アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第9話(2)そこはかとないセンスの良さ

「……予想の通りセンター防衛に当たれってことだったな」

 

 大洋が光のコックピット内で腕を組んで呟く。隼子が閃に尋ねる。

 

「電光石火に合体していなくてもええんか?」

 

「敵の数がはっきりとは分からない。各個撃破しやすいように頭数だけでも増やしとけって考えなんじゃないかな~」

 

「大丈夫かいな……」

 

「この電もジュンジュンの石火も、そして大洋の光も、スペック的には向こうの主戦兵器であるイアを凌駕している。あんまり心配は要らないよ」

 

 閃は隼子の心配事を取り除くように穏やかに話す。

 

「さよか……」

 

「まあ、後は臨機応変に対応しろってことだね~」

 

「その臨機応変っていうのが一番難しいねん……」

 

「センター防衛は俺たちを含めて十三機か」

 

 大洋が話題を変える。閃が光のモニターにデータを送り、簡単に解説する。

 

「そう、あの迷彩色の機体は『防人参式(さきもりさんしき)』。日本の海上防衛軍の主戦ロボットの一つだね。基本は陸戦用だけど、海中の戦闘もある程度はこなせる。今回の作戦には適しているんじゃないかな。量産機だけど、流石は国民の血税を注いで製造しているだけあって、ウチの会社のFS改よりもちょっとサイズが大きく、かつ優れているよ」

 

「FS改もそれなりに良い機体やっちゅうねん……」

 

 隼子がぷいっと唇を尖らせる。

 

「FtoVは南西に位置しているな……他には五機か」

 

 モニターに映るFtoVの姿を大洋が確認する。同じ要領で閃が解説する。

 

「あの五機の薄緑色の機体は霊亀(れいき)。GofEの東アジア地区中心に配備されていて、海中戦闘に適した機体だね」

 

「霊亀……なるほど、亀のように甲羅を背負っているな」

 

「あの甲羅が強力な推進力を生み出すブースターになっているんだ。あの甲羅のお陰で海中でも素早く泳ぎ回ることが出来る」

 

「つまりは海中戦も辞さないってことかいな?」

 

 隼子が会話に割り込んできた。

 

「どうやらそうみたいだね。FtoV自体もわりと海中戦闘を苦にしないというデータもあるし。こりゃ案外、待機しているだけで終わるかもね~?」

 

「正直な話それで済めばええんやけど……」

 

「本当に明け方に攻めてくると思うか?」

 

「まあ、奇襲ならば夜がもっとも効果的だと思うけどね~」

 

 大洋の問いに閃がシートにもたれかかりながら答える。そして欠伸をする。

 

「ねえ、お二人さん。私は少し眠るから、相手が来たら起こしてくれないかな?」

 

「アカンわ! 寝るな!」

 

「徹夜はお肌に良くないって言うじゃない~」

 

「研究で徹夜なんてしょっちゅうやろ!」

 

「あ、知らなかった? 私って基本、アフターファイブは研究しない主義なんだよ~」

 

「どんな主任研究員やねん……んん⁉」

 

 そのとき爆音が轟いた。センター周辺の数か所で爆発が起きる。

 

「何だ⁉」

 

「ば、爆撃⁉」

 

「……これは驚いた。空からやって来たね~」

 

 閃の言葉を受け、大洋と隼子も夜空に四機ずつ編隊を組んだ合計八機の魚型ロボットが飛んでいることを確認した。

 

「な、なんやねん、あれは⁉」

 

「う~ん、羽のようなものが付いているね。さしずめトビウオ型ロボットかな?」

 

「ほんまに飛ぶのは反則やろ!」

 

 そこに殿水から通信が入った。

 

「三人とも無事ね⁉」

 

「は、はい、何とか!」

 

「空の魚釣りは貴方たち電光石火に任せるわ!」

 

「ええっ‼ ウチらだけですか⁉」

 

「空中戦が出来る機体は現在、種子島の北方を哨戒飛行中、すぐには間に合わないわ! それまで何とか持たせて頂戴!」

 

「そ、そんな!」

 

「大丈夫よ! 自信を持って!」

 

「じ、自信って、何を根拠に⁉」

 

「……貴方たちにはそこはかとないセンスの良さを感じるわ!」

 

「漠然としてません⁉」

 

 慌てふためく隼子をよそに大洋と閃が冷静に呟く。

 

「……流石は歴戦の強者だな。了解した」

 

「やっぱり滲み出ちゃうよね~こればかりはどうしてもさ~」

 

「納得すんなや!」

 

「じゃあ、後はアドリブでよろしく!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! FtoVはどないされるんですか⁉」

 

「相手の母艦を直接叩く! 南方に艦影を確認したわ!」

 

「は、はあ……」

 

「帰る母艦を失くせば、相手の士気も落ちるって寸法よ!」

 

「成程……」

 

「理には適っているね~」

 

「でしょでしょ? それじゃ、健闘を祈る!」

 

 右手で敬礼して、殿水は通信を切った。

 

「あっ! ちょ、ちょっと! ……切れてもうた」

 

「まあ……とにかくやるしかないだろう」

 

「そうだね~」

 

「気楽やな、アンタら!」

 

 隼子が頭を抱える。

 

「どうする、閃?」

 

「そりゃ、合体一択でしょ?」

 

「そうだな。おい隼子」

 

「あ~もう、了解! 電光石火、合体!」

 

 隼子がスイッチを押す。三機が合体し、電光石火となった。モードは飛行形態である。

 

「オーセン、あのトビウオのデータは⁉」

 

「残念ながらデータ無し……ただ見た所、イアの改良型のようだね。つまり単純なスペックならば完全にこちらに分があるよ~」

 

「さよか……」

 

「隼子、落ち着いて行けばお前なら大丈夫だ」

 

「……その心は?」

 

 隼子は大洋に問う。大洋は振り返りながら答える。

 

「お前には得意技があるだろう」

 

「得意技?」

 

「ツッコミだ!」

 

「なんやねん、それ!」

 

「……間違っている物事を正す能力に長けている!」

 

「良い感じに言い直すな!」

 

「第二波、来るよ~」

 

 閃の言葉に隼子はモニターを確認する。そこには最初の爆撃を終えたトビウオ型ロボットたちが旋回飛行して、再びセンターに向かってくる様子が映っていた。

 

「隼子!」

 

「ジュンジュン!」

 

「え、えーい、アンタらしっかり掴まっときや! この飛燕隼子様が種子島の夜空にでっかい花火打ち上げんで!」

 

 隼子の操作で電光石火が飛び立った。


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