アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第12話(4)鬼・極VSトリオ・デ・イナウディト

「よし、行っど!」

 

 幸村は機体を並び立つトリオ・デ・イナウディトに勢い良く向かわせる。

 

「三機を一機で相手するというのか⁉」

 

 大洋が戸惑う。隼子が閃に尋ねる。

 

「ど、どうする⁉」

 

「まあ……様子見かな~」

 

 海江田も水狩田に尋ねる。

 

「どうしようかね?」

 

「ここはお手並み拝見といこう……『縦ロールの貴婦人』の」

 

「『ツインテールの鬼神』ね……」

 

 海江田が視線を前に戻す。

 

「秒で終わらすっ!」

 

 幸村が愛機、鬼・極に刀を構えさせる。次の瞬間、緑の機体が肩部から白煙を噴出する。煙は鬼・極とトリオ・デ・イナウディトの間にたちまち充満する。

 

「む!」

 

 幸村が機体を急停止させる。戦況を見つめていた大洋が驚く。

 

「煙⁉」

 

「緑の……イナウディト・ヴェルデはジャミング戦法を得意とする機体だけど、わりと古典的な手法を用いてきたね」

 

「古典的ではあるが、効果的な手法……出鼻を挫いた」

 

 大洋たちに通信を繋いできた海江田と水狩田が状況を解説する。隼子が叫ぶ。

 

「赤が射撃したで!」

 

 赤の機体が放ったミサイルが数発、鬼・極に襲いかかる。幸村が機体を後方に向かって飛ばし、すんでの所で躱したかと思われた。しかし、ミサイルは床に着弾せず、浮き上がって、鬼・極を追いかける。

 

「ちぃ!」

 

 放たれたミサイルが全て、鬼・極に命中する。空中で攻撃を喰らい、バランスを崩した鬼・極は上手く着地することが出来ず、仰向けに倒れ込む。

 

「ぐっ!」

 

 回線をオープンにしたままだった為、幸村の呻き声が大洋たちにも聞こえてくる。

 

「ホーミングミサイルか!」

 

「まだ続くよ!」

 

 閃の言葉通り、赤の機体が、ガトリングガンを発射する。銃弾の雨霰が倒れている鬼・極に降りかかる。

 

「ふん!」

 

 幸村はすぐさま機体を前転させ、銃弾を躱す。床に着弾した弾は爆発する。そこで生じた爆風を利用し、鬼・極は前方にいる赤の機体に向かって勢いよく低く飛ぶ。

 

「前に躱したで⁉」

 

「躱すとともに、反撃に繋げる……戦い慣れている」

 

 水狩田が感心すると同時に、幸村は機体に再び刀を構えさせる。

 

「これだけ低く飛べば、狙いもつけにくいじゃろう! ……って何⁉」

 

 赤の機体の膝が開いたかと思うと、黒い球体が飛び出す。地面にワンバウンドしたその球体を赤の機体がサッカーボールを蹴るような形で思い切り蹴り飛ばす。

 

「はっ⁉」

 

 予想外の攻撃に反応しきれず、鬼・極はその球体を受け止める。機体にぶつかった瞬間、球体は激しく爆発する。

 

「爆弾だと⁉」

 

 驚きの声を上げる大洋に海江田が説明する。

 

「赤の機体……イナウディト・ロッソは火力の高さを生かした戦い方をする機体、武装も豊富だ。今の爆弾は驚いたけど」

 

「手榴弾ならぬ足蹴弾かな?」

 

「そんなのアリかいな……」

 

「しかし、これもギリギリだが、ガードした……大した反射神経だ」

 

 水狩田が再び感心する。若干後退した鬼・極は向きを変え、ヴェルデに襲い掛かる。

 

「やっぱり食事は緑色のものからとらんといけんな!」

 

「!」

 

 ヴェルデは左手をかざす。幸村が叫ぶ。

 

「位置は把握した! 煙を出しても、もう無駄じゃ!」

 

 しかし、ヴェルデの左手の掌から出たのは白い物体だった。その白い物体が直進していた鬼・極の足もとに絡みついたかと思うと、急ストップがかかったような形になった鬼・極は前方に派手に転ぶ。

 

「なんだあれは⁉」

 

「トリモチ弾だね。あれはなかなか粘着力があって厄介だ」

 

 大洋の叫びに海江田が反応する。水狩田が淡々と呟く。

 

「容易に近づかせないように工夫している……」

 

「ぬおおっ!」

 

