アンタとはもう戦闘ってられんわ!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第20話(3)傭兵ジョーク

「Aブロックはツインテールちゃんに疾風大洋と愉快な仲間たちが勝ったか……」

 

 海江田が準決勝Bブロックの準備の為にテントから格納庫へ移動しながら呟く。

 

「まあ、大した驚きは無いな……」

 

 水狩田がそれに応える。

 

「九州勢、好調だね、ウチらも負けていられないよ」

 

「関係ない……」

 

「あらら、ノリが悪いね。ん? あれは……」

 

 海江田が目を細めた先に一組の男女が立っている。

 

「やあ~今日はどうもよろしくさ~」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 かりゆしウェアの青年、修羅が片手を挙げ、白衣姿の女性、いつきが頭を下げる。

 

「確か……乱気流海藻内閣の……」

 

「琉球海洋大学ね……ほとんど合ってないじゃん」

 

 海江田が呆れ顔を浮かべる。

 

「なに、待ち伏せなんかして……闇討ち?」

 

「そ、そんなことしませんよ!」

 

「冗談だ、傭兵ジョークってやつ……」

 

「は、はい……?」

 

「ああ、全然気にしなくていいから」

 

「は、はあ……」

 

 海江田の言葉にいつきが戸惑い気味に頷く。

 

「試合前にわざわざ挨拶に来てくれたのね?」

 

「あそこら辺のテントを出て、ちょうどこっちに来るのが見えたからさ~」

 

「へえ……随分と眼が良いね」

 

「それもあるけど、こんなセクシーなお姉さんたちが歩いていたら目を奪われるさ~」

 

 修羅が露出度の高い戦闘服に身を包む海江田たちを指し示す。いつきが慌てる。

 

「ちょ、ちょっと、どこを見ているんですか⁉」

 

「いや~こればっかりは男の悲しい性だね~」

 

「別に減るもんじゃないから……どんどん見て頂戴」

 

「そうかい? じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

「何言っているんですか! ご挨拶も済んだし、行きますよ! 失礼します!」

 

「あ、それじゃあ試合で……って山田ちゃん、怒ってる?」

 

「怒っていません!」

 

 立ち去る二人の後ろ姿を見つつ、海江田が歩き出しながら呟く。

 

「沖縄代表、琉球海洋大学の大星修羅と山田いつき。シーサーウシュのメインパイロットとサブパイロットを務めている……まあ、サブパイロットは便宜上の分類に近いけど」

 

「昨日も聞いたが、シーサーウシュは謎が多いということだが?」

 

「太古の眠りから先日目覚めたばかりの機体ということらしい」

 

「ということは古代文明絡みの機体か?」

 

「そこまでは分からないけどね。ただ、パイロットである彼らの情報については分かる……山田いつきはごく普通のロボット工学を学ぶ学生だし、大星修羅というのは琉球空手の実力者らしい。どちらもロボット戦闘に関してはほぼ素人ということが分かっている」

 

「山田に関してはともかく、大星に関してはよく分かったな」

 

「会話データを拝見させてもらったからね。彼らは短い時間ではあるが、戦艦桜島に搭乗している。その際の高島津伊織艦長と二人のやりとりの記録をね……」

 

「そんなこといつの間に……ああ、鹿児島湾での戦闘の時か……」

 

「そう、どさくさまぎれに臨時のブリッジクルーを務めたときに、あの艦のメインデータにアクセス出来るようにしておいたんだ」

 

「相変わらず手癖の悪いことだ……」

 

「いやいや、そこは用意周到とか褒めてくれよ」

 

「ごきげんよう」

 

 女の声がしたため、海江田たちは振り返った。そこには千歳姉妹が立っていた。

 

「京都代表の……えっと、大好評煮物亭の……」

 

「ちょっと、水狩田、黙ってて、どうもこんにちは」

 

 海江田が軽く会釈する。千歳姉妹の妹、雷が鼻で笑う。

 

「公衆の面前をそのような破廉恥な恰好で出歩くとは……さすがお金で動く傭兵さんっちゅうのは恥というものを知りませんな~」

 

「やめや、雷……知らないんやなくて、そもそも理解出来ておりませんのや……」

 

「あっ、なるほど~」

 

 雷が姉の風と顔を合わせてけらけらと笑う。水狩田がボソッと呟く。

 

「着たいのか?」

 

「……は? なんでそうなりますの?」

 

 風が怪訝な顔つきになる。

 

「京都人の言葉には裏があるというからな……羨ましいのかと思って……」

 

「だ、誰がそんなもん!」

 

「だが、申し訳ないのだが……サイズが合わないと思うぞ? 二人とも少々、いや、大分物足りないからな……」

 

「~! あんさん、ええ度胸してはるな! 試合で見とき! 雷、行くで!」

 

 千歳姉妹は足早にその場を去っていった。

 

「? 怒ったのか? 何故だ?」

 

「くくく……流石は傭兵ジョーク」

 

 首を傾げる水狩田の横で、海江田が笑いを堪える。

 

「あ、あの……!」

 

「うん? 君たちは?」

 

 振り返った海江田たちの前に、揃って眼鏡をかけた中肉中背の男女が立っている。

 

「通りがかったもので……今日の試合、よろしくお願いします!」

 

「福井代表、越前ガラス工房所属の銀一郎(しろがねいちろう)君と金花子(こがねはなこ)ちゃんだっけ?」

 

「わっ⁉ ご、ご存知なんですね!」

 

 女性の方が驚きの声を上げる。

 

「そりゃあ対戦相手のことだからね……」

 

「よ、良かったですね、銀くん! 挨拶まわりが報われましたよ!」

 

「ええ、金ちゃん! 他のチームさんは僕たちのことに興味無さそうでしたからね!」

 

「まあ、見るからに弱そうだし、正直私も眼中にないって……」

 

「ちょっと黙ろうか、水狩田……今日はお互い頑張りましょう」

 

「は、はい! ありがとうございます! 失礼します!」

 

 去って行く二人の後ろ姿を見て、水狩田が首を捻る。

 

「こう言ってはなんだが、運で勝ち上がってきたようなもんだろう? 昨日の試合も含め、対戦相手のマシントラブルなどに助けられてきた印象だ。実力は大したことない」

 

「そんなに運の良さが続くものかな……っと、そろそろ時間だ、急ごう」

 

「……準決勝Bブロック、試合開始!」

 

 審判のアナウンスが試合会場に響き渡る。

 

「さて……ん? あれは……シーサーウシュか」

 

「どうする?」

 

「近距離戦に特化した機体のようだ……ここは遠距離から削る!」

 

 海江田がエテルネル=インフィニ一号機のライフルを数発発射させる。かなりの距離があったにも関わらず、シーサーウシュに命中する。

 

「なるほど……装甲の薄い間接部分を正確に射抜けば、こいつの火力でも倒せるか」

 

「そういうこと! 悪く思わないでよ!」

 

 二機のインフィニの正確な射撃に遭い、シーサーウシュは機体のバランスを崩す。

 

「~~!」

 

「~~‼」

 

「……これは向こうの回線が混線してきたかな? 実戦経験に乏しいのなら、パニックに陥るのも無理ないね」

 

「……縮地!」

 

「なっ⁉」

 

 遠くにいたはずのシーサーウシュがあっという間にインフィニ一号機に接近し、強烈な拳を繰り出した。インフィニ一号機の機体が吹っ飛ぶ。


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