アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第14話(4)意外な機能

「よし、行くぞ!」

 

 大洋は電光石火を残りのヘイスー5機に向かわせる。頭部のバルカン砲で威嚇の意味も込めた射撃を行う。ヘイスーの足下を狙った攻撃だったが、一発もかすりもせずに、あっさりと躱されてしまう。

 

「くっ、やるな!」

 

「データベースでヘイスーという機体を見る限り、スペック上、そこまでの機動力を有してはいないはずなんだけど……ひょっとすると……」

 

 閃が首を捻る。隼子が尋ねる。

 

「ひょっとすると……なんやねん!」

 

「特別にカスタマイズされた、チューンアップされた機体の集まりかもね~」

 

「成程、ということは……?」

 

 大洋の問いに閃が答える。

 

「互いの性能差にそこまでの差は無い。むしろ単純な機体数や搭乗者の練度から判断するに、こちらが不利と見ていいかも」

 

「なっ! ……くっ! 左腕部に数発被弾! ……これは⁉」

 

「どうした隼子⁉」

 

「左腕が上がらんようになってもうた……」

 

「何だって⁉」

 

 閃が冷静に分析し、即座に答えを出す。

 

「装甲がどうしても手薄になりがちな肘関節の部分を集中的に狙ってきたんだね。一、二発なら耐えられても、三、四発とほぼ同じ所に撃ち込まれれば流石に苦しい……」

 

「くっ、つまり……?」

 

「電光石火は片腕をもがれた状態ということだね!」

 

「ど、どないするんや⁉」

 

「右腕で剣は振れる! 何とか近距離まで奴らとの間合いを詰め……て!」

 

 電光石火が両脚のバランスを崩し、ひざを突いてしゃがみ込んでしまう。

 

「こ、今度はどないしたんや!」

 

「モニター確認!」

 

 隼子の言葉に閃がモニターを確認するように促す。確認した隼子が青ざめる。

 

「……動力エネルギー切れ? どういうこっちゃ!」

 

「機体をこちらに運び込んだ際、エネルギーの大半を抜き取ってしまったらしい!」

 

「随分ご丁寧なことで! このままだとどうなるんや、オーセン!」

 

「後数歩ほど歩いたら動けなくなる、いわゆる“ガス欠”状態になるね」

 

 閃の言葉に隼子は頭を抱える。

 

「くっ……どうする大洋!」

 

 大洋はコックピットのシートの上に仁王立ちして叫ぶ。

 

「万事休すって奴だな‼」

 

「自信満々に言うセリフちゃうねん!」

 

「やれやれ、手が掛かるな!」

 

 タイヤンが自身の乗る青い機体、ファンを電光石火に近づけてきた。

 

「な、なんや⁉」

 

「ちょっと大人しくしていろ!」

 

 ファンの腹部から数本のマニュピレーターが出てきて、電光石火の左腕部を急ピッチで修理し始める。閃が驚く。

 

「修理機能付きなの⁉」

 

「あくまで応急処置レベルだがな! ……これで左腕が動くはずだ!」

 

「おおっ! 動くぞ!」

 

「せやけど、エネルギーの方が……」

 

「それはこっちに任せて!」

 

 ユエがヂィーユエを電光石火の後方に付ける。

 

「エネルギーの供給口は……これね!」

 

 ユエが手際よく電光石火の背部にある供給口にヂィーユエの背部にあるバックパックから取り出したホースを繋ぐ。閃が再び驚く。

 

「こっちは補給機能付き⁉」

 

「補給艦船なんかに比べれば、気休めみたいなものだけどね! これでも無いよりはマシなはずよ……ほい、充填完了!」

 

「モニター確認して!」

 

「満タンではないけども、半分以上は貯まったで!」

 

 大洋がユエたちに頭を下げる。

 

「ありがとう! 助かった!」

 

「礼には及ばないわ……残りを片付けるの手伝う?」

 

「いや、俺たちがやる!」

 

「健闘を祈るわ!」

 