 幸村は刀を杖のようにしてすぐに機体を起こす。しかし、脚が床にくっついているため、自由に動くことが出来ない。そこを逃さずに白の機体が襲い掛かる。隼子が叫ぶ。

 

「白が仕掛けたで!」

 

「イナウディト・ビアンコ……接近戦主体の機体だね」

 

「仕留めに入った……」

 

 海江田と水狩田が呟くと同時に、白の機体、ビアンコが右腕を振りかぶり、右手に持ったブレードで斬りつける。鬼・極も刀でそれを受け止める。

 

「受け止めたぞ!」

 

「やるね~!」

 

「まだだ!」

 

 大洋と閃が感心したように声を上げるが、水狩田がそれを遮るように叫ぶ。その言葉通り、ビアンコには文字通り次の手があった。いつのまにか左手に持っていた先が三つ又になっている槍を鬼・極に突き刺したのである。

 

「ぐおっ!」

 

 鬼・極の胸部辺りを狙った攻撃だったが、幸村は機体の上半身を捻るようにして、右肩部でそれを受け止めた。しかし、衝撃を吸収しきれず、仰向けに倒れ込む。

 

「ちぃっ!」

 

 ビアンコが鬼・極を見下ろすように立ち、両手のブレードと槍を振りかざす。戦況を見つめていた水狩田が静かに呟き、海江田が大洋たちに呼び掛ける。

 

「これは番狂わせ……」

 

「順序が逆になったけど、予定通り、連携して戦おう」

 

「れ、冷静やな……」

 

「待て! 奴はコックピットを狙っていないか⁉」

 

 大洋が叫ぶ。

 

「なんやて⁉」

 

「閃、撃て! 奴を止めろ! これは試合の域を超えている!」

 

「わ、分かった!」

 

 閃が慌てて、ガトリングガンを構える。しかし、それよりも早く、ビアンコがその両手を振り下ろす。

 

「ア、アカン、間に合わん!」

 

「くっ!」

 

「……しゃらくせっ‼」

 

「⁉」

 

 鬼・極が足払いをしてビアンコの体勢を崩す。大洋たちが驚く。

 

「何や⁉ トリモチで動けなかったんやないか⁉」

 

「いや、足場ごと切ったんだ……!」

 

 まるで下駄を履いたようなかたちとなった鬼・極が立ち上がり、すぐさま上に飛んで、左足でビアンコをロッソの方に蹴り飛ばす。その反動を生かして、ヴェルデの方へ飛ぶ。

 

「トリモチごちそうさん!」

 

 そう言って、右足でヴェルデもロッソの方に向かって蹴り飛ばす。トリオ・デ・イナウディト三機が互いに衝突し、揃って倒れ込みそうになる。間髪を入れず、幸村が叫ぶ。

 

「面倒じゃ、まとめてお礼をさせてもらうでごわす!」

 

 蹴り飛ばしたことで、足にくっつっていた床の部分も取れた鬼・極は大きく空中に舞い上がり、刀を振りかざす。

 

「チェスト――‼」

 

 幸村は高らかに叫び声を上げ、刀を思い切り振り下ろした。攻撃を喰らった、トリオ・デ・イナウディトはそれぞれ腕や脚を破損し、力なくその場に崩れ落ちた。

 

「よし! こいで準決勝は終わり! それじゃあ三組での決勝戦と行こうか!」

 

 機体を着地させた幸村は刀を左右に大袈裟に振って、大洋たちを煽る。隼子が大洋に問う。

 

「どうする、大洋⁉」

 

「やるからには勝つ! 合体だ!」

 

「フガイナツィ……!」

 

「⁉ なんだ、女の声⁉」

 

 大洋が周囲を見回す。隼子たちにもその声は聴こえており、皆辺りを見回す。

 

「チカラヲツァヅゥケヨウヅォ……!」

 

 女の声が再びしたかと思うと、トリオ・デ・イナウディトをまがまがしい黒い光が包む。

 

「な、なんだ⁉」

 

 次の瞬間、トリオ・デ・イナウディトは一機の巨大な機体となって、立ち上がった。

 

「合体機能はなかったんとちゃうんかい!」

 

 隼子は海江田たちに叫ぶ。海江田たちは困惑気味に答える。

 

「い、いや、そのはずなんだけど……」

 

「色も黒くなった……!」

 

「破損箇所も修復されている……⁉ 迂闊に近づかない方が良い! 危険だ!」

 

「「断る!」」

 

 閃の提案を大洋と幸村が揃って却下し、更に揃って刀を黒い機体に突き付けて叫ぶ。

 

「「先手必勝!」


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