アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第25話(4)激動の決着

「くっ、また出てきたわね!」

 

「ふん!」

 

 九尾の狐が走り出し、戦艦二隻との距離を詰める。

 

「前進してきました!」

 

「ありったけの砲撃を集中させて!」

 

 アレクサンドラの指示通り、ビバ!オレンジ号が集中砲撃を放つ。

 

「ふふふ……」

 

 九尾の狐の巨体を包むようなバリアが展開され、砲撃が跳ね返される。

 

「なっ⁉ バ、バリア⁉」

 

「障壁っちゅう方が正しいかな? まあどっちでもええけど」

 

 志渡布の余裕たっぷりな声が流れる。九尾の狐は尻尾の一つを振り上げる。

 

「ビームを撃つつもり⁉」

 

「と見せかけて~!」

 

「ぐぅ!」

 

 狐が尻尾を振り下ろし、ビバオレンジ号の艦体を殴りつける。

 

「こういう使い方も出来るんやで」

 

「くっ……伸縮自在……それが九本も同時に動いている……厄介ね」

 

「尻尾を全部始末せなアカン!」

 

 マッチョなフェアリー、ナーの声が響き渡る。アレクサンドラが問う。

 

「つまり、各個撃破しろってこと? セバスティアン?」

 

「……確認したところ、尻尾それぞれにも障壁が発生しているようです……それを破るのは決して容易ではありません」

 

「せやから一本の尻尾にこっちの主力級を一体ぶつけるんや!」

 

 セバスティアンの言葉にいらついたようにナーは己の考えを述べる。

 

「むう……」

 

「迷っている暇はないで! そうこうしている内に巨大な尻尾に叩き潰されるで!」

 

「各機順次発艦! 目標は九つの尾!」

 

 ナーの意見を容れたアレクサンドラが指示を飛ばす。伊織がフォローする。

 

「桜島の部隊も同様です! 発艦し、まず九つの尾を狙って下さい!」

 

「ちなみにやけど……中途半端な攻撃を加えたら、あの尻尾は簡単に再生しよるからな。各自ありったけの火力を集中させて、尻尾を派手に吹っ飛ばすくらいでないとアカンで!」

 

「無茶をおっしゃいますね……」

 

 ナーの言葉に伊織が苦い顔で呟く。

 

「姉上! ここはうちに任せたもんせ!」

 

「幸村! って、ええ⁉ なにをやっているの⁉」

 

 伊織がモニターを見て驚く、鬼・極がダークホースに跨っていたからである。

 

「ちょっと馬を借りました!」

 

「馬扱いするな! この機体は『ダークホース』というれっきとした名がある!」

 

 下半身の馬の部分のパイロット、梅原菊が憤慨する。

 

「キックさんの言う通りです! 事実誤認は止めて下さい!」

 

 上半身の人の部分のパイロット、多田野一瞬も抗議する。

 

「事実誤認とかお前が言うな! 小さい『ッ』をつくるな、アタシの名前は菊じゃ! ……お前、後で見ちょれよ……お仕置きやからな」

 

「はい! ごめんなさい! ありがとうございます!」

 

「お礼を言うな! 気持ちの悪い!」

 

「……そのお仕置き、うちにもやってくれんか?」

 

「はあっ⁉ 何を言い出す!」

 

「いや、ちょっとばかり高さが欲しゅうて……」

 

 幸村が機体に指を差させる。尻尾の根元に近い部分を差していたので、梅原も理解する。

 

「そういうことか!」

 

「頼む!」

 

 鬼・極が跨っていたダークホースから飛ぶ。ダークホースはすぐさま反転し、後ろ脚を思い切り蹴り上げる。その後ろ脚に鬼・極が足を乗せ、勢いを利用して高く舞い上がる。

 

「モード『鬼神』発動! ……勢いも高さも十分! 喰らえ! 『砕岩』!」

 

「!」

 

 鬼・極の振り下ろした金棒は凄まじい破壊力で、狐の尾を一つ、障壁ごと粉砕する。

 

「よっし! 狙い通り!」

 

「なんて羨ましい……キックさん、後でお願い出来ますか?」

 

