私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~   作:阿弥陀乃トンマージ

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食後の企み

                  伍

 

「金銀お嬢様、対局お疲れ様です」

 

 合宿二日目の夕食後、宿舎のロビーで将司が挨拶する。

 

「ご苦労様」

 

 宿舎に戻ってきた金銀が応える。

 

「早くても明朝のお戻りかと思いましたが……」

 

「関係者からの連絡を聞いて、速攻で対局を終わらせてきました」

 

「ええと……タイトル戦ですよね?」

 

「そうよ」

 

「二日間の予定ではなかったのですか?」

 

「昨日も言ったでしょう、半日で切り上げてきたのです」

 

「ええ……」

 

 涼しい顔で言ってのける金銀に将司が戸惑う。

 

「何を戸惑っているのですか?」

 

「二日間行わないと、例えば、主催者やスポンサーなどに失礼に当たるという話を聞いたことがあるのですが……?」

 

「私の日頃の行いが良いからでしょうか、特に苦言を呈されたりはしませんでしたわ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「それに一日で終わらせてはいけないというルールは存在しません」

 

「へ、へえ……」

 

「変に手加減をしたり、だらだらと引き延ばす方がかえって失礼だと私は思いますが」

 

「な、なるほど……」

 

「お腹が空きました。食堂に参りましょう」

 

「は、はい……」

 

 スタスタと歩く金銀に将司がついて行く。

 

「……ご馳走様でした」

 

「食後のお茶になります」

 

「ありがとう」

 

 お茶を持ってきた将司に金銀は礼を言う。金銀はお茶を一口飲んで尋ねる。

 

「……それで?」

 

「はい?」

 

「橙が塗り潰された件です」

 

「あ、ああ……」

 

「一体どのような経緯があったのです?」

 

「も、申し訳ありません。色々と探りを入れてみたのですが、極めて断片的な情報しか掴めませんでした……」

 

「別に構いません」

 

「え?」

 

「断片的でも情報があるのなら結構、後はそれらをパズルのピースの様に繋ぎ合わせれば良いだけのことです」

 

「そ、そうですか……」

 

「私はパズルゲームの類も得意ですから」

 

 金銀は小首を傾げ、こめかみの辺りを人差し指でトントンと叩いてみせる。

 

「は、はあ……」

 

「それで? 掴んだというピースは?」

 

「え、ええと……『料理』、『南米』、『相撲』です……」

 

「はっ?」

 

「『料理』、『南米』、『相撲』です」

 

「聞こえてはいます。なんですか、南米って」

 

「南アメリカ大陸のことで……」

 

「それは分かっています。何故その並びなのですか?」

 

「色々と探ってみた結果、これらのワードが浮かび上がったのです……」

 

「ふむ……」

 

 金銀が顎に手を当てて考え込む。

 

「い、如何でしょうか?」

 

「料理と南米、あるいは料理と相撲はなんとなく結びつきます。ですが、南米と相撲……?」

 

 金銀が首を傾げる。

 

「そこは相撲じゃなく、ブラジリアン柔術ですよね~」

 

「南米ですか」

 

「格闘技でなければ、サッカーの方が分かりやすいですよね」

 

「南米ですか」

 

「醤油味が好きです」

 

「煎餅ですか……ちょっと、黙っていて下さる?」

 

「す、すみません……」

 

 しばらく考え込んでから、金銀は首を左右に振る。

 

「……これは難解ですわね」

 

「す、すみません……」

 

「いえ、とにかく上様の橙谷弾七氏への信頼が揺らいだのならば結構です」

 

 金銀が満足気な笑みを浮かべる。将司が尋ねる。

 

「お、恐れながら……」

 

「なにかしら?」

 

「こ、今回のことは金銀お嬢様にとっても想定外のことだったかと思われますが……」

 

「確かに。それは否定しませんが、それが何か?」

 

「計画が変更になるのはお気に召さないかと思いまして……」

 

「まあ、戸惑いが全く無いと言えば、嘘になりますが……このことを前向きに捉えます」

 

「前向きに……ですか」

 

「ええ、そうです」

 

 金銀は力強く頷く。

 

「そうであればよろしいのですが……」

 

「話を変えましょう。将司、明日以降の上様のご予定は?」

 

「ええっと……こちらをご覧下さい」

 

 将司が端末を操作し、表示された画面を金銀に見せる。

 

「ふむ……ここのスケジュールで、私とご一緒しますわね……これは予定通りに進められそうですわね……しかし!」

 

「ど、どうしましたか?」

 

 急に大声を出した金銀に将司が驚く。

 

「……ここはもう一押しと行きましょうか」

 

「もう一押しですか?」

 

「ええ……ちょっと耳をお貸しなさい……」

 

 金銀が将司にそっと耳打ちする。

 

「……ええ?」

 

「大半の学生の目につくように今言った文章を流しなさい」

 

「そ、それは必要ですか?」

 

「将愉会のあの御方たちを釣り出すには必要です」

 

「あの御方たち……」

 

「ええ、きっと乗ってくるはずですわ」

 

「早い方が良いですね、早速情報を流してきます!」

 

 将司が立ち上がる。

 

「お願いね」

 

「はっ、失礼します」

 

「さて、この攻めの一手……どうなることかしら?」

 

 お茶を啜りながら、金銀は不敵な笑みを浮かべる。


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