アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第15話(2)買収完了

「……誰だ? !」

 

 大洋がその黄緑色の肌をした女性に尋ねた次の瞬間、ビルが大きく揺れる。

 

「な、何や⁉」

 

 隼子が窓の外に目をやると、空中に浮かぶ紫色のロボットが数機、この第二十四新出島に向けて、ライフルを発射した様子が見えた。

 

「攻撃を仕掛けてきたようだね~」

 

「どこの所属だ⁉」

 

 大洋の問いに閃が腕を組んで首を傾げる。

 

「う~ん、あの独特かつ鋭利なフォルムをした機体は見た記憶が無いな~」

 

「それはそうでしょうね。タエン帝国の機体がこの地球圏に展開したのはつい最近のことですもの」

 

 女性が落ち着いた様子で話す。

 

「タエン帝国?」

 

「この星系……確か太陽系というのだったかしら? この太陽系近隣の星系をほぼその支配下に置いている強大な帝国よ」

 

「……ということは今の行動は侵略開始ということか?」

 

 タイヤンの言葉に女性は首を振る。

 

「まだ公表されてはいないけど、タエン帝国と地球圏連合政府との間で平和条約が締結されたわ。あくまで暫定的なものだけどね。」

 

「いつや?」

 

「ちょうど三日前だったかしらね」

 

「どこで?」

 

「あそこよ」

 

 女性が上を指差す。ユエが呟く。

 

「……月?」

 

「そう、月面の都市でね。だから現在地球圏連合と帝国の間は戦争状態ではないわ」

 

「では、連中の取っている行動は何なのかしら?」

 

 ユエがなおもライフルを構えている紫色の機体群を指差す。

 

「別の目的があるんでしょうね」

 

「別の目的?」

 

「わたくしの身柄を確保、あるいは不幸な事故に見せかけて始末すること……」

 

「な、なんやて⁉」

 

 隼子が驚く。ユエが冷静に尋ねる。

 

「貴女はVIPということ?」

 

「……自分で言うのもなんですけど超VIPになるわね」

 

「本当に自分で言うのもなんだね……」

 

 胸を張る女性を閃が呆れ気味に見つめる。

 

「色々と事情があるようだが、俺たちが関わる義理は無い」

 

 タイヤンが突き放すように伝える。女性はニヤリと笑う。

 

「確かに義理は無いわね、では義務を生じさせるわ」

 

「何?」

 

「セバスティアン!」

 

「はっ、お嬢様」

 

 女性が指を鳴らすと、いつの間にかその背後に女性と同じ黄緑色の肌をした白髪の紳士然とした男性が立っていた。

 

「この者たちの素性は?」

 

「はっ、(有)二辺工業の社員たちだそうです」

 

「会社の業種は?」

 

「ロボットの製造開発・販売です。運用も行っています」

 

「買収なさい」

 

「かしこまりました……完了しました」

 

 セバスティアンと呼ばれた男性が端末を手際よく操作して、女性に報告する。女性は満足そうに頷く。

 

「結構……というわけでたった今からわたくしが貴方たちの会社のオーナーよ。最初の命令を出すわ、全力でわたくしを守りなさい」

 

「なっ⁉」

 

 大洋たちが愕然とする。

 

「驚いている暇は無いわよ」

 

「い、いや……⁉」

 

 ビルが再び大きく揺れる。紫色の機体が再びライフルを発射したからである。

 

「わたくしがここにいる限り、貴方たちにも被害が及ぶわよ。さっさと奴らを追い払うかどうにかなさい」

 

「これはまた随分と無茶苦茶だな……」

 

 タイヤンが苦笑して呟く。ユエが反論する。

 

「急に現れた得体の知れない存在の言うことを聞けと言うの?」

 

「いや、アンタらがそれを言うか⁉」

 

 隼子が思わず叫ぶ。ユエが構わず大袈裟な身振りで続ける。

 

「馬鹿馬鹿しい! やってられないわよ!」

 

「セバスティアン……」

 

「はっ」

 

 セバスティアンが端末を操作し、その画面をユエに見せる。

 

「働きぶりが特に顕著な方にはこの額の特別ボーナスを……」

 

「タイヤン! お嬢様を安全な場所にお連れするわよ! 三人は電光石火で迎撃を! ほら皆、何をボサッとしているの! さっさと動きなさい!」

 

 ユエが両手をバンバンと叩き、指示を出す。

 

「急に仕切り出した!」

 

「至極分かり易いね……」

 

 大洋が驚き、閃が呆れ、タイヤンが頭を抱える。

 

「その性格、なんとかならないのか……?」

 

「いつだってどこだって一番信じられるのはお金よ!」

 

 ユエの言葉に女性が笑う。

 

「物分かりが良い様でなによりだわ」

 

「さあ、お嬢様! こちらにどうぞ!」

 

 ユエが部屋を出て、女性を廊下に誘導する。隼子たちも渋々ながら部屋を出るが、大洋は部屋に立ったままである。

 

「大洋、どないしたんや⁉」

 

「……! こっちだ!」

 

 大洋が部屋を出ようとした女性の手を強引に引っ張る。女性は驚く。

 

「な、何を⁉ ⁉」

 

 次の瞬間、廊下側の壁が大きく崩れる。紫色の機体が穴から顔を覗かせる。

 

「こちらに回り込んでいたの⁉」

 

「ビル内は危険だ、さっさと外に出る!」

 

「どうやって⁉」

 

「あれに乗って、倉庫に急ぐぞ!」

 

 大洋は窓の外に浮かぶ、女性の乗ってきた船を指差す。

 

「成程、では操縦は私めが……」

 

「隼子、閃も乗り込め!」

 

「あ、ああ!」

 

「了解!」

 

 セバスティアンに続き、隼子と閃も船に飛び移る。

 

「ユエたちは……!」

 

 大洋が目をやると、崩れた床の先にユエたちが立っている。

 

「心配無用! なんとかするわ! ボーナス……じゃなくてお嬢様をよろしく!」

 

「分かった、行くぞ! どうした⁉」

 

「くっ、足を挫いたみたいですわ……」

 

 女性がしゃがみ込んでしまう。

 

「うおおっ!」

 

「!」

 

 女性が再び驚く。大洋がおもむろに服を脱ぎ出し、フンドシ一丁になったからである。

 

「な、何をやっていますの⁉」

 

「気にするな!」

 

「気にしますわよ!」

 

「窮地に追い込まれれば追い込まれるほど、半裸になった方が不思議と落ち着く……この感覚、理解できないか?」

 

「まったくもって理解不能ですわ!」

 

「まあいい、お前の名前は⁉」

 

「え、ア、アレクサンドラですわ……」

 

「アレクサンドラ、ちょっと失礼するぞ!」

 

「え? きゃあ⁉」

 

 大洋はアレクサンドラと名乗った女性の腰と膝裏を両手で抱え、所謂『お姫さま抱っこ』の体勢をとる。

 

「こ、これは⁉」

 

「行くぞ、しっかり掴まっていろ!」

 

 大洋は顔を赤らめるアレクサンドラを抱え、船に向かって勢いよくジャンプする。


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