アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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チャプター3
第26話(1)そして半裸


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「なんや! 騙したんか⁉」

 

 神戸の高級住宅街にある豪華絢爛な洋風屋敷。その中でも特別立派な部屋に茶髪を短く後ろでまとめた女性、飛燕隼子(ひえんじゅんこ)の叫び声がこだまする。

 

「騙したなんて人聞きの悪い……『ハハキトク、スグカエレ』と偽の電報を打っただけや」

 

 和服を着た、隼子によく似た顔の中年女性が答える。

 

「それを騙すっていうねん!」

 

「戦場では偽の情報が飛び交うなんてよくあることやろ……それに引っかかる方が悪い」

 

「戦場ちゃうやろ!」

 

「『日々是戦場』……我が家の大事な家訓や」

 

「初耳や、そんなん!」

 

「今定めた」

 

「家訓ってそういうもんちゃうねん!」

 

「とにかく……やはり貴女にパイロットとしての資質はない!」

 

「な、なんでそうなんねん!」

 

「どこやったか……佐世保の田辺農業やったか?」

 

「(有)二辺(ふたなべ)や! 娘の就職先くらい、母親ならちゃんと覚えとけ!」

 

 隼子はムッとしながら言い返す。母親と呼ばれた中年女性は首を傾げる。

 

「あ~そのなんとかいう地方の中小企業に入社して数年経っても貴女……まだパイロット見習い扱いなんやろ? つまり見込みがないっちゅうことや」

 

「失礼な! 正規パイロットへ昇格したわ!」

 

「ほんまか?」

 

「ほんまや! 正式な辞令はなんやうやむやなままになっとるけど……ウチの会社のロボチャンでの活躍見とらんのか⁉」

 

 隼子が声を上げる。ロボチャンとは、『ロボットチャンピオンシップ』の略称で、防衛軍や政府や大学等の研究機関、さらに民間企業に至るまで、数多くの組織・団体が参加して、各自の開発したロボットの性能を競う大会のことであり、隼子は会社の同僚たちとともに、九州大会を勝ち抜き、先の西日本大会でも、決勝進出を果たしたばかりである。

 

「ロボチャン……?」

 

「見てへんのかい! こないだまで淡路島でやっとったやろ!」

 

「ああ、あれは西日本大会やろ? 全国大会でもないと見る価値ないわ」

 

「み、見る価値ないやと……?」

 

 母の言葉に隼子が愕然とする。

 

「それにあれはあくまでエキシビションマッチのようなもんや。実戦とはわけが違う」

 

「くっ……じ、実戦言うたら先の桜島で起こった『奴邪国(ぬやこく)復活騒動』や、こないだの京都であった、『真大和国(しんやまとこく)事変』にも出動したで! 鎮圧に貢献したつもりや!」

 

「ああ、それなら知っとるわ……でも貢献したいうても、周りの援護があってこそやろ?」

 

「そ、それは……確かにそうかもしれへんけど……」

 

 隼子は口ごもってしまう。母は苦笑する。

 

「そこで、『そないなことあらへんがな!』って言えへんのが、貴女の現状をよう表しとる」

 

「くっ……」

 

「そろそろ見切りをつける頃合いやろ。戻っておいで」

 

「い、嫌や! 戻らへん!」

 

「今の時代、退職届なんてデータのやりとりだけでも済む話や……」

 

 母がタブレットを取り出し、机の上にそっと置く。隼子が慌てる。

 

「うおい⁉ 勝手なことはやめろや!」

 

「まあ、貴女自身の意思は無視出来んけど……もう気が済んだやろ?」

 

「済む済まないの話ちゃうねん!」

 

「はあ……」

 

 母がため息をつく。隼子が問う。

 

「なんでそないにパイロットを辞めさせたいねん!」

 

「娘に危ない事をさせたくない親心や」

 

「代々パイロットの家系で今更何を言うてんねん!」

 

「バレたか」

 

 母が舌を出す。

 

「いや、親心は嘘かいな⁉ そ、それに、オカンもパイロットやろ!」

 

「もう半分引退しとるロートルや」

 

「ウチはオカンの活躍を見て育ってきたんや! 自分もあないなパイロットになりたいと思うのは極めて自然なことやろ!」

 

「その気持ちは嬉しいけどな……」

 

 母は目を細める。

 

「とにかく、ウチはパイロットを辞めたりせえへんで!」

 

「かーらーの~?」

 

「前振りちゃうわ!」

 

「なんやねん……」

 

「それはこっちの台詞や!」

 

「ぶっちゃけた話……パイロットはお姉ちゃんで間に合うとんねん」

 

「む……」

 

 隼子の顔が曇る。

 

「あの子がこの神戸の名門、飛燕家の家名を大いに高めてくれとる。あれだけ優秀な姉がおるんやから、凡庸な妹は引っ込んどれっちゅうことや。逆に家の汚名になりかねんわ」

 

「ぶ、ぶっちゃけ過ぎやろ! もう少しオブラートに包めや!」

 

「だって、隼子ちゃんの物分かりが悪いんやもん」

 

 母が唇を尖らせる。

 

「面と向かってそないなこと言われたら傷付くわ!」

 

「……この程度のことでいちいち傷付いたら、一流のパイロットには到底なれへんなあ」

 

「うっ……」

 

「一流のパイロットはメンタルも鋼で出来ているんや。貴女はその辺が弱い」

 

「ぐっ……」

 

「せやから、一流企業への入社試験もことごとく落ちんねん」

 

「そ、その汚名は必ず挽回したる!」

 

 隼子は若干涙目になりながら反発する。母は冷静に突っ込みを入れる。

 

「……汚名は返上するもんやで」

 

「ちょ、ちょっと、言い間違っただけやがな!」

 

「戦場では僅かなミスが命取りになる……」

 

「ぬっ……」

 

「この程度で動揺しているようでは……ん?」

 

 母が机に設置されたパネルを作動させる。男の声が聞こえる。

 

「奥様、お話中失礼します。よろしいでしょうか?」

 

「構いません、どうしました?」

 

「『隼子お嬢様を助けに来た!』などとわめく不審な男を捕えましたが如何なさいますか?」

 

「え⁉」

 

「そうですか、直ちにこちらの部屋に連れてきなさい」

 

「はっ……」

 

「……話は戻るけれども、飛燕家の女たるもの、ささいなことに動揺するようでは……」

 

「連れて参りました」

 

「ああ、ご苦労様です……って、ええっ⁉」

 

 母は思いっきり動揺する。青い褌一丁な男が部屋に現れたからである。

 

「……」

 

「な、なんで半裸⁉ だ、誰なん、アンタ⁉」

 

「? 俺は『曲がったことが大嫌い! 疾風大洋(はやてたいよう)だ!』」

 

 真っ青な褌姿の大洋は力一杯叫ぶ。

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