アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第23話(2)カントリっ子

「伊織、こうしてまた合流出来て嬉しく思うわ」

 

 アレクサンドラがビバ!オレンジ号のブリッジで『桜島』の艦長高島津伊織を迎える。

 

「ええ、でもまたどうして大阪湾に?」

 

「……もちろん各自の補給が一番だったが、大富岳の次なる動きは畿内だと予想される。ここからならば迅速に対応出来ると判断した」

 

 小金谷が淡々と答える。伊織が頷く。

 

「なるほど……」

 

「高島津艦長、貴艦のGofEへの協力、改めて感謝する」

 

 小金谷が伊織に向かって頭を下げる。伊織は恐縮しながら応対する。

 

「い、いいえ、元々の想定通り……と言ったら少し語弊があるかもしれませんが、この艦の運用の主目的は治安の維持・安定です。ですから気にしないで下さい」

 

「……次になにかあった場合――もちろん、GofEや日本の防衛軍も動くが――両艦には大いに活躍してもらいたい、頼りにさせてもらいます。よろしくお願いします」

 

「こちらこそお願いします」

 

「期待には応えます」

 

 小金谷の言葉に伊織とアレクサンドラが凛とした声で答える。

 

「それじゃあ、次の曲、行きますよ~♪」

 

「うおおおっ!」

 

 ビバ!オレンジ号のラウンジの特設ステージで『カントリオ娘』のライブが行われている。リーダーであるミカンの言葉に、ナーが応える。イヨカンが話す。

 

「わたしたちの新曲になります♪」

 

「し、新曲⁉ それは予想外のセトリだ!」

 

 大洋がオレンジ色のペンライトを片手に驚く。ポンカンが続いて話す。

 

「この曲は作詞がミカン、作曲がイヨカン、振り付けをワタシ、ポンカンが行いました♪」

 

「こんな忙しい時期に、作詞作曲、果てはダンスの振り付けまで⁉」

 

「ホンマ、その多才さは銀河系に響き渡るで~!」

 

「それでは、聞いて下さい……せーの」

 

「「「『わたし柑橘系、あなた鈍感系』!」」」

 

 トリオの声が揃い、曲の前奏が流れる。

 

「うおおおっ! 興奮してきたで!」

 

「さっきからずっとそうだろうが!」

 

 もはや雄叫びに近い声を上げるナーを玲央奈が注意する。

 

「もう辛抱堪らん! 脱ぐか!」

 

「脱ぐな! 本格的に変質者になる気か!」

 

 玲央奈がフンドシ姿になろうとする大洋を諌める。

 

「新曲やけど、コール&レスポンスは完璧にせなアカンで! 大洋!」

 

「もちろんだ! ナー! カントリオ娘に恥をかかせてはカントリっ子の名折れ!」

 

「なんだその心構えは! カントリっ子ってなんだよ! そもそもフェアリーのおっさん、この世界に馴染み過ぎだろう!」

 

「もう歌が始まる! 集中や!」

 

「ああ、準備は万端だ!」

 

「だからなんでオレを挟んで盛り上がってんだよ!」

 

「これが“アイドル”というものか……なかなか興味深いものだね?」

 

 カナメの問いに日下部が腕を組んだままでぶっきらぼうに答える。

 

「ふん、くだらんのう……」

 

「……そのわりには徐々に前のめりになってきていない?」

 

「こ、これは、昔の血が騒ぐというか……」

 

「昔の血?」

 

「な、なんでもないわ!」

 

「~~♪」

 

「……あ~大洋、やっぱりフンドシ姿になっちゃったよ、普通のライブなら出禁だね……」

 

 後方で椅子に座ってライブの様子を見ながら閃が呆れ気味に笑う。

 

「ナーがあそこまでハマるとは……フェアリーの琴線は分からんな」

 

 閃の隣で美馬が首を傾げる。

 

「主語が大きくない? 一緒にされたら他のフェアリーが迷惑だよ」

 

「確かにそうかもな……ところで、シャイカからのメッセージの件だが……」

 