「やらんわ!」

 

 多田野の願いを梅原が一蹴する。

 

「はははっ! これは速いさ~」

 

「どげえな! これが『極東の快速列車』と呼ばれる『卓越』の超スピードたい!」

 

「列車というよりはまんま自転車だけど、凄いさ~」

 

「両手両足をそれぞれくっつけて、車輪に変化させた……これが『二輪車モード』……」

 

 卓越の上に跨ったシーサーウシュのコックピット内で修羅といつきが感嘆とする。

 

「行先はあそこまででいいんかい⁉」

 

「ああ! 尻尾に出来る限り近づいてくれれば! 後は俺たちがやるさ~」

 

「分かった! 曽我部君! 飛ばすたい!」

 

「はい!」

 

 自転車のように変形した卓越のコックピットで増子益子がサブパイロットの曽我部に声をかける。二人はペダルを思い切り回し、卓越のスピードは更に上がる。修羅が叫ぶ。

 

「加速は十分、後は任せるさ~『縮空』!」

 

 シーサーウシュは卓越から空中に飛び立つ。いつきが叫ぶ。

 

「ありがとうございます! 増子さん! えっと……お名前までは存じ上げませんが、サブパイロットの方もご協力に感謝です!」

 

「いや、曽我部っすよ! 以前も名乗りましたよね⁉ さっきも名前呼ばれていたし!」

 

 曽我部の虚しい叫びをよそに、シーサーウシュは尻尾の根元部分にまで達する。

 

「『シーサーナックル・コークスクリュー』!」

 

 捻りを加えた拳で尻尾を殴りつける。いつきが叫ぶ。

 

「! まだ障壁と尾の半分を壊したに過ぎません! 威力が足りない!」

 

「『……シーサーローリングソバット』!」

 

「!」

 

 シーサーウシュが回し蹴りを加えると、狐の尾が木っ端みじんになる。修羅が呟く。

 

「……どうよ、山田ちゃん? この流れるような連撃……」

 

「いや、咄嗟に回し蹴りを付け足しましたよね⁉ 判断は確かに見事でしたけど!」

 

「尾を二本破壊しました!」

 

「さすがね!」

 

 セバスティアンの報告にアレクサンドラが満足気に頷く。

 

「む! 尾の一本が伸びて! 本艦と桜島に向かってきます!」

 

「回避行動を!」

 

「間に合いません!」

 

「くっ!」

 

「はあっ!」

 

「『秘剣燕倍返し』!」

 

「なっ!⁉」

 

「桜島のデッキで、サガンティスが体当たりを敢行! 同時にリベンジオブコジローが剣を振るい、尾を跳ね返しました!」

 

「け、剣はともかく、体当たりってまた、無茶をするわね……」

 

「しかし、与えたダメージはまだ四分の一ほどです!」

 

「俺たちが追い打ちをかける!」

 

「松下さん⁉」

 

 モニターに三機の柑橘に乗って飛行するトリオ・デ・イナウディトの三機の姿が映る。

 

「カントリオ娘の諸君! よく見ていろ! これがトリオの戦い方だ!」

 

「はい、勉強させて頂きます!」

 

 柑橘壱号の上に乗るイナウディト・ロッソの搭乗者である松下の言葉にミカンが頷く。柑橘弐号の上に乗るイナウディト・ビアンコの搭乗者、竹中がイヨカンに話しかける。

 

「俺たちの強さに惚れるなよ?」

 

「その心配はまずありません」

 

「イ、イヨカン、正直なこと言わない……!」

 

 柑橘参号の上に乗るイナウディト・ヴェルデの搭乗者、梅上がポンカンに話しかける。

 

「同じトリオアイドルとして参考になると思うわよ」

 

「同じところないと思いますけど?」

 

「ポ、ポンカン、余計なこと言わない……!」

 

 ミカンがイヨカンとポンカンを嗜める。松下が咳払いをして、指示を出す。

 

「ゴホン! え~三機とも同じ高度を保ってくれ……そうだ! それでいい! もう一度言う! カントリオ娘、よく見ていろよ! これが歴戦のトリオならではの連携攻撃だ!」

