私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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なんか雇ったって

「これは若下野さん、お忙しいところを大変恐縮です。どうぞお掛けになって下さい」

 

「いえ……」

 

 部屋に入った葵は軽く会釈をしながら、促されて席に座る。

 

「すみません、本来は私の方が伺わなくてはならないところをわざわざお越し頂いて……」

 

「それは構いません。生徒会長のもとに生徒が伺う方が自然なことですから」

 

「そう言って頂けると助かります」

 

 葵を上座に座らせ、自らは対面の席に座った右目に掛けた片眼鏡が特徴的なやや小柄な男性―――この大江戸城学園高等部の生徒会長、三年生の万城目安久(まきめやすひさ)は恐縮しながら頭を下げる。万城目は冷茶の入ったグラスを差し出しながら話し始める。

 

「最近の将愉会の活動は如何でしょうか?」

 

「お陰さまで概ね順調です」

 

「聞いた話によると、薙刀部の助っ人もされたとか」

 

「怪我人が何人か出て部員不足に陥り、このままでは大会に出ることが出来ないということでしたから……幸い私は経験者だったもので」

 

「かなりのご活躍だったとか」

 

「それ程のことではありません」

 

「対戦相手に征夷大将軍さまがおられるのは、周りもさぞ驚かれたことでしょう?」

 

「試合中は面や防具を着けますし、皆それぞれ自分やチームのことに集中しています。案外気が付かれないものですよ」

 

 葵が微笑む。

 

「そういうものですか」

 

「ええ」

 

「……会室として手配させて頂いた教室は手狭ではありませんか?」

 

「正直に言えば……会員も十人以上ですからね。ただ、毎日会員全員が揃うというわけではありませんので。活動場所も基本外になりますから、そこまで気にはしておりません」

 

「そうですか、もう少し広い教室などがあれば即手配する様にいたします。と、言いたいところなのですが、なにぶん生徒会というのもそこまで万能な組織ではありませんので……」

 

「いえいえ、本当にお気になさらず!」

 

 再び頭を下げる万城目に対し、葵は笑顔で手を左右に振った後、真顔になって尋ねる。

 

「それでお話というのは?」

 

「はい?」

 

「わざわざ呑気に世間話をするために私を呼んだわけではないですよね?」

 

「ふむ……流石に察しが宜しいですね」

 

 万城目が微笑を浮かべる。

 

「何か御用でしょうか? 将愉会への依頼?」

 

「いえ、ご依頼といいますか、ご提案させて頂きたいことがありまして……」

 

「提案?」

 

「ええ……どうぞ入ってきて下さい」

 

 万城目が生徒会長室と隣接する会議室に繋がるドアに向かって声を掛ける。葵もそちらに視線をやる。しかし、何も反応が無い。万城目が首を傾げる。

 

「? おかしいですね? 隣に控えてもらっていたのですが……どうぞ、お入り下さい!」

 

「もう入っていル……」

 

「うわっ⁉ びっくりした!」

 

 葵が驚く。自身の背後の壁際に金髪碧眼のスタイルの良い女性が腕を組んで立っていたからである。万城目が苦笑する。

 

「せめて一声かけて下さいよ……」

 

「余計な口は利かない主義ダ……」

 

「えっと……」

 

 葵が戸惑いながら、万城目とその女性を見比べる。万城目は咳払いをして話す。

 

「内々に済ませましたが、先の有備さんの襲撃、そして、これは我々にも秘密だったようですが、先日鎌倉で一騒動あったようですね?」

 

「! い、いや、一体なんのことやら……」

 

 葵はわざとらしく首を傾げる。

 

「おとぼけになられても無駄ですよ。調べはついております。鎌倉の公方様、真坂野紅様へご助力され、御所の奪還に貢献されたとか」

 

「よ、よくご存知で……」

 

「これくらいの情報も満足に収集出来なければ、生徒会長という職は務まりません」

 

 万城目が片眼鏡をクイッと上げる。葵が下を向いて小声で呟く。

 

「生徒会長ってそういうものだったかな?」

 

「とにかくです、若下野さん、いえ、上様」

 

 万城目の言葉に葵が頭を上げる。

 

「生徒会としては大事な御身を御守りするための体制を強化する必要性があるという結論に達しました」

 

「はあ……」

 

「城内や城下はともかく、今回の江戸の地を離れて行う夏合宿。そこに不逞の輩が襲ってくる可能性は否定できません」

 

「不逞の輩……」

 

「ええ、そこで彼女です」

 

 万城目が壁際に立つ女性を指し示す。俯いていた彼女は頭を上げる。真ん中分けにしたショートボブの髪が微かに揺れ、意志の強そうな眼差しで葵を見つめる。

 

西東(さいとう)イザベラさん、腕利きのガンマンです」

 

「ガンマン?」

 

「銃器の扱いに長けていらっしゃいます。それ以外はごくごく普通の女子高生です」

 

「それは普通とは言いませんよ⁉」

 

「彼女をこの夏合宿中のボディーガードとして雇いました」

 

「雇った⁉」

 

「ええ、傭兵さんですから」

 

「傭兵……」

 

「ご心配なく。腕は確かです」

 

「そこは別に心配していませんよ!」

 

「信頼出来る筋からの紹介ですから」

 

「どんな筋を持っているんですか……」

 

 葵は不安気にイザベラを見つめる。イザベラは呟く。

 

「受け取ったギャラの分はきっちりと働ク……」

 

「そ、そう、宜しくね、西東さん……」

 

「イザベラで良イ……どうせ西東は仮名のようなものダ……」

 

「なんか、仮名とか言ってますけど⁉」

 

「簡単に素性を明かしては傭兵というのは務まりません。プロ意識の高さが窺えますね」

 

「何を納得しているんですか⁉」

 

 うんうんと頷く万城目に対し葵は声を上げる。気を取り直し、葵はイザベラに尋ねる。

 

「学年とクラスは? それとご出身はどちら?」

 

「その都度変わル、雇い主の意向に沿ってナ。学籍や戸籍の改竄など造作も無イ……」

 

「不逞の輩だ、この人!」

 

「まあまあ、物は試しと言いますから、騙されたと思って……」

 

「騙されたらそこで終わりなんですよ!」

 

「あ、私はこの後用事があるので、これで失礼させて頂きます」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 万城目は生徒会室を出る。女子高生兼征夷大将軍と、女子高生に扮する傭兵が残される。

 

「な、何なのよ一体……」

 

 葵は両手で頭を抱える。


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