「……先ほど解読したよ、こういう内容だった」

 

 閃は情報端末を美馬に見せる。

 

「これは……小金谷さんや艦長連中には報告したのか?」

 

「まだだよ。メッセージが送られてきたこと自体伏せている。シャイカが向こうでどういう意図を持って動いているのかが不明だからね。こちらを混乱させる罠かもしれないし」

 

「それが賢明な判断と言えるかもしれんな、恐らく次の戦いでも奴とアルカヌムが出てくる。その相手は俺とテネブライがする。お前らは自分たちのことに集中しろ、電光石火はまだ合体機能が戻らないのだろう?」

 

「うん、あの志渡布の話なら数日で戻るって話だったけど……」

 

「次の戦いに間に合うとは限らん。三機それぞれで戦うことも想定しておくべきだ」

 

「なかなか難しいこと言うね……」

 

「トリオならちょうど良い先輩がいるだろう」

 

 美馬は近くに座る『トリオ・デ・イナウディト』のリーダー、松下克長を指し示す。

 

「ん? なんだ?」

 

「戦場でのトリオとしての振る舞い方の教授を頼む、俺は失礼する」

 

 美馬はその場を離れる。松下が苦笑する。

 

「いや、振る舞い方って言ってもな……」

 

「松下さん、お願いします」

 

 閃が珍しく真面目な表情で頼んできたため、松下も居住まいを正して答える。

 

「そうだな、なんと言っても連携の練度が大事だな」

 

「無理ですね」

 

「そ、即答⁉ そんな難しいことは言っていないだろう?」

 

「おっしゃることは正しいと思いますが、練度を高めるには時間が圧倒的に足りません。それに私が言うのもなんですが、我々は自由奔放が過ぎるので……」

 

「一応自覚はあったんだな……まあ、ならばそれでいいんじゃないか、奔放でも」

 

「! 奔放でも良い……逆転の発想ですね」

 

 松下の言葉に閃は頷く。

 

「うどんめちゃくちゃ上手いやん……」

 

 ラウンジの片隅で隼子はうどんを啜っている。

 

「挨拶が遅れたぜよ! よろしくな、飛燕隼子さん!」

 

 日焼けした体格の良い男性が隼子に声をかける。隼子は慌てて立ち上がって答える。

 

「外原慎次郎さん! こ、こちらこそすみません、ご挨拶が遅れまして……」

 

「色々とバタバタしておったやきねえ、無理もないぜよ。ああ、食事の邪魔をしてしまって申し訳ない。どうぞ食べてくれ。昔から『腹が減っては戦は出来ぬ』と言うきに」

 

「はあ、それでは失礼して……」

 

 食事がひと段落したところで外原がステージの方を見ながら改めて口を開く。

 

「アイドルライブというものもなかなかええものだねえ、老若男女が皆盛り上がっちょる。異星人やフェアリーまで、ペットを連れた少女も楽しんじゅう。ええ光景ぜよ」

 

「はあ……って大洋、他の客に運んでもらってるやん、ロックとかのライブちゃうやろ……」

 

「クラウドサーフっちゅうやつか! はははっ! 流石は大洋、客席を泳いでいるな」

 

「羽目を外し過ぎやろ……」

 

 隼子は頭を抱える。外原はひとしきり笑った後、真面目な顔で隼子に向き直る。

 

「……電光石火とやらはまだ合体できないと聞いちょる。飛燕さんの機体は飛行機能を有しているそうやな。わしの『彼方』と編隊を組むというような戦況も訪れるかもしれん、その時はよろしく頼むぜよ」

 

「はい! あの『空援隊』隊長と共に戦えること、光栄に思います!」

 

「はははっ! まあ、気楽に行こう!」

 

 再び立ち上がって敬礼する隼子の肩をポンポンと叩き、外原はその場を離れる。一方その頃、作戦室では土友が地図とにらめっこしている。

 