 

「は、はい!」

 

「行くぞ……せーの!」

 

「「「うりゃー!」」」

 

 三機がありったけの武器を一か所に集中して放つ。ミカンが驚く。

 

「た、ただの力任せ⁉ で、でも、与えたダメージが半分くらいになった!」

 

「後は任せるぞ!」

 

「任せとき!」

 

 戦闘機形態のヂィーユエとファンに乗ったUZUとSIOがそれぞれ構えを取る。

 

「行くで! 半魚ちゃん!」

 

「ン!」

 

「水は二つの艦から借りた! 緊急事態につき堪忍してな! せーの! 『渦潮双撃波』!」

 

 二体の手から同時に発射された渦を巻いた状態の水流が二条、尻尾を襲う。ユエが叫ぶ。

 

「凄い威力! でも完全に尻尾を破壊しきれていない! このままじゃ再生してしまう!」

 

 タイヤンが舌打ちする。

 

「ちっ……ファンとヂィーユエのミサイルなどではたかが知れている……ん?」

 

「後は任せてくれたまえ!」

 

 ウ・ドーンがファンの翼に飛び乗る。

 

「うおっ! ウ、ウ・ドーン⁉ どうやって空に⁉」

 

「誠に勝手ながら、君の機体に麺を絡ませて、しがみつかせてもらったよ!」

 

「ほ、本当に勝手だな!」

 

「……それで千切れない麺って、どうなっているの?」

 

 ユエが首を傾げる。ウ・ドーンが右手の親指をサムズアップする。

 

「お嬢さん! 麺に不可能なことなどなにもないよ!」

 

「麺への信頼がエグい!」

 

「細かい話はいい! 細麺も悪くないがね! 喰らえ! 『うどん拳』!」

 

 ウ・ドーンが拳を叩き込む。ユエが叫ぶ。

 

「そこは麺じゃないの⁉」

 

「!」

 

 ウ・ドーンの拳が決め手となり狐の尾が打ち壊される。ユエが声を上げる。

 

「や、やった! 三本目破壊!」

 

「ふふっ! 残念だがこれで店じまいだ! 後は皆の奮闘に任せる! お嬢ちゃんたちもよくやったな! 艦に戻ってお先に美味しいうどんをご馳走しよう!」

 

「やった! 半魚ちゃん、うどんやで!」

 

「ンン!」

 

「あ、暴れるな、SIO! ただでさえ、麺が絡まって機体のバランスが崩れているのに!」

 

 タイヤンが慌てる。その脇を朱色の大型戦闘機、彼方が通過する。機体の上には獣如王を乗せている。玲央奈が大声で叫ぶ。

 

「悪いな! 外原のおっさん! 空まで運んでもらってよ!」

 

「気にしなさんな! これも空援隊の役目ぜよ!」

 

「か、かの有名な空援隊隊長に輸送してもらえるなんて、光栄の極みでありましゅ!」

 

「ふははっ! 硬くなっているぞ、少年! もっと余裕を持つぜよ!」

 

 緊張気味の太郎を外原は豪快に笑い飛ばす。

 

「ヘイ、太郎、もうちっとリラックスね~♪」

 

「お前はもう少し緊張しろ、トリクシー……」

 

 口笛を鳴らすベアトリクスをウルリケが嗜める。

 

「目標に接近! 奇異兵隊のお手並み拝見ぜよ!」

 

「お前ら、準備は良いか⁉」

 

「は、はい!」

 

「OKね~」

 

「いつでも良い!」

 

「よっしゃ! 狩ってやるぜ! 『獣王両爪刃(じゅうおうりょうそうじん)』‼」

 

「!」

 

 玲央奈は叫ぶと同時に獣如王の両腕を振るう。鋭く大きな爪から放たれた衝撃波が狐の尾に直撃し、狐の尾はズタズタに引き裂かれる。玲央奈が胸を張る。

 

「見たか! これで四本目だぜ!」

 

「う~ん、九尾の狐か、なかなか興味深いね……」

 

 仁尽のコックピットからカナメが九尾の狐の巨体を見つめる。日下部が呟く。

 

