アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第26話(2)どんな職場環境やねん

「な、なんやの⁉」

 

 母親の様子に隼子がニヤニヤと笑いながら尋ねる。

 

「あれ? 飛燕家の女たるもの、ささいなことで動揺してはアカンのとちゃいますか~?」

 

「ちょ、ちょっと、面喰らっただけです!」

 

「ちょっととは思えない狼狽ぶりでしたが……」

 

「う、うるさいな! ……で、このけったいな男はなんやの? 貴女を助けにきたとかなんとか言うとったみたいやけど……」

 

「彼は疾風大洋、ウチの同僚や」

 

「なんちゅう同僚や。どんな職場環境やねん……」

 

「それについてはあまり言い返せへんけど……」

 

「まったく……ん? 疾風……?」

 

 母親が首を傾げる。隼子が問う。

 

「何か気になることでも?」

 

「……いや別に、なんでもあらへん」

 

「隼子! ここにいたのか! 無事か!」

 

 大洋が叫ぶ。隼子が落ち着かせるように話す。

 

「う、うん、平気や。昨日も言うたけど、一応ここはウチの実家やから……」

 

「そうか! 平気か! それならそろそろ戻ろう!」

 

 大洋が隼子の手を引いて部屋を出ようとする。母親が声を上げる。

 

「待ちなさい!」

 

「誰だ!」

 

「誰だって……隼子の母親です」

 

「あ、そうですか、初めまして、疾風大洋です。いつもお世話になっております」

 

「あ、ああ、いえいえ、こちらこそどうも娘がお世話になっております……」

 

 大洋が急に恭しく礼をしてきた為、母親もつられてお辞儀する。

 

「じゃあ、そういうことで……」

 

「いや、だから待ちなさいって!」

 

「なんですか?」

 

「それはこっちの台詞です! 隼子をどこに連れていくおつもりですか?」

 

「それは俺たちが今所属している艦ですよ」

 

「所属している艦?」

 

「はい! 『ビバ!オレンジ号』です!」

 

「なんちゅう艦名やねん」

 

「それについてはまったく同意です」

 

「同意すんのかい」

 

「お話はよろしいでしょうか? それでは!」

 

「いや、だから待て待て!」

 

 隼子を連れていこうとする大洋を母親は呼び止める。

 

「だからなんですか? 俺は怪しいものではありません」

 

「思いっきり怪しいやろ!」

 

「見て下さい、丸腰ですよ」

 

 大洋は自分の褌姿をこれでもかと見せつける。

 

「丸腰にもほどがあんねん! なんで褌一丁やねん!」

 

「それは……話せば長くなりますが……俺はロボットに搭乗する際、必ずと言っていいほどフンドシ姿になります。何故ならばその方が落ち着くからです。以上」

 

「短っ! どこが長い話やねん! なんやねん、フンドシ姿が落ち着くって!」

 

「そういう性癖なんですかねえ?」

 

「こっちに聞かれても困るわ!」

 

「彼は記憶喪失で自分の名前以外、ほとんどのことを忘れているんや」

 

 隼子が口を開く。母親が腕を組む。

 

「ほう、記憶喪失……」

 

「まあ、そういうわけです、それじゃあ!」

 

「だから待てや!」

 

「……これ以上、何を聞かれたって無駄ですよ、俺の全てはさらけ出してますから……」

 

「貴方、ロボットのパイロットなの?」

 

「ええ、そうですが」

 

「……そのようなけったいな恰好の方にパイロットを任せる会社に娘を預けることは出来ません。どうかお引き取りを」

 

「な⁉ なんの権利があって、そんなことを⁉」

 

「もはや権利とかの問題ではありません! 子を思う親心です!」

 

「お、親心……それならば致し方ありませんね……」

 

「いや、そこであっさりと引き下がんなや!」

 

 自らの手をパッと離す大洋に隼子は突っ込みを入れる。

 

「親御さんが出てくるとな……こちらとしても無理強いは出来ない」

 

「何を言うてんねん! あの機体はウチもおらんと困るやろうが!」

 

「まあ、それはそうなんだが……」

 

「隼子ちゃん、ええからもう戻ってきなさい」

 

「嫌や言うとるやろ! ウチからパイロット取ったら何が残るねん!」

 

「……ええ縁談が来とる。とりあえず会うてみるだけでも……」

 

「ちょ、ちょっと待てや! お見合いなんて絶対にお断りやで!」

 

 隼子が首を激しく左右に振る。母親は肩をすくめながら話す。

 

「そのような破廉恥が服を着ているような男と同じ職場だなんて、親としてとても認められるものではありません」

 

「半裸ですが」

 

「アンタはちょっと黙っとき!」

 

 余計なことを言う大洋を隼子が制する。母親が続ける。

 

「そんな環境で、どうしてパイロットとしての成果を上げられるでしょうか?」

 

「いや、だから、それは……」

 

「縁談の話を出したら、また動揺しましたね。繰り返しになりますが、そのようなメンタルでは、優秀なパイロットになるなど夢のまた夢ですよ」

 

「ぐっ……」

 

「さあ、戻ってくると言いなさ……!」

 

「『忍法、ムササビの術』!」

 

 部屋の窓からブカブカの白衣を着た少女が白いシーツを背負い、そのシーツの四つ角をそれぞれ両手両足でつまんで、パラシュートを広げるような要領で部屋に向かって飛び込んできた。窓ガラスが勢いよく割れる。少女は鮮やかに着地に成功する。母親が動揺する。

 

「こ、今度はなんやねん⁉ ム、ムササビ⁉」

 

「オーセン!」

 

「やあ、ジュンジュン、迎えに来たよ♪」

 

「あ、貴女の知り合い⁉」

 

 母親が隼子に尋ねる。

 

「ええ、ウチの会社の開発部主任研究員兼パイロットの桜花(おうか)(ライトニング)(ひらめき)です」

 

「! あのロボット研究の才媛、『インクレディブル・シルバー』かいな……」

 

「かの高名な飛燕家のご当主にも覚えて頂けているとは光栄です」

 

 閃と紹介された小女は自らのショートボブの銀髪をつまみながら頭を下げる。

 

「貴女も隼子を取り戻しに来たの?」

 

「まあ、そうですね。大事な遊び道具……もとい、同僚ですので」

 

「それなら尚更あかん。人の家の窓ガラスを壊すような輩と同じ職場で働かせられません」

 

「輩って……まあ、正論だね、よし、帰るか!」

 

「いや、帰んなや! ⁉」

 

 隼子が叫んだ瞬間、警報が鳴る。母親がパネルを操作して確認する。

 

「どうしました⁉」

 

「神戸港に怪獣が出現した模様です! 我が社の倉庫もある地帯に向かっている模様!」

 

「⁉」

 

 通信の内容に部屋の皆が驚く。母親が顔をしかめる。

 

「参ったな……今は皆出払っとる、すぐには駆け付けられん……」

 

「よっしゃ! ここはウチらが出動や! オカン、見とれよ、ウチらの戦いぶりを!」

 

 隼子が高らかに宣言する。

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