アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第19話A(2)乱闘!Aブロック

「予選と違って、他の試合もこうして見られるんだな……」

 

 テントでモニターを眺めながら呟く大洋に閃が答える。

 

「この後私たちもすぐに試合だし、明日の準決勝はC、Dブロックの勝者とごっちゃになるから、観戦してもさして問題はないという大会運営の判断だろうね」

 

「まあ、各地区の予選映像は既に出回っているわけやからな……機体とパイロットが変わっている沖縄代表の存在が不気味やけど……」

 

 隼子がうんうんと頷く。モニターから審判の声が聞こえる。

 

「Aブロック、試合開始!」

 

「ふん、あの生意気な女、さっさと終わらせたる!」

 

 白い機体が開始と同時に砂浜に立つやや小さめの二体並んだクリーム色の機体に向かう。白い機体は足の裏に車輪を付けており、素早いスピードで距離を詰める。大洋は驚く。

 

「速いな⁉」

 

「大阪代表、社団法人岸和田青少年暖簾会の『ごんたくれ』だね。機動力が高い機体だ」

 

「むしろ青少年暖簾会って何やねんって感じやけどな……」

 

 閃の説明に隼子が呆れ気味に呟く。

 

「おらあっ!」

 

 男の叫び声が聞こえ、ごんたくれが両の拳を振るい、クリーム色の二体をまとめて弾き飛ばす。二体は砂浜から海の方に転がる。女の子の声が聞こえてくる。

 

「うぎゃ!」

 

「一気に畳み掛けたらぁ! ⁉」

 

 両者の間にターコイズブルーのカラーリングで獅子の顔をした機体が割って入り、ごんたくれの進撃を、その体を張って止める。大洋が叫ぶ。

 

「シーサーウシュ! 大星の機体だ!」

 

「さっきのかりゆしウェアを着た兄ちゃんの機体か!」

 

「琉球海洋大学の……沖縄の伝説の獣、シーサーを模した機体か……さて、一体どのような戦い方をするのかな……?」

 

 閃が興味深そうにモニターを見つめる。

 

「せいや!」

 

「ぬおっ!」

 

 シーサーウシュが正拳突きを放ち、ごんたくれの左胸部辺りをへこませる。

 

「!」

 

「なめんな!」

 

 ごんたくれが負けじと殴り返す。機体の大きさではシーサーウシュの方がやや大きいものの、ごんたくれの拳はそのサイズ差をものともせずに、シーサーウシュを後退させた。

 

「おおっ! なかなか良い拳さ~」

 

「お、大星さん! だから通信回線がオープンになっていますって!」

 

「そう言われても、細かい操作方法はさっぱりさ~」

 

「そ、そんな……」

 

 シーサーウシュに同乗するいつきは呆れたような声を上げる。

 

「女連れかい、沖縄野郎! ええ度胸しとるやんけ!」

 

 ごんたくれが右脚の蹴りを繰り出す。鋭い蹴りがシーサーウシュの左腰部を襲う。

 

「おおっ! 蹴りもなかなかさ~しかし、琉球空手だけじゃなく、他流試合も結構してきたけど、見たことのない動きをするね~お兄ちゃん、どこの流派?」

 

「んなもん知らんわ! こちとらナメられたら終いの岸和田で培っただんじり流じゃ!」

 

「成程、自己流か~」

 

「なっ⁉」

 

 ごんたくれの右ストレートパンチをシーサーウシュは左腕で軽くいなす。

 

「この手の相手は調子づかせると厄介さ~。せい!」

 

「どおっ!」

 

 シーサーウシュが先程よりも素早く、かつ強烈な正拳突きを放つ。それを腹部辺りに受けたごんたくれは後方に派手に吹っ飛ぶ。何度か転がった後、立ち上がろうとする。修羅はその様子を見て感心する。

 

「……意外とタフな機体だね~。追撃といこうか~」

 

「ちっと待て!」

 

「うん?」

 

 修羅が機体を振り返らせると、そこには海辺に立つクリーム色の機体が二機立っていた。

 

「あのヤンキー兄ちゃんにはこっちが借りを返そうと思うとったのに! 横取りすんなや! こうなったら代わりにアンタをやっつける!」

 

「ええっ⁉ どういう理論でそうなるんですか⁉」

 

 オープンになった通信回線から聞こえる少女の声に山田は戸惑う。大星も困惑する。

 

「さっき見かけたお嬢ちゃんか……あんまり手荒なことはしたくないんだけど……」

 

「なめとったらいけん! 行くぞ、半魚ちゃん!」

 

「ン!」

 

「! この位置はマズいです! 大星さん、離れて!」

 

「え?」

 

「もう遅い! 『渦潮双撃波』!」

 

「⁉」

 

 クリーム色の機体、二機の手から同時に発射された渦を巻いた状態の海水の放流が二条、シーサーウシュを襲う。

 

「きゃあ!」

 

「どわっ!」

 

「あ、あれは……⁉」

 

 モニターを見ていた大洋が驚いて立ち上がる。閃が説明する。

 

「徳島代表、鳴門重工業の『UZUSIO』だよ。ちなみに女の子が乗っている方が『UZU』で、もう一機が『SIO』だ。見た通り、海での戦いを得意としている機体だね」

 

「あの女の子、なかなかの腕前だということが分かった。謎が解けたな……」

 

「もっと大事な謎が残っているやろ! もう一機の奴は……」

 

「待て、隼子! シーサーウシュが動いた!」

 

 大洋がモニターを見て叫ぶ。シーサーウシュが海の方に突っ込んだのである。

 

「来たか! もう一度、渦潮をお見舞いしてやるで!」

 

「ちょ、ちょっと、大星さん! 海に近づいては相手の思うツボですよ⁉」

 

「そのツボを突く!」

 

「ええっ⁉」

 

 シーサーウシュはUZUとSIOの間に割り込み、海面を殴りつける。海が割れたようになり、辺りの海水が一気に弾け飛ぶ。

 

「なっ⁉」

 

「肝心の海水が無ければ、渦潮を巻き起こせないはずさ~」

 

「くっ! 半魚ちゃん、後退や!」

 

「ンン!」

 

 UZUとSIOが急いで海水のあるところに移動しようとする。

 

「そうはさせないさ~!」

 

 シーサーウシュが素早くUZUに近づき、激しいラッシュで、UZUの頭部と左腕部、右脚部を破壊する。軽く起こった爆発の反動を利用し、SIOとの距離を詰め、同様の攻撃で、SIOの頭部などを叩き壊す。

 

「ぎゃん!」

 

「ンンン!」

 

 UZUとSIOはその場に崩れ落ちる。審判の声がする。

 

「UZUSIO、戦闘継続不可能!」

 

「や、やった! やりましたよ! 大星さん!」

 

「さあ、お次はヤンキー兄ちゃんさ~ !」

 

 修羅が視線を向けると、頭部を半分、両脚部と左腕部を破壊されたごんたくれを引きずる、白い頭部に、黒い胴体の機体が立っていた。ボロボロの袈裟を身に纏った中年男性が呟く。

 

「ごんたくれは拙僧が懲らしめた……」

 

「いつの間に……お坊さん、やるね~」

 

「まあ、拙僧も大概な不良坊主やが……力があるのは否定せん」

 

「ごんたくれ、戦闘継続不可能! Aブロック、勝者は琉球海洋大学と鳳凰院!」

 

 審判がAブロックの勝者を高らかに宣言する。修羅が笑う。

 

「強くて面白い奴らが一杯さ~これはまだまだ楽しめそうだね」


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