「こ、この機体、こがいに長時間、空を飛べたんじゃな……」

 

「え、今更? そりゃあ魔法少女ロボだからね……魔法で大体のことは可能だよ……って日下部、なんか声震えてない?」

 

「ワ、ワシは高所恐怖症なんじゃ……」

 

「ええっ⁉ そ、そうだったんだ……それなら早く決着をつけよう!」

 

「ど、どうすればええ?」

 

「そのステッキを使ってあの尻尾に向かって念じるんだ、例えば『爆発しろ』とかさ……」

 

「う、う~ん! 恐怖と尿意でそれどころじゃないわ! おらあっ! 『乱れ突き』!」

 

「!」

 

 仁尽が持っていたステッキをおもむろに狐の尾に連続で突き刺す。狐の尾は千切れる。

 

「あ、ああ……だから、魔法を使ってよ! そんなステッキをドスみたいに!」

 

「に、似たようなもんじゃろう……」

 

「全然違うよ! はあ……人選間違ったなあ……」

 

 カナメが頭を抱える。セバスティアンが報告する。

 

「仁尽が尾を撃破! これで五本目です!」

 

「よしっ! わたくしたちも続くわよ! 伊織、大丈夫かしら?」

 

「ええ! いつでも良いわ!」

 

 アレクサンドラの問いにモニター越しで伊織が力強く頷く。

 

「セバスティアン! 砲撃準備!」

 

「主砲発射準備!」

 

 アレクサンドラと伊織が揃って指示を出す。

 

「……距離・方向OK、角度調整完了、エネルギー充填完了でございます」

 

「主砲発射準備完了しました!」

 

 セバスティアンと桜島のブリッジクルーが同時に告げる。

 

「よし! 撃てえぇぇぇ‼」

 

「主砲、撃てえ――‼」

 

 二人の揃った掛け声により、凄まじいエネルギーの奔流が二筋、狐の尾に向けて放たれる。

 

「!」

 

 砲撃を受け、狐の尾は爆散する。アレクサンドラと伊織が声を上げる。

 

「やったわ! 六本目!」

 

「後三本!」

 

「ちいっ! 忌々しい奴らやな!」

 

「⁉ こ、これは……?」

 

「エネルギーの急激な上昇を確認! 残り三本の耐久力が上がったと見ていいかと!」

 

「くっ、まだそんな余力が……」

 

 セバスティアンの報告にアレクサンドラが苦い顔になる。志渡布の声が響く。

 

「今のこの三本なら先程までの攻撃も余裕で耐えられる! そうこうしている内に、六本も再生される! そちらの火力が先に尽きるはず! これで詰みや!」

 

「それはどうかな!」

 

「何⁉」

 

 テネブライとFtoVとトライ・スレイヤーが空中で並ぶ。小金谷が声をかける。

 

「美馬、さっきまでアルカヌムと激しい戦闘をしていたのだろう、大丈夫か?」

 

「……とうの昔に『諦め』という言葉は辞書から破って捨てた」

 

「ははっ、頼もしいな、流石は救世主殿だ。大毛利はどうだ?」

 

「う~ん……まあ、やるだけやってみる。ダメだったらその時はその時で……」

 

「あ、相変わらずマイペースな奴だな、まあいい、行くぞ!」

 

「先陣は俺だ! はああ……」

 

「な、なんや! 急激なエナジーの高まりを感じるで!」

 

 モニターを確認したナーが驚く。

 

「喰らえ! 『エレメンタルフルバーストマキシマム』!」

 

「!」

 

 テネブライが両手でサーベルを思い切り振り下ろすと、その剣先から熱風を帯びた斬撃が飛び、狐の尾を一つ切り裂く。その様子を見ていたナーが驚嘆する。

 

「こ、これは……パッローナを五回目か六回目に救った時に放った技やないけ!」

 

「もう二度と出せないと思ったが……不思議と力が湧き上がってきてな……」

 

「よし、俺たちも続くぞ! 新装備を使う!」

 

「ええっ……あれを使うの?」

 

 小金谷の指示に殿水が難色を示す。

 

「な、なんだ! 文句があるのか⁉」

 

「試射ですらまだなのに?」

 

