私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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夏合宿への下準備~魅力編~

「……何を撮っているんだよ」

 

 進之助が自らに対して端末のカメラを向ける北斗にやや不機嫌そうな声を上げる。

 

「いや、なんか進ちゃんが面白そうなことを始めそうだなって思ってさ」

 

「別に面白いことは何も無えよ……」

 

「まあ、とにかくしばらく撮影はさせてもらうよ」

 

「……好きにしろよ。お前も呼び出した内の一人だからな」

 

「内の一人? ってことは他にも? あ……」

 

 北斗が進之助の視線の先を追うと、そこには獅源と小霧の姿があった。

 

「これはまた意外な組み合わせで……」

 

「ちょっと北斗さん! わたくしを映さないで下さる⁉」

 

「え~つれないことを言うね」

 

 小霧の言葉に北斗は唇を尖らせる。

 

「アタシは別に構いませんけどね」

 

「おお~流石は当代随一の人気役者! 器が違う! そのプライベートを収めた動画なんて、もう大バズり間違いなしだよ~」

 

「ふふっ、フアンの皆様に喜んで頂けるのなら何よりです」

 

 嬉しそうに弾む北斗の様子を見て、獅源は穏やかな微笑を浮かべる。小霧はそんな二人を無視して話を進める。

 

「それで? 赤宿くん、本日わたくしたちを呼び出したわけとは?」

 

「……ここだ」

 

 進之助が指し示す先には大型のショッピングビルがそびえ立っている。

 

「ん? 買い物かしら?」

 

「行けば分かる」

 

 進之助がビルに入っていく、三人もやや戸惑いながらその後に続く。そして、進之助はあるフロアで足を止める。

 

「ここだ……今日の目的は」

 

「へえ……」

 

「ほう……」

 

 そこまで意外というわけでもなかったのか、北斗と獅源はリアクションが今ひとつ薄かったが、小霧は露骨に戸惑ってみせた。

 

「って、だ、男性用水着売り場⁉ こ、こんな所にわたくしを連れてきて、一体どうするつもりなのですか⁉」

 

「おお~っ、小霧ちゃん、良いリアクションだね~バッチリだよ~」

 

「だから、わたくしは映さなくて結構!」

 

 笑いながらカメラを回す北斗の手を小霧は振り払おうとする。

 

「それで、ここにアタシらを呼んだ理由っていうのはなんなんです?」

 

 獅源が冷静に進之助に問う。進之助はためらいがちに口を開く。

 

「オ、オイラの水着選びを手伝って欲しいんだ!」

 

「え……?」

 

「承知しました」

 

「オッケー♪」

 

「えっ、戸惑いなし⁉」

 

 小霧は進之助の意外な提案をすんなりと受け入れる二人に驚く。

 

「じゃあ、そういうことで高島津の姉ちゃんも頼むぜ!」

 

「ちょ、ちょっと待った! 目的は何ですの⁉」

 

「目的って……野暮なこと聞くねえ……」

 

「大事なことでしょう⁉」

 

「魅力を高めたいんだよ、言わせんな」

 

「魅力……」

 

 小霧は葵のことをぼんやりと思い浮かべ、一応納得する。

 

「要は女子の気を引きたいと……」

 

「はっきり言っちまえばそうだな。それには女子の意見を聞くのが一番だ」

 

「わ、わたくしでよろしいんですの⁉」

 

「心配するな。他にも呼んである」

 

「他にも?」

 

「ちょっと憂? こんな所にわたくし用はなくってよ……って、赤毛の君⁉」

 

 そこに有備憂に連れられた五橋八千代が現れた。八千代は進之助の顔を見て固まる。

 

「おおっ、憂ちゃん! 悪いな、わざわざ呼び出して」

 

「別に構いませんが……」

 

「憂! 貴女、赤毛の君から名前で呼ばれるなんていつの間にそんな仲に⁉」

 

 八千代が憂の両肩をガッシリと掴んで揺らす。憂は面倒そうに答える。

 

「アルバイト先が一緒なだけです……! それ以上でもそれ以下でもありません!」

 

「っていうことは? 赤毛の兄さん、審査員が三人になるってことですか?」

 

「まあ、そういうことになるな」

 

 獅源の問いに進之助が頷く。

 

「じゃあ、アタシらも水着を試着しましょうか? 北斗ちゃん」

 

「ええっ⁉ なんでそうなるの⁉」

 

「まあまあ、折角の機会ですから♪」

 

「うわっ! わ、分かったよ! じゃあ、カメラ撮影宜しく!」

 

 獅源に試着室に連れていかれそうになった北斗は端末を憂に手渡した。

 

