私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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勝負を行うにあたり

「こんなに立派な部屋があるんだね……」

 

 葵が感心したように呟く。

 

「ありとあらゆるオリエンテーション活動に柔軟に対応出来るように施設を拡張していった結果……ですね」

 

 爽の説明に葵が頷く。

 

「成程……今日はここで授業を受ければ良いんだね?」

 

「授業と言いますか……勿論監督の先生も付くことは付きますが、何よりも楽しんで取り組むことが優先されます」

 

「楽しんで取り組む……課題とかは無いの?」

 

「ええ、自由ですね」

 

 葵が首を傾げる。

 

「いつも、どこかしら窮屈な部分は感じていた……」

 

「そうでしょう」

 

「だけど、いざ自由だ! と言われても、正直戸惑ってしまうよ」

 

「ふむ、それもまた無理のない話ですね……」

 

「なんか作るものとか決まってないの? 調理実習でしょ?」

 

 そう、葵の言ったようにこれは調理室で行われる調理実習なのである。実習で作る料理が何も決まっていないというのもいささか妙な話である。爽はためらいがちに口を開く。

 

「……どうやら一部の問題児が混ざるという話もあるようですが、この教室には基本前期の家庭科の授業はみな優秀だったものたちがほとんどです。葵さまも含めてですね」

 

「……少し不穏なワードが聞こえたね」

 

 葵が顔をしかめる。

 

「葵さまに至っては、全くお気になさらずに調理実習という名のオリエンテーションを楽しんで頂ければ構いません」

 

「楽しむねえ……」

 

「例えば、同じ班同士でおいしいスイーツを食べさせ合うとか……」

 

「なるほど……」

 

「勉強やスポーツに頑張っているご学友になにかお昼の差し入れを作るとか……」

 

「それもいいかもね……」

 

「もちろん、決めるのは葵さまです」

 

「景もっちゃんに『これ、さぎりんの作ったスイーツだよ♡』って持っていくのは?」

 

「葵さま……なかなか面白いアイデアですがアウトですね」

 

「アウトか~」

 

 葵は頭を抱える。

 

「ふむ、調理実習で勝負カ……」

 

 葵たちから離れた所でイザベラが呟く。

 

「そうよ」

 

 イザベラの隣で憂が頷く。

 

「少し気になることがあるナ……」

 

 イザベラは腕を組んで首を捻る。

 

「気になることってなによ?」

 

「……」

 

「そんなこと言って、怖じ気づいたんじゃないでしょうね?」

 

「恐怖心などというものはとうの昔に捨てていル……」

 

 イザベラが鋭い眼光で憂を睨む。

 

「じょ、冗談よ……そんなに圧を込めないで頂戴……」

 

「気になることとは勝負の方法ダ……」

 

「勝負の方法?」

 

「そうダ」

 

「料理対決なんだから、どちらがより美味しい料理を作れるかどうかってことでしょう」

 

「それは分かっタ」

 

「ならいいじゃない」

 

「ただ、それを誰が判定すル?」

 

「! そ、それは……」

 

「まさか決めていなかったのカ……?」

 

 イザベラが呆れ気味に首を傾げる。

 

「うちのお嬢様にでもお願いしようかと思っていたんだけど……」

 

「五橋八千代カ……」

 

「ええ」

 

「そういえば姿が見えないナ」

 

「今は補習授業中よ」

 

「それは意外だナ、優等生だとばかり思っていたガ」

 

「唯一、苦手な科目があってね……赤点を取ってしまったのよ」

 

「フム……」

 

「授業の要点をまとめたノートをお渡ししたんだけど、しっかりと目を通さなかったみたいね……全く詰めが甘いのよ……」

 

 憂が目を閉じて首を左右に振る。

 

「では、判定員が不在ということだナ?」

 

「まあ、そうなるわね」

 

「それならバ……」

 

 イザベラが教室を見渡し、納得したように頷いて呟く。

 

「決めたゾ」

 

「え?」

 

「若下野葵に頼むとしよウ」

 

「ええっ⁉」

 

 憂が驚きの声を上げる。

 

「何をそんなに驚くことがあル?」

 

「い、いや、だって……」

 

「だっテ?」

 

「だ、伊達仁さんとかは駄目なの?」

 

「悪くはないガ、どうせならショーグンに頼むのも一興ダ」

 

「そ、そうは言っても……」

 

「ノリの良い奴ダ、頼めば承諾してくれるだろウ。ヨシ……」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 憂は葵の元に行こうとするイザベラを止める。

 

「なんダ?」

 

「つまり、上様の舌を満足させる料理を作るということね?」

 

「そうなるナ」

 

「心を掴めということになるわね?」

 

「多少大袈裟な気もするが、そうダ」

 

「分かったわ」

 

「ならば頼んでくル」

 

「なかなか面白そうなこと考えているじゃねえか、お嬢さん方」

 

「きゃっ⁉」

 

「!」

 

 いつの間にかイザベラたちの近くに橙谷弾七が立っていた。

 

「い、いきなり声をかけないで下さいよ、橙谷さん……」

 

(気配を感じなかっタ……このチャラ男出来ル……)

 

「調理実習が一緒になれたのは幸運だと思っていたが、距離を縮めるには、もう一工夫欲しいと思っていたところなんだ……その料理勝負、俺も混ぜてもらうぜ」

 

「「!」」

 

 突然の弾七の申し出にイザベラたちは驚いた。


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