「時間が無かったから致し方あるまい! 大丈夫だ! 俺たちなら出来る!」

 

 疑問を呈す火東に対し、小金谷が答える。

 

「まあ……出し惜しみしている理由はないとも言える……」

 

「そ、そうだ! 分かっているな、土友! よし! 大至急準備だ!」

 

「zzz……」

 

「だから寝るな、木片!」

 

 FtoVが両手両足に四本のキャノン砲を構える。エネルギーの粒子が大量にキャノン砲の砲口へと充填されていく。土友が告げる。

 

「……準備完了」

 

「……行くぞ! 『クワドゥルプレットバスターキャノン』発射‼」

 

「!」

 

 小金谷が叫び、放たれた四筋の膨大なビームの奔流が狐の尾に命中し、大爆発を起こす。

 

「お~凄いな~」

 

「見たか! これがFtoVの新たな力だ!」

 

 呑気な声を上げる木片と満足気に頷く小金谷を見ながら殿水と火東が小声で呟く。

 

「姿勢制御と照準補正、その他諸々を同時に行った私らの手柄だっつーの……」

 

「本当にギャラ上げて欲しいわ。上層部に直接掛け合おうかしら……」

 

「残りは一本だ! 大毛利三姉妹、お前らに譲ってやる!」

 

「別に譲って貰わなくても良かったんだけど……」

 

「明日香姉! あまりグダグダしている場合じゃないわよ!」

 

 未来が声を上げる。

 

「『怒濤衝撃(どとうしょうげき)』でもやろうか?」

 

「順番は⁉」

 

「まあ、適当に……」

 

「適当は困るわよ!」

 

「う~ん、じゃあ、“陸海空”で行こう、次代、バトンタッチね」

 

 トライ・スレイヤーが橙色のスレイヤー・テッラに代わる。

 

「『空蝉斬撃』! 未来! バトンタッチでござる!」

 

 スレイヤー・テッラが刀を数度振るい、水色のスレイヤー・マーレに代わる。

 

「『海割連撃』! 明日香姉! バトンタッチよ!」

 

 スレイヤー・マーレが拳を数度振るい、紅色のスレイヤー・カエルムに代わる。

 

「『鎌鼬乱撃』!」

 

 スレイヤー・カエルムが薙刀を数度振るう。それぞれのスレイヤーが発生させた衝撃波が大きなかたまりとなって、狐の尾に直撃する。

 

「!」

 

 狐の尾は砕け散る。アレクサンドラが快哉を叫ぶ。

 

「九本の尾、全て撃破したわ! これで良いのよね⁉」

 

「ああ! これでもう大規模なバリアは張れないはずや!」

 

 ナーがアレクサンドラの問いに答える。

 

「くっ! 調子に乗るなよ! まだ本体が残っておるわ!」

 

 尻尾を全て失った巨大な狐だが、それでもまだ威圧感を残している。伊織が戸惑う。

 

「ま、まだ、力を残しているというの⁉」

 

「そちらはどの機体もすぐには動けんやろ!」

 

「ギクッ、バレた……」

 

「動揺をわざわざ伝えるな、大毛利!」

 

 明日香の不用意な言動を小金谷が諌める。志渡布が笑う。

 

「立て直す暇は与えん! 一気に決めさせてもらうで!」

 

「まだ俺たちがいるぞ!」

 

「何やと⁉」

 

「電光石火か!」

 

「そういやいたね~いつぞやのフンドシ君たち」

 

 小金谷と明日香が電光石火が残っていることに気付く。美馬が叫ぶ。

 

「桜花! 例のメッセージだ!」

 

「例のメッセージ⁉ なんのこっちゃ、オーセン⁉」

 

 隼子が閃に尋ねる。

 

「先の南河内の戦いの時に、シャイカ=ハーンからまたメッセージが来ていたんだよ……」

 

「ホンマかいな! ひょっとしたらまた電光石火の武装解除コードか⁉」

 

「そうかもしれないし、そうでないのかもしれない!」

 

「どっちやねん!」

 

「だって、相変わらず意味が分からない文章なんだもん!」

 

