私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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選挙当日

 そして、生徒総会当日、学内選挙が行われた。体育館の舞台上で、生徒会長の万城目が口を開く。

 

「……以上をもって『真の将軍』選挙の開票を終了致します。結果……投票第一位に輝いたのは若下野葵さん! おめでとうございます! 大江戸城学園高等部の生徒が選出した真の将軍にふさわしい方は貴女さまです!」

 

 万雷の拍手が沸き起こる中、舞台上の椅子から立った葵は恐縮しながら、生徒たちに向かって頭を深々と下げた。

 

「では、若下野さん、こちらで喜びの声をお聞かせ下さい」

 

 万城目が葵をス舞台中央の演台へと招く。葵はゆっくりとその位置に着き、舞台下に並ぶ生徒たちに向き直った。全員ではないが、何割かの生徒が脊髄反射的に頭を下げた。葵は苦笑した。

 

「えっと、すみません、お顔をお上げ下さい……」

 

 頭を下げていた生徒たちがゆっくりと顔を上げる。

 

「初めに今回の結果、大変ありがたく、また、光栄に存じます。この約三か月間の様々な活動が皆さんに評価して頂けたこと、嬉しく思います。ただ、私はこれで名実ともに征夷大将軍だと胸を張るつもりは毛頭ございません!」

 

 葵の話を聞く生徒たちの顔に戸惑いの顔が浮かぶ。

 

「皆さんご存じのように、私は生まれながらの将軍でもなんでもありません。継承順位はまさかの百一番目。数か月前まで極々普通の女子高生でした。しかし、これも何かの縁だと思い、微力ではありますが、将軍としての職務を精一杯こなしてきました。そんな中、多くの人たち、例えばクラスメイトの方たちがこんな頼りない私を力強く支えて頂きました。そして忘れてはならないのが、『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』、通称『将愉会』の皆さんです! 皆さんの時には突拍子もない行動に面食らうことも正直ありましたが、皆さんのお陰で今、私はこの場に立つことが出来ています。ここで、少しお時間を頂きますが、会員のみなさんに簡単なお礼の言葉を述べさせていただきます。まず副会長の伊達仁爽さん!」

 

 すると、スポットライトの光が爽のもとに当たった。

 

「さわやかな名前とは裏腹に大分腹黒い提案の数々、少し引くことも何度かありましたが、いつも冷静に会を良い方向に導いて下さいました。そして、忘れてならないのが、この学園で初めて私と友達になって下さいました! ありがとうございます!」

 

「い、いいえ恐れ多いことであります」

 

 生徒総会運営の為、並んでいる一般学生たちの後ろを忙しく駆け回っていた爽は不意の言葉に驚きながら立ち止まり、葵や皆に向かって礼をした。

 

「そして会長補佐の高島津小霧さん。いつも元気よく、会やクラスを引っ張っていってくれました。本当に助かりました。ありがとうございます!」

 

「べ、別に大したことなどしていませんわ!」

 

 爽と同様に総会運営の為、走り回っていた小霧は突然の壇上からの葵の言葉に目頭を抑えながら応え、周囲に向かって礼をした。

 

「副会長の大毛利景元君、女装とか相撲とか……色々ありがとう!」

 

「い、いや、もうちょっと何かあったんじゃないか……」

 

 景元は納得がいかない表情を浮かべつつ、周りに向かって礼をした。

 

「そして、この会には欠かせない九つの色がいました……」

 

 葵が体育館の2階奥ののキャットウォークを指し示す。そこに並ぶ九人の男たちにスポットライトが当たる。

 

「その持ち前の運動能力で私の窮地を救って下さいました! 赤宿進之助くん!」

 

「な、なんか照れるな……よせやい、ライト当てなくて良いからよ」

 

「才能の活かし方というものをその身を以って教えて下さいました! 橙谷弾七さん!」

 

「大天才に相応しい紹介だぜ」

 

「時折放つ鋭い意見も大江戸の町への愛の裏返し! 黄葉原北斗くん!」

 

「考え過ぎだと思うけどなあ~ここから動画撮っても良い?」

 

「終始真面目な姿勢が町奉行としての信頼を大いに高めました! 黄葉原南武くん!」

 

「こ、このような場で紹介されるほどの人間ではありません、恥ずかしい……」

 

「柔軟な思考で、学園側と生徒側の架け橋になって下さいました! 新緑光太先生!」

 

「架け橋になるよう誘導された気が否めませんが……存外悪い気分ではありませんね」

 

「世論に新しい流れを生み出して下さいました! 涼紫獅源さん!」

 

「偶にはこういう演出をして頂くのもなかなか粋ですわね」

 

「文化的な風を吹き込んで下さいました! 藍袋座一超くん!」

 

「梅雨空も 晴れ渡るほど 爽快な」

 

「体育会の力強さも加えて下さいました! 青臨大和さん!」

 

「不肖、この青臨大和! 上様の御為に働けること、望外の極み!」

 