「わ、私が⁉ わ、分かりました」

 

「妙なことになりましたわね……」

 

 小霧が片手で頭を抑える。数分後、試着室の中から獅源が声を掛ける。

 

「お二人さん、準備は出来ましたか?」

 

「ああ」

 

「良いよ~」

 

「じゃあ、女子陣には講評をお願いしますよ……オープン!」

 

 試着室のカーテンが開き、水着姿の三人の男が立っていた。

 

「これは……シンプルなサーフパンツ型ですわね。北斗君、似合っていますわよ」

 

「ははっ、ありがとう♪ これは水陸両用だから普段履きも出来そうだよね」

 

 小霧の講評に北斗が素直に礼を言う。

 

「はう……赤毛の君の肉体をこんな間近で見られるなんて……ああ、あの六つに割れた腹筋の一つになりたい……」

 

「お、お嬢様! 水着の講評を!」

 

 憂が見当違いなことを言い出す八千代をたしなめる。

 

「まあ、無理もないさね……こんなに見事に鍛えられた肉体を目にしちゃ……」

 

「うおっ、お前さん、こっちに入ってくんない! ってか、体に触んな!」

 

 獅源が隣の試着室にいる進之助の体を撫で回す。

 

「はうあっ! 半裸の美青年が赤毛の君の肉体を綺麗な手であれこれと撫で回している⁉ ここはひょっとして天国⁉」

 

「お嬢様! 落ち着いて下さい!」

 

 憂が八千代の興奮を鎮めようとする。進之助が獅源の手を振り払ってカーテンを閉じる。

 

「つ、次の水着に行くぞ!」

 

 数分後、カーテンが開かれる。

 

「これは……ブーメランパンツというものですわね。より……なんと言いますか……男性らしさが強調されるというか……目のやり場に困ってしまいますわね……特に獅源さんがその恰好でいらっしゃると見てはいけないものを見ている気になるというか……」

 

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておきますよ」

 

 顔を赤らめながら懸命に講評する小霧に獅源はウィンクする。

 

「ぶほあっ! そんな大胆にたくましい太ももを乱暴にさらけ出されると、こちらの心臓がどうにかなってしまいますわ! そ、それに鼠蹊部があらわになってしまっていますわ! それはいくらなんでもという話ですわ!」

 

「お嬢様! どうか落ち着いて下さい!」

 

「確かにこの太ももは危険さね……」

 

「おおいっ! だから触んなって!」

 

「はうあっ! 半裸の美男が赤毛の君の肉体をしなやかな指でムニュっと摘まんでいる⁉ ここがもしかして楽園⁉」

 

「お嬢様、気を確かに!」

 

「つ、次だ、次!」

 

 カーテンが閉じられて、数分後、開かれる。小霧が驚愕する。極端なまでのVネックのタイツで乳首と股間しか隠れていないという破廉恥な恰好だったからである。

 

「ど、どうでい……!」

 

 震えながら呟く進之助に小霧が突っ込む。

 

「そんな羞恥心にうち震えるくらいなら最初から着ないという選択肢を選びなさいよ!」

 

「こ、これもアイツの気を引く為だ!」

 

「別の意味で引きますわよ⁉」

 

「そんなことは無えはずだ……ってええっ⁉」

 

 進之助は驚く。両隣の獅源と北斗が普通の水着を着ていたからである。

 

「お、お前ら、何で着ていねえんだ⁉」

 

「いや、流石にそこまでは……人としての最低限の尊厳は保ちたいっていうか……」

 

「人間には恥じらいというものがありますよ」

 

「おめえが選んだんだろうが!」

 

「へぼあっ! そんなあられもない恰好を見せられたらこちらの身が保ちませんわ! 色々な所がはみ出してしまいそうでとても見ていられない! で、でも視線が勝手にそちらに釘づけになってしまいますわ!」

 

「お嬢様!」

 

「こういうのを着こなせるのも赤毛の兄さんくらいさね~」

 

「だ、だから触んな!」

 

「はうあっ! 半裸の美形が赤毛の君の肉体を艶やかな掌でベタベタと触っている⁉ 人類の理想郷はここにあったのですね⁉」

 

「お嬢様……」

 

 もはや諦めの境地に達した憂は静かに首を左右に振る。

 

「撮影どうもありがとう♪ いや~思っていたより良い画が撮れたな~」

 

 着替えを終えた北斗が端末を憂から受け取り、その場を去る。

 

「わたくしも失礼させて頂きますわ……」

 

 小霧も大騒ぎする進之助たちを置いて、その場からゆっくりと歩き去った。


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