アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第6話(3)VSエテルネル=インフィニ

 翌日、試合の直前に両チームの選手が整列して向かい合う。海江田がにこやかに大洋に話しかける。

 

「お兄さん、昨日はどうも~♪」

 

「……どうも」

 

「なんや、何かあったんか?」

 

「い、いや、別に、何も無いぞ!」

 

 大洋が分かり易く動揺する。

 

「なんや? 怪しいなぁ」

 

「何も無かった!」

 

「そう、別に何も無かったよ、ただ……」

 

「ただ?」

 

 海江田の呟きに隼子が問い返す。水狩田がボソッと答えた。

 

「裸の付き合いを少々……」

 

「はっ⁉」

 

「ご、語弊のある言い方はやめてもらいませんか! こ、混浴! そう、ちょっと混浴をしただけだ!」

 

「試合前に対戦相手と混浴って……」

 

「それはそれは……随分と楽しそうだね~」

 

 隼子と閃は大洋に冷ややかな視線を向ける。

 

「違う、たまたま成り行きで混浴になっただけで……」

 

「何や! 成り行きでって⁉」

 

「こんなセクシーなお姉さんたちにのぼせてしまっていたわけだね」

 

 閃が海江田たちを指し示す。海江田たちは一見、レオタードにも見えるような露出度の高い戦闘服に身を包んでいる。

 

「のぼせるとは上手いこと言うな、閃……じゃなくて! 別にやましいことは何ひとつとしてない!」

 

「さっきから目が泳いでいるやんけ! なんで相手のことを見いひんのや?」

 

「いや、目の毒というか、い、いや、むしろ目の保養なんだが……」

 

「別に減るもんじゃないから、もっと見ても良いよ、お兄さん?」

 

「……くっ、色仕掛けとは卑怯やぞ!」

 

 隼子の言葉に水狩田が呆れる。

 

「別に戦闘服に細かい決まりは無いし……この程度で動揺する方がどうかと思うけど」

 

「そ、それは確かにそうやけど……恥ずかしくないんか⁉」

 

「まあ、この戦闘服? というか衣装もギャラの一部だからねえ」

 

 海江田が両手を広げて服をみせびらかすように答える。

 

「ギ、ギャラ……?」

 

「そ、雇い主の意向には極力従わないとね、水狩田?」

 

「それなりのスタイルが求められるけどね……」

 

「……なんだか引っかかる言い方だな~」

 

 水狩田の言葉に閃の顔がやや引きつる。

 

「? なにか気に障った?」

 

「別に~?」

 

 閃の反応を気にしつつも、水狩田が大洋を指差す。

 

「……というか、戦闘服がフンドシ一丁の方が大分恥ずかしいでしょ」

 

「な! この姿のどこが恥ずかしいというんですか! これが俺のれっきとした戦闘スタイルですよ!」

 

 大洋が反論する。海江田が笑いながら答える。

 

「戦闘っていうか、まるで銭湯に向かうようだね、そのスタイル」

 

「……そうやって上手いこと言ったつもりの海江田、嫌い」

 

「えっ⁉ 嫌い⁉」

 

「うん、一番嫌い」

 

「あ、そ、そうなの、気を付けるわ……」

 

 思わぬところから反撃を喰らった形の海江田は若干動揺した。

 

「ご、ごほん、えー両チームともそろそろ宜しいでしょうか?」

 

 審判が声を掛ける。

 

「いつでもどうぞ」

 

「早く始めようよ、さっさと終わらせて帰りたい……」

 

「なっ……⁉」

 

「言ってくれるね~」

 

「……それでは、両チーム正々堂々と、フェアプレー精神を持って試合に臨んで下さい」

 

「はい!」

 

「はーい……」

 

「それでは、礼!」

 

「「お願いします!」」

 

「お願いしまーす……」

 

 大洋たちは一旦陣営に戻り、各々の機体に搭乗した。大洋が二人に声を掛ける。

 