「陰に陽に……主に陰に支えてくれました! 黒駆秀吾郎くん!」

 

「こ、このような華やかな場、勿体無うございます……」

 

「……以上の皆さんのお力添えがあり、私はこうして皆さんに貴重な票を投じて頂けるような人物になれたのではないかと思っております! 本当にありがとう! そして、改めて、投票して頂いた皆様にも感謝申し上げます。私、若下野葵、まだまだ未熟なところばかりではありますが、これからも皆様のご指導ご鞭撻を賜りつつ、立派な征夷大将軍になれるよう精一杯努めて参ります! どうぞ宜しくお願いします! ……本日は誠にありがとうございました!」

 

 そう言って頭を下げた葵に対し、生徒たちは再び万雷の拍手を送った。頭を上げた葵は笑顔でそれに応えた。他の候補者三人が葵のもとに近寄る。

 

「まあ、今回は俺の負けだ。ただ腑抜けたことしたら承知しねえぞ」

 

「日比野君、ありがとう……」

 

「そのお手並みじっくりと拝見させて頂きますわ、上様」

 

「五橋さん、お手柔らかに」

 

「ふん、精々足元を掬われないことだな」

 

「御忠告痛み入ります、氷戸さん」

 

「校内瓦版のものです! 御四方が手を重ねられた写真を撮りたいので、恐れながらもっと寄って頂きますか⁉」

 

「は、はい」

 

 葵たちは若干戸惑いながらも、ステージ中央に寄ってカメラの前でポーズを取った。

 

「!」

 

 葵の頭上でくす玉が割れた。その中から『真の将軍おめでとう!』と文字が書かれた垂れ幕が下がる。葵はそれを見上げて確認すると、笑顔を浮かべた。しかし、次の瞬間……

 

「危ない!」

 

 くす玉を上から吊るしていた縄が突如緩んて、垂れ幕ごと下に向かって落下したのである。そこに秀吾郎がすぐさま駆け付け、垂れ幕を足で蹴って押し退けた。

 

「上様、大丈夫ですか⁉」

 

「う、うん……」

 

「舞台周りの準備は生徒会の方では⁉ この不手際は一体どういうことですの?」

 

「も、申し訳ない……」

 

「高島津落ち着け、皆も見ている……」

 

 万城目に詰め寄る小霧を景元が落ち着かせる。爽が冷静に話す。

 

「とりあえず、生徒の皆さんには教室にお戻り頂きましょう」

 

 静かになった体育館には将愉会の面々だけが残った。

 

「縄が緩んだのではありません、何者かによって切断されていますね」

 

「切断⁉」

 

 秀吾郎の思わぬ言葉に葵が驚く。腕を組んだ大和が叫ぶ。

 

「ということは……上様たちを狙っての凶行か⁉」

 

「な、なんですって⁉」

 

「何故にそんなことを……」

 

「恐らく、葵様が将軍位にとどまることを快く思わない輩の仕業でしょう。いよいよ形振り構わなくなってきましたか」

 

「おいおい、氷戸の旦那たち以外に反対勢力がいるってのかよ?」

 

 弾七の言葉に爽が頷く。

 

「恐らくは……氷戸さまたちのいずれかがこういった手段をとるならば、氷戸さまたちを巻き込まない方法をとるはずです」

 

「ちょいと嫌な予感がしますわね」

 

「確かに……衆人環視のもとでこのようなことを行うとは、ブレーキが利かなくなってきたという証拠かもしれませんね」

 

 獅源の呟きに光太が同調する。黙り込む進之助に北斗が尋ねる。

 

「どうしたの進之助っち? なにか心当たりでもあるの?」

 

「い、いや、そういう訳じゃあねえけどよ……似たようなことがあった記憶がな」

 

「……」

 

「黒駆さん? どうかされましたか?」

 

「いえ……なんでもありません」

 

 南武の問いかけに秀吾郎は首を振った。大和が葵に向き直って尋ねる。

 

「……して、上様、如何致しますか⁉」

 

「ええっ⁉ い、如何するって……」

 

「まさか賊徒をこのままには捨て置けますまい!」

 

「そ、それはそうかもしれないけど……」

 

「お命じ下されば、成敗致しますぞ!」

 

「相手の正体が分かるんですの?」

 

「皆目分からん!」

 

「自信満々で言うことか……」

 

 景元が大和に呆れる。一超が静かに口を開く。

 

「一つの手 敢えて懐 開けてみる」

 

「……成程、その手もありますか……黒駆君、ちょっと」

 

「は、はい……」

 

 爽が秀吾郎を呼び寄せ、耳元で囁く。

 

「……それではお願いします」

 

「分かりました」

 

 秀吾郎はその場から姿を消した。

 

「サワっち、一体どうする気?」

 

 葵の問いに爽が静かに答える。

 

「ご説明致します。皆様も耳を貸して下さい」

 

 爽が話を始めた。

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