「……奈良では特に反応は見られなかったという。ならば移動したということか? 京阪、滋賀と動くと予告していたが……そうか、そういうことか! ……ああ、和さん、大富岳の進路が分かりました!」

 

「ふむ……住民の避難は完全に完了。とりあえず目下の心配は無くなったな」

 

 ビバ!オレンジ号のブリッジで小金谷が頷く。アレクサンドラが呟く。

 

「しかし、補給完了次第緊急出動とは……流石に二日酔いのクルーはいないけど」

 

「この時間帯、この場所で間違いないんだな、土友?」

 

「ええ、移動速度などを計算に入れても間違いありません」

 

 小金谷の問いに土友は自信たっぷりに答える。警報が響く。セバスティアンが報告する。

 

「! 大富岳がここから南東に現れました!」

 

「へえ……? よおここに来るって分かったなあ?」

 

 大富岳から志渡布の声が流れてくる。土友が答える。

 

「白々しい……貴様が言ったのは日本の遷都の順番だ、奈良、京阪、滋賀と来れば次はここ、京都だろう!」

 

 京の街を後方に守りながら、ビバ!オレンジ号と桜島が並んで空中に浮かぶ。

 

「まあ、流石に察しがつくか……」

 

「ここで何を企む!」

 

「真大和国の首都はどこが相応しいか、色々と調べた結果、やはりこの京都っちゅう場所がベストという判断に至りました。よって、この街を頂きに参上しました」

 

 小金谷の言葉に志渡布が答える。

 

「そんなことはさせん! ここに今からGofEと日本の防衛軍のそれぞれの大部隊も駆け付けてくる! お前らに勝ち目は無い!」

 

「それはどうかな?」

 

 志渡布が笑うと同時にセバスティアンが叫ぶ。

 

「小金谷様、畿内各地で機妖が大量発生! 各部隊が足止めを喰らっている模様です!」

 

「なんだと⁉」

 

「そういうこっちゃ、君ら二隻と地元の部隊くらいならなんとでもなる……」

 

「な、何を!」

 

「まあ、油断大敵とはよく言ったものやからな、面白味には欠けるけれども、さっさとケリをつけさせてもらうで……はああっ!」

 

「強力なエネルギー上昇を確認! こ、これは!」

 

 土友が絶句する。大富岳の前方に巨大な九尾の狐が出現したのである。

 

「さて……」

 

「なっ……!」

 

「驚いたか? これが僕の式神や」

 

「し、式神だと⁉」

 

「志渡布が操っている模様です!」

 

「これは結構力を消費してしんどいからな……出逢って早々やけど終わらせるで!」

 

「尻尾の一本の先端部分にエネルギーが集中しています! ビームの類を撃つ模様!」

 

「真なる国の礎になってもらうで……神の一撃を喰らえ! ん⁉」

 

「なっ⁉」

 

 志渡布も小金谷も驚く。高速でこの場に接近する存在を感知したのである。

 

「だ、誰や⁉」

 

「あ、あいつらは!」

 

 三機のやや大型の戦闘機が現れる。それぞれ紅色、橙色、水色のカラーリングをしている。その内の紅色の戦闘機から女性の声がする。

 

「時間通りにカムヒア! ドキドキドッキング!」

 

 次の瞬間、三機の戦闘機が合体し、一体の巨大ロボットとなる。

 

「『トライスレイヤー』、参上‼」

 

 紅色主体の巨大ロボットが空中でポーズを決める。志渡布が驚く。

 

「紅色ってことは……『フリートゥモロークラブ』のリーダー、大毛利明日香か!」

 

「『鎌鼬‼』」

 

 トライスレイヤーの振るった薙刀から斬撃が飛び、狐の一尾を鋭く切り裂く。

 

「なっ⁉ か、神に傷を付けるとは……」

 

「……あれ、神斬っちゃった?」

 

 全身紅色の派手なパイロットスーツに身を包み、これまた派手な紅色のヘルメットを被る女性がビバ!オレンジ号のモニターに映り、いまいちやる気の感じられない口調で呟く。


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