「あんな調子だが、歴戦の強者だ。作戦通り、初めは様子見で行こう」

 

「ギャラがどうとか……ふざけたことを……」

 

「じ、隼子……?」

 

「遠回しに私のことを子供体型ってディスってたよね……あれ?」

 

「ひ、閃……?」

 

「負けられへん……」

 

「負けられない……」

 

「「絶対‼」」

 

「お、おう……」

 

 二人の只ならぬ気迫に大洋は押されてしまった。

 

「こ、これは作戦通りには行かない気がするぞ……い、いや元々俺たちには作戦なんてあって無いようなものだが……」

 

 一方、対する一八テクノ陣営は余裕綽綽だった。

 

「いつもみたいにデータハッキングして徹底的に性能分析しないの、海江田?」

 

「いつもみたいにって……誤解の招く言い方やめなさいよね、今回はそういうつまらないルール違反はやらないわよ」

 

「なんで?」

 

「なんでって……アンタも分かっているでしょ。今回は命を獲るか獲られるかっていう極限状況じゃないからね、あくまでも試合だからね、試合」

 

「試合……」

 

 海江田の言葉を水狩田が反芻する。

 

「電、光、石火……ざっと見た感じ、あの白衣の娘が乗っている『電』が、武装などを見たところ中長距離戦に特化した機体。そして、あの関西弁の娘が搭乗しているのが、『石火』、飛行機能を有しているね。その性能を生かした、支援用の機体かな?」

 

「そして、疾風大洋が乗っているのが、『光』……」

 

「そう、近距離戦に特化した機体だ……さて、どうする水狩田?」

 

「……うざったい二機を先にドンパチで片付けて、この光を丸裸にする」

 

「その後リーチの外から(なぶ)るって感じか……」

 

「そういうこと」

 

「面白いね! それで行こう!」

 

 海江田は水狩田との通信を打ち切った。

 

「後は余計な邪魔が入らなければ、だけど……まさかね」

 

 水狩田は腕を組んで静かに呟いた後、自らの考えを消すかのように頭を振った。両チーム、試合会場であるバトルフィールドに入った。大洋が注意を促す。

 

「これまでの会場とは違う、海沿いのフィールドだ。注意していこう」

 

「……」

 

「……」

 

 大洋の呼びかけに二人とも黙っている。大洋が叫ぶ。

 

「っておい! 聞いているのか! 二人とも!」

 

「間もなく接敵だね~」

 

「モニターで視認した……あの赤白はウチがやる!」

 

 そう言って、隼子は石火を飛行形態に変形させると、相手に向かって一目散に突っ込んでいった。

 

「ま、待て、隼子! 狙い撃ちにされるぞ」

 

 大洋が危惧した通り、隼子の石火は相手の赤白の機体、インフィニ1号機のライフルの正確な射撃の餌食に遭う。いくつか躱して見せたものの、それでも何発かは被弾し、相手との距離を大して詰めることも出来ないまま石火は砂浜に不時着するような形になった。

 

「隼子! 大丈夫か! おい、応答しろ!」

 

「敵は取るよ、ジュンジュン!」

 

「縁起でもないことを言うな!」

 

 閃が自身の操作する機体、電の左腕のガトリングガンを起動させ、すぐさま相手に向かって発射する。

 

「まだ射程外じゃないか? 焦り過ぎだ!」

 

「いや……冷静だよ!」

 

「? そうか、わざと足元を狙って! 土煙で相手の視界を奪って、尚且つ、相手の足場も崩して、移動方向を制限し、こちらに誘導したのか!」

 

 大洋が気付いた時には。閃は電の右腕のアームキャノンを構えていた。

 

「上手くいけば二機とも射線上に重なってくれる……! 一石二鳥!」

 

 閃はモニターに目をやり、自身の狙い通りに誘導され射線上に立つ敵機の姿を見て満足したが、すぐに違和感に気が付いた。

 