 ヂィーユエたちが離れるとすぐに、電光石火は相手に向かう。かたまっていた5機のヘイスーは散開しようとする。

 

「閃、任せるぞ!」

 

「了解~♪」

 

 電光石火は銀色が主体のカラーリングである射撃モードに変形する。

 

「逃がさないよ!」

 

 閃は電光石火の肩部からショルダーマシンガンを発射させる。銃弾が5機の内2機のヘイスーの脚部辺りに命中し、動きが鈍くなる。

 

「機動力は奪った! お次はこいつだよ!」

 

 閃は電光石火の腰部に収納されていたピストルを取り出す。

 

「ウェストマグナム、発射!」

 

 ピストルから放たれた銃弾が動きの鈍くなった2機のヘイスーのそれぞれの両脚を正確に射抜き、2機のヘイスーは力なく崩れ落ちる。大洋が叫ぶ。

 

「よし、次はアイツだ! 閃、足元を狙え!」

 

「オッケー♪」

 

 閃はピストルを発射するが、狙われたヘイスーは巧みに躱す。

 

「くっ……良い動きを見せる!」

 

「いや、閃、そのまま撃ち続けろ!」

 

「! 了解!」

 

 閃は大洋の言葉通りピストルを撃ち続ける。狙いは決して悪くはなかったが、それでも躱され続ける。しかし……ヘイスーが足元の障害物にぶつかり、バランスを崩す。大洋が再び叫ぶ。

 

「正確な挙動故に、こちらの誘導に乗ってくれたな! よし、変形だ!」

 

 電光石火は元の金色主体のカラーリングが特徴的な近接戦闘モードに変形して、ヘイスーとの距離を一気に詰める。

 

「喰らえ! 袈裟切り!」

 

 バランスを崩したヘイスーの左肩部から右腰部辺りを切断し、無力化させる。

 

「よし! 残り2機……ん⁉」

 

 大洋がモニターで確認すると、残りの2機はブースターを装備し、空中に飛び立った。

 

「動きの質から見て、今倒したのが隊長機みたいだね! トップがやられたら無理せず逃げるって考えのようだね!」

 

「逃がさん! 隼子!」

 

「よっしゃ! 任せとき!」

 

 電光石火は銅色が主体のカラーリングである飛行戦闘モードに変形する。空中に上がると、既にヘイスーとは距離が出来つつあった。

 

「ライフルでは届かん恐れがあるか……ならばこれや!」

 

 隼子は電光石火の片翼を引き抜いて、ブーメランのように投げ込む。鋭い弧を描いた翼の直撃を背部に付けたブースターに喰らい、推進力を失った二機は地上に落下する。隼子はすぐさまライフルを発射し、二機の脚部を正確に撃ち抜く。

 

「これで着地後の移動もままならんやろ! 二丁上がりや!」

 

「多少の練度の差は変形機能を駆使した柔軟な戦い方で補うと……」

 

 ユエが電光石火の戦いぶりを見ながら呟く。タイヤンが問いかける。

 

「お眼鏡には叶ったか?」

 

「まあ、第一段階は合格かしらね」

 

 ユエは冗談っぽく笑う。

 

「防衛軍も駆け付けた。詳細は既に連絡してある。後は彼らに任せよう」

 

 閃の言葉に頷き、大洋はモニターに映るユエとタイヤンに話しかける。

 

「それでお前たちは何者なんだ?」

 

「ごく普通の双子の兄妹よ」

 

「そんなわけあるかい!」

 

「やっぱり誤魔化せないか」

 

「当たり前だろう……」

 

 ユエの様子にタイヤンは呆れる。閃が尋ねる。

 

「その機体たちのことも気になるんだけど……素直には教えてくれないよね?」

 

「青い方がファン、私の乗っているのがヂィーユエよ」

 

「あ、案外あっさり教えてくれるんだね……」

 

「詳しい話は後でにしましょう」

 

「後で?」

 

「ええ、これから同僚になるんですもの、よろしくね、先輩方」

 

「「「ええっ⁉」」」

 

 ユエの思いがけない言葉に大洋たちは驚く。


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