂が拍手を送る。

 

「ふふっ、これも愛の力の成せる業ですわ」

 

「何を言っているのやら……」

 

 どうだとばかりに胸を張る八千代を光ノ丸が冷めた視線で見つめる。

 

「ま、また出遅れてしまった……」

 

 葵が腕を組んで考え込む。その様子を見た爽が大きな声で呟く。

 

「あら? あそこにいらっしゃるのは……」

 

「え? ……あ、あれは⁉」

 

 葵が目をやると、馬場の中央で一頭の馬に二人で跨る黄葉原兄弟の姿があった。

 

「はい! それじゃあ今から、『兄弟で乗馬して障害物を飛び越えてみた』、やっていきたいと思いま~す!」

 

「あ、兄上! 二人同時に跨る必要がどこにあるのですか? 邪魔ですから撮影されるのなら降りて下さい!」

 

「視聴者は臨場感ある映像を求めているからさ、そこんとこヨロシク!」

 

「単純に前が見えなくて危ないのです‼」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ兄弟を見ながら、爽がさらに大きな声で呟く。

 

「まあまあ、これは世にも珍しい双子の乗馬姿ですね。こんな偶然があるのですね~」

 

「物凄い棒読み! わざとらしい!」

 

「そんな偶然があってたまるか⁉」

 

「はい!」

 

「どうぞ葵様!」

 

 八千代と飛虎の抗議を無視して、爽は挙手した葵を指名する。

 

「配信に 勤しむ双子 いと珍し」

 

「……」

 

 沈黙する一同に戸惑う葵。

 

「あ、あれ……?」

 

「……判定は?」

 

 一超は首を傾げながら、『1点』の札を上げる。

 

「ええっ⁉ 何で⁉」

 

「悪くなし 惜しまれること 字余りか」

 

「えっ⁉ ……あ~しまった!」

 

 詠んだ句の数を数え直し、字数が多いことに気付いた葵が頭を抱えた。

 

「ほ~っほっほっほ! 策士策に溺れるとはこのことですわね!」

 

「策という程の大したものでもないだろう……」

 

「よっしゃ、次のポイントに急ごうぜ」

 

「……それでは最後のポイントへとご案内を致します。葵様もどうぞお顔を上げて下さい、参りましょう」

 

「う、うん。はあ……イージーミスをしてしまった……」

 

 葵はやや肩を落としつつ、皆の後にトボトボとついていった。


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