「⁉ 一機だけ⁉ もう一機は⁉」

 

 閃のコックピット内に上方の危険を示すアラームが点灯する。

 

「上⁉ 赤を踏み台にして、青が飛んだ⁉」

 

 閃が事態を把握すると同時に、インフィニ2号機のライフルの雨霰が電に向かって降り注いだ。右腕と左腕の付け根の部分を正確に撃ち抜かれ、攻撃機能は瞬く間に奪われ、更に両脚部も狙い撃ちされて、電は力なく、仰向けに倒れ込んだ。

 

「閃! 隼子!」

 

 大洋が必死に呼びかけるも二人からのの応答が無い。代わりに海江田たちからモニターでの通信が入る。

 

「どうする、お兄さん? そろそろ降参する?」

 

「何を馬鹿な! 俺はまだやられていない!」

 

「強がっても時間の問題だと思うけど……」

 

「何だと!」

 

 水狩田の言葉に語気を強める大洋。

 

「まあまあ、お兄さん、少し冷静になろうか」

 

 海江田が大洋を宥める。

 

「アタシらの見立てが正しければ、その機体は完全な近接戦闘特化用機体だ、申し訳程度に頭部にバルカン砲を備えているようだけどね。つまり腕部かもしくは脚部に超強力な近接戦闘武器を隠し持っているという可能性が高い。違うかい?」

 

「……」

 

「この場合の沈黙は肯定と受け取るよ。更に見たところ、あのお嬢さん方が乗っている機体とお兄さんが乗っている機体、設計思想が随分と似通っているようだね、大方同じシリーズの機体ってところかな? もう一つ付け加えると、あの銅色の機体が支援用、銀色が中長距離戦用、そしてお兄さんのその金色の機体が近距離戦用の機体……三機揃って運用して初めて性能をフルに発揮できる機体群だ、当たっているかな?」

 

「……試してみるか?」

 

「ぶはっ! 冗談きついよ」

 

 笑い出した海江田に代わって、水狩田が喋りだした。

 

「近距離戦専用の機体にわざわざ接近する馬鹿はいない……このまま射程外から頭部、両腕部、両脚部を撃ち抜いて、ジ・エンドだ……」

 

「……」

 

「何か言い残すことはある?」

 

「その予測っていうのは……傭兵時代に培った経験からくるものなのか?」

 

「いや、これはそんなご大層なもんじゃなく……」

 

「……女のカンってやつかな」

 

「あははっ! 水狩田良いね、面白いわそれ!」

 

「……そうか」

 

 大洋がニヤりと笑った。海江田が不審な顔を見せる。

 

「ん……?」

 

「じゃあ、外れだ」

 

「何を……うぉっ⁉」

 

「海江田! どわっ⁉」

 

「な、なんだ、後ろ⁉」

 

 そこには飛行形態から人型形態に戻り、片翼を外して、ブーメランのように投げ込んでくる石火の姿と、仰向けで倒れ込みながら、胸部のアーマーを外し、追尾型のミサイルを発射する電の姿があった。

 

「ま、まだ武装が残っていたのか⁉」

 

「は、挟みうち……⁉」

 

 狼狽する海江田たちは、いわゆる“死んだふり”をしていた隼子たちの後方からの攻撃に成す術なく、自慢のライフルを取り落としてしまった。

 

「しまっ……!」

 

「くっ……」

 

「もらった!」

 

 大洋は光を走らせ、一気に相手との距離を詰める。そして、名刀・光宗(仮)を引き抜いて、勢い良く飛び掛かった。

 

「これで決まりだ!」

 

 海江田と水狩田は大洋とモニターを繋いだままの状態で、二人揃って驚きと苦悶に満ちた表情を浮かべていたが、大洋が攻撃に入る瞬間フフッと笑った。

 

「詰めが甘いね~お兄さん」

 

「勝負を焦った……やはり童貞……」

 

「何っ⁉」


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