私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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軍議してみた

「いやいや、参加するって……」

 

「危険ですよ?」

 

「危険は承知だよ!」

 

 葵は躊躇なく答える。猛時が渋い表情を浮かべる。

 

「そうは申しましても……」

 

「分かった。葵っち、お願い出来る?」

 

「上様!」

 

「人手が欲しいのは確かでしょ? それで? しょうゆ会っていうのは何人いるの?」

 

「えっと……私も含めれば13人だね」

 

 葵は指を折りながら答える。紅は満足気に頷く。

 

「十分ね」

 

「それじゃあすぐに集合をかけるよ」

 

「お願い。猛時も良いわね?」

 

「そのようにお決めになったのならば無駄な反論はしません……」

 

「理解が早くて助かるわ」

 

「作戦の幅が広がると考えれば有りか……」

 

 猛時はため息混じりに小声で呟く。そして約一時間が経過した。

 

「葵様、お待たせしました」

 

「あ、サワっち! ごめんね、急に呼び出しちゃって」

 

「構いません。事態が事態ですので」

 

 眼鏡を掛けた長い黒髪の女性が颯爽と部屋に入ってくる。そして、その女性は紅の前に正座をして、頭を下げた。

 

「不作法ではありますが、鎌倉の公方様に恐れ多くもご挨拶をさせて頂きます。わたくし、将愉会の副会長を務めさせて頂いております、伊達仁爽(だてにさわやか)と申します」

 

「何度か書状やメールのやりとりをしたわね。名前に覚えがあるわ」

 

「光栄なことでございます」

 

「サワっち、他の皆は?」

 

「別室に控えて頂いています。現在は星ノ条様と顔合わせをされております」

 

 そしてしばらくすると、猛時が難しい顔をしながら葵たちのいる部屋に戻ってきた。

 

「どうだった、猛時?」

 

「……時間が惜しゅうございます。軍議をさっさとまとめてしまいましょう」

 

 猛時は座りながら鎌倉の地図を広げてみせる。

 

「相手は?」

 

「ここです。八幡さまから南東にある御所に陣取っています」

 

 紅の問いに猛時が即答し、話を続ける。

 

「御所の警備はまだ万全ではありません。近づきさえすれば……」

 

「近づきさえすればね……」

 

 紅がため息をつく。爽が小声で葵に説明する。

 

「古来より鎌倉は西、北、東の三方を山に囲まれ、残る南方は海に面した、いわば天然の要塞です。攻め難く、守り易いと言われている土地です」

 

「そうなんだ……」

 

「南から小舟で由比ヶ浜に上陸して……見つかるわよね」

 

 紅は自らの意見をすぐに否定し、頬杖を突く。

 

「……恐れながら隠し通路のようなものは無いのでしょうか?」

 

「……成程、脱出に使う用の通路を逆に行くってわけね」

 

 爽の言葉に紅は頷く。

 

「猛時、どうかしら?」

 

「……いくつかあるにはありますが、どの通路も老朽化が激しいために閉鎖しております。最近新しい抜け道を用意しましたが、まだ整備が済んでおりません……」

 

「そう……」

 

 猛時の言葉に紅は腕を組む。即座に次の考えを述べる。

 

「敢えて鎌倉七口(ななくち)を行くってのはどう?」

 

「鎌倉七口?」

 

「山を切り開いて道を通した切通(きりどおし)と言われる道があります。その内の主要な七つの切通を鎌倉七口と呼称します」

 

 首を捻る葵に爽がささやく。猛時が地図を見ながら少し考えて答える。

 

「……御所に一番近い巨福呂坂(こぶくろざか)は、既に警備がまわっていると思われます。その次に近い亀ヶ谷坂(かめがやつさか)は亀もひっくり返ると言われている程の急勾配です、攻めるには不向きです」

 

「じゃあ、その西に位置する化粧坂(けわいざか)は?」

 

「古の名将も苦戦を強いられたほどです。お勧めは出来ません……西の大仏(だいぶつ)、南東の名越(なごえ)は険しい道です。これも推奨は出来兼ねます」

 

 猛時の説明を受け、紅は暫し考え込んでから呟く。

 

「残るは一番西の極楽寺(ごくらくじ)極楽寺か、それとも一番東の朝夷奈(あさいな)か……」

 

「その二択というのならば、朝夷奈の方が御所から距離があります。ある意味時間との勝負でもある今回は極楽寺から攻めるが良いかと……伊達仁殿は如何お考えでしょうか?」

 

 猛時が爽に話を向ける。

 

「……この場合は土地勘のある方のお考えが最良かと。成程、極楽寺からならば、二手あるいは三手に分かれて進むということも出来るかと思います。例えば、一軍……というには些か心許ない人数ですが、最も多い組に海岸沿いを進んで、相手の注意を引きつけてもらい……残りの軍勢が御所を目指す、というのは?」

 

「陽動ね、シンプルだけどそれがベストかもね。猛時、策を立ててみてもらえる?」

 

「畏まりま……」

 

「ちょっと待って」

 

 葵が声を上げる。紅が尋ねる。

 

「どうしたの葵っち?」

 

「皆少し難しく考え過ぎなんじゃないかな?」

 

「考え過ぎ?」

 

「……何か妙案がございますでしょうか?」

 

 猛時が葵の方を向いて尋ねる。

 

「いや妙案って程の大袈裟なことじゃないけどさ……これは」

 

 葵は地図を指差す。

 

「それは……」

 

「成程……」

 

「……盲点でございました」

 

 葵の提案に三人が驚く。

 

「じゃあ、葵っち。具体的な作戦は?」

 

「えっと……」

 

 葵の考えた作戦を聞いた三人はそれぞれの反応を示す。

 

「ふむ……それならば相手の虚を突けるかと思います」

 

「いや、こちらも呆気に取られていますが……」

 

「敵を欺くには何とやらと言うわ。その作戦で行きましょう」

 

「上様⁉ よろしいのですか?」

 

 心配そうな視線を向ける猛時を余所に、紅が勢い良く立ち上がって叫ぶ。

 

「いざ鎌倉へ‼」


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