「文章だと⁉ 閃、読み上げてくれ!」

 

 大洋が声を上げる。閃は戸惑い気味に読み上げる。

 

「えっと……『己の褌で相撲を取らせろ』……だって」

 

「⁉」

 

「何を訳の分からんこと言うてんねん! 冗談言うてる場合ちゃうねんぞ!」

 

「わ、分かっているよ! でもほら見てよ!」

 

 閃は二人のモニターにもその文面を映す。

 

「ホ、ホンマや……ど、どういう意味やこれは?」

 

「分かんないよ!」

 

「分かった……」

 

「「大洋⁉」」

 

 閃と隼子は静かに頷く大洋を驚きの目で見つめる。

 

「本当に分かったの⁉」

 

「ああ、もう完璧すぎる程理解した。150パーセントな」

 

「だからそれ分かってない奴の台詞やん!」

 

「隼子、あの三機に向かって飛べ! 接近したら機体を横に倒せ!」

 

「り、了解!」

 

 電光石火は空中に飛び上がり、FtoVたちに近づき、横向きになる。大洋が叫ぶ。

 

「閃、モードチェンジだ! 射撃モードに切り替える!」

 

「わ、分かった!」

 

 電光石火は銀色主体のカラーリングである射撃モードに変形する。

 

「で、どうするんや!」

 

「『己の褌で相撲を取らせろ』……これもつまり尻に力を込めろということ!」

 

「「は、はあっ⁉」」

 

「まず両脚を閉じる! 両手を頭上で合わせる! そして上半身を気持ちキュッとする!」

 

「こ、これは弾丸⁉」

 

「そうだ! 電光石火それ自体が弾丸と化す……〝韓信の股くぐり“的発想だ‼」

 

「よう分からんけど、韓信に謝れ!」

 

「閃、機体を回転させろ!」

 

「わ、分かった!」

 

 電光石火が空中でぐるぐると回転する。

 

「美馬! 小金谷さん! 大毛利さん! 三機で電光石火を力一杯押し出してくれ!」

 

「い、いや……」

 

「オッケー♪」

 

「大毛利、物分かりが良すぎるぞ! ……ええい! 美馬、行くぞ!」

 

「よし! 行くぞ! 『必中! 電光石火‼』」

 

 大洋たちは電光石火をきりもみ回転させ、機体ごと狐に突っ込ませる。まるで巨大な弾丸となった電光石火の攻撃は狐の巨体を貫通する。大洋が叫ぶ。

 

「どうだ! こんな高度な技は防げまい!」

 

「せやからただの体当たりやないか!」

 

「そ、そんなアホみたいな攻撃に……」

 

 狐が消滅する。大洋が叫ぶ。

 

「やった!」

 

「か、勝ったんか……?」

 

「待って! 大富岳が!」

 

 閃が叫ぶ。止まっていた大富岳が動き出したのである。志渡布の苦し気な声が響く。

 

「きょ、今日のところはここで引き下がったる……せ、せやけどこれで勝ったと思うなよ……力を回復したら、また動き出すで……ぼ、僕は『真大和国』という国を作り上げることを絶対に諦めへん……」

 

「しつこいわね! 伊織、もう一度主砲を浴びせましょう!」

 

 アレクサンドラが叫ぶ。志渡布が声を上げる。

 

「覚えておれよ!」

 

「! き、消えた⁉」

 

「ステルス機能ですね! 反応は⁉」

 

「あっという間にロストしました……まだここまでの力を残していたとは……」

 

 伊織の問いに土友が冷静に答える。伊織が唇を噛む。

 

「追撃は困難……止むを得ません、京都を守れただけでも良しとしましょう……」

 

「リーダー、号令は?」

 

「殿水……そうだな……いや、大毛利明日香、今回は貴様に譲ろう」

 

「え? アタシ?」

 

「勝鬨とは、武人の誉を頂いたでござるな、姉上」

 

「ビシッと頼むわよ、明日香姉!」

 

「……それじゃあ、平和な明日、また来てくれるかな~?」

 

「きっと来る~!」

 

 明日香の問いかけに皆が応える。既に京都の空は夕焼けに染まっていた。


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