私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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車中にて

                  参

 

「夏合宿、まさかこんなに朝早い出発とは……」

 

 葵がバスの車内で眠い目をこすりながら呟く。

 

「高等部の学生や教職員のほぼ全員が参加する行事ですから、送迎のバスだけでも二十台以上になります。朝の渋滞を避ける為にもやむを得ないことです……」

 

 葵の隣に座る爽が淡々と答える。

 

「まあ、それは良いんだけどさ……」

 

「何かご不満が?」

 

「……なんで私だけ補助席なのかな?」

 

 葵が自分の膝を叩いた。他にも座席が余っているのに彼女だけが補助席である。

 

「……ご説明をよろしくお願いします」

 

 爽が葵を挟んで隣に座るイザベラに声を掛ける。イザベラは面倒そうに口を開く。

 

「……この手の大型バスでもっとも安全性かつ生存率の高い座席は中央右側とされていル……要は真ん中通路側ということだナ」

 

「じゃあサワッちに一つ詰めてもらっても良いじゃん」

 

「窓に近いとそれだけ狙われル……」

 

「はい?」

 

「狙撃の危険性というものを全く考慮に入れていないナ……」

 

「そりゃそうよ。だって狙撃されたことなんてないもん」

 

「あったら困りますけどね」

 

 葵が唇を尖らせる横で爽が苦笑する。イザベラがため息をつく。

 

「……とにかく、その座席がベストダ……」

 

「ちなみに車体の方は?」

 

 爽がイザベラに尋ねる。

 

「先程入念に確認しタ。爆発物の類は心配なイ……」

 

「それは良かった」

 

「ねえ、サワっち」

 

「なんでしょうか?」

 

「もしかして合宿中、ずっとこの調子?」

 

「念には念をです。御身になにかあってはいけませんから」

 

「心配し過ぎだと思うけどな~」

 

 葵は腕を組んで首を捻る。爽が小声で囁く。

 

「鎌倉殿にさらわれたこともあるではありませんか」

 

「うっ……まあ、そんなこともあったけど」

 

 葵は苦い表情を浮かべる。

 

「本人の前でこういうことを言ってはなんですが、イザベラさんのことはあまりお気になさらず、合宿を有意義に過ごすことをお考え下さい」

 

「そうダ、私は影のようなものだと思エ……」

 

 イザベラはそう言いながら、拳銃の手入れを始める。

 

「隣でそんなことされたら、気になってしょうがないよ!」

 

「葵様、車内ではお静かに」

 

 爽が葵をたしなめる。葵は声量を落として話題を変える。

 

「……ザべちゃんのことはこの際良いとして、もう一つ気になることがあるんだけど」

 

「尾成金銀さまのことですね?」

 

「そうそう」

 

「確かに懸念材料ではあります」

 

「まあ、乱暴な手段はとってこないとは思うけど……」

 

「黒駆君にも探りを入れてもらいましたが……」

 

「なにか分かったの?」

 

「……なにかよからぬことを企んでいるらしい、ということが分かりました」

 

「それじゃ分かってないのと同じじゃん……」

 

葵はガクッとうなだれる。拳銃の手入れを手際良く終えたイザベラがボソッと呟く。

 

「先手必勝という言葉もあル……消すカ?」

 

「発想が物騒!」

 

                  ♦

 

 一方、別のバスの車内では尾成金銀が不敵な笑みを浮かべていた。

 

「金銀お嬢様、なにか楽しいことでもありました?」

 

 金銀の隣に座る短髪の男が声を掛ける。

 

「これから起こるのです……将司、昨日渡したアレにはしっかり目を通しましたか?」

 

「ああ、はい。金銀お嬢様力作の『合宿のしおり』」

 

「しおりって! そのような呑気なものではありません! なんですか、私は遠足を楽しみにしている小学生ですか⁉」

 

「冗談ですよ。寝ている人もいるんですから」

 

 将司と呼ばれた男が金銀を落ち着かせる。

 

「……あれは私が将軍職に就任するための秘策を記したいわば『作戦書』です」

 

「……ホチキス止めで、クオリティがまさに小学校の遠足のしおりでしたけど」

 

 将司が小声で呟く。

 

「なにか言いました?」

 

「いいえ、なにも」

 

「とにかく手筈は確認したのですね?」

 

「ええ、それは勿論」

 

「結構、ではそのようにお願いしますよ」

 

「……しかしですね、金銀お嬢様?」

 

 将司が怪訝な顔で尋ねる。

 

「なんですか?」

 

「よく一週間も時間が取れましたね? 対局は全てキャンセルしたのですか?」

 

「まさか、対局は予定通りこなしますよ」

 

「ええっ⁉」

 

「だってそうでしょう? 不戦敗なんてつまらないですもの。ファンの方々をがっかりさせてしまってはプロ失格です」

 

「し、しかし……地方の対局はどうするのですか?」

 

「その辺りは各連盟に無理を言って、江の島にすぐ戻れる距離の会場にさせてもらいました。スポンサーの皆様も理解してくれました。これも日頃の行いの賜物でしょうか」

 

 そう言って、金銀は口元を抑えてフフッと笑う。

 

「ふ、二日制の対局はどうするのです?」

 

「一日、いえ、半日で終わらせればそれで済むことです」

 

 金銀は事もなげに言ってのける。

 

「そ、そんな無茶な……」

 

「無茶をせねば、将軍になど到底なれません」

 

「……本気なのですね?」

 

「当たり前です。戯れにこんなことは致しません」

 

 将司が笑みを浮かべる。

 

「なんだか、本当に将軍職に就任なされるような気がしてきました」

 

「予感を現実にしてみせるのが、真のプロフェッショナルというものです」

 

 金銀は扇子を大袈裟に広げ、将司の顔に指し示す。

 

「なんとも頼もしいお言葉です」

 

「改めて……この夏合宿、しっかりとお願いしますよ?」

 

「はい! この山王将司(さんのうまさし)、金銀お嬢様の為に全力を尽くします!」

 

 将司の力強い言葉に満足そうに頷いた金銀は窓の外に目をやる。

 

「さて、若下野葵さん……貴女はどのような手を指してくるのでしょうか?」

 

 金銀は再び不敵な笑みを浮かべながら呟く。江の島が見えてきた。

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