アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第19話A(1)大会、幕開け

                  19A

 

「なるほど……()()大会は行われないということか……」

 

「なんやねん今更、今回行われるのはロボットチャンピオンシップ西()()()大会や」

 

「そんなこと聞いてなかったぞ」

 

「アンタが聞いてなかっただけやろ」

 

 大会出場者の待機するテント内で大洋と隼子が会話している。

 

「なんで西日本だけなんだ?」

 

「ニュースくらい見ろや……」

 

 隼子が頭を抱える。情報端末を眺めていた閃が頭を上げ、口を開く。

 

「東日本数か所でそれぞれ大規模な混乱が発生してね……」

 

「怪獣でも出現したのか?」

 

「それもあるようだね」

 

「それも?」

 

「情報が色々と錯綜していてね……はっきりしていないことも多い……とにかく、東日本のロボット関係各所は対応に大わらわというところで、とてもロボチャン全国大会に参加するどころではないということさ」

 

「それで規模を縮小して、西日本大会に……」

 

「そう、関西、中国、四国、九州、沖縄の各大会を勝ち上がった14チームと、東海、北信越大会を勝ち上がった、三重と福井のチーム、計16チームが参加する」

 

「そうなのか……」

 

「時期を見て、東日本大会も開催するって話も出ているみたいだけどね」

 

「ほ、本気か? そもそも西日本大会を開催している場合でもないと思うのだが……」

 

 閃の説明に大洋は戸惑う。

 

「前も言ったと思うけど、ロボチャンという大会には『技術の革新と向上』、『より実戦に基づいた戦い方を経験・蓄積』というテーマが掲げられているからね」

 

「そうは言ってもだな……」

 

「この21世紀前半、全世界規模のパンデミックに見舞われている最中でも国際的スポーツイベントは開催されたという前例があるからね~」

 

「そ、それは知っているが……」

 

「言うたと思うけど、ロボチャンは人気の公営ギャンブルでもあるからな……要はこれや」

 

 隼子が右手の親指と人差し指で丸を作る。

 

「……思惟(しゆい)?」

 

 大洋が首を傾げる。隼子はずっこける。

 

「なんでこのタイミングで手印を結ばなアカンねん」

 

「違うのか?」

 

「あれは親指と中指をくっつけてるんやろ。ちゃうがな、銭っちゅうこっちゃ、大量の金が動く。そう簡単には中止には出来へんのや」

 

「なるほどな……人類にとって、結果としてプラスになるのならば、大会には真摯に臨もう」

 

「大人だね~」

 

 閃が笑みを浮かべる。大洋は閃に尋ねる。

 

「この辺一帯に集まっているのが参加チームか?」

 

「いや、16チームの内、半分の8チームだね。残りはこの淡路島の別の会場にいるよ」

 

「そうか……」

 

「ちなみに一回戦から4チームずつのバトルロイヤル戦を採用している。2チームが勝ち上がれる。偶然だけどこないだの鹿児島の壮行試合での経験が活かせるね。機体は1チームにつき3機まで。但し、4機以上による合体を行うロボットは初めから合体しておくこと。分離は禁止だ。私たちは合体・分離は自由だね」

 

「ふむ……よく分かった」

 

「ってか、試合形式くらい確認しておけや……」

 

 頷く大洋の横で隼子が呆れ気味に呟く。閃は説明を続ける。

 

「私たちはBブロックに入った。これから行われるAブロックの試合の数時間後に行われる。大会規模の縮小に伴い、日程も短縮されたからね。同時刻でC・Dブロックも行われる」

 

「組み合わせも今朝発表やからな……」

 

「『臨機応変な対応力かつ柔軟性に富んだ戦い方を磨く』っていうのもロボチャンの狙いだしね。対戦相手のデータを可能な限り集めたから見てみようか。その上で作戦会議といこう」

 

 閃が大洋たちにも見えるように、テントに設置された大きいモニターに情報を表示する。

 

「……大体は分かった」

 

 作戦会議を終えると、大洋は立ち上がり、テントを出ていこうとする。

 

「どこに行くんや?」

 

「さっき知った顔を見かけた。Aブロックに出場するのだろう。激励に行ってくる」

 

「記憶喪失のアンタの知り合い?」

 

「桜島で偶然一緒になった。大会に出場するとは聞いていたが」

 

「ああ、そういうことかいな」

 

「興味深いね。ジュンジュン、私たちも一緒に行こう」

 

 閃と隼子も立ち上がり、大洋についていく。

 

「大星! 山田さん!」

 

 大洋が声をかけると、かりゆしウェアの青年と白衣姿の女性が振り返る。

 

「おお、大洋さん」

 

「は、疾風さん……ど、どうも……」

 

「Aブロックに出るのだろう。激励にきたぞ。緊張していないか?」

 

「はははっ! 大洋さん、オレはそんなタマじゃない。むしろワクワクしているさ~」

 

 修羅が力こぶを作ってみせる。

 

「それは頼もしいな」

 

「疾風さん、すみません、時間が迫っているので……」

 

「そうか。呼び止めてすまなかった。健闘を祈っている」

 

「お互いにね~」

 

「失礼します」

 

 修羅は手を振り、いつきはぺこりと頭を下げて、その場を去る。隼子が尋ねる。

 

「あの人らが知り合いか?」

 

「ああ、琉球海洋大学工学部だったかな」

 

「沖縄大会の優勝チームだね。でも、あんなパイロットだったかな?」

 

 閃が首を捻る。

 

「よく分からんが急遽変更になったらしいぞ」

 

「へえ……わざわざ変えてくるとはよほどの実力者ということかな?」

 

「俺も少し見ただけだが……強いぞ」

 

「それは興味深いね……!」

 

「けったくそ悪いの! ペット同伴で戦うつもりかいな!」

 

「ペットやない!」

 

 大洋たちが視線を向けると、時代錯誤も甚だしい特攻服に身を包んだ男が小柄な少女に因縁をつけていた。少女の傍らには少女と同じくらいの背丈で全身水色の肌をして、二足歩行で人のような姿をしているが、体の表面は鱗で覆われ、手足には足ひれや水かきがついている不思議な存在が立っていた。

 

「ペットやなかったらなんやねん!」

 

「半魚ちゃんや! 知らんのか、田舎もん!」

 

「なんやと!」

 

「止めとけ……」

 

「⁉」

 

 特攻服の男の前に錫杖が突き付けられる。そこには短くボサっとした頭髪に、所々破れた袈裟を身に纏った中年男性が立っていた。

 

「文句があるなら本番で蹴りつけろや、兄ちゃん。男がすたるってもんやで……」

 

「ちっ!」

 

 特攻服の男はその場を去る。少女も袈裟の男性に頭を下げ、半魚ちゃん?を連れて、その場から離れる。袈裟の男性も無言で踵を返した。

 

「あいつらが大星の相手か……男二人にどうしても目が行きがちだが、あの少女も侮れんな……俺でなかったら見落としている……」

 

「一番大事な存在を見落としてるで!」

 

 したり顔で頷く大洋に隼子が突っ込みを入れる。


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